茨城県神栖市、鹿島灘に面した海岸からほど近い場所に工場を構える株式会社ぎょれん鹿島食品センター。北海道ぎょれんの消費地型流通加工機能を担い、道産水産物を切身や小パック加工をして全国の生協・量販店などに販売しています。
創業は1990年。株式会社ぎょれん食品(現(株)ぎょれん北光)流通加工センターとして操業を開始しました。その後、北海道ぎょれんの完全子会社として、2000年、ぎょれん鹿島食品センターを創立。北海道産品、秋サケ、イクラ、ホタテ、昆布製品のコンシュマーパックを年間通して取り扱い、主な取引先である全国の生協共同購入に対応できる生産能力を擁します。
「我が社の強みのひとつが徹底した品質・衛生管理。1999年にはドライクリーンルーム、2006年には、ウェットクリーンルームを増設し、衛生管理には力を入れています。」(ぎょれん鹿島食品センター常務取締役の藤山隆さん、以下「」内同)
安心・安全な北海道産ブランドを作り、品質を損なわない環境で加工する。その技術で得た「信頼」で順調に成長を遂げてきました。
2011年3月の東日本大震災時、同社も大きな揺れに襲われ、津波も工場のすぐ目の前まで迫りました。地震による建物損壊などの直接的な被害や浸水被害はなかったものの、冷凍庫に入っていなかった製品はすべて廃棄せざるを得ず、大きな被害となりました。
さらに、東北太平洋沖で発生した地震のおよそ30分後の15時15分、茨城県沖を震源とする、マグニチュード7.6の地震が発生。この揺れで地盤沈下、液状化が一気に進み、工場周辺の道路はじめ、駐車場は車の乗り入れができない状態に。電気は地震発生後2日後に復旧したものの、地盤沈下が起こった地中で水道管が損傷し断水。復旧までの2カ月半の間、操業停止を余儀なくされました。
「あまり知られていないと思うのですが、東北太平洋沖で起きた本震より、そのあとの茨城県沖地震のほうが、このエリアでは揺れが大きかったんです。従業員を全員避難させたあと、私たち数人の社員は工場に戻り冷凍庫に従業員がいないかなどを確認して回りました。」
過去最高の1,500万パックを超える売上を達成した矢先に見舞われた東日本大震災。復旧後、生産量は回復しつつあったものの、2015年には北海道水産物の水揚げが減少、原料高となったうえに、労働力不足、さらに従業員の高齢化が重なって生産パック数は落ち込みました。同時期に、個包装化や少量パック化というニーズの高まりが顕著になりますが、受注に対応できない状況が続きました。2018年には、「維持しなければいけない最低ライン」としている1,000万パックを割り、早急な対策が求められたのです。
同社は、全国の生協共同購入利用者の注文に応える必要があり、取引を続けるためには欠品、納品遅れは絶対に避けなければいけません。主要商品の秋サケ、ホタテ、昆布、イクラ関連商品は、同時に年末に繁忙期が集中します。2018年の年末には、東京支店からも応援団が工場に来て、役員、事務員にかかわらず全従業員が、連日工場での生産にあたり、何とか欠品することなくしのいだという経緯がありました。
そこで、このような事態を緩和するために、販路回復取組支援事業を利用して、凍結能力アップのためのトンネルフリーザー一式と、切身加工を効率化するマイコン型自動切身機一式を導入しました。
これまでも、マイコン型自動切身機は2機稼働していましたが、今回導入した切身機は、魚体の大きさや形から、どういう角度で切れば、誤差のないグラム数で規格のそろった切身にできるかを画像で判別するスペックが大幅にアップし、切身加工の生産能力は約1.6倍になりました。
「弊社では原料から商品にするまで製品温度を一貫してマイナスになるよう維持します。凍結されたサケを切身加工しやすい状態までゆっくり解凍し、切身にした後はすぐに-40度で急速冷凍にするのです。それによってドリップを出さずに細胞をこわさない品質を保つことができるのです。つまり、凍結能力と切身にする能力、同じ処理能力をもつことが大切です」
オートメーション化しているとはいえ、1切れごとのグラム数の誤差がでないように、ラインに乗せる前に形を整える作業は人力で行い、一定の温度もスピードも保ちながら、切身加工のラインに従事する作業者は集中力や判断力も求められます。また凍結したサケを運び出すなど肉体的にも負担がかかります。
藤山さんは、「生産能力をアップさせたことで、同じ量を作るのにこれまで8時間かかっていたところが、6時間に短縮、2時間の余力が生まれたことが大きいのです。その2時間を、新商品開発や肉体的に負担の少ない作業に回すことができています」と話します。
個包装、少量パックのニーズに合わせた深絞り真空パックにした商品。個別グラム数の差が生じない切身にすることで、パッケージの際の作業効率化が図れる
今回導入した機器で得た余力を消費者ニーズを捉えた新製品開発に活かしていきたいと話す同社。同工場内では、今後商品化を目指した試作品が作られていました。
現在開発中なのは、より簡便に電子レンジだけで調理できる味付け済みの惣菜商品。 北海道産の水産物に、地元茨城の野菜などを組み合わせた商品も考案中とのこと。ここから全国の食卓に、“北海道×茨城”を産地とした“水産物×農産物”の商品が並ぶ日も近いのでしょう。
また、同社は定年を65歳から延長するなど、労働力不足解決のひとつとして、高齢者の雇用で補う方針を進めています。
「熟練した技術をもつ従業員に長く勤めてもらうためにも、高齢者が負担なく作業できるようにするための環境整備は大切です。」
今後もさらに工場内のホタテ加工ラインの生産能力アップ、省人化のために、新たな機器の導入を目指しているそうです。
生産量、売上高増を求めるのと同時に、従業員が働き続けやすい環境を整えることに注力するぎょれん鹿島食品センター。「労働力不足」が言われて久しい昨今、ひとつの示唆があると感じました。
株式会社ぎょれん鹿島食品センター
〒314-0011 茨城県神栖市南浜3-185 自社製品:水産物のフィレ加工(サケ、タラなど)、パック製品(ホタテ、イクラなど)
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。