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企業紹介第65回宮城県富士國物産株式会社

浜との絆を強みに、
三陸産「金華わかめ」の魅力を伝えたい

富士國物産の創立者は現社長の実父である遠藤國太郎氏。もともと海苔を扱う個人商店に生まれた國太郎氏は、昭和35年頃から自身で事業を始め、海苔、わかめ、昆布など海藻全般の卸売をするようになりました。そして昭和42年に設立されたのが富士國物産です。

「実家が山國商店という名前だったんです。実家を越えるには富士だ、ということで富士國という名前をつけたと聞いています」(富士國物産株式会社 取締役 遠藤春美さん)

平成15年からは二代目となる遠藤祐二郎氏が社長となり、現社長の奥様である遠藤春美さんが取締役、春美さんの弟である鈴木徹さんが営業部長を務めています。

取締役の遠藤春美さん
営業部長の鈴木徹さん

お話を伺った取締役の遠藤春美さんと、営業部長の鈴木徹さん

商売の基幹となっているのは塩蔵わかめの卸売。創業時からずっと三陸産の原料にこだわり続けてきました。三陸産のわかめは、身の厚みや歯ごたえ、香りなどが、他の産地のものとは全く違うのだそうです。その中でも特にランクが高いわかめを中心に、原料の買い付けをしています。

「宮城では最もおいしいとされ、ブランドとなっているのが十三浜のわかめです。十三浜は、北上川が太平洋に出逢う追波湾の入口に位置し、淡水と海水が適度に交じる場所です。海の栄養と北上川が運んでくる山の栄養が混じっているので、非常に美味しいし、栄養価も高いんです」(遠藤春美さん)

三陸産のわかめ。色も黒々としていて身も厚い
三陸産のわかめ。色も黒々としていて身も厚い

三陸産のわかめ。色も黒々としていて身も厚い

また市場での入札以外に、浜から直接買い付けをしているのも富士國物産の大きな特徴です。通常、市場で流通されるのは芯取りやゴミの除去などの作業をすべて行った「規格品」と呼ばれるもの。手間がかかっている分売値も高くはなりますが、生産するのに人手や手間がかかるため作業が追い付かず、せっかく採れたのに出荷できないわかめが出てしまうのだそう。そこで、富士國物産では、芯取りやゴミの除去などを行う前の半製品を浜で生産者から直接購入し、自社で加工して製品化しているのです。

「生産者から直接買えるのは、誰もができることではありません。先代からのつながりがあって、長年のつきあいがあるからこそ、売ってくれます。つながりのある生産者は20人くらいかな?マメに顔を出して、日頃から仲良くしています。だからわかめの生育状況も他社より早く聞けるし、値決めもシーズン初めにウチと生産者で相談して決めています。生産者の方々は完全な製品にならないものをウチが引き取るので助かると言われるし、ウチとしても安く買えるのでありがたいんです」(鈴木徹さん)

お互いが助けあいながら作り上げてきたこの関係は、生産人口が減った震災後は、双方にとってより「ありがたみ」を増しているそうです。このように仕入れた三陸産のわかめを富士國物産では「金華わかめ」と名付け、積極的に売り込んでおり、市場での反応も上々だそうです。

「浜と近い」ため、震災の被害は甚大

商売にとっては大きな強みである「浜との近さ」ですが、震災の時には、それが災いしました。従業員は無事に帰宅させることができたものの、遠藤さん達経営陣が逃げようとした時には、すでに津波が襲い、とても逃げられる状況ではなかったのだそうです。 とりあえず工場の2階に上がったものの、床から水が噴き出て途方に暮れていた時、工場が波で押し流され、その勢いで隣接していた学習塾に追突。そこから屋根伝いに学習塾の2階に飛び移り、何とか一命をとりとめました。

「たまたま塾の2階の窓が開いて、中に入れたんです。不幸中の幸いで、ストーブも流されずに残っていたので、そこで一夜を明かすことができました。学習塾の建物が丈夫だったので何とか助かりました」(遠藤春美さん)

とは言え、本社は壊滅。7台あった冷蔵庫、冷蔵庫の中の資材、機械類は全て流され、使用不可能という状態に陥りました。本社から少し離れた場所にあった倉庫の建物だけは流されずに残ったので、そこを改装し、とろろ昆布、ひじきなどの袋詰めの生産を再開したのが2011年の8月。しかし、主力製品であるわかめの採取シーズンは震災のあった3月。当然、原料のわかめはありません。

「従業員は一時的に解雇をして、とろろ昆布、ふのり、ひじきなどを買い付けて袋詰めをして販売するところから始めました。場所も狭くなったし、従業員を募集しても最初は全く来なかったし、規模は縮小せざるを得ませんでした」(遠藤春美さん)

2011年に冷蔵庫は2つ購入しましたが、7台が稼働していた震災前のように原料を大量に保管することは出来ません。そのため、塩蔵製品は買ったものをなるべく早く出荷する形に切り換えざるを得ませんでした。
また創業時から取り扱っていた海苔は、冷蔵庫や機械の復旧にかかる人手や資金を考え、震災以降は取扱いを中止。市場への買参権も返却したのだそうです。それに加えて風評被害の影響も大きく、関西以西での売り上げも、まだ戻っていないと言います。

「わかめは放射能の影響は少なく、セシウムは一回も基準値を超えたことはありません。検査結果のデータも毎回出しているけれど、海で育っているイメージが強いせいか、ダメと思う人にはやはりダメなんですよね」(鈴木徹さん)

海苔の取り扱いの中止、風評被害などが重なった結果、現在の売り上げは、震災前の70%ほどまで落ち込んでいます。

カットわかめで「起死回生」を狙う

100度以上の温度で2時間ほど乾燥させるやり方をとる企業が多い中、富士國物産では65~70度くらいの低温で合計6時間かけて乾燥させる。それによって熟成した、独特の風味が出る
100度以上の温度で2時間ほど乾燥させるやり方をとる企業が多い中、富士國物産では65~70度くらいの低温で合計6時間かけて乾燥させる。それによって熟成した、独特の風味が出る

塩蔵わかめ、海苔などの取り扱い量が減った分、現在の富士國物産が積極的に取り組んでいるのがカットわかめです。もともとカットわかめを製造できる業者は少なく、特に三陸産のカットわかめを製造している業者の数はわずかであるため、市場からの期待も大きい商品です。

「ウチのカットわかめは三陸産の原料を使っているので、身の厚さや歯ざわりが全然違います。水で戻した時に磯の香りがするのも三陸産ならでは。特にウチでは低温でじっくり時間をかけて熟成するので、舌触りがすごくなめらか。わかめ特有のとろっとした食感が、より強く味わえるんです」(鈴木徹さん)

カットわかめは工程数が多く、かなりの人手がかかるため、震災前はさほど積極的には取り扱っていませんでした。商材としても10kgなど大容量を卸売するのが中心。それを震災後は、小容量の小分けタイプを精力的に生産するようになりました。

「今の時代はわかめを食べる人も減ったので、水で戻して、切ってという手間がかかる塩蔵わかめより、袋から取り出して味噌汁にすぐに入れられるカットわかめの方が使ってくれる人が増えると期待しています。以前は30gが最少でしたが、消費者のニーズにあわせて、今は13gの製品も製造を始めました」(遠藤春美さん)

13g入りパック
30gのスタンドパック

13g入りパック(左)と30gのスタンドパック(右)。このほかに100g入りパックを販売。

ただし卸売から小売り業に近い形に移行するに当たり、様々な苦労もありました。小売りに近くなればなるほど、衛生管理の基準が厳しくなります。仕事のやり方を大きく変更し、それを従業員に徹底させることが必要になったのです。

「小容量で卸すようになったら、最終的な販売先であるスーパーさんや生協さんに報告するため、視察の方がたくさん来るようになりました。最初のうちは、改善指摘を受けることも多かったですし、従業員さんに慣れてもらうのも大変でした」(鈴木徹さん)

また塩蔵わかめに比べ工程数の多いカットわかめは、製造にも人手や時間がかかります。その分人件費もかさむため、大量に生産しなくては利益に結びつかない商品です。そこで、富士國物産では、補助事業を利用して機械化と、衛生管理を徹底することにしました。

補助事業による機械化で省人化・衛生基準の強化を達成

今回の補助事業で導入したのは、芯取り器、裁断機、金属探知機、ドロップアウト選別機などの作業ライン。これらの機器の導入で、手作業で行っていた時には8名必要だった人員を5名まで減らすことができました。作業効率の面だけでなく、震災後の労働力不足を補う上でも、省人化は大きな目標でした。特にわかめの加工は選別作業を目視で行わざるを得ないため、ただでさえ人手が必要。その他の工程にかかる労働力は少なければ少ないほど良いのです。

芯取り器は、熟練の職人の3倍ほどの作業スピードで、「従業員が慣れれば慣れるほど、スピードがアップする」優れもの。ナイフを使わずに芯を引きぬくため、ケガをしにくいことも導入の決め手になった
芯取り器は、熟練の職人の3倍ほどの作業スピードで、「従業員が慣れれば慣れるほど、スピードがアップする」優れもの。ナイフを使わずに芯を引きぬくため、ケガをしにくいことも導入の決め手になった
目視での選別作業。機械化による省人化で、必要な部分に確実に人員を配置できるようになった
目視での選別作業。機械化による省人化で、必要な部分に確実に人員を配置できるようになった

また外部コンサルティングを導入し、HACCPの取得をめざすことを決意。HACCPに準じた衛生管理基準も作成しました。

補助事業を使って、FOODEXなどの商談会にも積極的に参加。「浜から直送」しているため、高品質でありながらリーズナブルな商品と、管理を徹底した新工場のおかげで、今まで取引を見送られてきた大手商社、大手食品会社などとの取引が次々と決まっているそうです。

「大手との取引が始まって従業員も慣れるまでは大変だと思うけれど、成長期にあたるオリンピックの年までに、何とか会社を上向きにさせようと思っています」と力強く語ってくれた鈴木さん。その目標は、きっと叶っていくに違いありません。

名前の由来である富士山の額

名前の由来である富士山の額

富士國物産株式会社

〒986-2135 宮城県石巻市渡波字黄金浜34
自社製品:湯通し塩蔵わかめ、カットわかめ、湯通し塩蔵昆布、ばらのり、青のり ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。