「品質にとことんこだわった当社の製品は、揚げたてが一番おいしいのでぜひ食べてみてください。」
と同社の定番商品のひとつ「昔のままの野菜天」を差し出してくださったのは、マルブン食品営業部の澁谷政友さん。
身がぷりぷりしていて、外はカラッと。ふわっと魚の香りとうまみに、シャキッとした野菜の甘みが加わって、ワンランク上のおいしさでした。
「私も入社したての頃、研修で検食をして今まで食べていたさつま揚げはなんだったんだ、と思うほどそのおいしさにびっくりしました(笑)」(澁谷さん)
化学調味料や合成保存料を使わずに、アジ、タラ、グチなど複数の魚種のすり身を混ぜ合わせ魚本来の味を大切にした「昔のままの野菜天」は、同製法の「昔のままのさつま揚げ」とともに同社永年の看板商品です。
同社は、宮城県塩釜で昭和25年に水産加工会社「佐藤文平(ぶんぺい)商店」として設立。2代目の佐藤徳雄(とくお)さん(現会長)になり、昭和44年に法人化、地元塩釜の伝統産業でもある魚肉練り製品に特化した製品づくりを続けています。
同社の理念について営業統括部長の三浦昌勝(まさかつ)さんは次のように語ります。
「私たちが常に目指しているのは、『おいしいと思ってもらえるもの』を作ることなんです」
とてもシンプルに聞こえるこの言葉には、創業当時から一貫しているものづくりへの姿勢が表れています。
工場では、こんがりときれいに揚がったさつま揚げが次々と製造されていました。
おいしさの秘密は原料のほかに揚げ方にもあるそうで、一次フライヤーでは低温で中までじっくり、二次フライヤーでは高温で手早く二度揚げを行っていました。こうすることで、手間はかかりますが、魚の旨みをギュッととじこめて、外はかりっとした食感に出来るそうです。
「さつま揚げは単価が低い商品なので、一般的に手間をかけるのは難しいと思われていますが、当社では品質で勝負する、という方針で従来からの製法にこだわっています」(澁谷さん)
一次フライヤーで中までじっくり火を通し、二次フライヤーで旨みを閉じ込める手法を守り、365日手間ひまをかけて作られている
現会長の佐藤徳雄さん自ら今でも毎日工場に立ち、今日の出来栄えはどうか、検食を欠かさないそうです。
「いくら品質のよい原料にこだわっていても、食べた方が『おいしい』と感じなければだめなんですよね。定番のさつま揚げは、30年近く作りつづけていますが、時代とともに少しずつ、消費者の味の好みや食文化も変化してくる。それに合わせて、少しずつ作り方を変えてきています。お客様に、味が変わったなと思われてはだめなんです。気づかないぐらいに少しずつ、本当に少しずつです(笑)。変わったことには気づかない、でもいつ食べてもおいしい。そこが大切なんです」(三浦さん)
この日も、事務所で受けた注文が工場に直で転送され、製造されたばかりの製品が首都圏はじめ、中京、東北、北陸などの地域へすぐさま発送されていました。
「季節によって魚のすり身の質も変わります。当社では合成保存料を使っていないため、賞味期限が製造日から6日と短くなっています。作りたてをお客様に提供するため、365日毎日製造、毎日出荷しています」(澁谷さん)
これまで365日毎日製造、毎日出荷を守ってきたマルブン食品のものづくりですが、東日本大震災に見舞われた際には、操業をストップせざるを得ませんでした。
震災時同社の工場は、現在本社工場が建つ場所より、海よりに歩いて5分ぐらいの場所にありました。同社のある塩釜地区は沖に浮かぶ松島湾の島々が防波堤の役割を果たし、津波の大きな被害は受けなかったそうで、工場の建つエリアの浸水も膝下程度でした。しかしながら、埋立地であったことから地震の被害は大きく、工場内に1mの段差が生じ、大規模半壊、立ち入りも禁止に。
地震から1週間後、なんとか工場を稼働させたものの、余震が続き再びの断水。スーパーへの供給が途絶えてしまう事態となりました。
「スーパーは棚を空けたままにはできないので、他の地域の商品で埋めなければいけません。いったん供給が1ヶ月途絶えてしまうと、製造を再開しましたと言っても取引を再開できないところが多くありました」(三浦さん)
加えて、関西方面の取引先を中心に原発事故の風評被害の影響も大きく、震災後は、売り上げが40%減少しました。
さらに、魚肉練り製品の需要の減少も加わります。スーパーでの売り場面積は年々減少、復興事業のひとつとして宮城県が行った食生活に関するアンケートでは、とくに20代の若い世代には、おでん以外にさつま揚げの食べ方を知らない、食べたことがない人が多くいる、という結果が出たそうです。
「市場が縮小すると何が起きるかというと、低価格競争です。でも、それでは生産者、小売業者ともに疲弊していくだけ。私たちは、価格競争の土俵にはのらず、品質で勝負するという方針は変えませんでした。当社が築いてきたさつま揚げをはじめとした定番商品の味を守り続けるためにも、同時に新規の販路開拓、新商品の開発が必要でした」(三浦さん)
そこで取り組んだのが、普段さつま揚げを食べない人も日常の食事に取り入れやすいような新商品開発でした。和・洋・中を問わずに多彩な料理の素材として活用できるものとして開発されたのが、魚肉に国産野菜6種類と宮城県産豆乳・ミヤギシロメを使った「豆乳だんご」とマグロを贅沢に使った「鮪だんご」です。これらの販路として考えたのは、今までとは全く異なる業務用商材としての売り出しでした。
通常、冷蔵では無添加ゆえに賞味期限は6日しか持ちません。また一般的に魚肉練り製品は揚げる前の状態での冷凍には向かないとされていましたが、加工時に水分を保持できる品質のすり身を選ぶなど、調理方法、原料も研究を重ね、冷凍で長期間保存可能な商品の開発に成功しました。
当初は、この新商品を量販店に販売する形態と同様にトレーに並べラップを巻いて提案していましたが、商品自体は評価されながらも思うように商談が決まらなかったのです。
この状況を打破するため、同社は販路回復促進支援事業を利用して、新製品を業務用の形態にパッケージするための一連の機器を増設しました。
「中食・外食用として販売するためには、パッケージの形態が大きく影響します。試作品の営業の際、チルドのパックのまま持って行ってもこれじゃ使えない、と言われていたのですが、同じ商品を大容量で真空包装にするだけで、使ってみるよという反応に変わりましたね。中食・外食を想定した新規の販路開拓では、使い勝手を考えたパッケージも重要だと再認識しました」(澁谷さん)
「一連の機器を導入して、スムーズなラインを新設することで特定の人が関わればよくなり、生産計画も立てやすくなります。日配品で100%稼働していたこれまでは、季節によって繁忙期と閑散期がありました。冷凍保存できる製品のラインを設けたことで、閑散期に稼働率を上げることができたことも大きなメリットのひとつです」(三浦さん)
これらの商品の販売促進にも力を入れ、2017年は外食フードテーブル、ホテルレストランショーなどの展示会に参加しました。旧来の魚肉練り製品とは全く違うことが評価され反響も大きかったそうです。また、こういった販路開拓のための営業の際には、食べ方も合わせて提案をしています。
「トマトソースや野菜と一緒に甘酢餡をからめて食べると、言われるまで魚とは気づかない方も多いですよ。見た目も食感もミートボールのような感覚で使っていただけます」(三浦さん)
「若い世代にもっとさつま揚げをはじめ魚肉の練り製品を食べてもらいたいですね。そのまま食べても、さまざまな味にアレンジもしやすい。これまでは冬の鍋物、おでんという使い方が主でしたが、いつも冷蔵庫にある常備菜のような存在になれるように、PRしていかなくては、と思っています」(三浦さん)
東南アジアでも新製品をプレゼン、将来はアジア各国への輸出も念頭に置いているそうです。 市場が縮小したからといって、低価格競争に乗るのではなく、品質へのこだわりは一切妥協せず、既成概念を超えた商品作りに挑戦、新しい魚肉の可能性を広げようと奮闘するマルブン食品。
近い将来、同社が手がける魚肉の製品が日々の食卓やレストラン、子どものお弁当、さまざまな食事のシーンで定番になっているかもしれません。
マルブン食品株式会社
〒985-0001 宮城県塩釜市新浜町3-16-15 自社製品:魚肉練り製品(揚げ蒲鉾類)
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。