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セミナーレポート 「東北復興水産加工品展示商談会2023当日セミナーレポート」

セミナーレポート①「福島第一原発事故後の水産物の検査について」

 令和5年9月26日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて「福島第一原発事故後の水産物の検査体制について」と題したセミナーが行われました。
 本セミナーでは、「ALPS処理水の海洋放出に係る水産物中のトリチウムのモニタリング」、および「福島県の水揚げや放射性セシウムの濃度についての検査結果」のふたつのテーマについてお話しいただきました。

ALPS処理水の処分に係る対策と今後の取組について
講師
経済産業省 資料エネルギー庁
電力・ガス事業部 原子力発電所事故収束対応室
室長補佐 岩渕 雄太

<ALPS処理水処分について>

 ALPSとは、Advanced Liquid Processing Systemの略で、トリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで十分浄化することができる性能を持った設備です。東京電力福島第一原子力発電所の建屋内にある放射性物質を含む水については、この設備を使ってトリチウム以外の放射性物質を、安全基準を満たすまで浄化しています。この処理後の水を「ALPS処理水」といいます。
 東京電力福島第一原子力発電所の廃炉作業を安全に進めるため、また「災害発生時の漏えいリスク」や「大量のタンクの存在自体が風評の原因となること」等を解決し、福島の復興を実現するためには、敷地内で貯蔵しているALPS処理水を適切に処分していく必要があります。
 そのため政府は令和3年4月にトリチウムを大量の海水で薄めて、濃度を国の規制基準の40分の1未満にした上で、「処理水」として海に流す方針を決定し、令和5年8月24日から海洋放出を開始しました。
 ALPS処理水の安全性については、国際原子力機関(IAEA)が専門的な立場から第三者としてレビューを行い令和5年7月4日に「包括報告書」を公表。放出は国際安全基準に合致し、人や環境への放射線の影響は無視できるほどと結論づけられました。
 また、政府は現時点でできる万全の安全保障、風評被害、なりわい継続支援策を講じ、ALPS処理水処分完了まで責任を持って取り組むことを約束しています。

<安全性の確保について>

 震災による津波により、福島第一原子力発電所の原子炉内の冷却機能が失われ、核燃料や構造物が溶けた後に、冷えて固まったものを「燃料デブリ」といいます。この燃料デブリはまだ発電所内にあり、地下水や雨水等に触れて汚染水が日々発生しています。
 この汚染水をALPS等の設備で処理することで、トリチウム以外の成分が基準以下になることが確認されました。トリチウムは規制基準未満までには浄化できないため、海水で100倍以上に希釈して海洋放出しています。
 トリチウム濃度について国の規制基準は6万ベクレル(以下Bq)/L以下ですが、放出時には1,500Bq/L未満と1/40を下回るまで希釈します。放出後は、モニタリングで海水や水産物を測定し濃度を確認。測定は東京電力及び第三者機関の日本原子力研究開発機構(JAEA)等で確認しています。

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<放出後の影響に対する分析>

  • 放出前とその後のALPS処理水の分析結果

     最初に放出するタンク群のALPS処理水の放出前の分析結果(東京電力及び株式会社化研が分析、令和5年6月22日公表)は、トリチウム以外の告示濃度比総和が規制基準の1に対して0.28となり、JAEAでの分析でも同様の結果となりました。トリチウム濃度については14万Bq/Lであると確認されたため、海水で100倍以上に希釈し1,500Bq/L未満にして放出しています。2回目に放出するALPS処理水のタンク群の分析でも、同様に基準値を下回っています。

  • 海域モニタリング

     海洋放出の前後で、海水、魚類、海藻類、海底土等のモニタリングを強化して実施し、安全状況を確認しています。

     これらの結果は、経済産業省のホームページから見ることができます。(東京電力の分析結果、国・自治体の分析結果、環境省のモニタリング情報等も見れます)

    ALPS処理水に係るモニタリング(経済産業省)

<国が行う支援>

  • 三陸・常磐ものの魅力を発信

     国内では、「三陸・常磐ものネットワーク」を立ち上げ、福島をはじめ三陸・常磐ものの消費拡大を目指します。様々な企業にも呼びかけ、豊洲や福島が地元の企業とも連携。全国の様々な団体からも、温かい声をいただいています。

    三陸・常磐ものネットワーク

  • 水産加工業者等への支援

     今年、東京で行われた「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」では、三陸・常磐地方の水産加工業者の皆様の出展をサポートしたほか、福島県産品の販路拡大に向けて、小売り・イベント等による販売促進支援や企業間より引き拡大に向けたマッチング等も実施しました。
     その他、官民連携チーム等でも加工業の皆様や中小企業への販路拡大サポートや支援策も講じ、8月24日には特別相談窓口も新設しています。

  • ALPS処理水の海洋放出に伴う需要対策

     風評影響への支援策基金や賠償等は、東京電力も実施していますが、業種を限定せずに適切に賠償するというのが政府の方針です。9月には、中国や香港等の輸入規制強化を踏まえた新パッケージを発表。予備費も207億円ほどつけ、今後も影響を受ける水産業全体を支える方々の問い合わせ窓口の設置、資金繰り支援・国内体制強化対策等、情報を提供し支援策を充実させていきます。

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 このほかにも政府では、各地でALPS処理水に関する説明会やイベント等への出展、テレビCMやSNS等を活用した情報発信をおこなっています。また、関係各国への規制撤廃への働きかけを続け、国外に対しても透明性高い情報提供を続けます。

福島第一原発事故後の水産物の検査体制について
講師
水産庁 増殖推進部 研究指導課
課長補佐 中山 洋輔
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<本格操業に向けた取組>

 東京電力福島第一原子力発電所の事故直後から福島県内での全ての沿岸漁業・底引き網漁業を自粛。その後、平成26年6月から出荷制限のない魚種の試験操業・販売が始まりました。令和3年4月からは本格操業へ向けた移行期間と位置づけ、現在福島県では水揚げの拡大を図っています。
 この措置で、平成22年は約2.6万トンだった水揚げ量は操業自粛中に一番少ない時で122トン(平成24年)にまで落ち込みましたが、令和4年には5,600トンとなり約21.6%まで回復しています。

<福島産魚介類の放射性セシウムの検査体制>

 現在、食品における放射性セシウム検査は、福島県と漁協の二重体制で臨んでいます。
 福島県では四半期ごとに、検査計画を策定し、出荷制限魚種も含めて検査計画に基づき検査を実施。国の基準値100ベクレル(以下Bq)/kgを超えた場合には出荷制限され、市場には出ません。基準値を安定して下回ったことが確認されたら出荷制限を解除します 。
 漁協の自主検査は、水揚げごとに出荷予定の全魚種を実施。基準値を国の半分とし、それを上回ると出荷自粛し、規制値を安定して下回ったことが確認されたらば出荷を再開します。
 基準値を上回ったのは2015年以降では4例のみで、2017年度以降は99%が基準値の1割以下となっています。海の魚で出荷制限魚種で現在残っているのはクロソイのみです。当初40種ほどが制限されましたが、魚は放射性セシウムを排出する機能を持っていたり、事故後に生まれた魚も増えたりと、徐々に減っています。これら漁協の自主検査は2018年以降、毎年1万を超えて実施し、今では2万件近くになりました。
 詳しくは福島県農林水産物・加工食品モニタリング情報をご確認ください。

福島県農林水産物・加工食品モニタリング情報

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<ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)>

 ベクレル(Bq)とは放射能の単位で、大きければ大きいほど多くの放射線が出ていることを意味します。シーベルト(Sv)は人が受ける被ばく線量の単位で、数値が大きいほど体への影響が大きいことを意味します。
 体内に取り込んだ放射性物質量がベクレル(Bq)で、その放射性物質が持つ換算係数(実効線量係数)を掛け合わせて、食品が人体に与える影響シーベルト(Sv)が求められます。放射性物質の種類によって人体への影響は異なり、放射性セシウムに比べてトリチウムはかなり小さくなっています。
 被ばく食品から受ける追加的な被ばく量は、年間1mSvという目標を立てましたが、1mSvを摂るには放射性セシウムでは77,000Bq、トリチウムでは約5,600万Bqとなります。

<基準値の設定について>

 基準値は、飲料水を含む食品からの被ばく量を年間1ミリシーベルト(以下mSv)以下に抑えることを目標に、食品の放射性セシウムの基準値を100Bq/kgとしています。
 この100Bqという値は、まず、年間1mSvを飲料水と食品に区分し、全流通量の50%を占める国内産食品の全てが基準値の放射性物質を含むと仮定。原発事故で放出された放射性物質のうち、半減期が1年以上の8核種(放射性セシウムやストロンチウム、プルトニウム等)を含めて計算します。この時の上限値は1番高い13〜18歳の男性の値で、計算すると年間120Bq/kgですが、さらに安全側に切り下げ100Bq/kgの基準値が作られました。

<被ばく量調査について>

 厚生労働省では、平成23年度から実際に流通する食品を購入し、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量を推定する「マーケットバスケット調査」を行っています。令和4年9~10月(15 地域)の調査では、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量は、0.0005~0.0011ミリシーベルト/年と推計されており、これは年間上限線量の0.1%であり、極めて小さいことが確認されています。

食品中の放射性物質への対応(厚生労働省)

 また、コープふくしまでは平成23年度から陰膳方式による実際の食事に含まれる放射性物質の測定を行っており、直近の令和2年度おいてすべてのサンプルで検出限界値1Bq/kg未満という結果になりました。

東日本大震災に関する取り組み(コープふくしま)

 このほか、避難指示が解除された区域を中心に、県内の一般家庭の日々の食事(日常食)に含まれる放射性物質の濃度を調査する「令和4年度福島県における日常食の放射性物質モニタリング調査」においても、1年間食べ続けた場合の内部被ばく線量は、放射性セシウムによる最大値が0.0026ミリシーベルトと推計され、十分低い値であることが分かっています。

日常食の放射線モニタリング結果(福島県)

<ALPS処理水トリチウムのモニタリングについて>

 水産物の安全性と消費者の信頼確保のために、トリチウムのモニタリングを実施しています。
 令和4年度から精密な分析を行い、北海道から千葉県まで東日本の太平洋側を中心に実施。検出限界値は最大でも約0.4Bq/kg程度となりました。
 加えて、令和5年度からは、採取場所は福島第一原発の放出口から北側4kmと南側5km程度離れた2地点で迅速分析を実施しています。
 精密な分析は、令和4年度からこれまで237検体分析し、現在、全てのサンプルでトリチウムの分析結果は検出限界値未満となっており、放出前後で大きな変化は生じていないということが分かっています。
 また、迅速な分析についても、同様に、全てのサンプルでトリチウムの分析結果は検出限界値未満となっております。
 これら検査結果は水産庁のホームページで見ることができます。

水産物の放射性物質調査の結果について(水産庁)

セミナーレポート② 「地域に寄り添う水産DX ~漁業から水産加工までIT支援が描く未来」

 令和5年9月26日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて、東北を拠点に水産DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める会社・団体によるプレゼンテーション、およびパネルディスカッションが行われました。
 それぞれの取組の紹介と共に、DXの観点から今後の東北の水産の展望についてお話しいただきました。

<第1部>水産DXを推し進める会社・団体について

水産×ITによる水産業の活性化について
講師
アンデックス株式会社
代表取締役 三嶋 順

〈アンデックスと「水産×IT」〉

 アンデックスは宮城県仙台市のIT企業で、コンピューターのソフトウェアのコンサルティングから通信事業までおこなっています。
 東日本大震災以降、“今まで獲れていた魚が獲れなくなっている”、“逆に獲れなかった魚が獲れる”等、これまでの経験にないような海の変化が生じています。私自身も水産商社出身で水産の知識や業者との付き合いがあったこともあり、水産業の問題をITで解決し活性化を図りたいと考え、平成26年4月より研究開発を開始。これがアンデックスにおける「水産×IT」事業の始まりです。

〈水産業へのIT活用〉

 令和2年度から、水産庁も資源評価や効率化を目指し、「スマート水産業」を推奨しています。
 スマート水産業とはICT(情報通信技術)、IoT (モノのインターネット)等の先端技術の活用により、水産資源の持続的利用と水産業の産業としての持続的成長の両立を実現する次世代の水産業を指します。
 例えば、漁業であれば、これまで長年の経験や勘によるものであった操業も、IT(情報技術)の活用によりリアルタイムの海況を知ることで、経験が少ない漁業者でも漁場に到達でき、作業時間や燃料費の節約になる等、生産性も上がるというようなイメージです。そのほかにも漁港や市場、流通、加工等の分野でも活用が期待されています。

〈アンデックスとしての取組紹介〉

 アンデックスでは「水産×IT」事業の中で、様々なソフトウェアや機器の開発を行ってきました。そのうちの一例をご紹介したいと思います。

  • ICTブイとウミミル

     漁場における現在の海の状況を知る仕組みを作るため、ICTブイを開発。このブイには水温と塩分を計測し、そのデータを自動送信する仕組みが備わっています。この計測データは専用アプリの「ウミミル」で見ることができ、遠隔地にいながらも海の状況がいつでも確認できます。

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     例えば、海苔養殖において、育苗時期は後の本養殖につながるもっとも重要な時期であり、この時期の海水温や比重(塩分)の変化には生産者は神経を使います。そのため、従来は漁場に張り付いている必要がありましたが、このシステムを導入してからは常に海に出る必要がなくなり、海水の塩分濃度が下がった時には濃い塩水を撒く等、迅速で無駄のない対応が取れるようになりました。

     このほかにも、気象データをAI(人工知能)で解析して未来予測する「海況シミュレーション」や、給仕養殖管理をクラウドシステムで一元管理できる「養殖管理クラウド」、マガキ天然採苗のために行っている顕微による幼生計数作業をデジタル化するシステムの開発等も行っています。

     一方でIT機器を導入するにあたり、初期コストやランニングコストの高さ、高齢者が使いこなせない等様々な問題があります。
     例えば、先述のICTブイの価格は145万円で、決して安いものではありません。しかし、国や自治体が提供する支援事業等を利用すれば費用が1/3程度に抑えられるケースがありますので、こういった補助金を利用するのも一つの手だと思います。

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〈DX推進による水産業の活性化〉

 漁業生産量の低迷が続く水産業界では、DXがもたらす改革が期待されています。
 弊社・アンデックスを代表機関として地元の金融機関や大学等産学官金の11団体でつくる「DX水産イノベーションみやぎ」を立ち上げ、「宮城水産業へのDX認知及び促進支援事業」※として、宮城県内の水産業関連企業のDX推進を支援。
 地域企業への課題分析、DX戦略策定、サイバーセキュリティ対策等の体制を構築し、地域企業の生産性向上のサポートを行っています。
 水産業DXは、一社だけではなくみんなで一体になって活性化させる取り組みです。私たちは水産ICT導入を促進し、未来に向けて進化させていきます。
 ※経済産業省 令和4年度補正事業「地域新成長産業創出促進事業費補助金(地域DX促進環境整備事業(業種等特化型DX促進事業)地域DX支援活動型」

宮城水産業へのDX認知及び促進支援事業

水産に関係する開発研究
講師
炎(ほむら)重工業株式会社
事業開発部  小林 健一

〈炎(ほむら)重工業株式会社について〉

 炎(ほむら)重工業は岩手県滝沢市にある屋外向けのロボットやドローン、生体群制御等水産に関係する開発研究を行う会社です。代表取締役を務める古澤はもともとロボットスーツ等を扱う会社に勤めていましたが、東日本大震災を機に、地元で雇用を創出したいとの思いが芽生え、岩手県滝沢市へUターンし、平成28年にこの会社を立ち上げました。食料生産の自動化で世界の飢えを解決するというミッションを持って事業に取り組んでいます。

〈独自の研究開発と製品開発〉

 炎(ほむら)重工業が開発した製品についてご紹介します。

  • 生体群制御®️

     養殖等では、網に海藻や藻等様々なものが付着するため、そのメンテナンスに時間を取られてしまいます。そこで、管理が大変なら網をなくせばいいという発想から、電気を使って魚群の遊泳方向を制御する「生体群制御」という炎(ほむら)重工だけの特許技術を開発しました。生簀の外からスイッチ1つで魚群を集めたり、魚の大小も分けることができます。

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  • 水中カメラ

     水中用カメラを使った製品もあります。魚が餌を食べたかどうかを確認するもので、普通のカメラ利用と比較しても安価です。ネットワークにも対応しているので、生簀の状況や水中設備の様子を、人が潜ることなく24時間確認することができます。

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  • 自動運転船舶ロボット「Marine Drone」(水上ドローン)

     空飛ぶドローンや、工場向けのロボットの開発は進んでいますが、船のロボットを手がけているところは少ないというところに目を付け、海・湖・河川等の水面で活動するロボットを開発しました。

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 「Japan Drone 2022」(展示会)では会場のある千葉県千葉市の幕張メッセからMarine Droneの遠隔操作のデモをおこない、400kmも離れた岩手県大船渡市にある船を走らせました。
 この技術があれば、漁師さんは自宅で船を操縦でき、拠点を作れば東北中の港の船を一元管理できます。また、この船にロボットを置けば漁師さんの代わりに作業もできます。

 水上ドローンの船体には、目的や用途に合わせてさまざまなタイプがあります。

水中カメラ付き水上ドローン  水上ドローンの船底に固定された水中カメラを使うことで、底の沈殿物や水底土砂を撹拌してしまうことがなく、きれいで安定した映像を撮影することができます。

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人命救助用のビート板タイプ  水難救助に使うことのできる水上ドローンです。人が泳ぐより早く、安全に溺れた人を助けに行くことができます。現場へ向かうのはボートだけ。二次災害のリスクもありません。

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養殖場を巡回して自動で餌撒きするタイプ  リモコンを使っての遠隔操作だけではなく記憶させた経路を自律航行も可能。自動帰船、自動停泊にも対応

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水上アンカータイプ  自動定点保持機能つきで、水に入った位置をGPSで記憶し、流されそうになったときは自動で元の場所に戻り、その場所に居続ける

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 このほかにも水上ドローンの用途は、多岐に及びます。密猟対策や物流。水辺ルンバは東京湾で、自動でゴミを収集。さらに、大阪万博に向けて開発中の自動無人船もあります。
 これからも、画期的な技術で東北の水産に貢献していければと思っています。

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水産加工業のDX化に向けた取組み
講師
地方独立行政法人
青森県産業技術センター 食品総合研究所
水産食品化学部長 前田 穣(ゆたか)氏

〈青森県産業技術センター食品総合研究所について〉

 青森県産業技術センター食品総合研究所は、明治33年に青森県水産試験所製造部として設立された後、移転や組織改正を経ながらも青森県に水揚げされるイカ、サケ、ホタテガイ、サバ等の魚介類の加工適性、加工技術・品質管理技術に関する試験研究を実施し、その成果を基に水産加工業界および沿岸漁村へ技術の普及指導と商品化を目指した技術協力・支援等を行ってきました。

〈センシング・技術・ICTによる漁獲物選別および加工の省力化・見える化技術の開発〉

 水産業は慢性的な新規就業者不足と高齢化により、担い手の確保が困難になっており、成長産業化に向けて高生産性・高付加型産業への転換が求められています。その解決に向けて食品総合研究所が研究・開発している技術をご紹介します。

  • 画像センシング技術

     画像センシング技術(人が目で認識できる情報等を機械で認識できるようにする技術)を使って、撮った画像からAIが漁獲物の種類や大きさを連続的に自動計測する技術を開発しました。
     これにより選別工程を省力化できるほか、魚に人が触れないため、鮮度維持も期待できます。
     また、魚種やサイズがデータ化できるので、全国で活用すれば、漁獲量から過去の状況まで確認できます。

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  • 光センシング技術

     光センシングとは、光の持つ多様な性質を利用して、対象物の様々な状態をセンサにより計測する技術です。これに基づく近赤外線分光法(測定対象に近赤外線を照射し、吸光度の変化によって成分を算出する)という技術を使い、波長が短い近赤外線でとらえた情報と、今までの化学分析の脂の量を統計的に紐付けて、サバの脂の量を瞬時に計測できます。生のほか、冷凍~解凍状態でも計測可能です。

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〈技術の社会実装について〉

 前述の技術等を実装し、作業を省力化できれば、余った人員で別の価値を生み出せます。
 また、糖度で果物を売るように、脂の含有量を特徴としたサバの缶詰も販売できる等、高品質化も図ることができます。
 このほかに、水産物の品質を見える化・共有化することにより、流通の迅速化に繋げることができます。例えば、水揚げされた魚を船上で選別し、そのデータをクラウドで共有すれば電子入札することが可能となるのです。
 こういった技術を実装した際の利点や課題、新しい価値を生み出しているのかという点について、今後も考えながら研究を重ねていきたいと思っています。

<第2部>パネルディスカッション

パネルディスカッション
ファシリテーター
事業創発研究会 DigiBizみやぎ
会長 原 亮

【パネリスト】

アンデックス株式会社

代表取締役 三嶋 順

炎重工株式会社 事業開発部

小林 健一

地方独立行政法人青森県産業技術センター 食品総合研究所 水産食品化学部 水産食品化学部長

前田 穣

原 氏:
「DX(デジタルトランスフォーメーション)、いわゆるデジタルでの変革で、ICT利活用、IT利活用の結果として、その先にどんな未来が見えてくるのか。ここで考えていきたいと思います。まずはITの活用により仕事のスタイルがどうかわったか教えてください」

三嶋 氏:
「これまでの漁は長年の経験と勘に頼るところが大きかったのですが、データを用いることで、客観的に見て、数値が違ってきているから、こうしようと次の手を打てるようになりました。毎年同じ場所に養殖の仕掛けをしていた漁師さんが、こういったデータをもとに環境のいい場所に仕掛けを移したりしています」

原 氏:
「判断基準が見えれば答えが出やすく、非常にわかりやすいのがメリットですね。前田さんの先ほどの話では、データ化には懸念もあると。お金の流れが変わると、儲ける人たちに偏りが出ることに気をつけるべきということでしょうか」

前田 氏:
「漁業者にとってバイイングパワーは強くて、パワーバランスがさらに傾く懸念があります。でも、流通側も応援したい気持ちもある。1箇所で始めるDXでなく、仲間や関係者で集まってやるべきだと思います」

三嶋 氏:
「より多くの人たちとデータを共有することで、それが大切な宝になります。みんながWinWinになるために、開示の方法やルール等含め、いろんな課題を議論しなくてはいけません」

原 氏:
「課題の共有は、水産DXを進めていく上でポイントになりそうですね。水産資源をどう守るか、担い手問題、漁師さんの高齢化等、結構深刻です。東北でやるとなると、そういった専門性を持った支援側と開発側との連携が必要となると思います。小林さんの会社等、研究開発に特化して人を集めなくてはいけないと思いますが、いかがですか」

小林 氏:
「弊社は東京にも事務所がありますが、本社は岩手県滝沢市にあるので、岩手大学や岩手県立大学の工学部の学生さん等エンジニアの卵と一緒に開発をやっています。本社と東京の2つで車輪を回すような形です」

原 氏
「滝沢市はインキュベート施設を持ち、企業育成と人材供給に努めているという点で、アドバンテージがあると思います。アンデックスさんも函館未来大の和田先生と長年、組んで研究開発をされていらっしゃいますね。今や東北では、技術研究の方とスタートアップベンチャーを組んで、新しいツールを生み出そうとしています。それによってどんな未来が描けるのか、お金の流れも含めて、これからも一緒に考えていければと思います」

セミナーレポート③ 海外輸出ノウハウ・水産コーシャ(ユダヤ教徒)
欧米輸出・インドネシアBPJPHハラル認証セミナー

令和5年9月26日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて、海外輸出ノウハウ・水産コーシャ(ユダヤ教徒)/欧米輸出・インドネシアBPJPHハラル認証セミナー」と題したセミナーが開催されました。
本セミナーでは、近隣諸国に頼らない水産品の輸出戦略セミナーとして、コーシャ(ユダヤ教)、ハラル認証(イスラム教)等を紹介、またそのための体制づくりについて、現状やノウハウが語られました。

第1部 コーシャの基礎

講師
コーシャジャパン株式会社
代表取締役社長
ラビ・ビンヨミン・Y・エデリー

 私はユダヤ教の中でももっとも敬虔で戒律が厳しいといわれる超正統派、ハバッド・ルバビッチ派のラビ(宗教指導者)です。1999 年に夫人とともに来日以後、日本に在住しています。ユダヤ教にはアルコールの禁忌がなく、日本酒も大好きです。
 東日本大震災では救援物資として焼き芋の配布活動をおこなったり、イベントを企画したりする等、被災地支援のために奔走しました。
 ユダヤ教ではコーシャという食べ物に関する定めがあり、その規則に則った食材や調理方法を守って生活しています。コーシャジャパン株式会社はこのコーシャの日本初の認定機関です。
 認証を取得するにはクリアすべき点はありますが、自然食品を使用する日本の伝統食品等は条件さえそろっていれば認定取得までの期間が短い場合も多いので、ぜひご検討ください。

講師
コーシャジャパン株式会社
秘書兼マーケティング担当
上田 匡将
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〈ユダヤ教について〉

 ユダヤ教は唯一絶対にして万物の創造主の神様がいると考える宗教です。自由意志を尊重し、無理に布教はしません。神様は一つなのでルールも一つで、ユダヤ教の戒律はラビでないときちんとした解釈はできず、そのため、ケースごとの判断にも関わります。

〈コーシャとは〉

 コーシャは「適したもの」という意味をもつユダヤ教の食事の戒律で、近代的な完全衛生基準とは独立した考え方です。イスラム教がハラル、ユダヤ教がコーシャ。ハラルはアルコールがダメですがユダヤは問題ありません。
 原料まで遡ってすべてコーシャでなくてはいけないのが特徴で、認定では原料メーカーまで視察に行く場合があり、また、使用する加工機器にも戒律に則っている必要があります。
 2011 年には獺祭(旭酒造)が自社製品の差別化のためや、ユダヤ人が大勢いるアメリカ市場獲得のためにコーシャ認証を取得しました。コーシャ認証があることで、世界中のユダヤ人ネットワークに発信できるほか、世界の人々にも、長期安定な規定で、しっかり監督された安心・安全な食品であることが認識されるといったメリットもあります。

〈3つのカテゴリー〉

 コーシャには3 つのカテゴリーがあります。
 肉と乳を混ぜてはいけないのが基本で、肉、乳、そして肉もミルクも関係ないカテゴリーのパルヴェがあります。調理機器も同じで、肉もミルクも使う場合は2 セット必要となり、包丁等も、何に触れたかが関わるので要チェックです。

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 魚は基本的には鱗とヒレがあればコーシャです。コーシャでないのは虫で、寄生虫が入ってない養殖魚が理想ですが、表面に寄生虫が出ていなければ問題ありません。厄介なのは加熱調理品で、加熱されたその日にラビが確認(審査)しなければなりません。

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〈コーシャ承認取得について〉

 視察はラビが赴き、社会科見学のように全工程を案内していただきます。
 コーシャジャパンの場合、申請は無料で、その後に工場視察等が必要になる場合は経費がかかります。最短1 ヶ月で認証が取得でき、製造工程の変更が必要だと期間が延びます。

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 その他、弊社では、ケータリングやコーシャ品の販売や、ユダヤ人のお客様向けにホテルや伝統工芸品に関するサービスを提供しています。また、全世界へのコーシャ製品供給を支援しています。
これらコーシャ・ユダヤのトータルサポートを行っておりますので、皆様のお役に立てることを願っています。

第2部 海外輸出の基礎と実際 の応用スキルについて

講師
株式会社ノーパット
代表取締役社長
久保 勇太

〈株式会社ノーパットの取り組み〉

 弊社は、国際輸送手配、翻訳、商社機能等世界に目を向けた企業様へサービスを提供する会社で、2023 年5月から、“海外営業部ドットコム”というサービスの展開を開始しました。このサービスは簡単に言えば、「海外営業部門のアウトソーシング」で、企業の皆様の海外展開における様々なハードルを越える手助けをしています。

〈海外進出における課題〉

 これまで私たちが行った取り組みの中で多く寄せられた海外進出において課題となる事項についてお話いたします。

  • 1、言語の問題  ジェトロ等はいいバイヤーを紹介してくれますが、その後は自社努力が必要です。もし魅力的なオファーがあったとしても、自社で対応できる人材がいなければ、言語的な対応ができないと話はそこで終わってしまいます。

  • 2、海外からのメールの管理  海外からのメールでの問い合わせは、重要なビジネスチャンスです。ほとんどの企業様は、このようなメールをスパムメールとして処理しまいがちですが、このようなメールの対応がスムーズに対応できるとビジネスの展望を広げることができます。スパムだと思っていた案件が実は大口の取引につながった事例もあります。

  • 3、展示会で知り合った海外の取引先への対応  展示会等でせっかく名刺交換しても、海外というだけで腰が引けてしまう方も多いかと思います。しかし、日本のバイヤーと同様、適切な対応をすることで、3 分の1 から2 分の1は返信があり、見積もりが欲しい、もう一度、話を聞きたいといったことに発展する場合がありますので、海外展開したいと思っている企業様は、対応いただく努力をしていただきたいと思います。

  • 4、問い合わせフォームの見直し  海外の方が日本の製品を調べる方法は実はとてもシンプルで、Google、検索エンジン、SNS 等です。そこで興味を持つと、ホームページを見て翻訳ツールを使い解読して見ています。しかし、そんな海外の方が、問い合わせたくてもできないフォームの企業も見受けられます。その際に、海外の方が入力できるフォームを作っておくと、海外の方が安心してアクセスできることとなり、商談の幅が広がります。

  • 5、海外向けの英語カタログ  海外からの問い合わせを受けて、次に必要なのが英語のカタログです。今は、簡単に作れるようなシステムがあります。商品の詳細情報を英語で記載する必要がありません。貴社の商品ページへユーザーを誘導してGoogle 翻訳等の翻訳ツールで読み理解いただく仕組みです。そのため、英語が苦手な方にも簡単にご利用いただいております。

〈海外進出における課題解決に向けたサービスの提供〉

 弊社では、海外進出を考える企業の皆様をサポートするサービスを各種取り揃えております。
 言語的な対応が難しくても、各国の企業と日本のメーカーのミーティングに、ネイティブのスタッフが通訳として同席しフォローいたします。必要な書類の作成やノウハウのレクチャー等も全て対応します。
 また、展示会等で海外バイヤーと名刺交換したら、弊社に写真を送っていただければ、御社の代わりにお礼メールを送ります。
 このほか、ホームページの多言語化も無料。今あるホームページに、各国語のバナーを出すことでページビューを増やし、問合せにつなげます。海外輸出に不可欠な英語のカタログも、WEB 上での展開を提案。メーカーサイトに飛ばし、そこにSNS やポジティブな記事を載せることで信用をアップさせます。
 ハラルやコーシャのお話がありましたが、弊社のようなサービスを活用すれば出ていける国が増えると思います。

第3部 欧米輸出・インドネシアBPJPHハラル認証セミナー

インドネシアハラル認証について
講師
一般社団法人ハラル・ジャパン協会
代表理事
佐久間 朋宏

〈ハラル認証について〉

 ハラル認証は、イスラム教の教えに合致した食品や製品であることを証明する国際的な認証で、イスラム教の国への進出時には必要です。イスラム教の国は50 カ国以上で世界人口の約1/4 を占めます。その中にはハラル認証のいらない国もあり、必要な国もあります。
 コーシャはアメリカ、EU が中心、ハラルはシンガポールとマレーシア、インドネシア、一部中東等のアジアがメインの地域となっています。特に東南アジア諸国は、ハラル市場が拡大、認証商品への需要が高まり、日本からの輸出品にも求められています。そこにアクセスするには認証取得が不可欠です。

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 ムスリム(イスラム教徒)にとって安心のマークであるハラル認証を行う団体は、世界で300を超えます。国際認証ではありますが、世界統一基準がないため、どの団体の認証であるのか選択が大切です。

BPJPHハラル認証について
講師
一般社団法人ハラル・ジャパン協会
インドネシア支部
BPJPHスーパーバイザー
リナステアリングルーム

〈インドネシアやハラルの基礎知識〉

  • インドネシアについて

     人口は約2億7300万人で87%がイスラム教徒です。暑い国なので甘いものや辛いものが好まれますが、納豆やラーメン、刺身等、日本の食べ物も人気です。

  • ハラルについて

     「ハラル」は許可されているもの、「ハラム」は禁じられているもののこと。その中間のものが「シュブハ」です。水産物は基本的にはハラルですが、加工された場合、その加工のプロセスや、使われている調味料や保管場所、運搬方法がハラルであるのか等、一見すると分からないため、認証が必要となってきます。

〈BPJPHハラル認証の獲得について〉

 インドネシアのハラル認証の交付は、2019年以降、政府のハラル製品保証実施機関(Badan Penyelenggara Jaminan Produk Halal:BPJPH)が行うようになりました。
 認証取得は、事業者、BPJPH、ハラール検査機関(Lembaga Pemeriksa Halal:LPH)、インドネシア・ウラマー評議会(Majelis Ulama Indonesia:MUI)の4つの機関を通し行われます。最終的に認証決定機関であるファトワ委員会を経て、認証証明書を発行。その事業者は認証証明書とロゴをダウンロードできます。

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〈ハラル・ジャパン協会のBPJPHコンサルティング〉

 当協会には、ハラルスーパーバイザーがいるために、安く早く簡単に認証取得ができます。書類準備や窓口の立ち会いも可能で、BPJPHとLPHとの連携があるのでスムーズです。
 また、インドネシアのテストマーケティング等もできます。
 BPJPHハラル認証を取得したい、インドネシアに輸出したい、そんな時、是非当協会にお問い合わせください。

セミナーレポート④ 「東京一番フーズ/長崎ファームの サスティナブル戦略」

 令和5年9月27日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて、「東京一番フーズ/長崎ファームのサスティナブル戦略」と題したセミナーが開催されました。
 本セミナーでは、外食起点からの水産物6次産業化を目指す東京一番フーズの今までと取り組み、今後の方向性ついてお話しいただきました。

講師
株式会社 東京一番フーズ
マーケティング担当
取締役
岩成 和子

<東京一番フーズグループについて>

 東京一番フーズグループは、とらふぐ専門店「とらふぐ亭」を主力業態として首都圏に68店舗の飲食店を運営する他、米国ニューヨークにシーフードレストラン「WOKUNI」を展開しています。飲食事業に留まらず、水産物の生産・加工・流通を一貫して行う6次産業化を推進する体制を築きながら、SDGsの取り組みを行ってきました。

<6次産業化へ>

 食材へのこだわりから水産物の養殖生産をスタートさせ、6次産業化に至りました。生産履歴(安全・安心の礎)を把握することはお客様視点から重要であるという思いからです。
 当初は卸業者からとらふぐを仕入れていましたが、養殖とらふぐのホルマリン問題(フグに付着する寄生虫駆除のため、発がん性が指摘されるホルマリンを使っていた問題)が発生した時に、生産履歴開示している生産者から直接にとらふぐを調達することに切り替えました。生産者の皆様とのネットワークを広げて直に養殖現場との交流を深め養殖の奥深さに触れることが出来ました。そして、縁あって、12年前に、長崎県平戸市にて子会社(株式会社長崎ファーム)が、とらふぐ・クロマグロの海面養殖を開始することに至りました。
 また、とらふぐ亭では、店頭の水槽でとらふぐを泳がせています。店舗に活魚を届けるまでのロジスティックスの如何で、とらふぐに大きなストレスにかかることになります。生産者がこだわって育てた「尻尾まで美しい健康なとらふぐ」を東京の店頭で泳がせるために、自社サプライチェーンの構築も推進してまいりました。

<世界を目指してニューヨークに出店>

 日本の養殖魚のすばらしさを世界に発信したいという思いで、2017年にニューヨークのレキシントンアベニューに日本食文化のアンテナショップとしてシーフードレストラン「WOKUNI」を出店しました。自社の長崎県平戸養殖場からクロマグロを空輸して、Tuna Auctionと題した解体イベントを試みました。この演出は評価され、ニューヨークタイムズでも取り上げられました。
 Tuna Auctionは1ヶ月に1回開催で、魚の競りを模擬してチリンチリンという鐘の音とともに始まります。クロマグロ解体をしながら部位の説明をします。目玉・ほほ肉等は「希少部ですよ」と競りイベントをします。さらに、自分たちの養殖環境の話、余すことなくいただくという日本の食文化も説明しながらの試食も含めた参加型のショーとなっています。
 このTuna Auctionは、予約サイトを運営するオープンテーブルの記事で、「サステナビリティ(持続可能性)=カスタマーサティスファクション(顧客満足度)」と説明されています。「育成や取り上げ、運搬の仕方のすべてが説明されていて透明性の高い仕組み」であることが評価され、2023年全米13のサスティナブルなレストランの1つに選ばれました。このほか、「トースト」という外食の情報発信サイトでも、全米で15のサスティナブルレストランの1つに選出されています。日本よりもニューヨークでは人間が環境や育成をコントロールしながら生産する魚として、養殖が評価されています。
 ニューヨークでは、お客様に自分たちの独自性を発信する必要があります。ただ解体して、黙々と召し上がっていただくのではなく、お客様に生産者の養殖過程を解説することで、持続可能な養殖方法で生産し、店舗で責任をもって消費するSDGs目標12の「つくる責任つかう責任」に基づく取り組みを理解してもらうことで、食材の美味しへの満足を超えた満足を体験していただくという考え方がヒットしたのだと思っています。

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<情報なくして水産物なし>

 ニューヨークのお店では日本の魚のテストマーケティングが可能です。「おすすめメニュー」で販売する際に、朝礼でサーバーに対象となる魚の情報を適切に説明できるようにします。そして、営業中にマネージャーがお客さんから感想を聞きとります。その際に、例えば東京湾で取れたスズキに「東京ベイで獲れて**処理の」というキャッチフレーズをつけ、それだけで景色が思い浮かぶような説明をつける工夫を行います。
 情報なくして水産物なしだと私は思っています。情報を流すことは自分のモノ作りのポリシーを魚に乗せるわけです。どういう管理をしているのか、どう運ばれたかするかの情報で何を伝えるか?が明確であれば負荷価値があるという気持ちでやっています。
 ニューヨークでは、評価する側が厳しく意見します。受け入れてもらうためには、魚だけ持っていってもダメです。ニューヨークのいろんな種類のマグロの中で、平戸のマグロはどういう価値を持っているのかをしっかりと伝える努力をしなくてはいけません。そういう伝え方を外食の現場では、もっとすべきです。

<海の再生とつくる責任つかう責任>

 今、ニューヨークのWOKUNI1号店で蓄積した水産物提供のノウハウを活かして、2号店の出店に向けて動き出しています。場所はブロードウェイです。マンハッタンの中心にて日本の水産物と日本食文化を満喫していただける海を感じる空間を演出します。同時に、北米のレストランにも日本の養殖魚のすばらしさを認知して良い食材として継続的に活用していただけるよう、サプライチェーンマネジメントをどう構築していくか、積極的に取り組んでいます。
 養殖を始めてまだ12年ですが、海を大切にして自然と向き合っていかなければ持続可能ではないと実感しており、サプライチェーン関係者や外食現場が自信を持ってお客様のテーブルで説明ができる養殖生産者との取り組みを推進しています。
 弊社グループが今掲げているのは、海の再生も含め「食を豊かにする、海の豊かさを守る」こと。私たちの「つくる責任つかう責任」として、サプライチェーンマネジメントをしっかり構築しながら、サスティナブルな物づくりを続けると同時に、同じような意識を持った生産者の製品を束ねて輸出を強化していきたいと思っています。

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セミナーレポート⑤ 「東北の水産加工品の可能性を探る」

令和5年9月27日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて「東北の水産加工品の可能性を探る」と題したセミナーが開催されました。
本セミナーでは、自身の商品開発エピソードを交えながら、水産加工品の価値づくりについてお話しをいただきました。

講師
魚の達人
漫画「築地魚河岸三代目」
アドバイザー
小川 貢一

<はじめに>

 私は、祖父が興した家業の築地市場内店舗「堺静(さかしず)」にて仲卸業に従事し、漫画「築地魚河岸三代目」のモデルとしても知られ、ビッグコミック(小学館)連載「築地魚河岸三代目」ではストーリーテーマに加え、築地市場及び全国の漁業関係取材地の総合監修を務めました。
 また、同名映画「築地魚河岸三代目」でも築地取材地コーディネート、料理調理等を含む総合監修を担当され、築地仲卸業27年~築地4丁目にて13年間の魚料理店親方を経て、現在は豊洲で仲卸顧問や魚食文化の普及のお手伝いを行っています。

<消費者の魚食への意識>

 特に首都圏では家庭で魚を食べることが非常に少なくなっています。理由はいろいろありますが、魚料理の意識調査(「男女1000人に聞いた食事・調理・魚食動向 ~コロナ禍を経験して~」大日本水産会 2022年6月発表)にヒントがありそうです。
 この調査によると、内食(家庭)での調理における意識は「時短・簡便」「体と健康によい」「コストを下げる」「レパートリーを増やす」「安心・安全」の順となりました。
 魚を避けられる理由としては、「手間、臭い、骨がある」という点が上位になっています。調理前の下処理や食べた後の生ごみの問題等、消費者が求める「時短・簡便」と反する点が敬遠される理由となっているようです。また、どうしてもお肉に比べるとコストがかかってしまう点もあります。
 逆に、魚を食べる理由としては「EPA・DHAや蛋白質等の優れた栄養・健康機能」等、健康のためという点が大きく、これらの必須脂肪酸を摂取するには、やはり魚の重要性を皆様も理解されています。

<オンリー1の価値作り話題作り>

 商品開発ではどうやって消費者の“不”を解消するかが重要です。匂いが手につきやすい「不満」、骨が喉に刺さったら危ない「不安」、下処理や調理に手間がかかる「不便」、「不満・不安・不便」の3つの“不”を解消する加工品商品作りを、今後は考えるといいと思います。
 私が開発したもので、ぶつ切りの鯖を長時間かけて煮込んだ鯖味噌があります。煮魚を食べたいお年寄りが、骨がよく見えなくて困っているという話から開発を始め、商品化しました。骨まで食べられるように約7時間煮込んだもので、自分のお店でもランチに出したら毎日行列ができました。
 このように、消費者の不満不便の解消を考えることが商品開発には大事です。これは高齢者向けでしたが、お子さんにも喜ばれました。骨取りではないので、魚の骨がどんな風になっているのかまで教えることができたので食育にも良かったと思います。
 商品開発では、オンリー1の価値作り・話題作りも必要です。この鯖味噌は築地ということもあり、東京でもすでに馴染みがなくなった江戸甘味噌を使いました。江戸時代に作られていた味噌ですが、今東京でも2~3社しか作っておらず、それを使って他にはない商品を作りました。

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<ネーミングを変えることで、消費者が見る価値が変わった>

 もう一点、話題作りということで、別の例を紹介します。
 大分県の姫島のひじきで、当初は、高級路線で出していましたがなかなか受けませんでした。漁師さんから話を聞くと、このひじきは1年のうちに2日しか獲ることのできない幻のひじきとのこと。それを全面的に出そうと考え、パッケージも「姫島幻の2日ひじき」に変更しました。パッと見て情報がわかるパッケージにしたことで、売上が3~4倍になりました。売れ残っていたものが、今や予約待ち状態で、アワード等を受賞したり、村おこしの返礼品になったりと成功しました。同じ賞品でもネーミングを変えることで、消費者の見る価値が変わったという好例です。

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<「売れる」を実現する3つの価値>

商品を売れるものにするためには下記3つのポイントが重要です。

  • ①消費者にとって自分は「何屋」か ひじき屋ですとか鯖味噌屋ですとか、そういったことをしっかり明確にする。

  • ②消費者にとって自分の商品を「買う理由」は何かを見極める 年に2日しか獲れないなら欲しい、骨まで食べられるなら子供にも年寄りにもいいからこれを買いたい、そういった気持ちを指す。

  • ③消費者にとって自分は「誰」か ここは非常に難しいが、例えば、姫島の1年のうち2日間だけの漁をする人間の存在を明らかにする。これが価値となる。

こういった商品を販売すると、消費者はわかりやすく消費欲が増すと思います。

<目先を変えて商品開発>

 今後の課題で一番大きいのが原料事情です。特に、加工品の主原料である、鮭、サンマ、サバ、イカ等が東北で獲れなくなっています。これらが安定供給されなければ、商品作りは難しくなります。こういった商品は歴史があって継承してきたものが多く、このままだと食文化の継承もできなくなるといった懸念があります。
 従来の加工品作りが難しいとなると、今度は新たなものを開発しなくてはなりません。
 例えば、ブリを使ったツナ缶は、これまで主原料としてきたマグロやカツオの漁獲量の低迷や世界的な需要の拡大で調達が難しくなっている中、比較的漁獲が安定しているブリを使って将来的な供給への不安を払しょくする試みとして開発されました。
 また、近年では温暖化の影響で北海道では馴染みの薄い「ブリ」の漁獲量が急増しています。鮭の定置網に入ったブリは生出荷しかできないため、二束三文で売るか、下手すればミール原料としての値段しか出ませんでした。そこで、町ぐるみでブリの処理場を建て、製品を作り、高付加価値化して、新たな名産としてふるさと納税の返礼品にしようという取組もあります。

<変わる水揚げ事情に対応>

 温かい海の魚であるサワラも、今は北海道や東北で獲れるようになりました。フグ、トラフグも東北で揚がっています。さらに、三重県の方で大量に獲れるようになったのがアイゴという魚で、トゲがあったり磯臭さが強かったりする未利用魚です。ウツボもそうです。南の方では干物にして食べますが、硬い小骨が多いので加工品には向きません。網も壊してしまい漁師さんたちは困っています。
 このように、獲れる魚の事情が変わってきています。でも、まだまだ東北の方は食べられる魚が揚がっています。それをどう加工するかを考えると、可能性はあると思います。
 さらに、これからは天然魚が当てにならなくなるので養殖が重要になります。特に三陸の方は、養殖というと、宮城の銀鮭等が頭に浮かびますが、それ以外にも、牡蠣、ホタテ、ワカメ等の養殖が盛んで、地域によってブランド化もされてきています。それらをいかに加工品にするかということも必要になってきます。
 原料事情はますます厳しくなると思いますが、目の前にあるものをどう使っていくのか、その食材の良さをどうやって一般の方に知ってもらうか、そういう目線を持ちながら商品づくりを行っていただければと思います。

セミナーレポート⑥ 「『復興』×『水産業を取り巻く環境の変化』にかかる現状と今後の対策」

令和5年9月27日、「東北復興水産加工品展示商談会2023」にて「『復興』×『水産業を取り巻く環境の変化』にかかる現状と今後の対策」と題して、セミナーが開催されました。
沿岸地域の基幹産業である水産加工は、原材料や人手不足、海面温度上昇等様々な課題に晒されています。こうした困難をどう乗り越えるのか、地域で成功事例を持つ3社の取り組みを紹介するとともに、有識者も交えたパネルディスカッションが行われました。

はじめに

ファシリテーター
東北学院大学
地域総合学部 地域コミュニティ学科教授
柳井 雅也
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 今回のテーマである水産加工は、沿岸地域の基幹産業ですが、今、漁獲高減少、人手不足、海面温度上昇等が課題として挙がっています。
 水産加工業は、震災前と比べて、経営体数ベースで戻っているのは約6割。そのうち、業績が9割以上戻ったのが2割と、実質は1割ほどしか震災前の状況に戻っていません。さらに、多くの課題に直面し、経営環境も激変しています。
 この現状の中、今回お呼びした企業の代表の皆様や水産に造詣の深い先生方の事例を通して、課題解決の参考にしていただければと思います。

復興に関する現状

復興庁 企業連携室
参事官
芳田 直樹
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 東日本大震災後、地域差は見られるものの、被災地での水産現場の復旧自体は進んでいます。
 被災した漁港施設は令和5年度3月末ですべて復旧作業が完了しました。しかし、震災前と比べて、漁業を営む経営体は減少しており、震災前の7割以下となっています。
 とりわけ水産加工業においては、令和5年の水産庁のとりまとめた調査によると、被災6県の加工業者における売上の状況について80%以上回復したと回答した事業者は約半数にとどまっており、依然として売上の回復が遅れていることが分かります。理由としては原材料や人材、販路の不足が挙げられます。

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海洋環境の変化による影響

復興庁企業連携室
磯崎 眞志
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 日本近海における海面水温は、過去100年間で平均して1.24℃上昇しており、この上昇率は世界平均の倍です。
 数日から数年にわたり、急激に海水温が上昇する「海洋熱波」という現象の発生頻度は、過去100年間で大幅に増加しています。過去に豊富に獲れていたサンマ、スルメイカ、サケ等の漁獲量が減少し、地域の産業に深刻な影響を与えています。従来水揚げの少なかったタチウオ、フグ、マイワシ等が獲れるようになり、漁獲量は2010年以降、増加傾向にあります。

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各社の取り組みについて

講師
株式会社北三陸ファクトリー
代表取締役CEO
下苧坪 之典
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 北三陸ファクトリーは、三陸の海藻を扱う事業を経て、2018年に設立しました。
 岩手県洋野町は日本一のウニ産地でしたが、ここ10年で水揚げが13分の1に減少。作業環境、ウニの生産現場における課題点等を考え、2年前に工場を立ち上げてFSSC 22000を取得。輸出体制を整えました。
 出荷先は、国内の高級レストランや、海外の香港、台湾、シンガポール等で、直接納める仕組みを構築しました。これまで洋野町のウニは他の地域と一緒に三陸産として出荷していましたが、これを8年前に「うに牧場」というブランドを立ち上げたことにより、魚価が上がり、漁師さんに残るお金も増えてきました。

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 課題もいくつか抱えています。まずは魚価の低迷です。2022年度はロシアからの水産物が日本に過去最高量入ってきたため、ウニが市場に溢れたことで、魚価が低迷しました。付加価値の創造として、⽣産者と消費者を結び付け、安心安全をお届けするため、経済産業省の事業でパッケージにトレーサビリティのQRコードを導入しましたが、判断はお客様次第です。
 さらにもう一つの課題は、ウニによる「磯焼け」です。「磯焼け」とは、大型の海藻の大部分が沿岸の一部で枯れてしまう現象で、藻を食べてつくしてしまうウニによる「⾷害」はその原因の一つとなっています。磯焼けの進⾏を止めるために、全国でウニの駆除が推奨されていますが、駆除されたウニは身がやせており、商品価値がなく廃棄されているのが実情です。
 そこで、北三陸ファクトリーは、こうしたウニを使った「うに再生養殖」の事業を開始。北海道大学をはじめとした研究機関や事業者との協力のもと、この痩せウニを再生するための配合飼料や育てるためのカゴを開発し、特許を取得しました。実績として、北海道八雲町の漁師さんとの取り組みでは、廃棄に5円かかっていたウニを500円で流通できる事業を整えることができました。
 磯焼けは世界中の問題です。5年ほど前にオーストラリアで調査を行い、三陸の技術が世界で有用なことを確認。2023年4月には、オーストラリアで現地法人を立ち上げ、水産業の技術開発に投資しています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井  氏:目の付け所や「うに牧場」等、覚えやすいネーミングも素晴らしいです。
    この事業の付加価値等もあれば教えてください。
  • 下苧坪 氏:洋野町には、本州で唯一のウニ種苗センターがあり、年間250万個を孵化させて放流しています。最初の1年は陸上で、2〜3年目に海で6cmほどまで育て、他ならそこで刈り獲るところを、もう一度「うに牧場」に戻して育て、4〜5年で出荷しています。そういった取り組みのおかげで、日本で唯一殻つきで出荷できる地域になっています。
講師
株式会社ヤマナカ
代表取締役会長
髙田 慎司
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 ヤマナカは2007年に創業し、翌年2008年に法人化しました。設立当初より養殖水産物に特化した事業構築を行い、国内はもちろん、アメリカ・中国・シンガポール等計13カ国への輸出をおこなっています。2019年にはベトナムに現地法人も設置し、生産から販売まで一貫した牡蠣養殖システムを構築しています。

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 宮城県は、ホヤ、ワカメ、ホタテ、牡蠣、海苔等を養殖していますが、養殖業者は減る一方です。2010年には約4,205名いた生産者も、震災の影響もあって2015年には2,521名まで減少しています。
 特に牡蠣の生産者は2010年には1,141名に対し、2021年には399名まで減りました。生産額も去年は牡蠣の価格高騰のため数字としては戻ったように見えますが、生産量は1/3程度で、低所得・剥き子不足・高齢化・担い手不足等の問題が重なり、生産者は減少の一途をたどっています。
 また、ヤマナカの主力商品は宮城県産の養殖ホタテですが、温暖化による海洋環境の変化によって、原因不明のへい死が発生。さらに毒性プランクトンによる貝毒で長期間の出荷停止が重なった2018年の水揚げは最盛期の1/4にまで減少しました。
 この対策として、宮城県では2018年に自主規制の一部を緩和し、認証を受けた会社が処理し、貝柱なら流通できるようになりました。すると、一斉に貝柱だけが国内市場に供給され、値崩れを起こしました。
 そこで、弊社は設備投資して冷凍し、直接輸出を行うことで、地域の事業者にも利益を落とし、漁業者の所得向上に繋げる活動を行っています。

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 まだ準備段階ですが、高水温に耐性を持つホタテ稚貝の陸上養殖の研究を、研究施設や大学と連携しながら進めています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:なぜ養殖に目をつけられたのでしょう。
  • 髙田 氏:創業当時、漁業は豊漁であれば値段が下がり、少なければ高くなるというものでした。
    しかし、養殖水産物なら、生産者数等を把握すれば、取り扱い数の計算が立ちます。
    確実な事業計画を目指したことがきっかけでした。
講師
株式会社マルリフーズ
営業部 部長
阿部 純也
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 マルリフーズは、福島県の相馬市にある海水と川水が混ざった汽水域松川浦辺りに会社があります。
 1993年の創業からアオサの高品質加工を行ってきました。原料は主に福島県産ですが、被災時にお世話になった愛知県産も一部使用しています。
 マルリフーズの課題は、原料となる松川浦あおさの生産量が減少したことです。松川浦あおさは、震災前、全国第2位の生産量を誇っていましたが、現在は当時の2割程度にまで減少してしまいました。
 もうひとつは、新たな販路の開拓が進んでいないことです。そのため、これまでずっと業務製品一筋でやってきましたが、販路開拓に向けた活動の一環として、2020年には、BtoCの商品開発を開始しました。相馬の漁師の浜言葉で「ものすごい」という意味の「すてっぱず」という言葉を使って、「すてっぱず松川浦」という地域ブランドを立ち上げ、国内は元より、世界にも売り出そうとしています。
 日本発の食品安全規格であるJFS-B規格や、マリン・エコラベル・ジャパン(MEL)認証も取得し、安全性もアピールできるように努めています。
 今後も生産量だけでなく品質等にもこだわりながら、売り先や販売方法を変えながら売上の向上を目指していきます。
 この他にも、1日あたり10kgほどのアオサの残渣が出ますが、これまでは飼料活用等に活用されてきました。しかし、今後は、さらなる有効活用研究を、地元の大学や高校等に協力を仰ぎ進めています。

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<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:アオサの残渣の話がでていました、残渣の活用方法として、乾燥パウダーという手段もあります。
    乾燥パウダーにするのには、高温(80℃)で処理する方法が一般的なのですが、栄養素が9割程度も飛んでしまいます。しかし、低温乾燥法であれば栄養価も残りますので、水産加工業の皆様も乾燥パウダーにする際はこういった点も考慮してみてください。

多魚種漁獲漁業、海洋環境の変化に対する展望

講師
岩手大学 農学部
准教授
石村 学志
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 日本の沿岸漁業の多くは、多魚種漁獲漁業です。定置網漁業や底曳漁業は、海洋環境の変化と共に資源量や分布の変化で主要漁獲が大きく変わり、水産加工業にも影響を与えています。
 その中にあって、宮古の底曳漁業には他と圧倒的に違う点があります。年間漁獲量の変動はあるものの、漁獲高は上がり続けています。日帰り操業で限られた漁場や、特定の魚種は追いかけません。震災後、マダラが小さくなった等の魚種の変遷はあっても、漁獲量と漁獲高の主要漁獲の魚種の変遷が、時間軸と一致しないのが特徴です。
 震災、コロナ、海洋環境変遷といった困難を経験しても、漁獲高を伸ばすことができた要因は、魚の漁獲位置が変わり続ける日本の海を受け入れたゆえの多種漁獲だからと考えています。単なる種類の多さではなく、魚それぞれが代替されない価値を持つことで成り立ちます。
 日本には四季があり、寒流暖流が入り乱れています。変化し続ける海や魚種、魚食の多様性により、多魚種漁獲業も漁業だけではなく、経済活動として、海から社会に、加工業は漁港から消費者までの一連の流れを、この多様性でも継いでいくものと考えます。おそらく困難な時期はまた訪れます。その中で、また日本の海から考え、そこに応じた形が何か、そうした議論を作っていきたいと考えています。

<柳井 雅也ファシリテーターからの一言>

  • 柳井 氏:僕たちは漁獲量等全体の方を見る傾向があります。
    魚種に目をつけ、変わっていくところも大事だという気づきを与えていただきました。