午前の光を浴びて銀色に輝くサンマが次々に工場に運ばれ、滞りなく選別ラインに流されていきます。ここは全国屈指のサンマの水揚げ量を誇る岩手県大船渡市内。鮮魚出荷や水産加工を営む東和水産の大船渡工場も、サンマの季節が一年で最も忙しい時期といいます。
選別ラインでは、市場で買ってきたサンマを大きさごとに振り分けていきます。同じ大きさに揃えて箱詰めすることで、販売時の付加価値が高まるからです。ただし、この作業に時間はかけられません。鮮度を保つためには、1分1秒でも早く選別しなければなりません。それも「正確に」です。東和水産ではこれまでローラー選別機という機械によって選別を行っていましたが、効率性と正確性を高めるため、販路回復取組支援事業の助成金を活用してコンピューター制御による自動選別機(さんま・さば兼用機)等を導入しました。ローラー選別機と自動選別機を各種コンベア連結することにより、以前よりも効率と正確さが飛躍的に向上したといいます。
「特にさばに関しては300グラムから400グラムの箱の中に違う大きさのものが混ざっていたら、売る時に鮮魚の単価が下ってしまいます。ローラー選別機だけだと大ざっぱにしか分けられませんが、今回導入した自動選別機はグラム単位で重さを量ることができるので、選別の処理が正確になりました。選別処理のスピードも早いので、出荷時の鮮度や冷凍加工の品質も上がっています」(取締役営業所長・田村正寛さん)
これまで10人ほどで選別作業をしていましたが、自動選別機の導入により5人ほどでできるようになったそうです。また、余った人員を箱詰め作業などに異動させることで、工場全体の生産性が向上しました。
1956年(昭和31年)に、東京・築地で営業を開始した東和水産。大船渡に営業所ができたのは1973年のことです。鮮魚出荷を中心に事業を営んできた同社ですが、最近はその割合も下がってきているようです。
「以前は全体の7割ほどが鮮魚出荷でしたが、最近はその割合が3割ほどにまで下がりました。ただ、入ってくる魚の大きさにもよるので、5割ほどになることもあります。大きい魚はだいたい鮮魚で出荷しています。それ以外は凍結、冷凍保存して、一年中いつでも出荷できるような体制を敷いています」(田村さん)
同社が扱う魚は主に、サンマ、サバ、イワシ。2017年はそれぞれ概算で900トン、1,500トン、1,200トンほどを扱ったそうです。2018年はサバが伸び悩んだものの、サンマは好調。ただし、魚の小型化により、その扱いにも変化があるようです。
「100グラムから200グラムの小さいサバは餌用に加工しています。イワシも小さいものは輸出用にしています。東南アジアで缶詰用として需要があるようです」(田村さん)
同社の強みは、どんな大きさの魚も扱えるということ。大きい魚は鮮魚として。小さい魚は餌用として、あるいは輸出用として。また工場隣に鮮度維持可能な急速冷凍庫と6,500tの保管用冷凍庫があるので、加工向のものは一旦冷凍保管し、必要な時期にフィーレ等の加工を行い出荷する。そのように柔軟に対応することで、工場の稼働率を高めています。
常務取締役・工場長の後藤勘二郎さんは、東和水産入社前の1960年に、チリ地震の津波を大船渡で体験していました。
「東日本大震災の津波は、チリ地震の津波とはまるで違いました。私自身、軽く見ていたところもある。こんなに大きな津波が来るとは思いませんでした」(後藤さん)
それでもこれまで感じたことのないほど大きな揺れだったこともあり、東和水産の従業員は揃って山に避難。津波からは逃れたものの、工場と冷蔵庫が全壊し、原料もすべて廃棄処分となりました。
「建物の壁は津波で全部抜けてしまいました。冷蔵庫も3カ所ともすべてだめ。大船渡工場冷蔵庫では、流れてきたものから火が燃え移って、火災も起きました。津波が引いた後、私たちは冷凍原料の廃棄作業や機械を直す作業に追われました」(後藤さん)
それでも東和水産は、震災の年の9月12日に、工場の再開に漕ぎ着けます。なんとしてもその時期までに復旧させなければならない理由がありました。
「サンマの水揚げ時期に合わせるためです。うちはサンマで食べているので、この時期を逃すわけにはいきません。当時はまだ隣の宮城県の港が機能していなかったため、北海道などから来たサンマ船が、岩手の港に続々と入ってきました」(後藤さん)
東和水産は看板魚種のサンマから再出発し、今に至っています。
東和水産の主軸は今後も鮮魚出荷。前浜の魚を、良い鮮度で出していくことに注力していきたいといいます。
「今は手作業で魚の梱包を整えていますが、それを助ける機械があるとより効率を上げられるのではないかと思っています。自動選別機のように、いい鮮度で出せる新しい技術があれば取り入れたいですね」(後藤さん)
加工はあくまで水揚げがない日の作業になりますが、そちらも稼働日数としては1年の半分ほどになる大事な事業であることに変わりありません。現在東和水産では、イナダやサバのフィーレ加工やイワシの開き加工、釣り餌用にイサダなどの加工も手がけています。ただ、加工部門にも大きな課題があるといいます。
「当社は輸出も行っていますが、震災の前後で海外の環境も大きく変わりました。衛生基準が厳しくなったことと、海外の工場の量産体制により、当社の国際競争力が相対的に弱まってしまった。再び輸出部門を伸ばしていくには、品質を高めて生産量を確保することが大切で、そのためには新しい技術を取り入れることも必要です。自動選別機はその一つ。あとは人を増やしていければ、鮮魚をしながら加工品もどんどん進められると思います」(後藤さん)
機械の恩恵を受けながらも、頼みの綱は「人」。さらなる新技術の導入と人員確保が、同社の復興のキーワードとなりそうです。
大船渡工場
東和水産株式会社
〒104-0044 東京都中央区明石町1-1東和明石ビル(本社)〒022-0002 岩手県大船渡市大船渡町砂子前116-1(大船渡工場) 自社製品: 鮮魚(サンマ、イワシ、サバ)、加工原料、養殖餌料ほか
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。