有限会社フードサポート
細川 良範氏
専門分野
販路回復を旗印に各企業の生産が始まってから早5年が経過し、処々の問題はあるかもしれませんが、成功している企業と、未だ道が開けない企業との格差が広がっています。そしてこの間にも、消費者に望まれることは変化してきています。今回は、スーパーマーケットや小売り向けの加工の現状について説明いたします。
全国魚消費のうちSM(スーパーマーケット)での購入割合は85%にも及び、家庭で消費される魚のほとんどはSMで購入されていることが分かります。しかしながら、SM内の魚部門の売り上げ構成はわずか10%。少ないところでは8%に満たないところもあります。家計調査年報(2人以上の全世帯)のデータによる食糧費に占める水産物消費金額の割合を見てみても、2005年が10.3%なのに対し、2015年は8.6%に下がっており、魚の需要が減ってきていることが分かります。 とはいえ、魚全体の需要がそこまで落ちている訳ではありません。SMの惣菜部門の売り上げは、右肩上がり、外食分野では回転寿司を中心に随分消費されています。各分野で売れている商品には、一定の傾向があるように思われます。 まず、回転寿司の場合、当たり前ですが寿司ネタは骨も皮もない。惣菜部門の商品も骨無し・皮無しが主流で、さらに料理の手間・時間なし、後片付けもごみ処理だけというものが多いです。下ごしらえや調理など、料理を作る上で、かつてはやりがいの要素であったものが、今では敬遠されているのです。残念ですが、これはもう戻ることのできない世の中の変化だと思います。 しかしながら、小売の現場では、より消費に近づく商品化を目指しながらも、人員不足のため、加工へ十分に手をかけられずにいます。その負荷をどんどん川上に依存しなければ立ち行きません。
こういった状況を捉え、成功を収めている一部の先進的な加工メーカーは、アジのラウンド(1尾丸ごと)からドレス、フィレーに留まらず、今や三枚おろしから寿司ネタ用の骨取り、皮無しにまで加工を行っています。店舗に納品されれば、開封後シャリに載せるだけで包丁も使わず寿司が出来上がるのです。3.11以降、首都圏にはそういった商品の供給が増えつつあります。 一方、SMに現状従事している魚部門の関係者は「鮮度が落ちる」、「(高い加工度の商品を仕入れるため)利益の確保ができない」、「ロスが膨らむ」等々のことを心配してか、加工場で切り身等にされたものを店頭に並べるということが、まだまだ浸透していません。しかし、入荷した商品のチェックをし、生産現場を見る限り、店舗で加工するより高鮮度で衛生的な商品であることが分かります。もし、満足できない部分があればそれを改善する方法を両社で検討すれば良いのです。解凍後の変色の早さ、ドリップの発生等の改善の余地はありますが、これを克服すれば、やがて大きなマーケットが国内だけでなく海外にも広がることは間違いありません。
小売の現場では、消費者ニーズをいち早く見つけ出すためにビッグデータを処理する方法を編み出そうとする企業があります。一方では、対面販売によるコミュニケーションを通じて探し出そうという企業もあり、両者とも大きな投資をしています。今や、売るべき対象となる顧客ニーズを掴むために、産地メーカーも漁業生産者も同様な多大な努力が必要な時代なのです。
次回はSM店頭で売れている商品についてご説明いたします。
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。