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企業紹介第66回青森県株式会社味の加久の屋

原料高に負けない!郷土食材の“総力戦”

サケの頭部の軟骨を「氷頭(ひず)」といいます。北海道や三陸地方ほか、サケの取れる地域で古くから食されてきた食材ですが、希少部位で流通量が少ないこともあり知名度は決して高くありません。ただ、薄くスライスした氷頭の酢漬けは、正月のおせち料理などとして食卓に並ぶことも多く、名前を知らずとも食べたことのある人は多いかもしれません。

青森県八戸市の「味の加久の屋」は、定番商品の一つとして氷頭製品を扱っています。一般的に氷頭は生臭くなりがちだといわれますが、総務部課長の石橋勝さんによると、同社はその難点を克服するためにある工夫を施しているといいます。

味の加久の屋 総務部課長の石橋勝さん
味の加久の屋 総務部課長の石橋勝さん

「当社の氷頭はカットや味付けに工夫をしており、生臭さを極力減らすようにしています。甘酢で味付けしたレギュラー商品のほか、黒酢仕立て、吟醸漬け、大根と人参を使用した紅白なますなど、バリエーションも豊富に取り揃えています。原料はすべて、三陸地方と北海道の国産サケです」(石橋勝さん、以下同)

味の加久の屋では、氷頭製品のほかにも、青森県の郷土料理「いちご煮」(ウニとアワビのお吸い物)の缶詰、ズワイガニのむき身、焼きホタテ、サバやサンマの煮物、漬物などを作っています。同社における氷頭製品の売り上げは全体の5%ほどと決して大きな割合ではありませんが、近年の美容・健康ブームを背景に氷頭製品への注目が高まっているようです。

包装パックにもプロテオグリカン(PG)の含有量を記載
包装パックにもプロテオグリカン(PG)の含有量を記載

「氷頭には美容効果が期待されるプロテオグリカンという成分が含まれています。最近はそのことも少しずつアピールしています」

プロテオグリカンとは糖タンパク質の一種で、コラーゲンなどと並び美容効果が期待される成分。サケの頭部は活用方法が限られるため、加工の過程で捨てられてしまうことも珍しくありませんが、食材として新たな可能性が示されれば、水産資源の有効活用にもつながりそうです。

人手不足から注文を受けられない事態に

八戸市の太平洋岸では、東日本大震災の津波被害に見舞われる水産加工会社が少なくありませんでしたが、味の加久の屋の本社工場は高い場所にあるため直接的な被害は免れました。海の近くにある親会社の八戸缶詰の工場1階が水没し、味の加久の屋がそこに置いていた機材が被災したものの、自社の工場は2、3日で復旧したといいます。

「復旧は早かったのですが、チルド製品を扱っている事情から、震災直後は道路事情の影響を受けて出荷したくてもできない日がありました。通常は毎日出荷していますが、1カ月弱の間は2日か3日おきに出荷できる程度で、売り上げがその分減ってしまいました」

本格的な苦境が訪れたのはその後です。震災後は慢性的な人手不足に陥り、従来の製造ラインでは注文に応じられないケースが出始めたのです。

「とりわけ包装ラインでの作業効率が悪かったため、すべての注文を受けることが困難となりました」

人員を増やしたくても、震災後は求人を出しても人が集まらない。仮に人員を増やせたとしても、コスト高となり価格競争力の面で劣ってしまうことは明らかでした。

包装ラインの作業効率を向上させた大型機材

そこで同社は、支援事業を活用し、課題を克服するための新機材を導入しました。

「従来は氷頭を包装する際、はかりを使って1パックごとに分量を計量し、人の手で袋に詰めていました。ところがコンピュータスケール、カップ投入機、自動包装機を導入してからは効率が上がり、6人で行っていた作業が2人で行えるようになりました。この機械は氷頭だけでなく、焼きホタテやホヤの計量、袋詰めにも使えてとても助かっています」

調理済みの食材を1パックの分量に分けてくれるコンピュータスケール
調理済みの食材を1パックの分量に分けてくれるコンピュータスケール
コンピュータスケールで計量された後、自動包装機で袋詰めにされる
コンピュータスケールで計量された後、自動包装機で袋詰めにされる

例年、繁忙期には他社にアウトソーシングすることも多かったそうですが、この機械の導入後は外注経費が4分の1程度になったといいます。また効率が上がったことで、コスト高により受注できなかった既存商品を売り込めるチャンスが再来しました。

地元のものを使っていく

八戸缶詰の販売部門として、1981年に設立された味の加久の屋。震災後のボトルネックとなっていた包装ラインの効率化は実現したものの、人手不足と原料高という懸念が解消されたわけではありません。今後はどのような対応をしていくのでしょうか。

「当社が作っているのは主に水産加工品ですが、総菜メーカーとして、農産品や食肉なども含めて総合的な観点でやっていきたいと考えています。すでに菊花巻、菊花漬、大根のべったら漬、といった農産品を使った商品も扱っており、専用の漬物工場も保有しています」

さば菊花巻 新鮮な鯖を厳選し、食用菊で巻き上げたもの
さば菊花巻 新鮮な鯖を厳選し、食用菊で巻き上げたもの
かに菊花漬 食用菊とズワイガニの脚肉の甘酢和え
かに菊花漬 食用菊とズワイガニの脚肉の甘酢和え

食材の仕入れルートはそれぞれ異なりますが、共通していることがあります。それは、可能な限り地元から調達しているということ。たとえば菊や大根などの農産品は主に青森県南部地方のものを、魚はもちろん、三陸産が中心です。

「ズワイガニなど、一部輸入品のものもあります。また季節によっては他の地方から取り寄せるものもあります。それでも基本は地元の食材を使うということ。原料高は続きますが、いろいろな食材を織り交ぜながら郷土料理を広めていきたいと思います」

株式会社味の加久の屋

〒031-0841 青森県八戸市鮫町字福沢久保3
自社製品:ズワイガニ、焼きホタテ、氷頭、菊花漬、各種惣菜、漬物 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。