平成28年1月27日に八戸パークホテルにて 「水産業、震災後の未来の姿」というテーマで 販路拡大セミナーが開催されました。 震災後の水産業のあり方・未来の姿を、自然保護や国際的な視点から解説していただきました。
水産業は、すでに震災前から、右肩下がりの産業であった。 魚の消費が減退した理由として、魚は歩留まりが悪い、調理に手間がかかる。一方、畜肉は調理のしやすさ、冷凍のものでも脂が多い為解凍時ドリップが出ず、おいしさを保つことができることから、畜肉にシフトしている。 現在は、魚の消費に比べ、肉の消費の方が多くなっている。
以前は、日本人は50歳過ぎると肉の嗜好から魚の嗜好と変化し、魚の消費へと繋がったが、最近の年代別調査結果では、年取っても魚の嗜好に移行していかなくなった。
町の小売業が衰退し、量販店での魚の販売が増加した。 量販店での魚の販売が増えたことにより、小売店での対面販売が減少することにより旬の魚や調理法が伝えられない。 さらに、量販店では、品切れを防ぐため冷凍品を大量に仕入れ売る傾向にあり、益々魚のおいしさが忘れられ魚離れが進んだ。
津波で全て押し流され、かつての姿と変わり果てた街を見て、「なぜ自分たちの地域がこんなことにならなくてはいけないのか」という、どこにもぶつけることのできない思いを抱えていたが、起こったことは起こったこととして「前を向いて歩くこと決意した」という。 震災後まず問題になったのは、停電のままだったため腐敗が進んでいた冷蔵庫の中の魚の約5万トンの処理。 松島の航空自衛隊が廃棄する場所へのアクセスの確保を行い、地元の漁業関係者、加工業者等が総出で2ヶ月かけて海洋投棄を行った。その際、若い人からお年寄りまで様々な年代・立場の人が同じ目標に向かって一緒になって汗を流したことで、今までになかった縦の繋がりが出来るようになり、「地域で協力するという意識が芽生えた。」という。
石巻市場は、震災発生4カ月後にテントで仮復旧し、その後、仮設の建物を使っていたが、昨年8月にすべての施設が完成し、同年9月に市場全体の運営を4年半ぶりに再開した。実は、20年前に高度衛生管理を導入した市場の設計を1年かけて作っていた。その設計図が残っていたため、これをベースに今回の市場が作られている。上屋だけだった震災前と異なり、鳥や排ガスなどが入らないよう四方を壁で覆っており、内部は魚の鮮度保持のため空調を管理している。
また、完成した新しい施設は、長さが震災前の1.4倍に当たるおよそ880メートルと国内で最大規模となったほか、新しい荷さばき施設に最新の衛生管理システムを導入効率的に水揚げできるよう漁法ごとに荷さばきゾーンを分けている。 ハード面は、きれいに復活、しかしこれからがスタート。 「原料だけの供給ではなく、世界へもマーケットを広げたい」と須能氏。「これからは地元の人の団結心と人材を積極的に受け入れる土壌づくりが課題」となる。
市場の管理棟2階に見学通路を設けている。これは、魚を処理する現場をすべて見てもらうことで、安全・安心を実感してもらう狙い。特に小学生~高校生までの子供に興味を持ってもらい、水産を身近に感じてもらうことが地域にとって大きな力となると須能氏は考える。 また、アンケートを取った際、50%を超える人が放射能に不安を持っているという結果が出た。この解決策として、市場で取り扱う魚の放射能について、非破壊方式の機械を開発し市場でも検査を行い、データは市のホームページに掲載している。「もっと多くのチャンネルを通じて、このデータを知ってほしい。」という。
近年、さんまは、やせて水揚げが少なくなった。この要因としては、最近の大雨や、台風、山崩れ等により、濁水が流出し植物プランクトンが減り、沿岸近くにイナダが寄ってきて、さんまが寄り付かないと考えられる。 また、イナダは、成長して、日本海にいって氷見でぶりになるが、それも減少した。 これらは、異常気象の影響なのか、最近海洋環境が変わったのか自然環境の変化により食物連鎖が崩れてきていることを意味しているのではないか? 自然環境を大切にするためには、1次産業が声を上げなければだめである。 例えば、秋田のハタハタが減少した時、漁師が自ら休漁したのではなく、秋田県や市が動き観光資源をとしてのハタハタの保護に回り、観光予算を使って3年間休業補償しハタハタを守った。又、ノルウェーは、零細の漁業を廃止し、国防上の理由で大型船に転換し沿岸警備の役割も与えた。 自然の変化を踏まえ、資源管理の大切さを考え、その国、その地域の歴史・文化・伝統による価値観にあわせ対応するのが必要である。
震災は、いろいろなことを考えなおす警鐘と考え、逞しく生きてゆかなければならない。そのためには、産地間はライバル同士とはいえ、お互い知恵を出し合い、ともに水産業の発展を進めていこうではありませんか。
「役得」ではなく「役損」。自分でできることを精いっぱいやる。それがすべて。 人にやってもらいたいことだけを発言するのではなく、自分は何をやるのかを考え行動していかなくてはいけない。
水産業の課題から始まり、震災を「禍転じて福となす」と積極的にとらえ、未来のあるべき姿として自然保護や次世代の人材育成、国際水産都市石巻の石巻魚市場の再建のお話まで、広範囲で有意義なお話を聞かせていただきました。
※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。