販路回復 ・ 助成事業 ・ アドバイザーについて、
まずはお気軽にご相談ください
ご相談のお申し込みはこちら
企業紹介第45回宮城県福寿水産株式会社

肉・骨・皮・ヒレ。すべてを加工する「鮫の匠」

「働く父の背中」に、幼心にも頼もしさを感じていたようです。

「工場の隣に自宅があって、仕事の細かい内容までは分からなかったけれど、家族のために汗を流して頑張ってくれているな、と思いながら見ていました」(臼井祐介さん、以下同)

フカヒレやサメ肉の加工品を製造、販売する宮城県気仙沼市の福寿水産の専務、臼井祐介さんは、父親である社長の弘さんの働く姿を近くで見ながら育ちました。

三人兄妹で子供の頃から家業を意識していた
三人兄妹で子供の頃から家業を意識していた

現在は祖父・攝男さんが1948年(昭和23年)に創業したこの会社で働いていますが、以前は別の食品会社に勤務していました。将来的に福寿水産を継ぐ“修行”のためです。

大学で経済学を学んだ後、東京の会社に就職した臼井さんは、トラックのハンドルを握っていました。荷台には自分で積んだ製品。客先にそれを配達しながら営業もするルートセールスの仕事は、まだ右も左も分からない臼井さんにとって覚えることの連続でした。

「ルートセールスでは、毎日調理場に足を運び、お客さまと顔を合わせていました。私はまだ社会に出たばかりで世間知らずでしたが、そういう場で社会の常識を教えてもらえたと思います。皆さんからとても優しくしていただいて、食材を扱う料理人の方からまかないをごちそうになることもありました。失礼もあったと思いますが、その時の経験がとても貴重だったなと感じています」

東京の会社で社会人としての基礎を学んだ臼井さんは、28歳の時に気仙沼に戻り、福寿水産で働き始めました。

震災後、仮事務所で営業を続けた理由

臼井さんが東日本大震災で被災したのは、地元に戻ってきた2年後のことでした。気仙沼湾の湾奥部に工場を構える福寿水産の付近では、津波の遡上高が9メートルを超えました。

「まず津波が来ることが頭に浮かんだので、会社の裏にある高台へ社員みんなで避難しました。ただ、工場は全壊し、私たち自身も家を失い避難生活を余儀なくされました」

津波から2日後に撮影された写真のパネルと臼井さん
津波から2日後に撮影された写真のパネルと臼井さん

そんな状況でも3月のうちには会社を再建する方針を決め、会社の近くに仮事務所を構えました。そして3月20日前後には、金融機関の協力も取り付け、仕入先に対しては、継続して取り扱わせてほしい旨を伝えていたそうです。

「仕入先とのつながりが一旦切れてしまうとその業者は別の販売先を見つけるため、仕入れるルートが途絶えてしまいます。途切れたルートを取り戻すのは容易ではありません。大変な時間と労力を要するので、あえて工場に近い場所に事務所を構えて24時間再建のことだけを意識し続けました」

とはいえ、全壊した工場で加工作業を行うことはできません。まだ状況の落ち着いていない4月の初めに、ぼこぼこの東北道を高速バスで上京して営業に回ることもあったそうです。

改築が遅れに遅れ、新しい工場の完成は2012年6月。震災から1年3カ月が経っていましたが、震災後にいったん会社を離れた従業員の多くが、福寿水産に戻ってきてくれました。手作業で行われるフカヒレの加工において、熟練の職人はなくてはならない存在なのです。

ヒレ表面の皮を丁寧に削ぎ落としていく
ヒレ表面の皮を丁寧に削ぎ落としていく

サメ肉利用をアピールするため新製品開発に着手

震災後、フカヒレ加工製品の売り上げが下がっていた福寿水産では、新製品の開発が急務となりました。同社は「ふかひれ煮」、「ふかひれ濃縮スープ」のほか、サメの軟骨を粉にした「コンドロイチンSP60」といった新製品を発売しましたが、肉製品の開発もすべく、水産加工業販路回復取組支援事業の助成金で冷風乾燥機とスチームコンベクションを導入しました。これらを使い、これまで同社では行っていなかったサメ肉の加工を始めました。

サメ肉を加熱調理するスチームコンベクション
サメ肉を加熱調理するスチームコンベクション
干物(サメ肉ジャーキー)の製造に使われる冷風乾燥機
干物(サメ肉ジャーキー)の製造に使われる冷風乾燥機

サメ肉の加工を始めた理由を、臼井さんは次のように述べます。

「サメはふかひれ以外の部位の利用度が低いのではと言われていますが、実際には昔からはんぺんなどの原料に使われていて、肉、骨、皮、ヒレ、全部無駄なく食べられています。サメ肉は高たんぱく、低カロリーでヘルシーな食材として価値があることをアピールするためにも、肉製品を積極的に扱うことにしました」

新機材により、「ふかにくハンバーグ」「シャークボール」「サメ肉ジャーキー」が開発されました。学校給食や社食などへの導入を目指しているそうです。

ふかにくハンバーグ
ふかにくハンバーグ
シャークボール
シャークボール
サメ肉ジャーキー
サメ肉ジャーキー

こうした新製品の開発による相乗効果なのか、フカヒレの売り上げが1.5倍に伸びたといいます。「水産物資源を有効利用しているということがお客さんの安心にもつながっているのではないか」と臼井さんは分析しています。

独自の加工技術で海外も視野に

今後は海外展開を広げていきたいという臼井さん。現在はアジアを中心に売り込んでおり、フカヒレとヘルシーなサメ肉をセットにしてアピールしています。

「サメ肉はまだ認知度が低く、簡単には売れません。ただ、当社はサメ肉の脱臭に関する独自の加工技術を持っているので、その強みを活かして輸出を伸ばしていきたいですね。日本同様、世界中で魚を食べる文化がありますが、サメもすでに多くの国で食べられています。チャンスはあると思います」

独自の加工技術で海外も視野に入れる臼井さんには、サメを世界中の人たちに食べてもらうという大きな目標があります。最近は、会社の将来を背負って立つ自覚も芽生えてきましたが、社長の弘さんには、まだまだ厳しく指摘されることの連続だとか。

「父に経営者としてどうあるべきかということをよく言われます。従業員の皆さん、食べてもらうお客さま、仕入先、販売先あっての福寿水産。震災後、借金だけ残った状態から皆さんに助けていただいた恩はずっと忘れないようにしたいです」

いつか父親のように背中で語れるようになる日まで、修行はまだまだ続きます。

福寿水産株式会社

福寿水産株式会社

〒988-0013 宮城県気仙沼市魚町3-2-10
自社製品:ふかひれ煮、ふかひれ濃縮スープ、ふかひれ業務用製品、サメ肉加工品、コンドロイチンSP60、ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。