令和4年9月13日、「東北復興水産加工品展示商談会2022」のプレゼンステージにおいて、「イスラム市場水産ハラルセミナー」と題した、セミナーが開催されました。 本セミナーは、今後拡大するイスラム市場に対するハラルフードの可能性と、現状の水産事情を交えたハラル認証の基礎知識について講演されました。
店舗業態 PPIHでは、2006年度から海外展開をスタートしました。海外では、アメリカ65店舗、アジア32店舗、合計97店舗を展開しています。 「ドン・キホーテ」といった日本の屋号は使用せず、アジアは「Don Don Donki」(日本商品専門店)、「鮮選寿司」(物販飲食業)、「富田精米」「安田精米」(精米点)の3業態、アメリカは「Don Quijote USA」(ディスカウントストア)、「MARUKAI」「TOKYO CENTRAL」(日本商品専門店)、「TIMES」(地域密着型スーパー)、「FUJIOKA'S Wine Times」(ワイン専門店)、「Gelson's」(ローカル商品・オーガニック商品中心のハイエンド層向けスーパー)の6業態を展開しています。
ストアコンセプト 日本では、「コンビニエンス(便利)+ディスカウント(安くて)+アミューズメント(楽しい)」とのコンセプトですが、海外では昨年から「Happiness for all from Japan」=「日本から世界の皆様に幸せをお届けする」とのストアコンセプトで、日本産品の“価値”、“味”、”ユーズ”を海外のお客様に伝えていく、価値を創造するという業態と位置付けております。
グローバルバリューチェーンマネジメント 川上、川中、川下とそれぞれで戦略を組みながら展開しています。 ・川上:輸出に取り組む生産者・メーカー・関連事業者が加盟する会員組織の運用 ・川中:子会社であるPPICが輸出・PPRMが輸入を担いながら貿易を推進 ・川下:B2Bの卸販売とクイックEC
日本と海外の販売特徴の違い 日本での食品売上構成は、生鮮品の取り扱いがないが30%、生鮮品の取り扱いがあるが50%となりますが、海外では生鮮食品40%強+加工食品40%強=食品全体85%となります。 また輸出実績では、青果品がアジア全売上高の90%、水産品がアジア全売上高の40%を自社で貿易しています。そのうち東北産品の構成比は、青果物が11.4%、水産物が7%弱です。特に岩手県産のウニや青森県産のホタテなどは、非常に人気の高いある商品です。
日本産品の訴求活動 香港とシンガポールでは現在、東北6県フェアを開催しており、加工食品は香港で170SKU※、シンガポールで110SKU※もの商品を展開しており、まとめ買いされるお客様も多く見られます。 コロナ禍で飲食店が規制されるなか、自宅で調理するための日本食材や、即食の惣菜などが人気でした。お客様の購入数が増えたことで、にぎりや刺身の一品単価は昨対比1.5倍~2倍となっています。 ※SKU=ストックキーピングユニット(Stock keeping Unit)の略:いわゆる種類
寿司の物販と飲食業態では、香港3店舗で、サーモンが圧倒的な人気の他、ホタテや炙りなども人気で、3貫盛りのようにトライアルで食せるものが人気です。 また精米販売の業態では、おにぎりとしても販売しており、日本で生まれたレシピが加わったメニューが人気商品となっています。
PB(プライベートブランド)商品開発 PPIHではPB商品開発を強く推進していますが、国毎で輸入レギュレーションが異なるため、海外で求められる日本産品がお届けできないという歯がゆさもあり、打開策としてグローバルレビュレーションに合わせた商品開発を行い、一目で商品が分かるようなパッケージを目指しています。 PB商品の開発目標として、海外店舗における構成比を、現在・15%強 → 2030年・80%とする目標を立てています。 ブランド戦略では、「顧客最優先主義の体現」を目的に、日本では当たり前でも、海外では当たり前ではない日本産品の魅力を、できる限り分かりやすく伝え、楽しみを発見していただくようなブランドを目指しています。 今後の方向性として、プライベートブランドを全世界で販売する狙いですが、アジアのマーケットで最大のポイントとなるのは、マレーシアのハラル認証商品です。これを強化することで、プライベートブランド商品を世界700店舗で展開できる土壌が揃うと考えています。
海外輸出におけるボトルネック ボトルネックに対しては、①輸入規制が厳しい国々へ産地や官公庁の協力を得ながらレギュレーション緩和を図ること、②輸送する際のリードタイムやコールドチェーンなどの効率の良い物流システム・エコシステムを整備すること、③2点を担保しつつ海外独自のマーケットニーズを産地と連携しながら輸出を行う、以上3点を主な課題と考えています。
パートナーシップ組織の運用 PPIHが運用する会員組織「Pan Pacific International Club」は、2020年10月に発足し、現在は340社が加盟しています。主に各地域と連携協定を締結し、地域産品の輸出目標を長期的に定めながら活動しています。 以前会員から紹介を受け、宮城県の水産会社でハラル認証を取得した魚肉ソーセージを扱ったところ、マレーシアで人気商品となりました。 その他のアライアンスメニューでは、会員専用サイトで新店の動画や写真を閲覧できるようにしたり、創業者(現会長)や代表取締役のメッセージなどを掲載した会報誌「繋」を年に2回発刊したり、メールマガジンの週次配信なども行っています。
日本産品はそのものに価値があります。私たちは日本産品の良さをお客様に伝えていくバリューチェーンとして、大きな使命を担っています。今後も海外のお客様へ日本産品を愚直にお伝えし、味わっていただけるように努めていきたいと考えています。
マレーシアの特性 首都はクアラルンプールで、民族属性はマレー系68.8%、華人23.2%、インド系7%と、ほぼマレー系の属性民族です。 宗教色が非常に強く、国教はイスラム教61%、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教と続きます。公用語はマレー語、英語、一部佳境で中国語と、3言語が飛び交っています。通貨はリンギットで、2022年7月31日時点で、1リンギット=29.88円です。人口は若い世代が多く、2020年・2,319万人、2021年・3,277万人と約1,000万人もの増加が見られます。
マレーシアでの店舗展開 マレーシアでは、クアラルンプールに1号店「JONETZ by DON DON DONKI Lot10」、2号店「JONETZ by DON DON DONKI Tropicana Gardens Mall」を展開しています。 コロナ禍で昨年1年間はロックダウンが敷かれ、営業時間の短縮、入店者数の制限などが求められましたが、2021年10月に規制が緩和され、さらに2022年4月1日からは入国後隔離の撤廃で、パンデミックからエンデミックへ、国境が開放されました。同年5月からは入国規制が解除され、現在はほぼコロナ前の入国状況となっています。
マレーシア店舗での商品展開 鮮魚部門の売上は、ほとんどの国でサーモンが1位を占めるなか、マレーシアでは、1位:刺身用ウニ、2位:サーモン、3位:マグロとなっています。生鮮品とデリカだけで、約30%の店舗売上構成費を占めています。 また、1号店開店から2号店開店までの約半年間で、ハラル認証商品の取り扱いを2倍以上に増やし、現在は約200アイテムを取り揃えています。2号店「JONETZ by DON DON DONKI Tropicana Gardens Mall」では、200アイテムものハラル認証商品を1箇所に集めたハラルコーナーを設置し、消費者に伝わりやすいようにPOPで説明しています。 マレーシアでの開業から1年半を迎え、見えてきた課題としては、人口の6割強がムスリムといった国民性に対して、安心して購入いただくにはハラル認証マークの商品が必要不可欠であり、こういったアイテム数がまだ少ないことでチャンスロスが生じていることから、アイテムの拡充を目指しています。
自店でのハラル認証商品取り扱い事例 ・マレーシアでは様々な食材を串に刺して食べるサテー文化があり、2022年7月には青森県産ホタテを串に刺して、ハラル認証の照り焼きソースに和えて販売しましたが、4日間だけで1,500本もの販売実績がありました。
・ハラル認証マークがついたウナギの蒲焼きは、現在冷凍での取り扱いがありますが、数多く売れていている商品のひとつです。ウナギの年間販売数の約4割がハラル認証マークのついた商品となっています。
・ハラル認証商品全体での売れ筋商品(2022年1月~7月期)は、上位にお菓子などが目立ちますが、10位には鮮魚部門のフィッシュソーセージがランクインしています。
店舗での販売戦略 ①販促動画 ローカルの方々には文字だけだと商品の良さが伝わりにくいと考え、動画を活用して、ライブ感のある販促方法をとっています。
②SNSの発信 1号店「JONETZ by DON DON DONKI Lot10」の店頭では、屋台風で「和牛串」を販売しています。SNSを活用した販促により、週末は平日と比べて100倍ともなる、1,000~1,500本を販売するなど、メガヒット商品となっています。現在ではインドネシアやシンガポールなど、他国からもこの商品を買いに来る方がいらっしゃるほどです。
「JONETZ by DON DON DONKI」では、加工品を中心に500アイテムのハラル認証商品を提供していますが、今後もハラル市場は成長が見込まれることから、さらに1,000アイテムまで拡げる意向です。 約2,000万人ものムスリム市場が広がるマレーシアは、イスラム市場にリーチするための第一歩の国です。世界で約19億人ものムスリム市場に向けて、PPIHでは皆様と共に、日本産のハラル商品を届けたいと考えております。
島 居: アセットフロンティアでは現在、2つの事業を展開しています。 ひとつ目は輸出事業で、主に和食の輸出事業を展開しており、東南アジアを中心に約500SKUの商品を輸出しています。生鮮品ではホタテ、ウニ、イクラといった水産物の引き合いが強く、特にホタテは現地の中華系の方々に人気があり、乾燥ホタテなどが非常に売れています。この他にカニなどは、相場が1万円以上となりますが、比較的動いている商品です。 ふたつ目は飲食店で、ハラル認証を取得した飲食店「ハラルラーメン麵屋帆のる」は、東京・大阪に数店舗と、明治大学の学食でも出店しています。コロナ前まではムスリムの本拠地・インドネシアにも出店しており、人気を博していました。客単価平均1,300円と、ラーメン屋としては高い水準であり、最も高いメニューである「スパイシー唐揚げラーメン」は1,580円で提供していますが、1番の人気メニューです。です。ハラルフードでは豚チャーシュを使用できないため、旨みをしっかりと感じていただくため、唐揚げを使用しています。
シャーミン: アジア・パートナーシップ・カンパニーでは現在、ハラル学食を主体としています。 個人の話をすると、私はバングラディッシュの出身で、1987年に来日しました。日本食の基本を学びたく、和食店で10年間修行を積み、青山にあるフレンチレストランを経て、日本人向け居酒屋を開業しました。その他にもベトナムでホテルを経営していましたが、この時に日本ではハラル対応のサービスが少ないことに気づき、ハラルビジネスを展開するきっかけとなりました。 2014年には赤坂にハラルフード専門の和食店を、2015年にはハラルフード専門のキッチンカーを出店しました。これがきっかけとなって、上知大学様からハラルフードのお弁当を作れないかと相談をいただき、さらに2年後には大学内にハラル学食を開かないかと相談をいただきました。この他にも東京国際大学様や山梨大学様からもお声をいただき、ハラル学食を出店しています。 現在までにメニュー展開したハラルフードは、青森県産のベビーホタテとハラル認証のパン粉で揚げたホタテフライカレーや、イカ軟骨の天ぷら、ピーチシャークをデュエにしてトマトソースをかけたものなどがあります。
島 居: 日本国内では10月末を目処に入国上限を撤廃するといった発表がなされたばかりですが、インバウンドはこれからが期待されます。インバウンドの拡大でこれから食の多様性が求められるところですが、2021年・東京オリンピックが1つの区切りとなって国内の食の多様性が普及し、さらに2025年には大阪万博を控え、さらに活発になると予想しています。自身も万博での出店をひとつの目標に据えて、ハラルフードの普及を目指していきたいと考えています。 それから海外では、例えばマレーシアは人口3,200万人のうち6割強がムスリムですが、それ以外に中華系もたくさんいて、日本で食べられている水産珍味を購入される中華系の方も多いので、イスラム市場だからといってハラルフードだけをターゲットとせず、中華系も視野にいれて考えていくことも重要と考えます。
シャーミン: 上智大学では学生16,000名程度のうち、外国人が1,200名で、さらにイスラム教徒の学生は120名程度とまだまだ少ない状況です。しかし、日本人を含めて半数以上が女性で、そのほとんどが我々の学食を利用しています。鳥の唐揚げ、ローストチキン、ハンバーグ、野菜炒め、カレーなどのハラルメニューを提供していますが、ハラルフードやビーガン食は、ヘルシーなので好んで食す生徒が多い印象です。
島 居: 来日するイスラム教徒の方が食べたいものは、やはりB級グルメだと考えます。例えば、日本人が韓国で焼肉やチヂミが食べたいのと同様で、外国人も日本ではB級グルメが食べたいと思うのは当然です。PPIH様ではホタテ串が人気とのことですが、少しの工夫で人気メニューとなる可能性は大いにあります。 あと日本の味付けは物足りないとよく言われていて、甘い、辛いなど、味がはっきりしている方が好まれると考えます。
シャーミン: 来日されたイスラム教徒の方は、もちろん日本食を食べたいという心理があります。寿司は生ものが苦手な方も多いので、炙り寿司であれば食べることもできるし、天ぷらやパン粉で揚げたメニューなどは外国人に人気が高いです。 あと味付けは濃いものが好まれやすく、自店ではノーマルな味付けで提供していますが、それぞれの国のスパイスやドウガラシの粉末などを準備して、お好みの味にしてもらうようにしています。
島 居: 東北の水産加工品には素晴らしい商品がたくさんあります。しかし、外国人がその中からどのような商品を選ぶかと考えたときに、ひとつ目のポイントは、POP、ホームページ、動画などで商品のすばらしさを英語で発信していくことだと思います。そしてふたつ目のポイントは、やはりハラル認証だと考えます。現地で商談していると、日本食は美味しくてリーズブルなのが多いが、他にお勧めのポイントはないのかとよく聞かれますが、ハラル認証を取得していれば非常に優位となります。日本国内ではまだ550社程度しかハラル認証を取得しておらず、まだまだ少ないのが現状です。FSSCや有機JASなどと同等で、これが大きな差別化につながり、商談に有利に働くと考えます。あとは賞味期限180日以上の商品が求められるところですので、こういったポイントを押さえれば大いに可能性が広がります。
シャーミン: バングラディッシュは世界一人口密度が高く、人口1億6千万人の98%がイスラム教徒です。バングラディッシュに輸出を検討する場合は、日本の味付けだと物足りないと感じる方も多いことから、できるだけ現地の味に近づけるようなものが良いと考えます。 東北でも製造されている缶詰などは保存がきくので商談に有利だと考えます。ただし、バングラディッシュへの輸出は直接ではなく、タイを経由して商品が流通されますので、こういった点も留意しておかねばなりません。
佐久間: 日本国内では、これからインバウンドが期待され、ハラル認証を取得することで、ハラルフードやビーガン食といった様々な面で有利となること、そして海外では日本のハラル認証商品を購入する消費者は増え、トレンドにもなっているということで、商談に有利とされている点など、今後の可能性が大いにあるとようです。
そもそも土の中、水の中で育った野菜・果物・穀物・水産物は、そのものがハラルです。ただしイスラム諸国に輸出する時は、ハラル認証を受ける必要があります。 ハラルの国際認証機関は世界に350以上もあるとされ、統一基準がなく、それぞれの認証機関でルール、取得費用、取得期間が異なります。どこで製造して、どの国に輸出するかで事業者側が選ぶ必要があります。 日本政府は、2030年までに農林水産品の輸出額を5兆円と目標設定しており、一部では補助金の活用も可能です。取得を検討する場合には、現在取り扱っている商品がハラル認証できる可能性はあるのか、活用できる補助金はあるのか、レシピはそのままで良いのか、味を変える必要はあるのか、こういったことを踏まえて、国際認証機関を選択し、取得を目指してみてください。
イスラム人口はすでに世界人口の1/4であると言われ、将来性のあるマーケットです。若い方が多いことから、2060年にはキリスト教と同じマーケットに、さらに2100年には世界人口の1/3まで成長されると言われています。 イスラム諸国で最も近いのは東南アジアで、人口6億5千万人のうち、半数の3億5千万人がイスラム教徒です。これ以外にも南西アジア、中央アジア、ロシアなどを合わせると、1億人以上のイスラム人口がいます。 さらにインドネシアやマレーシアなどは、国民所得が増えている魅力的なマーケットです。東南アジアでもハラル認証商品はたくさん製造されていますので、日本も同様にハラル認証が求められ、商談に有利に働くと言われています。 こういった点を踏まえ、人口減少で需要衰退が懸念される日本だけを対象とするのではなく、イスラム教徒、ユダヤ教徒、そしてベジタリアンに対象を広げるためにも、ハラル認証をぜひ活用することをお勧めします。さらに言えば、ハラル認証を全面に押し出すのではなく、ハラル、ベジタリアン、オーガニック、グルテンフリーといった、国内、そして海外での食の多様性に対応するといった観点でも大いに活用できます。
ハラル・ジャパン協会では、認証取得のコンサルティングなども行っており、主な事例をご紹介させていただきます。
①海苔、あおさ 味付けのりはみりんやお酒が入っているため、ハラル認証に適さない商品ですが、焼きのりや青さなどはハラル認証に適していて、消費者にわかりやすく安心安全を証明することができます。
②だし、かつおパック、煮干し だしなどは、百円程度の単価で販売されていますが、こういった商品でさえハラル対応が進んでいますので、ハラル認証がいかに可能性あるものかということが分かります。
③キャビア、キャビアバター ハラル認証を取得したキャビア、キャビアバター、それからチョウザメの肉などは、海外の7つ星ホテルや5つ星ホテルに採用されるために取得しているといった事例もあります。
④その他水産加工品 マレーシアやシンガポールには「メカジキの切り身」、インドネシアには「花かつお」、マレーシアやアメリカには「ワカメ」「昆布」などを輸出しています。やはりハラル認証があるとバイヤーは商談に前向きになるのを実感します。
ハラル認証の取得はそこまで難しくありません。認証を取得することで、エリアによっては商談数が劇的に増える可能性があります。現在、水産業でも徐々にハラル認証商品が増えています。ビーガンやベジタリアンなどの水産と離れた分野も情報収集してみてください。このような知識を組み合わせることで、さらに海外に販売していく可能性が広がります。ハラルマーケットが広がる現在、チャンスを獲得していきましょう。