令和4年9月14日に、「東北復興水産加工品展示商談会2022」にて、「鯖やグループ、サバのブランド戦略」と題した、オンラインセミナーが開催されました。 本セミナーは、加工→飲食店→持ち帰り→商社→養殖と広く事業展開する鯖やグループのこれまでの取り組みと、八戸産などの鯖の普及拡大について講演されました。
鯖やグループの紹介 私は大阪生まれ大阪育ちで、19歳から魚屋に勤め、23歳で単身オーストラリアに渡り、日系の回転寿司チェーンで店舗マネージャー、スーパーバイジング、出店・工場責任者、サーモン養殖など、様々なビジネスを行っていました。 26歳で日本に戻り、異業種に勤めましたが、30歳の時に魚の知識や料理の腕を活かしたいということで、原点に立ち返り、「笑とり」という小さい居酒屋を妻と2人で開業しました。その時に妻から、「あなたの料理で最もおいしいのは鯖寿司だから、鯖だけで頑張ったらどうか」という一言から、鯖・鯖寿司専門の製造販売卸を始め、2014年にとろさば料理専門店「SABAR」という飲食店をオープンしました。 2018年からは「自分たちの手で最高の鯖を育てよう」ということで。完全養殖にチャレンジする会社「フィッシュ・バイオテック」という会社を立ち上げました。
鯖やグループでは、飲食展開・PR戦略・コラボ展開・一気通貫モデルの4つをブランド戦略の柱としています。
飲食店の開業 創業当時、鯖一本で頑張るためにはブランドを作ろうということで、①東北山陸沖で獲れた鯖、②脂質含有量が21%以上、③魚体550g以上ある大きな鯖、の3つの基準をクリアした鯖を「とろさば」と命名し、小さなメーカーながら広く発信していこうと様々な取り組みを行いました。 しかし、当時は創業から間もない無名の会社で信用もなかったため、スーパーのバイヤーに売り込んでも全く相手にされませんでした。それでも、自分たちが作るおいしい「とろさば」を1人でも多くの方に広めたいとの想いから、メディア(=飲食店)を立ち上げようと考えました。
そんな折、2014年にとろさば料理専門店「SABAR」という飲食店を大阪でオープンしました。とにかく“鯖”感を味わってもらいたいという想いから、鯖にちなんだメニューは38品、席数は38席、営業時間は午前11時38分~午後11時38分、トイレはお姫サバ・お殿サバとするなど、色々と工夫しました。
現在は国内に16店舗、海外にはシンガポールに1店舗を展開しています。
鯖のレシピ開発 とろさば料理専門店「SABAR」の開業当時は、サバ料理は炊く・煮る・焼く程度のメニューしかありませんでした。 そこでどんな鯖料理にチャレンジするかと考え、世界17か国の料理をアレンジして、現在では、600種類のレシピを開発しています。Twitterでも公開していますが、鯖の缶詰めでまかない料理をつくり、フィッシュ(鯖)&チップスや、鯖のトマト煮など、様々なメニューを紹介し、あらゆる料理にアレンジすることで、鯖の可能性を拡げる努力をしております。
現在の主力商品である鯖のPREMIUMシリーズ(とろしめさば、とろさば燻製、漬けとろさば、焼とろさば)は、青森県の水産加工会社に委託製造をお願いし、ひとつひとつ手作りで情熱を注ぎながら製造いただいている素晴らしい商品です。直営店やフランチャイズ店に展開する他、飲食店、生協、スーパーなどにレシピ提案と共に販売を行っています。
・主なアレンジレシピ提案 とろしめさば:しめさば刺身、オニオンスライスサラダ、しめさばサンド とろさば燻製:ポテトサラダととろさば燻製、燻製サバを使ったサラダ 生風味とろさば:ゴマ鯖の表面を軽く炙ったとろさばの塩たたき、サバワサ(タコワサ進化版) 焼とろさば:焼さば寿司をアレンジ
鯖は、秋から冬にかけた時期が旬の時期で、秋サバや寒サバが出始めます。こういった時期には、飲食店に向けて、鯖の可能性を拡げていただくべく、「SABAR」の人気メニューを提案として、フェアに採用いただいています。 実際にココイチ社とコラボして、「サバカレー」を提供したことなどもあります。このように、鯖やブランドの柱は飲食店から拡がっています。
メディア(=飲食店)の活用 飲食店は来客者に対して発信ができるメディアと捉えています。展示会では様々なバイヤーが来場され、出展ブースでは10~20分程度の商談で商品の特徴を伝えることができますが、商品のこだわり、開発のストーリー、味の良さなどはすべて伝えきれないと思います。 その点飲食店では、一度の入店で2時間程度も滞在いただくので、この時間でインプットしていただく内容は多く、自分たちのこだわりを発信できるのはメディア(=飲食店)が適していると考えます。さらに、バイヤーを招いた試食提案会も開催することで、販路開拓・拡大にとても機能していて、我々のメニュー提案を通じながら世の中に新商品がどんどん生まれていきます。
しかし、おいしい商品ができても、おいしいメニューができても、素晴らしいプロダクトができても、認知されなければ意味はありません。そこで創業から3年間は、歌を作ったり、キャラクターを作ったり、プレスリリースも毎月何十本と積極的に出しました。 さらに、2015年には、鯖をひとつの風物詩にできればと考え、日本記念日協会にサバの日(3月8日)を登録しまし、この日にJR大阪駅でイベントしたり、関西のスーパーでキャンペーンをしていただいたりしております。
企業とのコラボ 現在、JR西日本社や神明ホールディングス社と資本提携を結び、日本水産社やNTTドコモ社とは業務提携を結んでいます。前澤ファンドでは、4,330社の応募があるなか、13社のひとつに選定いただきました。この他にも様々な企業とコラボしています。エースコック社とはサバラーメンを開発して、100万食の売上を突破しました。大森屋社とはサバのふりかけを作りました。コラボによって、「SABAR」ロゴの浸透も進めています。 このようにメディアに露出する機会を沢山作り、15年間鯖一筋でやってきて、鯖の価値、可能性、インパクトがようやく広まったかなと感じています。しかし成功にはまだまだ道半ばです。
海面養殖の事業展開によって見えてきた課題 鯖やグループは現在、鯖養殖を手掛けています。きっかけは、主力ブランドであるとろさばが近年徐々に獲れなくなったことです。毎年のように大きな鯖が獲れないと言われ続けるうち、危機を感じはじめ、それならば最高の鯖を自分たちの手で作ろうと決めました。2020年に和歌山県串本町で、鯖を卵から孵化させる完全養殖をスタートさせました。誰でも簡単に養殖できるよう、ドコモ社のICT技術を利用して、水中カメラ、水中ソナー、海洋観測などを導入しました。 しかし海は課題だらけです。赤潮、台風、高水温は予測ができますが、解決策がありません。津波、軽石被害、アニサキスをはじめとする寄生虫、魚病は予測すらできません。最も大きい課題は地球温暖化による高水温です。このまま行けば今世紀末に最大4.8度もの海面温度が上昇します。日本で養殖されているブリ、ハマチ、タイ、サーモン、フグなどの魚は高水温に弱く、養殖できなくなる可能性もあります。天然漁業はさらに深刻です。
陸上養殖へシフト このような海面養殖の課題をクリアする画期的な技術があります。それが閉鎖循環型陸上養殖=C-RASという技術です。日本国内の内陸地や世界各国で、水道水さえあれば水換え不要で、ビルの屋上、駅中、砂漠、どこでも養殖ができます。陸上養殖は、海洋汚染、寄生虫、労働環境の問題、これらすべてが解決されます。アニサキスは人的要素以外の感染経路は0%です。労働環境は力仕事もないので、100歳まで働ける環境です。
現在のビジネスモデルでは、鯖以外も陸上養殖に必要な全てのソリューションを提供しています。現在はR&D段階ですが、人工種苗、餌、水槽設計、遠隔育成システム、販売チャネル提供、陸上養殖保険、これら全てを一気通貫パッケージ化として提供できます。実績としては、卵から孵化した鯖が20万匹います。鯖は春先にした卵を産みませんが、我々はいつでも卵を採る技術を持っています。6世代まで選抜育種しているので、病気に強く、高成長の種苗を持っています。もちろんアニサキスフリーです。
現在は、和歌山県串本町(人口種苗生産)、大阪府豊中市(研究開発拠点)、埼玉県(養魚場)、カンボジア(飼料生産)の4箇所を拠点としています。埼玉県では温泉道場社という一般向け温浴施設の一角で、様々な養殖魚を共同研究しています。
将来的にはスマートフォンで鯖の育成管理、在庫管理、消耗品管理を実現させ、どこでも養殖ができるような未来としたく、2023年にはプロトタイプをリリースする予定で動いております。
陸上養殖の鯖で生食普及を目指す あくまでも我々の狙いは鯖の生食需要です。アニサキスの問題もありますが、日本には美味しい魚がたくさんあって、わざわざリスクを負ってまで鯖を食べる必要がありません。ZOZOTOWNの前澤元社長が、23万人を対象に「鯖を生で食べたことがありますか」という質問をtwitterで行いました。そこでは64.5%もの方が「食べたことがない」と回答しました。なぜ食べたことがないかというと、そもそも食べる場所がありません。大手回転寿司、大手チェーン店の居酒屋にもありません。そもそも食べる環境がないのに、鯖の生食は広がりません。我々はニーズがないところにニーズを作るという大それたチャレンジをしています。
アニサキスは大きな課題です。我々も全面協力しましたが、東京健康安全センターが、全国から養殖鯖の検体を集め、アニサキスがどこに寄生しているかという調査をしました。その結果、養殖鯖の90%を占める畜養では、65%にアニサキスが寄生していました。一方で陸上養殖のサバはアニサキスが0でした。養殖鯖への考え方が浸透すれば、将来的に完全養殖で育った鯖を食べようという発想に繋がります。またフグには毒があって、取り扱い免許を取得した人が調理したフグのみ食べられるということはすでに認知されています。鯖に関しても、陸上養殖鯖が安全であることを皆様に知っていいただくことが重要と考えています。
ビジネスモデル 我々のビジネスモデルはまだ小規模です。それでも川上(種苗生産)から川下(飲食店)までを手掛けています。このバリューチェーンをもっと大きくして、様々な企業とコラボをしていくことがすごく重要だと考えています。 我々の最大の強みは、鯖に徹底的なこだわりをもって、どの料理が人気かといったデータを基に、水産加工会社にOEMで委託製造するなど、これまでの15年間を走り続けてきたことです。 さらに、養殖の普及も目指しています。「よっぱらいサバ(酒粕を餌に混ぜた鯖)」は、地域産品として福井県小浜市でブランド化をしています。100世帯しかない集落でお店を出しました。営業時間は土日の午前11時38分~午後11時38時ですが、来店は多い時で3回転する位の人気です。わざわざその場所で、それを食べたいというニーズがあります。
2007年の妻の一言から鯖のあくなきチャレンジがスタートしました。とろさば料理専門店を開業し、鯖の魅力を全国に発信させ、海面養殖にチャレンジしました。2020年からスマート養殖に参入し、鯖を海から陸へ、アニサキススリーを実現させました。 養殖に関しては、今はまだ売上“0円”で、成功は約束されていません。それでも陸上養殖の可能性はこれからどんどん拡がります。5年~10年後に、必ずどの寿司屋でも当たり前に鯖が並んでいるニーズを掘り起こすために、あきらめずにやり続け、水産加工業者のみなさまと多くコラボできることを願っております。 また、このような鯖やグループの取り組み事例が、皆様の今後の商品開発、販路開拓に繋がれば幸いです。
※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。