開催期間の2日間、会場内のプレゼンステージで行われたセミナーについて少しずつですがご紹介いたします。
「本会は被災地を訪問し、水産加工業から売場が戻らないとの訴えを受け、商工会等のご尽力を賜り本展示商談会の開催に至った。本セミナーも4回目を迎える。復興の取組み事例等いろんな話題を提供、輸出をサポートするため、HACCPをテーマとしたパネルなども行う。販路回復も含め、将来に向けて事業展開する上でのヒントを少しでも掴んでいただければ幸い。」という(一社)大日本水産会専務理事 重 義之氏の挨拶によりセミナーが始まりました。
平成30年6月12日、東北復興水産加工品展示商談会2018のプレゼンステージにおいて「水産加工業者のためのHACCPセミナー」と題したセミナーが開催されました。 第1部の講義では、「HACCPの制度化を始めとする食品衛生法の改正について」と題してお話を伺い、また、第2部では「これからHACCP取得する方々との意見交換会」として、公開質問形式のパネルディスカッションが行われました。
我が国の食をとりまく環境変化や国際化に対応し、食品の安全を確保するための食品衛生法等の一部を改正する法律案の概要について、資料に基づき以下の項目について説明されました。
食品衛生法の改正に関する情報につきましては こちら(厚生労働省ホームページ) をご覧ください。
司会 一般社団法人大日本水産会漁政部部長代理 平井克則氏(以下、「平井氏」)
パネリスト 厚生労働省医薬・生活衛生局食品監視安全課HACCP 企画推進室 浦上憲治氏(以下、「浦上氏」) 一般社団法人大日本水産会国際・輸出促進部首席専門調査役 手塚義博氏(以下、「手塚氏」) 一般財団法人食品環境検査協会仙台事業所営業推進室長 田中宏朗氏(以下、「田中氏」) 株式会社山神取締役本部長 穐元(あきもと)美幸氏(以下、「穐元氏」)
平井氏:穐元(あきもと)さんに伺います。HACCP 導入の経緯や、実際にどういったところから取り組まれたのかについてお聞かせください。
穐元氏:商品を納めているお客様から海外に商品を輸出したいという要望があったことから取り組みました。 最初はコンサルタントの先生を探しHACCPの説明を聞き、HACCPの知識を学び、その上でHACCPのチームを立ち上げました。最初の対米HACCPを取得するまではチーム立ち上げから1年後の平成20年に取得し、EU_HACCPは平成28年3月に取得しました。対米HACCPの土台ができていたこともありEUの取得は比較的スムーズでした。
平井氏:田中さんにお伺います。HACCP取得までのスケジュールや企業の体制、費用の面についてお伺いいたします。
田中氏:HACCP取得には1年かかります。資金面の問題がありますのでトップダウンで取り組んでいただくことが良いと考えます。費用については難しい問題ですが、大日本水産会の補助金の制度があるので、是非ご相談いただき活用していただきたい。
平井氏:手塚さんに伺います。補助金等の話がありましたが、現場ではどのような問題があり、どのようなご指導をされていますか?
手塚氏:認定に当たっては最低限の設備(ハード)が整備できるかどうかです。施設の改築工事は安いものではありません。そして従業員が理解して維持していかなければならない。資金の問題は、ハード面については水産庁の機器整備の補正予算が組まれており、ソフト面ではHACCPに必要な3日間の講習会等への費用について大日本水産会の事業を活用することができます。ハードとソフトの費用についてどうするか整理してください。 ハードの面に関しては、例えば施設を整備した後で従業員数に対して「手洗い場が少ない」ということもあります。「作業効率」の面でも「衛生的な手洗いの順守」の確保という意味でも、設計段階から一般的衛生管理、HACCPをご理解している方にご相談いただきたいと思います。
平井氏:穐元さんに伺います。HACCP を導入したことによりどのような変化(メリット・デメリット)がありましたか。またこれまで苦労した点は何でしょうか。
穐元氏:メリットとしては従業員の意識が変化したことです。HACCPを取得してすぐには変化はありませんでしたが、繰り返し記録をつけたりモニタリングをすることで、それらの意味を理解し、社員から「こうしたほうが良い」等の自主的な発言が出るようになりました。これは、現場に力がついたのだと感じています。そうすることで会社全体の品質の向上と安全管理の向上が図られています。 苦労した点は、「なぜ、これをしなければいけないのか?」を繰り返し説明することです。この点は何度も教育する必要がありました。
平井氏:田中さんに伺います。コンサルとして実際にHACCPを導入した色々な工場を回られていると思われますが、そういった工場を見て気づいた点はどのようなことでしょう。
田中氏:まず第1に「きれいだね」という印象です。HACCPは清掃や衛生管理がとても大切で、HACCPを所得した工場はその点に力をいれて取り組んでいます。 それと魚を扱っている工場なのに全く魚臭くないということです。これは素晴らしいことです。
平井氏:手塚さんに伺います。HACCPを導入した工場に対し、どのようなフォローをされているのでしょうか。
手塚氏:認定時の審査で、工場に対し気がついた所や指摘事項やコメントを伝えます。そしてHACCP導入2年後に更新のための審査を行います。 コンサルの方は継続コンサル機関として、審査と同じ基準で半年ごとに工場を巡回し、前回審査の指摘が改善できているかを審査します。その審査報告書は、大日本水産会へ提出され内容を確認されることとなります。 2年目に更新審査をする時点では、整理整頓がしっかりされているなど初回審査時と大きく印象が変わっていることが多いです。これが出来ると経営者も安心して様々なことに対応できると思うのではないでしょうか。
平井氏:田中さんに伺います。これからHACCP導入を考えている工場に対してアドバイスをお願いします。
田中氏:HACCPとはソフトウェアの管理で、原料と加工工程と製品のハザードを管理することです。そのためにはしっかり仕組みを作っていただきたい。それを運用して管理しPDCAサイクル等を利用していただきたい。また、施設の衛生管理は「施設が古い、新しい」ではなく、きちんと掃除して、整理整頓していただく。そして社員の衛生管理の意識管理を繰り返し行うことがとても大切です。 また、私たちがHACCPの監査をする場合は、記録しか見ることができません。記録をしっかり残すことを実行していただきたい。記録するときは、「自分たちはこれだけ頑張ったんだ」と審査員に自分たちの行動を自慢するという気持ちで記録を残していただけるとよいと思います。
平井氏:手塚さんに伺います。対EU・HACCPについてアドバイスをお願いします。
手塚氏:きちんと衛生管理を行っていただくことですが、EUの基準に対応することが大切ですので、取り組む場合はそれらを把握しているコンサルに相談することが大切です。 例えば食品の殺菌ではEUで使用できないものもある。対米HACCPがあるからよいということではありません。添加物も規定も異なることから知識のある方にしっかり相談していただきたい。
平井氏:本日このセミナーをお聞きの方々の中には、これからのHACCPの制度化などにどのように対応したらよいかと考えている方もいると思います。本日の話が、今後皆さんがHACCPを取得する際の検討のご参考に少しでもご参考になればと思います。大日本水産会としても、対米、対EU・HACCPをはじめ、HACCP取得に引き続き応援してまいります。
平成30年6月12日、東北復興水産加工品展示商談会2018のプレゼンステージにおいて「水産物の放射能調査について理解を深めるために」と題したセミナーが開催されました。本セミナーは、「東日本大震災から7年が経過し、海産物中の放射性物質は基準値を超えるものは検出されない状況にあります。一方で、見えない放射線への不安感は払拭されず、風評被害も解消に至っておりません。今回は、7年間の調査結果と基準値や放射線リスク等の説明を通じて、水産物の安全性について理解を深めること」を目的に開催されました。
今回のセミナーは、人材不足などに悩んでいる被災地の水産加工業者をAI・ICTなど新技術の方向から後方支援するといった観点で、専門家の方々にご参加いただきましてアイデアをご提供いただき、解決の方向性を皆様とともに考えました。
プレゼンテーター 株式会社NTT ドコモ 地域協創・ICT 推進室 山本 圭一 氏 大和製衡株式会社 一般機器開発課 岡部 修一 氏 株式会社TATS コーポレーション 社長 石井 達雄 氏 NEC ソリューションイノベータ株式会社 東北支社第2 ソリューション事業部 佐藤 精基 氏
“ブイ”による海洋状態の可視化を実現2011年の震災以降、東松島市の漁師さんとブランディングや販路拡大などの話の中で「海の状態が変わった」、「海の状態の可視化が出来ればよい」という声をいたたきました。この要望を形にしたのが海洋環境の“見える化”システム「ICTブイ」です。現在、佐賀県・福岡県・熊本県、愛知県・岡山県・宮城県の漁協でITCブイを導入していただき効果の検証をしていただいています。
このブイには水温センサーと塩分濃度(以下、比重)センサーが搭載されており、計測データをドコモのネットワークを利用して、1時間ごとに管理サーバに送信。このデータは漁師のスマートフォンにインストールした専用アプリ「ウミミル」で閲覧することが出来ます。このアプリでは、今の水温と比重、24時間以内の最高、最低の温度が一目で分かるようになっていて、積算温度も表示されます。また作業記録や掲示板機能があり、漁師さん同士のコミュニケーションが取れるようになっています。
海苔養殖の工程のうち「育苗」は、その年の収量や品質を左右する最も重要な工程で、漁場の水温と比重の把握が重要です。今までは実際に何度も測定していましたが、ICTブイを使うことにより現地に行かなくとも、アプリを通して手元にデータが手軽に届き、この浮いた時間で事前に必要となる作業の準備ができるようになり、結果的に収量の大幅増に貢献しました。また、このデータの解析により、今まで漁師を悩ませていた「赤腐れ病」「バリカン症」「色落ち」等の海苔の減算要因は潮流が変化し比重が安定しないことであることが分かり、症状が発生する前に理想の条件に近い場所へ網を移動させるなど対策を行うことができるため重宝されています。この製品について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
目に見えない品質を“はかる”平成22年度新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業として、魚価向上及び高品質な水産物、水産加工品の供給を目指し、魚を傷付けずにあらゆる魚の脂の乗り具合を測定する「Fish Analyzer」を開発。 この製品は、魚体に電極を軽く当てるだけで、3秒以内に脂肪率を表示し、また、魚の鮮度状態をA~Dで評価。どの食べ方が適しているかも判断可能です。
「Fish Analyzer」を活用し、明石浦漁業協同組合と共同で1年間を通じて400匹の「真鯛」の脂肪率を測定し、脂の乗り具合を調査しました。
調査の結果、冬は脂乗りが高いことを確認、比較的脂乗りが低い夏の時期の真鯛の特徴を捉えて、 ・脂の乗り具合に応じた明石鯛の美味しさをアピールする ・関係者による明石鯛品評会を開催し、明石鯛の特徴を明確にする などの取組を行いました。また、売り方も工夫し、「特選品」というランクを作り、梱包も変え、一目で分かるようにして、ブランド化を行い、その結果的、魚価を上げることが出来たのです。
この製品について詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
未利用資源や部位からミンチを作り、歩留まりを上げる魚体を三枚おろしにした際の中骨の多くはフィッシュミールとして流れていることが多く、この部位をなんとか有効活用できないかと考え、開発されたのが、骨肉分離機「TR Chiby チビ」。中骨や魚体をそのまま投入すると、魚肉のみがミンチになって外へ押し出され、骨、 皮、 筋は粉砕されて排出されます。ぶり、鯛、小魚など魚によって骨の硬さが違い、肉の硬さが異なるため、それぞれの魚種にあった圧力をかけることで可食部のみをきれいに分離します。
TR Chiby チビのミンチ肉を使った製品作りTR Chiby チビを使うことで、魚体の歩留まりが上がることはもちろん、新しい商品の開発も可能になります。ミンチ肉は骨や皮と分離しているため、学校給食や介護食にも向いています。過去に実際に作られた商品としては、鮭で作ったサーモンバーグ、イトウを使ったナゲット、カジカのつくねなどがあり、ミンチ肉に一緒に混ぜる野菜や味付けを変えるだけでバリエーションは無限に広がります。
熟練者のみに頼らない AI による見える化水産加工の現場では、熟練技術者の高齢化と従事者の減少による人手不足が深刻です。また、今でも水産加工品の生産工程では、製品の品質が許容範囲か否かを「熟練の技術者」の判断に頼る部分も多いため、技術の継承がなかなか進まないなどの問題も発生しており、その多くの現場では、1級品と2級品が発生する原因を捉えられず、歩留まり率の向上に課題を抱えています。そこで、持続可能な水産加工業の実現に向け、ICTを活用した簡易な構成で実装できる、水産加工品の生産工程の"見える化"技術の開発を目指し、課題解決への取り組みを始めました。
工場のラインにカメラを設置し、撮影された原料や製品の画像を事前に登録してある診断データに照らし合わせ、品質を瞬時に判断し、また、ラインを流れる製品の数、2級品と判断された数などのデータをクラウドに転送して、蓄積したデータを統計・分析する仕組みを作り、この技術を使って、下記のような実証実験を行いました。
本実証実験で得られた成果を活かし、生産工程に実装できる仕組みの実現を目指します。 また、VRやロボティクスなど最新のICTを活用し、生産現場のさらなる効率改善や、熟練者の技術の継承、生産工程の省人化などに向け、今後も共創を推進していきます。
「被災地の基幹産業である水産加工業について、平成29年度に『チーム化による水産加工業等再生モデル事業』として複数の異業種の方々の連携による新しい取組が行われました。実際の取組内容を知ることで、今後の被災地における今後の水産加工業の新しい取り組みのヒント、一助になればと考えております。」との復興庁田中参事官のご挨拶でセミナーがスタートしました。
平成29年度「チーム化による水産加工業等再生モデル事業」として採択されたプロジェクトの中から、5つの取組について成果の発表が行われました。
「原材料、加工、販売の各事業者がそれぞれの強みを持ってチームを結成し商品を作ったらどうなるのか」に主眼に置いて、講座の受講やプロモーションなどを通じて、チームごとにスター商品を生み出そうという取組を行いました。
「スター」を目指す、商品企画アカデミー(特別講座)の開催加事業者:25社 (宮城・福島16社、岩手9社)
WEBプロモーションの実施およびスター商品誕生オーディションの開催本プロジェクト内で誕生した新商品を楽天市場内で紹介。商品紹介、商品誕生のストーリー、作り手の紹介などを掲載し、商品を知ってもらう場を設けることで、ユーザーの反応を見て更なる商品改善を行う良い機会になりました。また、ECサイトや店舗等販売チャンネルを持つ大手企業が審査員となるスター商品誕生オーディションを行い、開発した新商品を、紹介動画とプレゼン方式でPR。事前の予選を通過した6チームが本選に出場し、6商品すべてが採用決定。のべ20社の棚に商品が並ぶこととなりました。今後は、作った商品をどうやって伝えられるか、足を止めてもらえるかが大切。キャッチコピーなどのフォローアップや、VR動画による宣伝に取り組んでいきたいと考えています。
商品開発には産地での企業連携と消費地企業との協働、BigDataや実際の生の声を活かすことが必要と考え、取組を実施しました。今回は、データを分析し、商品開発を進め、ネット通販などの協力もいただきながら実際に販売も行いました。
BigData等を活用した商品開発と販路調整Tポイントジャパンとヤフージャパンの協力を得て、購買データなどを活用し選ばれた「魚好きスーパー消費者」の意見を分析しながら、「ソースのいらないカキフライ」と「牡蠣とバジルのオイル付け」など13もの商品を開発しました。これらをスーパーで販売、新たな販路7社を開拓し、流通総額は500万円に達しました。また、海産物の消費が減少している都会の単身者や核家族における消費増等に関心のあるモニター会員等を有する企業と連携してヒアリングやワークショップ等を実施。そこで出た意見を基に“おしゃれなホヤ”を目指し、「海の五つ星シリーズ」(バジル/ガーリック/トマト)を完成させました。
持続可能水産物の取組推進と販路開拓国際認証等の取得に向け、漁師と水産加工会社が連携して必要な改善に取り組みました。日本初となる養殖銀鮭AIP(Aquaculture Important Project)がスタートし、大手スーパーやこだわりシェフから注目された。2018年春の銀鮭シーズンから販売が決定しました。牡蠣は漁協3支所連携のASC(Aquaculture Stewardship Council)取得に地域として合意し本審査まで順調に進んでいます。
震災後、ホヤの主な販売先であった韓国で輸入禁止となり、従来の販路の7割を失った中で、国内販路拡大が重要と考え、ホヤ販路拡大プロジェクトチームを結成し、加工会社3社、漁師1社と我々でホヤの販路拡大に取り組みました。
消費者を対象としたホヤ消費拡大への取組まだまだホヤの認知度は低い現状です。その中で新たに販路拡大、新しい商品を作るということは難しく、まずは知っていただくことを軸として、SNSを中心にホヤ好きの人や飲食店さんに情報の発信を行っていただく「ほやラブキャンペーン」を開始。また、ホヤを取り扱う飲食店と漁師さんで連携し、ホヤの新しい食べ方提案やホヤについての知識を周知する「ホヤを楽しむ会」を実施しました。ホヤファン同士のネットワークづくりと新しいファン層を作る土台となりました。
飲食店を対象としたホヤ消費拡大への取組ビッグサイトで行われた「外食ビジネスウィーク」に出展し、3日間で3,150食のホヤの試食を提供。ここでアプローチした会社のうち、4件が新規にホヤ取り扱いを開始しました。また、ホヤになじみのない関東以西の飲食店や卸会社を対象に、体験型レクチャーを実施し、ホヤの取扱い方、特徴、試食提供、メニュー提案などを行い、新規で62店舗ものお店に取扱ってもらえるようになりました。このほかにも、飲食店向けの「ホヤガイドブック」「ポスター」等の作成を行い、認知度、消費拡大に努めました。
被災地の水産加工事業活性化のため、運送事業者・IT関連サービス会社など異業種と連携・チーム化することで販路回復などを図り、またICTなどの活用でマーケットニーズを的確に捉える産直販売の新ビジネスモデルの構築を目指していきたいと考えています。
外食店向け産直ライン便の構築専門家の方々による全体検討会を実施し、情報発信力強化のための統一ロゴを制定。情報発信のためのチラシを作成しSNSを活用しました。また、都内配送ルートの開拓として、全国物流網をもつランテック便を活用し、盛岡市場と大船渡魚市場から都内飲食店への配送を試験運転しました。
売れる商品開発プロの調理師がいない、もしくは不足している飲食店では、そのまま提供できる加工品の需要があるため、そういった向け先のニーズにあった商品の開発を行いました。3名の料理人の指導を受け出来た6つの試作品のうち、4つを商品化。きれいに盛り付けたホタテや常温で半年保管が可能な「恵海ほたて」、イカに3種類の味付けをしたイカメシ風リゾット「イカリゾ」などの商品が完成しました。
かねてより震災復興事業終了後の地域活性化の先駆けとなるべく、特産の牡蠣を柱としたグルメ観光を企画していました。その中で障害となるのは、ノロや貝毒プランクトンによる不慮の出荷停止の問題です。これらを解決するためのシステムを検討しました。
牡蠣の安定供給体制の構築水耕栽培用の液肥をヒントに牡蠣の安定供給対策を構築するため、生産者、食品製造業者、飲食業とコンサルタント業が連携し、海上養殖した牡蠣の陸上畜養システムの構築に向け実験を行いました。陸上畜養については、牡蠣を育てられることは可能でした。ただラボ(実験室)レベルであるため今後はスカイタンクレベルにして実用可能なユニットで実験を進める予定です。
大船渡産牡蠣のプロモーション大船渡産牡蠣はほとんどが築地へ行き、関東圏で消費されていますが、新しい販路として訪日外国人向けの需要を考えました。今年の7月から岩手花巻空港と台北空港との間で直通便ができることもあり、台湾に着目。現在、沖縄には多くの台湾人が観光に来ていることから、沖縄でのプロモーションを開始しました。現地まで行かなくても、台湾の消費者に直接のアプローチが可能となりました。
今回発表いただいた5つのプロジェクトについて、発表者らによるパネルディスカッションが行われました。
大島氏:児島さんに伺います。水産加工業さんをチームとしてまとめた時の苦労や可能性について教えて頂きたいと思います。 また「これが一番スター」だったという商品を教えてください。 長谷川さんには、ビックデータの活用の未来像や可能性について、また国際認証の費用対効果等についてお聞きします。
児島氏:チーム化については、まず商品企画の手法を学んでもらうセミナー教室から始まり、いろんな能力、性能、背景、特徴のある方々にチームになってもらい、学んだことを体験していだきました。各社が最終的に商品に「こういう方向で向かっていきたい」「何をどうしたいか」というテーマを出してもらい、それをみんなで見てもらいながら最終的にチームの再編成を行いました。参加者の中には楽天さんに出店されている方も多いことから、商品を形にしていくときの動力があり、皆さんが目標に向かって走り抜けて頂いたため、特段の苦労はありませんでした。「一番のスター商品」については、第3回オーディション時の、山形の玉屋正麺さんと福島で廃棄果物の再利用に頑張っている女性と山形の果物商社さんがチームとなって開発した「罪悪感ゼロスィーツ」というOLさん向けスーパーフードでとても好評です。
長谷川氏:正直、プレイヤーが増えると商品開発が重くなってくるなと実感しました。「これだけ労力をかけて商品を作っていったい何個売らなければならないのか」となると重くなるので、なるべく軽くしていきたいと思いました。 今後の可能性は、何千万から一億人近いデータは非常に興味深く、販売の時はターゲッティングの時には効果が出ており、これからも水産加工業や漁師さんが使っていけば良いと思います。しかし、プロダクトアウトの中でリプレイターを活用していくには、まだまだ事例を作っていかなければいけないと思っています。 また、国際認証のスキームは、費用と手間がかかり採算がとりにくいため、費用対効果の面で合いません。小さな漁師さんが認証を取りにくいという課題はあります。これから行政や漁協を含めたチーム化により漁業を国際認証に近づけていくことを水産していくことが重要であると考えています。
大島氏:お三方に伺います。 ・田山さん、今後のヒントとして、どの取組が「一番手ごたえ」がありましたか。 ・渡辺さん、ICTについて苦労されたこと、今後の配送方法や事業の展開について教えてください。 ・藤崎さん、陸上畜養の品質の特性について、今までの牡蠣とどこが違うのか教えてください。
田山氏:ホヤ普及のための冊子を作成し、刺身だけではない食べ方提案を行い、WEBサイトでデータを上げていますので、「ホヤを広げたい」という方々に活用していただく元となるものが作れたことに一番手ごたえを感じます。いろんな場所で活用されて、飲食店さんなどに取扱いの幅が広がっていくのではないかとワクワクしているのが楽しいです。
渡部氏:ICTについては、水揚げ情報の発信を消費者に向けて運用していましたが、情報が入るのは早朝のため、対応が困難で大変でした。配送につきましてはコストがポイントです。メカクールといって動く冷蔵庫(72時間一定温度を保った状態で配送できる箱)を活用していますが、復路のコストをどのようにするかを検討する必要があります。今後は、岩手県からの出荷するモノが増えることが大切ですので、より多くのものを配送できるよう商品を開発していくことが最短ルートであると考えます。「消費者の方の心的距離を近くする」ことをポイントとして事業展開していきたいと思っています。
藤崎氏:岩手県では48時間無菌海水にとおさないと生食用として流通しませんが、牡蠣はその間給餌しない状態です。もしかすればですが、菌がいない状態での人工的な海水の中で植物プランクトンを食べさせ続けることができたら、生食で美味しい牡蠣ができる可能性はあります。
大島氏:最後に皆様にお尋ねします。昨年度を踏まえて、今後の事業展開や東北の水産加工業の未来像などを教えてください。
山田氏:商品開発では皆さんが自分から新商品を作ることを覚えて頂き、更に新商品を「どう伝えるかまた、どう見せていくか」の部分から販路をもっと広げられるようお手伝いしていきたいです。
児島氏:商品企画のノウハウを皆さんに学んでもらい、今が活動のスタートラインとして位置付け、今後は「このエリアや事業所で新商品の開発を学びたい」「学ばせたい」という事があれば声をかけてほしい。東北は大きな可能性があります。「22世紀の世界がお手本にしたのは東北である」といわれるようにしていきたいと思っています。
長谷川氏:漁師の方を中心として海から食文化・ビジネスなどを生み出すため、漁師とその周りの方を巻き込んでいこうと思っています。東北は「世界から注目されている」という事を意識して、自分たちの活動やビジネスに誇りをもって意識することが一番大切です。日本ほど多様性を大切にして食文化を作っている国はないと言われています。皆さんの志の想いが乗れば世界中から注目されるビジネスになっていくはずです。
田山氏:いろんな方の努力により、ホヤの認知度は高まっています。しかし中には販売側の知識が十分ではない場合もあります。加工事業者さん、小売りさん、漁師さんと協力し合いながら正しい知識を広げ、ホヤを「世界第4の珍味」とすることを目指していきたいです。
渡部氏:東北は魅力的なものがたくさんあるのに、「見えない一歩に踏み出すのは怖い」「自分の経営等で精一杯」と新たな挑戦に尻込みしている方が多いのが残念に感じました。外食店向け産直ライン便の構築や商品開発等、現在の事業をより発展させ、東北のみなさんが安心して自分たちの商品を発信できるような展開していきたいと思います。
藤崎氏:畜養については事業化に向けて引き続き実証していきます。西日本への販路開拓については、今後は実績の出来た百貨店以外にもスーパー等へも広げていきたいです。観光等については、台湾からの岩手への直行便が就航することから、地元の旅行業の方とも連携を深め、大船渡産の牡蠣などをPRしていきたいと思います。
大島氏:今回いろいろな取組を見させていただきましたが「未来に向かって確実に手応えのある取組」が多かったと思います。私自身も仕事で関わっていますが、気をつけているのは「新しい市場を作っていこう」ということです。今日の皆様の視点も同様だと思います。私たちの技術を活かして市場を創造して、明るい未来を作っていきたいと思います。今日はありがとうございました。
司会 長谷部 雅也氏(以下、長谷部氏) 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)地域統括センター長(東北)兼仙台貿易情報センター所長
パネリスト 北村 和之氏 (以下、北村氏) PT MASUYA GRAHA TRIKENCANA (インドネシア)事業開発部長 塩尻 美代子氏(以下、塩尻氏) ICJ DEPARTMENT STORE (M)SDN.BHD.ISETAN The Japan Store (マレーシア) 食品・レストラン アシスタントマネージャー 関 篤史氏(以下、関氏) RE&S Enterprises Pte Ltd(シンガポール) 仕入統括 執行役員 イアン・クマモト(クマモト氏) Fortune Fish & Gourmet(米国)輸入担当
北村氏:①インドネシアは、島国で海に囲まれているので、魚をよく食べる。調理法としては、油で揚げたり、焼いたり、蒸したりして食べることが多く、生魚を刺身で食べることはしない。海水魚では、アジ・イワシ・タイが人気。淡水魚では、ナマズを揚げて食べる。日本産水産物で一番人気は、ハマチ。ノルウエーのサーモンも人気で、脂の乗った魚が好まれる。華僑系インドネシア人は、日本食レストランで寿司・刺身を食べる。ムスリムは、生魚は食べなかったが、最近は寿司店に行く人も出てきている。
②日本からの水産物は為替の関係もあり現地では高価なため、ターゲットは富裕層だけであった。しかし、近年の経済成長により中間層の所得が増えたため、従来、日本食レストラン・日本食スーパーに行けなかった中間層も足を運ぶようになり、業務用・家庭用ともニーズが高まっている。
③インドネシアでは、規制が厳しく魚介類が輸入しづらいが、水産加工品は輸入しやすい。但し、水産加工品はML番号登録が必要。登録申請の際、HACCP、ISO22000、GMP(適正製造基準)の認証のいずれかが要求されるが、営業許可証等でも代用可能。近年、観光で多くのインドネシア人が日本を訪れ、帰国後本格的な日本食レストランやスーパーに行く人が増えているので、業務用・小売用ともチャンスである。更なる輸出拡大のためのアドバイスは、ターゲット国を設定し、自ら出向いて現地の問屋さんと一緒に情報を収集する事をお勧めする。
塩尻氏:①マレーシアの国民はムスリム系60%、中華系30%で、日本食をよく食べるのは、中華系である。好まれているのは脂の乗ったサーモン、サバ、大トロ、ウナギなど。以前、寿司と言えばツナマヨなどであったが、最近は生魚の寿司もよく食べるようになった。日本の水産物で人気な魚種は、やはり脂の乗ったマグロ、ブリ、サバ、ハマチなどで、淡白な白身魚は人気が無い。マレーシア人は、肥満率が国民の13%と高く、健康志向が強くなってきており、日本食、特に水産物はヘルシーということで好まれている。
②マレーシアは外食文化で、家で料理は作りたくないし、作らない。外で食べるほうが安く、美味しい。従って、小売用より業務用(レストラン向け)の需要がある。ローカルレストラン・中華レストラン等でも日本食を取り扱いたいとの意向があるので、カキにしても様々な大きさや価格を提示する事で可能性が広がる。また、日本では、コンビニなど個食向けでパッケージが小さくなっているが、マレーシアは家族が多いため、簡易包装のお徳用サイズの方が売りやすい。
③水産物の売上は健康志向の観点から伸びている。たとえばワカメを売る場合は、その栄養成分をポスターなどで訴求すると、中華系を中心に伸びると思う。日本製品は高価で、すぐには買ってもらえないので、試食販売や実演販売で味を知ってもらうことが大切。店頭に並べて置くだけでは売れません。更なる輸出拡大のためには、たとえばカキのシーズンなど、国・自治体などと連携し、安定供給ができればいいと思う。
関氏:①シンガポールは、中華系が70%以上。水産物はエビ・カニが好まれる。特にチリクラブ。輸入水産物ではエビ・カニのほか、ホタテ・カキが中華料理に使われている。日本の水産物では、ハマチ・マグロトロ・カジキマグロを刺身で食べる。脂の乗っている魚が好まれ、ノルウエーサーモンが人気。
②シンガポールの中間層は、日本の中間層と所得はほぼ同じで、数パーセントしかいない富裕層ではなく中間層をターゲットとすべきである。3食とも外食の人もいるが、少しずつ家庭内で食べる習慣がでてきた。しかし共働きが中心のため、デリバリーサービスやレンジアップ商品が人気。Ready to eatなど手間ひま掛けず食べることの出来るものが今後伸びてゆく市場である。現地では、人手不足で店舗で働く人材確保に苦労しており、日本食を知らないスタッフが和食を作る場合があるので、簡単に調理できる業務用半製品が欲しい。日本の水産加工品は、現地の人には塩加減が強いので、調理の際、現地の味付けに調整できるような、ベーシックな味付けの半製品が好ましい。サーモンの皮を油でパリパリに揚げパウダーで味付けしたものが大人気で、コンビニではポテトチップスの横に陳列され、よく売れている。
③寿司ネタはポテンシャルがあると思う。日本の5~10年前に似ている。今後はスライスして冷凍した寿司ネタが伸びてゆくと思う。更なる輸出拡大のためには、シンガポールと日本の往復には6万円の航空運賃で済むので、是非現地に来て、マーケットを分析して売れるものを作って欲しい。
クマモト氏:①米国では健康志向から、日本食風レストランが人気。ローカルのレストランやコンビニ、スーパーマーケットでも寿司を取り扱っている。水産物は、やはりサーモンが一番人気で、小魚や骨の多い魚は好まれない。日本の魚種ではハマチやマダイが人気で、当社は、日本より週2回鮮魚(ハマチ・マダイ等)や大根・カイワレ等の刺身用商材を仕入れている。日本食レストランの増加に伴い、日本産水産物の需要が高まっている。
②最近では、マクドナルドで高価なハンバーガーが売れており、値段が高くても、いいものを食べたい人が増えている。日系スーパーは、どこでも週末は混雑し駐車場が空いていない。日本食については、小売用も業務用も安定した注文がある。
③米国で寿司商材はかなり浸透しているため、今後は差別化が必要。たとえばシメサバだと、一味工夫した梅味とか、現地で入手可能な白身魚は臭みがあるため、臭みのない日本の白身魚を冷凍した寿司ネタなどは需要があると思う。当社はお客様の要望に細かく対応しており、仕入れた魚をフィレ加工したり、骨をとったり、要望にあったサイズにカットして販売している。米国では、西海岸・東海岸は日本食がすでに浸透している。中西部のマーケットは保守的であるが、一度浸透したら、かなり根付いてくると思う。FSMA(食品安全強化法)は、当社でも勉強してこれから対応していく。
白米にあう水産加工品は沢山あるが、白米を主食としない国民にどのように提案するか、米国に来て実際に視察を行って欲しい。
司会 長谷部氏 最後にまとめとして言えることは、
1)輸出を考えている企業は、是非現地に足を運んで欲しい。その際は、事前にジェトロの情報等を活用してください。 2)どの層を攻めるか、ターゲットを絞り、その上で、価格・販促プロモーション・商品開発などの戦略を立てる必要がある。 3)今回、インドネシアから初めてご出席いただいた。同国は輸入規制等もあるが、日本食の認知度も高まっており、日本食レストランも増えている。今後拡大が見込まれ、注視してゆくことが大切。 4)法的にはハラル対応を必要としないが、ターゲットをどこにするかで変わってくる。また、HACCPは必要とされる国が増えてきており、確実に東南アジア諸国でもその傾向にある。米国ではFSMA(食品安全強化法)への対応が必要となる。
※レポートの内容および登場者の所属・役職等は記事公開当時のものです。