宮城県気仙沼市で三陸産メカブの加工販売などを手掛ける丸繁商店。1981年創業の同社は、メカブがまだ商品としてほとんど流通していなかった時代に、その商品開発を始めていました。同社社長の小野寺薫さんは、創業からの経緯をこう語ります。
「メカブはもともと地元の人たちに食されてきましたが、創業者である父(現会長の小野寺 繁雄さん)は、メカブの栄養価とおいしさに将来性を感じて、もっと多くの方に楽しんでいただきたいという思いで加工を始めました。気仙沼湾の海水を使った、昔ながらの釜茹で製法にこだわっています」(有限会社丸繫商店 代表取締役 小野寺 薫さん、以下「」内同)
一般的な製造方法では、原料のメカブをカットしてから加熱処理をするそうですが、丸繁商店ではカットする前に加熱処理をする「旨み封じ込め製法」を行っています。
「先に釜茹ですることで、メカブの旨味や粘り成分をメカブに閉じ込めています。手作業が多くなり作業効率は下がりますが、食していただいた方々からは高い評価をいただいています。メカブは収穫時期や産地によって味覚や食感が変わるため、その時の状況によってベストな茹で時間も変わります。その調整は熟練の従業員が行っています。」
「旨み封じ込め製法」によって生まれた商品の数々
独自なのは製法だけではありません。商品に付属するタレも、同社オリジナルのものです。
「創業当初に、会長が醤油メーカーに協力をお願いして、丸繁のメカブに合うタレを作りました。メカブ商品にタレを付けるというのも会長独自の発想で、当時は珍しかったようですね」
メカブ以外では鮮魚出荷も行っていますが、コロナ禍でホテルや飲食店からの注文が減ってしまったこともあり、現在は規模を縮小しています。その分、メカブ事業に注力しており、売上も作業量も同社全体の9割以上を占めています。
2011年の東日本大震災では、津波により工場と冷凍倉庫が全壊に。当時、仙台で住宅建設の仕事をしていた小野寺さんが気仙沼に来ることができたのは、1カ月ほど経ってからのことでした。
「ガソリンの供給が不足していたこともあって、なかなか現地入りできませんでした。工場に隣接する実家も流されましたが、状況は電話でも聞いていたので、瓦礫の山を見ても特に動揺するようなことはなかったと思います。私は自分の仕事も忙しくなっていたので仙台に戻りましたが、供給不足だった建設資材などを送るなどして復興の手伝いをしました。鉄骨だけは残っていたので、雨風をしのげる程度に外壁で囲って、床がコンクリートのままの簡易的な作業場をつくりました」
2011年10月に工場の一部を復旧させると、サンマなどの鮮魚出荷から営業を再開しました。本格稼働となったのは、新しい工場が完成した2014年12月のことです。
「補助金を活用するなどして機材の購入を進め、生産能力は震災前と同程度のところまで回復しました。それでも仕入れ先が変わったり、風評被害が長引いたりして、そこから売上は思うように伸びずにいました」
売上回復の最大のネックは、労働力不足です。新しい市場を開拓し、新商品の開発も進めたことで需要は増加していましたが、人手が足りずに供給が追いつかなくなっていたのです。
そこで小野寺さんは、販路回復取組支援事業の補助金を活用し、メカブの選別を自動化する連続式異物除去洗浄機を導入することにしました。
「入札後、工場に運ばれてきたメカブには、海のさまざまな異物が付着しています。それをこれまでは人の目によって除去していました。安心・安全な食べ物としてメカブを届けるためには欠かせない工程ですが、機械によって効率化できる工程でもあるので、連続式異物除去洗浄機を導入しました」
従来、500㎏のメカブを選別する場合には、2時間で4名の作業員が必要でした。しかし連続式異物除去洗浄機を導入したことにより、2時間2名でできるようになりました。
「従来より必要な人員が少なくなった分、作業員を他の仕事に回せるようになりました。効率がよくなっただけでなく、異物除去の精度も上がり、品質の向上にもつながりました」
さらに、メカブの高付加価値化を進め新たな市場を開拓するため、外部の専門家の知見を取り入れた新しいマーケティング戦略にも取り組みました。ここでも販路回復取組支援事業の補助金を活用しています。
「まずは主婦の方々へのインタビューを自社で行い、その結果をもとに専門家の方と一緒に新商品の開発を行いました。メカブをサラダと一緒に食べてほしいというコンセプトから、『生野菜といっしょに食べたいめかぶ』といった新商品が生まれました」
新商品を開発し、ブランディングにも注力した結果、新規顧客の獲得にも成功しました。展示会では複数の成約につながり、ECサイトでの売上も1年で5倍以上になったのです。丸繁商店の商品が、全国放送のテレビ番組や、著名人のブログに取り上げられることもありました。
「ある日突然、ネットから多くの注文が入ったので、何かあったのかなと思っていろいろ調べてみたら、著名人の方がブログで紹介してくださっていたんです。やはり認知してもらうことが大事だなと実感しました」
小野寺さんはインスタグラムなども使って、自分たちからの発信も始めています。
小野寺さんには、SNSの活用と並行して挑戦していることがあります。メカブの養殖です。
「私の父は加工会社を作りましたが、その前には祖父がワカメの養殖業を営んでいました。私自身はメカブを作るところからやってみたい。不作によって入札価格が高騰すれば、商品価格に転嫁せざるを得なくなります。お客様に商品を安定供給するためにも、自社でもメカブを作れるようにしておきたいと考えています」
小野寺さん自ら海に出て、メカブの種付けにチャレンジする様子はインスタグラムでも紹介しています。自己流で養殖を始めるも、うまく育たず失敗に終わった初年度。その反省をいかしてメカブ養殖に挑む様子を、ドキュメンタリータッチで見せています。
「失敗しながら前に進んでいる感じですね。会長からもこうしろということは特に言われず、自由にやらせてもらっています」
全国水産加工品総合品質審査会最高賞(農林水産大臣賞)などを受賞している「10秒deおいしいめかぶ」も、住宅設計を手掛けていた小野寺さんの発想から生まれました。
「従来の四角いパックのメカブを冷凍した場合、いざ食べようと思って解凍しようとしても時間がかかります。『10秒deおいしいめかぶ』は薄くて平べったいパックなので、10秒ほど流水にさらすだけで解凍できます。住宅設計の仕事では、夏涼しく、冬暖かく、といった断熱性を考えていましたが、その逆の発想で熱を伝わりやすくするにはどうすればいいかと考えて、このパッケージになりました」
このシリーズは購入者からの評判もよく、「使いたい時にすぐ解凍できて便利」、「家の冷凍庫の場所を取らずに済む」といった声も届いているようです。
「インスタグラムなどでは、うちのメカブを使ってもらっている飲食店に撮影の協力をしてもらって、メカブを使ったおいしい料理も紹介しています。気仙沼というとフカヒレが有名ですが、おいしいメカブの産地でもあるということを、もっと全国に広めたいですね」
気仙沼を「メカブのある町」に。さらには「メカブといったら丸繁」と言われる日を目指して。小野寺さんは自分からも情報発信しながら、気仙沼のメカブを全国に届け続けます。
有限会社丸繁商店
〒988-0103 宮城県気仙沼市赤岩港160-2自社製品:三陸産メカブ、国産アカモク、サバ・イワシなどの鮮魚ほか
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。