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企業紹介第76回宮城県株式会社サンフーズ気仙沼

元仲買人の工場長、アルコール凍結で鮮度にこだわる

東日本震災では多くの人が仕事を失いました。サンフーズ気仙沼(宮城県気仙沼市)の工場長、昆野陽さんもその一人です。

 2013年に工場長代理としてサンフーズ気仙沼に入社した昆野陽さん
2013年に工場長代理としてサンフーズ気仙沼に入社した昆野陽さん

「震災前は気仙沼で水産物のブローカー(仲買人)の仕事をしていました。船で運ばれてきた魚を買い付けて、水産加工会社などに売る仕事です。私は主にサンマを取り扱っていました。しかしブローカーという仕事は、手元の在庫が常に余っている状態でないと成り立ちません。震災で漁船が港に入ってこなくなり、仕事が途切れてしまったので、気仙沼のブローカーたちは廃業するしかありませんでした。私もこれからどうしようかと考えていたところ、同じ気仙沼市内で水産加工業を営む株式会社阿部長商店(サンフーズ気仙沼の親会社で「企業紹介28 回」に掲載)の社長から『うちに来ないか』と声をかけてもらったのです」(昆野陽さん、以下同)

日本有数の水揚げ量を誇る気仙沼漁港を中心に、28 歳の時から15 年間、ブローカー業を営んできた昆野さんにとっては、顔なじみの人ばかり。会社に溶け込むのに時間はかかりませんでしたが、同じ水産業界でも工場の中と外とでは仕事がまるで異なります。工場で働いたことのない昆野さんは、機械の使い方を知らず、レトルト加工に関する知識も持っていませんでした。文字通りゼロからの出発だったのです。

下請け業務からの脱却に向けて動き出す

サンマは昨年不漁でしたが、サンフーズ気仙沼にとっては今も取り扱い量が多い魚種の一つ。豊富な在庫を持つ阿部長商店から冷凍のサンマを仕入れて、飲食店向けに包装して出荷しています。

冷凍サンマは飲食店で塩焼きなどにして出されることが多いという
冷凍サンマは飲食店で塩焼きなどにして出されることが多いという

「冷凍保管しているサンマは複数本がまとまって状態で凍結されているので、それを海水に浸して一旦バラバラにし、IQF 凍結加工(一本ごとにトンネルフリーザで再凍結)して出荷用に真空包装しています」

阿部長商店がサンマの在庫を確保しているとはいえ、例年ほどの量があるわけではありません。そのためサンフーズ気仙沼では、サンマ以外の魚種の取り扱いを増やしています。取材で訪れたこの日は、メカジキの切身加工やキンメダイの煮付け加工が行われていました。他にも最近では、イワシやサバ、ブリの加工が増えているといいます。ブリのフィーレはHACCP 対応の工場でひと月あたり20 トン近くを加工しています。

気仙沼は生鮮メカジキの水揚げ日本一。切身加工して出荷している
気仙沼は生鮮メカジキの水揚げ日本一。切身加工して出荷している

阿部長商店のグループ会社として2002 年に設立されたサンフーズ気仙沼は、気仙沼市魚市場の近くにあった工場で鮮魚出荷やさんまの開き等の一次加工を独自に行っていました。しかし震災後は販路を失ったために、阿部長商店の下請け業務を柱とする営業形態が長らく続きました。

このままでは本当の意味での復興とは呼べない――。震災後は開き・フィーレ加工などの一次加工に加え、煮魚や焼魚などの二次加工をすすめてきましたが、再び独自の製品で販路を開拓していくには、より付加価値の高い新製品を開発する必要がありました。

アルコールブライン凍結機により高鮮度の冷凍加工が可能に

高付加価値製品の開発強化を図るため、サンフーズ気仙沼は販路回復取組支援事業の助成金を活用し、アルコールブライン凍結機、サケの三枚おろし機、サバの骨抜き機を導入しました。これらの機材により、同社の製品ラインナップにも広がりが生まれました。

一度に100 キロまで凍結可能なアルコールブライン凍結機
一度に100 キロまで凍結可能なアルコールブライン凍結機

「アルコールブライン凍結機は、刺身用製品の凍結に使用しています。パッケージングした製品をマイナス35 度のアルコールに浸すと、30 分ほどで急速冷凍されます。冷風で凍結させるトンネルフリーザよりも、全体をむらなく一気に凍結させるので、魚の細胞が壊れずに新鮮な状態を保つことができるのです。アルコール凍結で冷凍した魚は、解凍後も色が鮮やかで脂が乗っています。こだわりのある飲食店からは、『アルコール凍結のものをください』と要望があるくらい、新鮮さがまるで違います」

アルコールブライン凍結機の導入効果は早速あらわれ、サンマ、サバの刺身用開きなどがすでに商品化されています。水揚げの増えているイワシに関しては、大手寿司チェーンの期間限定メニューにも採用されました。

刺身製品はオリジナルパッケージで家庭向け販売も狙う
刺身製品はオリジナルパッケージで家庭向け販売も狙う

取り扱いの増えている魚種の加工をスムーズに行うための機材も導入しました。サバの骨抜き機は2台導入。サバを開いた時に垂直方向に出ている骨を除去するこの機械により、加工時間が短縮されました。サケの三枚おろし機は、文字通りサケを三枚おろしにカットする機械。従来の機械よりも切れ味がよく、客先からの評判も上々。サケ(特に脂が乗っている銀鮭)の柔らかい身が加工時に割れてしまうことも減り、歩留まりが向上したそうです。

サバの骨抜き機による時間短縮で、より新鮮な状態での出荷が可能に
サバの骨抜き機による時間短縮で、
より新鮮な状態での出荷が可能に
サケの三枚おろし機。5月の銀鮭、9月の秋鮭シーズンに活躍
サケの三枚おろし機。5月の銀鮭、
9月の秋鮭シーズンに活躍

グループ会社と協力しながら独立した工場経営を目指す

震災の津波で工場を失ったサンフーズ気仙沼の現在の工場は、震災後に他社から買い取ったものです。この工場も津波で2 階の高さまで海水に浸かったそうですが、修繕により再利用することができました。当初は思うように機材が揃いませんでしたが、徐々に機材も揃い始め、いよいよ本格的な再出発が始まろうとしています。2018 年1 月から正式に工場長を務めることになった昆野さんは、この辞令を新たな分岐点と捉えています。

末端販売での拡大を狙うサンマ、サバ、サケの スモーク製品
末端販売での拡大を狙うサンマ、サバ、サケのスモーク製品

「震災後、グループ会社に依存していた当社ですが、これからは仕入れから販売までを以前のように独立してやっていくことを目指していきます。うちの特色を活かした製品を作っていきたいですね。とりわけ刺身製品、スモーク製品に力を入れたいと思っています。当社の燻製機器は魚にしっかりと燻臭が入るので、他社にはない独自の味を出せます。個人的にもおいしいと思っているので、ぜひ広めたいですね」

サンフーズ気仙沼に入ってきてから、工場の管理者として新たに覚えることばかりだったという昆野さんですが、一つだけ、ブローカー時代と変わらないことがあるといいます。それは、鮮度へのこだわり。魚の鮮度を見る目は、加工の仕事に変わっても活かされています。高い鮮度を保つアルコールブライン凍結機は、まさに昆野さんの魚へのこだわりを実現するための機器と言えるかもしれません。

「ブローカー時代の私は、ずっと一人で仕事をしてきました。工場の仕事はチームで同じ目標に向かっていかないといけません。違う難しさはありますが、いろいろな人たちとふれあいながら仕事をするのは楽しいですね」

現在、会社の売り上げは震災前の6 割程度。高付加価値の製品を増やしながら、サンフーズ気仙沼としての個性に磨きをかけていきます。

株式会社サンフーズ気仙沼

〒988-0103 宮城県気仙沼市赤岩港121
自社製品:各種フィーレ、刺し身、スモーク製品ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。