昭和27年に鮮魚店として創業した株式会社マルヌシ。その経営理念は、「勢不可使尽(勢い、使い尽くすべからず)」。中国の宋時代の禅の高僧、法演禅師の言葉です。
「勢いにのっている時は調子にのって突っ走る傾向がある。そんな絶好調の時こそ、細心の注意をし、行動を慎む、というような意味であると聞いています。先代の社長が、今の社長に贈った言葉だそうです」(取締役 営業本部長 永田 雅之さん)
当初は鮮魚店として出発したマルヌシですが、現社長の代になって凍結事業を開始。八戸港から車で数分という地の利も生かし、今では4台の冷凍貯蔵施設で4,500トンもの貯蔵規模を誇るまでになりました。また八戸港での水揚げ量が減少したこともあり、平成4年からは凍結だけでなく加工業にも進出。それからは3~5年ごとに設備を増強するなど経営理念通り、着実に現在の基盤を築いてきました。
現在の売り上げ比率は凍結事業が6割、加工事業が約4割。年々伸びている加工製品の中でも、しめさばは取り扱い量も多い人気商品です。もともと脂のノリが良い八戸港のさばですが、中でもマルヌシでは扱うさばの「目利き」に強いこだわりを持っています。そのため、他社とは一味違うと取引先にも好評なのです。
「浜が近いので鮮度には絶対の自信があります。買う時は、大きさはもちろん、持った感じの硬さ、目の濁り、お腹の内容物、脂のノリ具合による色などを見て、特に品質の良いものを選別しています」(営業部次長 前田 敬介さん)
さばで有名な八戸ですが、ここ数年は海水温度の関係か、八戸沖に漁場が形成されず水揚げが極端に減っているそうです。特にしめさばに使う大型のさばは水揚げが減り、ノルウェーのさばを使ったり、国内ルートでさばを仕入れたり、最近では八戸以外の原料を扱う機会も増えてきました。ただし、そこでも「目利き」へのこだわりを守るべく、「最低5ケースはサンプルをとって、自社の基準を満たす品質かどうかをきちんとチェックして買い付けをする」という方針を貫いています。
そのようにして培った高い品質への信頼があるからこそ、「マルヌシのしめさばが欲しい」取引先から、さばの水揚げなど有益な情報を得ることも多いそうです。過去には、毎年マルヌシのしめさばを購入しているエンドユーザーから「今年は、いつもと味が違う」と直接、ご意見をいただくこともあったと言います。「さばは少しでも脂ののりが悪いとお客さまにわかってしまう。毎年楽しみにしてくださるお客様のためにも、品質に関しては絶対に手は抜けない」と永田さん、前田さんは語ります。
しめさばが順調に推移し、しめさば用の包装工場を新設したのが平成20年。震災はその3年後に起こりました。
「津波の高さは2mくらいでした。翌日から出勤しましたが、どこもかしこも泥だらけだし、船はあちこちに転がっているし、最初はどうしようと途方に暮れました。でも社長に“絶対、1ヶ月で復旧する”と発破をかけられて。みんなで泥かきをして、震災の1週間後からは業務を再開、しめさばが発送できるまで、およそ1ヶ月でした」(永田さん)
工場の機械は泥が入って全滅。建物の被災が少なかったため補助金も少なく、早期復旧するため自分たちで修繕を行ったことから、経営的には厳しい状況でしたが、幸いなことに冷蔵庫にあった原料が無事だったため、業務再開の道筋はつけやすかったと言います。また震災直後は、三陸や茨城が稼働できない分、自分達が受け皿になろうと奮闘。物流業者も巻き込んで、復旧に向けて尽力したそうです。
震災時期の混乱を乗り越え、しめさばの取扱量も増加。そのため、マルヌシでは平成28年度の支援事業で、しめさば包装ラインの拡充を図りました。導入した機械はマルチスライサー、多段階重量選別機、横ピロー包装機、ロータリー真空包装機、金属探知機など。これらの導入により、これまで16名必要だった作業が12名で可能となり、効率化を図ることができました。
しめさば包装ラインは毎日フル稼働。今年は原料不足とアニサキスの影響で、やや伸び率は鈍化しましたが、昨年までは、前年対比で110%と順調に売り上げを伸ばしているそうです。また、支援事業によるもう1つの効果が、作業の省人化、効率化による製造コストの軽減です。
「今までは三方袋を使った手作業だったので、作業人員も作業時間も大幅に短縮しました。時間効率が良くなったことで、原価の圧縮にもつながります。特に昨年から浜値が騰がっているので、生産コストを下げることは本当に重要です」(永田さん)
もう1つ、今回の支援事業で導入したのが、主力の凍結事業で用いる脱パンライン一式。イカやさばを原料として冷凍し、国内向けに卸したり、海外に原料として輸出する際に利用します。この脱パン作業も機械を入れるまでは、かなりの重労働だったそうです。
「原料を並べるのも、かなりの重量の原料を移動させたり、パンから外したりするのも全て人手だったので、本当に重労働でした。パンが空かないと次が買えないので原料を大量に買うと、延々と作業が続いて、休日出勤になることもありました」(前田さん)
脱パンラインの導入で、10名ほど必要だった人員が7名に削減できたそうです。またこの導入で最も良かったのは、重い原料を人手で作業することがなくなり、従業員が安全に作業できるようになったことだと言います。
「重い原料を箱から外す作業は経験や力作業部分が必要なため、ちょっとした不注意でケガ等も発生する工程と言えます。機械化により十分な安全性が確保できて本当に良かったと思います」(前田さん)
支援事業の活用による効率化、高品質化により、順調に進み始めたのが海外への販路拡大。3年間の準備期間を経て、輸出強化のために今年の3月にHACCPを取得。そのおかげもあって、輸出はここ数か月での伸びが著しいそうです。
「真空漏れの減少や、最新の金属探知機による安全性の向上により、品質への信頼感も高まり、ここ数か月輸出は順調です。今まで応えられなかった大口注文に対応できる体制が出来たことも、商社の方が積極的にアプローチをしてくれる要因になっています」(前田さん)
原料不足が続く中、限られた原料で売り上げを上げて行くには、「加工度を高めることが必要」とお2人は声を揃えます。そのためにも、国内・海外を問わず、しめさばなどの加工品を今後とも広げていくことが肝要と考えています。
震災、原料不足などの困難を、一つ一つ乗り越えていくマルヌシ。今後も品質へのこだわりを武器に、着実に進化していくことでしょう。
株式会社マルヌシ
〒031-0821 青森県八戸市白銀二丁目5-1 自社製品 : 特大しめさば、あぶりしめさば、開きいか、いか塩辛たまり漬け、いか軟骨うま煮など
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。