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企業紹介第165回千葉県有限会社与助丸商店

「今までから、これからへ」。
水産業と市議会議員の、二足のわらじで地場産業を守っていく

房総半島の南端、南房総市の白浜地区。同じ千葉県でも砂浜が続く九十九里とは異なり、沿岸には岩礁域が広がっています。そのため、岩場で獲れる伊勢えび、あわびなどの「磯根資源」が豊富で、春は農業、夏は海に潜って素手で漁を行う半農半漁の「白浜の海女」も有名です。

与助丸商店は、その白浜地区で明治時代に創業されました。もともとは網元として漁業を営んでいましたが、徐々に鮮魚店、卸売りなどの「陸の仕事」も手掛けるようになっていきました。現在の社長である小川伸二さんで、七代目となるのだそうです。

「最初は卸売りで市場に出荷していたのですが、だんだん近隣の旅館やホテルに生鮮の伊勢エビ、アワビなどを納めるようになっていきました。その過程で海外との縁ができ、今度は干しアワビ、干しナマコなどの加工品を作って輸出をするようになりました。自分が入社した時は、加工品の輸出が一番の主力になっていましたね」(有限会社与助丸商店 代表取締役 小川伸二さん、以下「」内同)

有限会社与助丸商店 代表取締役 小川伸二さん
有限会社与助丸商店 代表取締役 小川伸二さん

実は小川さん、大学を卒業した頃は「敷かれたレールの上をそのまま進む」ことに抵抗感があったそうで、ちょうど就職氷河期の真っただ中だったにも関わらず、「自分が働きたい会社に行きたい」と就職活動戦線を戦い、見事、通信会社の内定を獲得。20代の時は家業とは異なる道を歩んでいました。しかし、やはり「自分が継がねば」と、30歳を機に区切りをつけ、家業に戻ったのだそうです。

「子供の頃から後継者として育てられていたこともあり、いつかは自分が、という気持ちはありました。うちは私が子供の頃から勤めているような職人気質の古参社員も多く、仕事を教えてもらうなら早い方がいいと思って2010年に戻ってきました。その後、2018年に先代が病に倒れ社長を引き継ぐこととなりました」

社長に就任してからは、安定的に商品を供給するため、積極的にデジタル化を推進。原料が「生き物」であるため、以前は在庫という概念が薄かったり、管理がアバウトになりがちだったそうですが、「原料はお金が姿を変えたもの」という意識を社員全員に徹底し、適切かつ正確な在庫管理が行える仕組みを構築しています。

「うちの主力製品である伊勢えびも、アワビも、高級な食材です。こういう高級なものを無理して安く売るのではなく、確かな品質のものを、安定して供給していきたいと思っています。そのためにも定量、定額、規格化を実現することが重要で、在庫管理もそこにつながっていく手段だと思っています」

与助丸商店自慢の南房総産の海の幸。
伊勢えび(左)は専用の生簀で鮮度が保たれる。アワビ(右)は肉厚で大きいのが特徴。

輸出が伸び悩む中、「高付加価値商品」の開発を模索

東日本大震災は、小川さんが与助丸商店に戻ってから、ほどなくして起きました。震災当日は、高齢のパートさんに避難してもらった後、三陸の津波情報を見ながら、「自分たちは大丈夫か」と心配しながら過ごしたのだそう。地震の影響で建物に亀裂が入るなどの損害はあったものの、千葉県の南端である南房総市には津波などの大きな被害はなく、仕事はすぐに再開することができました。

「この地域はインフラのダメージもなかったので、安全確認ができた人から順次仕事に戻ってもらいました。みんな、3日から1週間くらいで復帰できたんじゃなかったかな。震災直後はすごく忙しかったんですよ。すでに加工が終わっているものは安全だという認識で、売ってくれ、売ってくれとすごかったです。そのうち在庫がなくなるんじゃないかとお客様も心配だったんでしょうね」

しかし震災前のストックがなくなった頃から、状況は一変します。原発事故発生により、各国が食品の輸入規制措置を取ったことで、まずは海外への輸出がストップしました。海外の顧客にとっては、千葉県は「東北の隣」という感覚。会社が千葉県にあるということで全く売れなくなってしまったのです。

また、海外向けの主力製品である干しナマコ、干しアワビの原料は、地場でとれるもの以外は三陸から調達していました。そのため、そもそも原料が手に入らず、生産できない状況にも追い込まれました。

「アワビは、岩手が国内で圧倒的なシェアを誇っています。岩手県は面積も広いし、リアス式海岸が続いているので、とにかく水揚げ量が多いんです。2位が千葉県ですが、水揚げ量では岩手の半分くらい。岩手はエゾアワビ、千葉は黒アワビが獲れます。黒アワビはブランドになっていて、獲れる地域もがかなり限られているので、国内では代替の産地がないんです」

輸出事業以外にも、近隣の旅館、ホテルに伊勢エビ、アワビを生鮮品として納めていましたが、当時の日本は「自粛ムード」が強く、観光業も衰退。風評被害もあり、こちらも厳しい状況が続いたのだそうです。

その後、各種の検査を行い、証明書も添付して輸出は再開。しかし「制度上、輸出自体はできるけれど、お客様の購買意欲が戻らない」状況が続きました。「相場が下がったから」という理由で購入する新たな顧客は増えたものの、価格が下がっているため売上としては厳しい状態。原料の供給能力の回復が遅れたことも追い打ちをかけ、輸出事業は伸び悩みが続きます。そこで小川さんが取り組んだのが、新たな加工商品を生み出すことでした。

「輸出が難しいのならば、この機に、国内向けに生鮮品を加工した付加価値のある商品を作れないかと考えたんです。伊勢エビもアワビも産地としての競争力はあるのですが、生鮮って、誰が売っても伊勢エビは伊勢エビ、アワビはアワビ。一緒なんですよね。今までは乾燥、ボイルなどシンプルな加工しかしていませんでしたが、鮮魚を扱う会社が“揚げるだけで良いフライ”を作っているように、加工度をもっと上げた高付加価値な商品ができないかと、ずっと試行錯誤していました」

高付加価値商品の開発のため、販路回復取組支援事業を利用

震災の苦境の中、様々な「高付加価値」な加工品の製造を模索していた小川さん。ただしノウハウがなかったこともあり、なかなか軌道に乗らなかったのだそう。特に障害となったのは「規格化」でした。

「加工業は、設備産業の側面があるということを痛感しました。アイデアがあって、サンプルまでは作れても、それを規格化して、量産するのが難しい。それに加工品の商談をしていると、必ず“金属探知機は通していますか?”などと聞かれます。そういうマストアイテムの存在も知らなかったので、商談の俎上に乗ることのハードルも高かったです」

そこで、与助丸商店では令和3年度の販路回復取組支援事業を利用して、重量選別機、金属探知機の導入を計画しました。

この2つの機器は省力化や効率化に、大きく役立っています。

まずは重量選別機。今まで手作業で伊勢えびを1匹ずつ測っていましたが、「元気に生きていることに最上の価値がある」商品であるため、今までは伊勢えびが搬入されたら、全員がすべての作業の手をとめて重量を測っていたのだそう。

「一度に700匹くらい来るのですが、相手は生きているので、全員で1時間くらい秤を持って集まって、重量を測って、ということが最優先にならざるを得ない。仕方がないと思いつつ、そこで全ての作業が止まるのは非効率なのでどうにかしたいと思っていました。機械が入ったことで、作業もスムーズになったし、お客さんから問い合わせが来ても“後で”という中途半端な返事ではなく、“何分後に結果が出ます”ときちんと言える。コミュニケーションも円滑になるし、商売自体もうまく進むようになりました」

重量選別機により自動でサイズ選別されるようになり、効率化・省人化が進んだ

金属探知機は、ボイルした伊勢えびや、干しなまこ、干しあわびなどの検査に使っています。これまで一度も金属の混入はありませんが、金属探知機を通していることでより一層、信頼度が上がったのだそう。展示会の商談なども同じ目線でスムーズに進むようになりました。今後は機械を導入したことで単純労働ではなく、より付加価値の高い作業に人手を回し、ゆくゆくは新たな加工品を開発していく予定です。

「マストアイテム」の金属探知機も導入

社長業と議員活動の両輪で、会社も地場も発展させていく

明治年間から続く与助丸商店ですが、法人化したのは1964年(昭和39年)。来年2023年には、法人化60周年を迎えます。その節目の年に合わせ、現在、新工場を建設中。加工品を流通させるには衛生基準のクリアも必須要件と考え、HACCPの認証を見据えた工場となる予定です。

「今後は、定量、定額で、きちんと規格化された伊勢えび、あわびの加工品を作っていきたいと思います。もともと生鮮をやっているので、原料をストックする専用生け簀も10槽くらい保有しています。冷却循環装置、海水かけ流しなど、それぞれの原料に合わせた管理ができますし、漁協さんに次ぐキャパシティもある。管理面でも高品質な素材を扱えるので、そこに高付加価値をつけて、ギフト商品など高品質なものを、適正な価格で買っていただける状態を作っていきたいです」

ちなみに小川さん、仕事をしていて一番嬉しい瞬間は、最初に声をかけてもらえる「ファースト・コール・カンパニー」であると実感できる時なのだそう。最初にチョイスされる、最初に頼ってもらえていると感じた時に「ありがたいし、充実した気持ち」になるのだと言います。

そして、なんと、小川さんは今年から南房総市の市議会議員としても活動しています。もともとお祖父さまが町会議員で、街の人に頼られる姿に影響を受けたのだとか。現在は地元の現状を知ってもらうために、県の水産関係者に積極的に情報提供をしているのだそう。「海はつながっている」からこそ、市だけでなく国や県に発信をしていくことで、地場を守っていけると信じているのです。

「補助を求めるだけでなく、県や国にこの地域のことを知ってもらって、実態を捉えた効果的な政策を一緒に作るのが一番だと自分は思います。もっともっと、と乱獲するのではなく、資源が長く続いて、生産者も加工業者も両輪で回っていく、そんな状態を実現させたいです」

高い視座から「商売全体」「地域全体」を見て、常に、全体最適を考えている小川さん。選挙の時のキャッチコピーは、「今までから、これからへ」だったそう。頼りがいのあるリーダーのもと、与助丸商店の「これから」は、ますます発展していくことでしょう。

有限会社 与助丸商店

〒295-0103 千葉県南房総市白浜町滝口6472-2
自社製品:ボイル伊勢えび、干しあわび、干しなまこ

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。