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企業紹介第109回福島県東北水産加工業協同組合

作り続ける黒ノリは国産限定

東北の被災地では、津波被害により工場を失った会社の分まで生産を請け負い、製品の供給を続けた水産加工業者も少なくありません。福島県相馬市の東北水産加工業協同組合もその一つ。会社法人とは異なる組織形態ですが、ノリの生産業者として1965年(昭和40年)の発足以降、旅館などに卸す業務用の味付けのりを中心に黒ノリの加工を手がけてきました。

組合長の但野建治さん。父親は発足時の組合員だった
組合長の但野建治さん。父親は発足時の組合員だった

「宮城や岩手では、東日本大震災の津波で工場が流された同業者も多くありました。そうした被災企業の中には、自社工場を新しく建て直すよりも外部に生産を委託したほうがいいと判断したところもあり、津波被害のなかった当組合への委託生産の注文が増えました。今もその注文が継続しています」(東北水産加工業協同組合・代表理事組合長の但野建治さん、以下「」内同)

旅館の朝食用向けに需要の多い味付けのり
旅館の朝食用向けに需要の多い味付けのり

東北水産加工業協同組合はもともと、地元相馬の潟湖・松川浦でノリの養殖を営む生産業者らの共同出資により、ノリの生産量を増やすための加工施設を作ったことが始まりです。組合員はノリの販売業者で、現在は15人ほど。同組合は生産したノリを組合員に卸し、組合員は自分たちの持つ販売ルートに乗せます。

「組合発足当初の昭和40年代は松川浦の黒ノリを扱っていましたが、昭和50年代後半には黒ノリが取れなくなってしまったんです。黒ノリに代わって繁殖したのがアオサです。外から持ってきたアサリの稚貝にアオサの胞子が付いていて、それが繁殖して黒ノリが淘汰されたと言われています。現在は全国各地から黒ノリ原料を取り寄せて、味付けのりや焼きのりなどに加工しています」

昨今は海外からの輸入ノリを扱う業者も増えていますが、東北水産加工業協同組合で扱うノリは国産限定。宮城県内だけでなく、瀬戸内地方のものも多いといいます。

生産が注文に追いつかないロングセラー商品「のりピー」

東北水産加工業協同組合全体の生産量の8割を占めるのが味付けのりですが、同社には「生産が追いつかない」という人気商品があります。その名も「のりピー」です。

「味付けのりに砕いたピーナッツをかけた製品です。引き合いの話はよくいただくのですが、人手のかかる製品ですし、のりピーの生産を増やすために味付けのりの生産を減らすこともできないので、今はまだ、従来からいただいている注文に対応しているのみです。実はのりピーは、40年前から作っている商品で、爆発的に売れたことはないのですが、ゆっくりと時間をかけて認知されてきた商品です。子供からお年寄りまで、お菓子として、おつまみとして、いろいろな食べ方で親しまれているようです」

小分けにパックされているのでちょっとしたおやつにも最適
小分けにパックされているので
ちょっとしたおやつにも最適
ロングセラー商品「のりピー」
ロングセラー商品「のりピー」

他に同組合では、お弁当には欠かせない「味付おむすびのり」、ノリをたっぷり使った「ふりかけのり」などもつくっています。こうした一般消費者向け製品は、福島県内の道の駅やサービスエリア、福島県のアンテナショップ、インターネットショップなど、組合員が出品している場所で購入できます。事業の核ではないものの、パン食へのシフトが進み“のり離れ”が進む昨今においては、このような商品は消費者とノリを結ぶ貴重な存在と言えそうです。

味付おむすびのり
味付おむすびのり
ふりかけのり
ふりかけのり

不調だった味付け装置、タレを均一に塗れるように

東北水産加工業では、東日本大震災で津波被害はなかったものの、地震による被害がありました。建物の外壁や排水管にもヒビが入り大規模な修理が必要となりました。生産に直接影響したのは機械の不調です。

「味付けのりの生産ラインの機械の一つが地震により故障したため、他のものと入れ替えました。そのまま使い続けた機械も、調整が微妙なところでずれてしまいました。それまではノリに均一にタレを塗れていましたが、地震後はムラができてしまい、製品ロスの率も上がってしまったのです。生産量を回復させるには、新しい機械が必要な状況となっていました」

そこで同組合は、味付けのりの生産ラインを見直すべく、販路回復取組支援事業の助成金を活用して「味付け装置一式」を導入しました。

「焼く」工程と「タレを塗る」工程を連続して行う
「焼く」工程と「タレを塗る」工程を連続して行う

「おかげさまで、タレをきれいに塗れるようになりました。これまでは、ムラがあったので、検品作業にはサポートの人間が一人付いていましたが、今はサポートが付かなくても検品作業がスムーズに行えています。結果的に一人分の省人化となり、別の作業にスタッフを回せるようになりました」

「他にない製品、安全な製品をつくり続けること」が目標

機械の問題をクリアした東北水産加工業協同組合ですが、一組織では解決できない問題にも直面しています。福島第一原発事故の風評被害です。

「こればかりは私たちだけではどうしようもない部分もあります。瀬戸内地方のノリを使っても、加工が福島県だと、お客さんからはまだ『福島だとね…』と言われてしまいます」

風評被害に関してはなくなるのを待つしかないというのが現状。それまでは、それ以外の部分で努力を重ねていくしかないようです。

「世の中で他にない製品、そして安全な製品をつくっていくというのが私たちの今の目標です。原料価格の高騰も厳しい問題ですが、風評被害がいちばんのネック。これさえなければもっとやれるという自信もありますが、今は組合員が一丸となって販売を促進していきたい。組合員の高齢化が進む一方で、若い人もいるので、みんなで力を合わせて頑張っていきたいと思います」

被災企業の分まで生産を続けてきた同組合。供給基地として果たす役割は今後ますます大きくなりそうです。

東北水産加工業協同組合

〒976-0037福島県相馬市中野寺前226-7
自社製品:味つけのり、のりピー、ごまっ子、のりふりかけ、ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。