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企業紹介第111回宮城県株式会社鐘崎

仙台・笹かまぼこの食文化を未来に。
「ありがとう」の言葉を聞いて決意した再出発

仙台にある笹かまぼこメーカーの老舗、株式会社鐘崎。第二次世界大戦末期の1945年に、創業者の吉田勇、キクヨ夫妻が、大規模な空襲を受け焼け野原となった仙台で、魚の開きなどを扱う露天商を開いたのが同社の始まりです。

2016年に代表取締役に就任した嘉藤明美さん
2016年に代表取締役に就任した嘉藤明美さん

1947年には、仙台市東八番丁に小さなかまぼこ店、合資会社「鐘崎屋」を開き(1969年に、商号を現在の株式会社鐘崎に改名)、品質が高く評価された鐘崎屋のかまぼこは、仙台の名産として徐々に全国でも評判を呼びはじめます。

順調に成長を続けてきた鐘崎でしたが、1973年、隣接する他社の工場から出火した火災により工場が大きな被害を受けます。しかし、社員が一丸となって復旧にあたったことで、わずか半月後には工場を再開させることができました。

その後、1989年には本社工場に隣接して「笹かま館」をオープン。工場見学や手作り体験をはじめ、立体映像水族館や影絵作家・藤城清治氏の作品を展示するミュージアムなども併設したアミューズメントパークとして人気を集めました。

今年で創業から72年を迎える同社は、「おいしさ 楽しく」という企業理念を掲げ、原材料、品質に徹底的にこだわった商品づくりで、「鐘崎品質」を守り続けています。

現在、代表取締役社長を務めるのは、2016年に就任した嘉藤明美さん。創業家とは全く関係がなく、15年前にパート従業員として勤め始めたのが鐘崎に入社するきっかけだったそうです。

入社後は、「地域の方にもっと笹かまぼこを食べてほしい、楽しんでほしい」という思いで、さまざまな挑戦を続け、2013年には、かまぼこに使うすり身を基本に、地元食材や旬の海の幸・山の幸を組み合わせた”和惣菜”を提供する「杜のこんだて鐘崎」を立ち上げます。

「外から入ってきた人間として、お客様目線でどうしたら鐘崎の笹かまぼこをお客様に伝えられるかを考えてきました」と嘉藤さん。

一枚のアンケートがきっかけ。
足すのではなく「抜く」ことで鐘崎品質を追求

一般的な笹かまぼこには、ふっくらとした食感を増すために、でんぷんや卵白が使われていることが多くありますが、鐘崎の製品はすべて無添加。同社が無添加にこだわってリニューアルに取り組むようになったのは、お客様から届いた“卵アレルギーがあって、息子は笹かまぼこが食べられません”という1枚のアンケートがきっかけでした。

「こんなにおいしいものが、卵白が入っていることで食べられないなんて。これはなんとかしなければ」

そう感じた先代の社長、吉田久剛さんの思いに従業員も応え、動き出します。

合成保存料はすでに無添加でしたが、目指すのはさらに、でんぷん、卵白、化学調味料を使わないかまぼこ。足すのではなく、ひくことで魚本来のおいしさを追求しようと原料の見直しをはじめ、試行錯誤を重ねました。2005年には、でんぷん無添加、2010年には卵白無添加を実現しました。

残るは化学調味料です。化学調味料を使わなくても、しっかりと味わい深いかまぼこにするには……。味と品質への追求を続ける同社でしたが、またも大きな試練にぶつかることとなります。

「原材料にとことんこだわって、魚本来のおいしさを追求している鐘崎のかまぼこは、ここでしか味わえないおいしさ」と自負する
「原材料にとことんこだわって、魚本来のおいしさを追求している
鐘崎のかまぼこは、ここでしか味わえないおいしさ」と自負する

地域の方の「ありがとう」の言葉を聞いて「笹かまぼこの文化を未来につなげよう」と考える

2011年3月11日、東日本大震災が発生。本社工場、笹かま館、沿岸部の店舗が被災します。嘉藤さんが「会社がなくなってしまうのでは」と思ったほど、その被害は甚大でした。実は、嘉藤さんは、震災が起こる2週間前に取締役営業本部長への就任を打診されていました。それまで商品企画や販売促進は担当していましたが営業は未経験だったため、「自分にできるわけない」と返事を保留していたところで起きた未曾有の大災害でした。

「もう役員を引き受けるかどうかなんて、悩んでいる場合ではなくて、どうやって会社を明日につなげるか。それだけを考えて、走り続けました」(嘉藤さん)

全従業員が一丸となって復旧作業にあたり、同年3月28日には製造を再開。
焼きあがった笹かまぼこは、近隣の避難所に届けられました。

本社工場のあるエリアには、仮設住宅が多く建てられていました。製造再開後は、その住人の方々が、力を貸してくれた全国の方々へのお礼や、親戚、知人へ送る“元気にしています”という便りに添える品として、鐘崎の笹かまぼこを買いに来てくれました。

「『笹かまぼこをまた作ってくれてありがとう』、『ありがとう』と、本当にたくさんの方に言っていただいたんです。お礼を言いたいのは私たちの方なのに。笹かまぼこはこの土地の方々に愛されてきた大切な文化、ここに住む方の思いを届けるためにあるんだと実感しました。自分たちのためや、会社のためではなくて、地域の方々のために笹かまぼこの文化を未来につなげよう、そのためにもう一度立ち上がらなければと思いました」(嘉藤さん)

同時に、先代から続く“無添加でもおいしい笹かまぼこ”という命題にも継続して取り組みました。
1994年に発売した看板商品である笹かまぼこ・「大漁旗」の化学調味料を抜くことに挑戦、化学調味料を加えるよりも、抜くことでさらに深みのあるおいしさを実現するため、試行錯誤を重ねた結果、ふたつの特別な調味料にたどり着きます。一つ目は高級魚・吉次をすり身にしたあとのアラを使った魚醤、そして2つ目は、石巻万石浦の海水で仕込んだ「伊達の旨塩」。どちらも地元の職人に依頼して開発した独自の調味料です。

こうして震災から約3年後の2014年3月、保存料、化学調味料、卵白、でんぷんすべて無添加となった現在の笹かまぼこ「大漁旗」が完成。さらに、2016年にはすべての笹かまぼこ製品を化学調味料無添加としました。

鐘崎の看板商品「大漁旗」。高級魚吉次のすり身、独自に開発した調味料など素材に徹底的にこだわった逸品
鐘崎の看板商品「大漁旗」。高級魚吉次のすり身、
独自に開発した調味料など素材に徹底的にこだわった逸品

生産能力アップのためにロボットを導入

震災後、原発事故の風評被害の影響で観光客が減少。さらに、近年は以前のように、お歳暮やお中元などの贈答品、お土産を大量に買って配るという需要も減り、笹かまぼこ自体の売り上げも低迷していました。この状態を打破するためどのような考えかに至ったか、工場長の本城さんはこう話します。

工場長の本城慶さん
工場長の本城慶さん

「ならば私たちは“原点”に戻ろう。地域の方に笹かまぼこのおいしさをもっと知ってもらって、日常的に食べてもらえるようにしようと思ったんです」

しかし、日常的に笹かまぼこを食す新たなニーズを掘り起こすための商品開発には人手が必要です。そこで、課題となっていた労働力不足を解消し、開発を行う人員を確保するため、2018年3月、工場の効率化改善プロジェクトチームを発足させます。工場のワークフローを洗い出し、どこを機械化すればもっともメリットが大きいか検討を重ね、納品先、納品数ごとにバケットに分ける工程の機械化が有効であるという結論に至りました。

そして平成30年度の販路回復取組支援事業を利用して、バケット詰めロボットライン一式を導入。これまで3人必要だったところ、オペレーター1人でこれまでと同等の作業ができるようになりました。

省人化することで生み出した人員を、包装にこだわり、付加価値の高い商品として売り上げを伸ばしている「福結び」の生産や、新たな商品開発に注力させることで、これまでできていなかった販売体制・生産体制の強化に繋げることができました。

バケット詰めロボットライン。その日の受注数、納品先を入力すれば、自動的にバゲットに分けられていく
バケット詰めロボットライン。その日の受注数、納品先を入力すれば、自動的にバゲットに分けられていく
日常的なお祝い事などの場でのニーズを掘り起こしている「福結び」
日常的なお祝い事などの場でのニーズを掘り起こしている「福結び」

「今後は、原材料ひとつひとつに込められたストーリーを感じてもらえる商品づくりを進めていきたいですね」と本城さん。

現在は、仙台藩・初代藩主の伊達政宗公が仙台城城内に設けていた味噌蔵「御塩噌蔵」の製法を受け継ぐ「ごえんそ味噌」を隠し味に加えた揚げかまぼこ、「伊達揚げ」を新たな仙台土産として売り出し中だそうです。

政宗公ゆかりの味噌を隠し味に加えた揚げかまぼこ「伊達揚げ」
政宗公ゆかりの味噌を隠し味に加えた揚げかまぼこ「伊達揚げ」

リニューアルした「鐘崎 笹かま館」笹かまぼこ文化発信の拠点として

2019年7月、震災で大きな被害を受けた「鐘崎 笹かま館」が幾度かのリニューアルを経て、再オープンしました。笹かまぼこがつくられる光景をガラス越しに眺めながら、手作りで焼いた出来立ての笹かまぼこと宮城の地酒を楽しめるお店「鐘崎屋」の店構えは、昭和22年創業当時の店構えを再現したものです。そして館内には、前述した「杜のこんだて鐘崎」の惣菜と、 魚へのこだわりと料理人のセンスが光るヘルシーなカフェごはんが楽しめる「杜のこんだてCafé」があります。昼どき、光がたっぷり入るCaféは、地元の女性客でにぎわっていました。

創業当時の店構えを再現したお店で、焼き立ての手造り笹かまぼこと宮城県の地酒が味わえる
創業当時の店構えを再現したお店で、焼き立ての手造り笹かまぼこと宮城県の地酒が味わえる
「杜のこんだてCafé」は、地元の人はじめ、たくさんの人に、仙台の食文化を楽しんでもらうきっかけを、という思いでつくられた場だそう
「杜のこんだてCafé」は、地元の人はじめ、たくさんの人に、仙台の食文化を楽しんでもらうきっかけを、という思いでつくられた場だそう

70余年前、焼け跡から立ち上がり歩き出した鐘崎。火事という災難、震災からの再出発。その歩みを支えたのはいつも、ここでしか味わえない「鐘崎」の味への誇りと、地域の食文化を守るという高い志でした。「鐘崎 笹かま館」にたくさんの人が集う光景を目にしたことで、笹かまぼこが、普段の食卓にさまざまに形を変えて並ぶ未来を想像することができました。

株式会社鐘崎

〒984-0001 宮城県仙台市若林区鶴代町6-65
自社製品:かまぼこ、牛タン、魚すり身をつかった和惣菜

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。