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企業紹介第196回宮城県株式会社八葉水産

明太子も作る“自前主義”の加工屋さんが目指す
「百年通用する味」

1972年(昭和47年)に設立された宮城県気仙沼市の八葉水産。メカブやモズク、イカの塩辛などを中心に、数多くの関連商品を手掛けています。創業から半世紀以上、変わらない味を守り続けてきた“流儀”について、同社専務の清水勝之さんはこう語ります。

「当社は、自分たちの手で一から作る“自前主義”にこだわってきたメーカーです。例えば『いか明太子』を作るのに、調味料メーカーなどから明太風味の調味液を調達して、それをイカと混ぜ合わせるということもできるのですが、当社はタラコから仕入れて、専用機にて自社で明太子を作っています。その手間をかけるのは、自分たち独自の味を大切にした商品作りにこだわっているからです。創業時と比べて、衛生面の向上や効率化のために機械化も進めてきましたが、こういった部分の工程は変わっていません」(株式会社八葉水産 取締役専務 清水 勝之 さん 以下「」内同)

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伝統の製法にこだわる八葉水産専務の清水 勝之さん

自分たちでできることは自分たちでやる。そのやり方は、自社のこだわりを表現できる一方で、コストがかかりそうなところです。ところが清水さんは、コスト対応のメリットもあると言います。

「自分たちが原料から管理できるので、何かの価格が上がったなどの際に、効率化など自助努力でコストを抑えながら対応できます」

ただし、コストに気を配りながらも手間を省くということはしません。

「日本には四季があるので、季節によって、気温、湿度、水温のほか、原料のサイズなどの条件が変わってきます。そんな中でも味がブレないように、原料の検品や成分の検査、官能検査などを行い、1年を通して同じ味の商品に仕上げていくというところが我々の仕事の醍醐味ですね」

この“美味しさのためには手間を惜しまない”姿勢は、創業社長である亡父の清水 剛二(こうじ)さんの時代から続いてきたといいます。

「これは当社の文化の一つといえます。創業者たちは、ひと手間をかけるということを、ごく当たり前にやっていました」

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原料選びから味付けまで丁寧に作られた「いか明太子」

震災から1年後、これ以上は復旧を遅らせたくない

2011年の東日本大震災では、海に近い八葉水産の工場も壊滅的な被害に見舞われました。

「地震があった時、私は気仙沼市内の海のすぐそばの会場で開かれていた講習会に参加していました。その揺れのすさまじさに『これは津波が来る』とすぐに分かりました。講習会は中止になり、私は車でとにかく山のほうへと向かいました。ところが渋滞でなかなか進めない。停電で信号機も消えていました」

車の中から工場のほうに目をやると、土埃が上がっているのが見えました。津波が周辺の建物を破壊しながら進んでいたのです。

「この周辺には12メートルくらいの津波が来て、建物に大きな被害がありました。従業員と避難所で待機した数日後に工場の様子を見に来た時には、建物の上に船が乗っていたり、壁が全部抜けて階段に車があったりという状況。私たちの工場でも大型の充填機がひっくり返るなどしていました」

その後、復旧に向けて3月から6か所の施設の撤去清掃作業を開始。最後の施設の清掃が終わったのは2011年(平成23年)の8月下旬でした。そして9月には津波の被害が一番少なかった冷蔵工場と松崎工場を復旧させ、しめさばを作るところから製造を再開させました。

「震災から半年後には、しめさばを作る工場だけは復旧できましたが、生産というには程遠いような状況。本格的な復旧までにはさらに半年かかりました」

これ以上は遅らせたくないという気持ちが強くあり、震災から1年というタイミングを逃したくなかった八葉水産は、2012年(平成24年)3月に第一工場(旧第二工場)を、同年10月には第二工場(旧第三工場)を復旧させて営業を本格再開しました。しかし、それだけでは、なかなか売上は戻りませんでした。

「やはり原発事故が大きかったですね。震災前は三陸産の魚やワカメが売れていましたが、それを控える空気がありました。3年間くらいはなかなか売上が伸びず、ようやく風評被害が薄れてきたのは震災から5年目くらい。影響は長く続きました」

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震災直後の状況

商談がまとまるかどうかよりも大事な「関係づくり」

震災後の回復を目指す八葉水産は、復興水産加工業販路回復促進センターが実施する「復興水産加工業等販路回復促進指導事業」を利用して、展示会イベントに出展することにしました。2018年度から毎年イベントに参加し、すでに20回近く参加しています。それも近場の東北地域や東京だけでなく、名古屋、大阪、福岡まで足をのばしています。

全国各地の展示会に参加する理由について、清水さんはこう語ります。

「当社の製品は、北海道から九州、沖縄まで展開しているので、震災後なかなかお会いできなかった全国のお客様になるべく早く顔を見せたかったというのがありました。しっかり作っていますよ、さらにレベルアップした商品づくりをしていますよ、とお伝えしたかったというのもあります。1回より2回、2回より3回という形で、機会があれば参加するようにしてきました」

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「東北復興水産加工品展示商談会2024」参加時の写真

展示会に参加することで、市場調査を兼ねられるメリットもあるといいます。

「来場される方は、何か見つけたくて足を運んでいるのです。そういう方たちから生の声を聞いたり、市場のトレンドを担当者同士でやり取りできたりする機会というのは、とても貴重です。情報の発信と、キャッチ、両方ができることがメリットとしてあります」

また、作るときも売るときもひと手間かけるのが八葉水産流。例えばもずくを紹介するには、パプリカを和えて彩りを良くして、めかぶは冷たいうどんやそばにかけ、いか明太はパスタに和えて提供しているのだそう。試食ひとつ取っても、一人でも多くの人に手に取って食べてもらえるように、そして、食卓で食べられる場面をイメージしやすいようにと工夫しています。

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試食品は彩の良さや、食べられるシーンが伝わるよう考えられている

清水さんが重要視しているのは、この場で商談がまとまるかということよりも、「新しい商品はどんなのものがあるの?」「これはどうやって食べたらおいしいの?」といった、お客さんとの会話のキャッチボールです。それでも結果的には一回の展示会で数十件の商談に結びつくことも多く、さらに成約が20件決まったという実績もあります。

時には、展示会でアメリカのバイヤーと顔を合わせることもあるのだとか。

「2月に参加したスーパーマーケットトレードショーでは、もともと取引のある海外の日系スーパーのバイヤーや窓口となっている商社の方と商談ができました。自分たちがアメリカまでバイヤーに会いに行くことは難しいので、こういった機会に話ができるのはありがたいですね。いかの塩辛、いか明太子、もずくなどの紹介ができ、採用に至りました」

健康でありながら「おいしい」は外せない

実兄でもある社長の清水敏也さんとともに、八葉水産の経営に携わる清水さん。八葉水産の創業時は小学生でしたが、当時のドタバタを今でもよく覚えているといいます。

「この会社は、父が一人で立ち上げたというより、仲間と一緒に興したものです。皆さん若くて勢いもあって、とても頑張っているなと子供ながらに思っていました。父は子供が寝ている時間に帰ってきて、起きる前に家を出ていくことが多かったので、月に数回しか顔を合わさないこともありましたね」

もともと紀州出身の父・剛二さんは、船に乗る仕事もしていましたが、この気仙沼の地で事業を始め、地場の魚を使ったみりん干しや粕漬け、味噌漬け、つくだ煮なども作っていました。

「創業メンバーの中に、もともと加工の技術を持った人たちがいたんです。あとはそれをどう売るかというところで、苦労があったみたいですね。当時はまだ運送システムが確立されていない時代だったので、自分たちで県外にも売りに行っていました」

すでに多くの商品ラインナップを持つ八葉水産ですが、今後も最新のニーズを捉えながら、商品開発を続けていきます。

「健康ニーズはこれからまだまだ続くと思います。減塩、低カロリー、低糖質といったものは、人気になりやすい商品ですが、味付けをする過程で、どうしてもカロリーが高くなってしまう商品もあります。それらを健康ニーズに合わせて、開発を進めたいと考えています。ただもちろん、健康的でありながら『おいしい』は外せません」

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「減塩」「低カロリー」「低糖質」など健康ニーズに対応した商品の一部

消費者ニーズをベースに商品づくりを行う「マーケットイン」という言葉が浸透する前から、それを実践してきた八葉水産。清水さんはさまざまな経済指標や購買データなどの最新情報を分析しながら、消費者の生の声にも耳を傾けています。

「消費者が何を欲しがっているのか、どういうところにお金を使うのか、そしてそれに応えるスーパーマーケットは何を商品棚に並べようとしているのか。そういった声を拾っていくためにも、お客様の声や、展示会などで会うバイヤーさんの意見に耳を傾けていきたいですね」

同社が「50年後も変わらない味と、新しい美味しさを次世代につないでいく」という目標を掲げているのは、創業当時から続く味が100年後にも通用するという自信の表れでもあるでしょう。そんな伝統の味を守りながら、ニーズを捉えた新しい「おいしい」を探求し続けます。

株式会社八葉水産

〒988-0103 宮城県気仙沼市赤岩港168-10
自社製品:いか塩辛、いか明太子、味付めかぶ、味付もずくほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。