令和4年9月13日、14日に、「東北復興水産加工品展示商談会2022」のプレゼンステージにおいて、「プレ三陸水産イノベーションサミット2022」と題した、セミナーが開催されました。 本セミナーは、三陸・常磐の最前線でイノベーションを牽引する多彩なイノベーターに登壇していただき、事例紹介を交えて、三陸の水産業について講演されました。
フィッシャーマン・ジャパン グループは、東日本大震災発生後に地元の漁師達と共に立ち上げた会社です。 水産業はこれまで3K(キツイ・汚い・危険)といったマイナス要素がありましたが、これを新3K(カッコいい・稼げる・革新的)に変えたいということを活動理念に掲げ、三陸に多様な能力を持つフィッシャーマン(異業種も含めた水産業に係る方々)を1,000人増やしたいと考え、2014年に一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンを設立し、担い手育成、各種プロモーション、インターン・副業など、様々な人を巻き込むことを目的に活動を開始しました。 しかし活動を進める中で、水産現場から人がいなくなったのは、儲からないという理由が根底にあり、担い手を増やす活動やPR活動だけでなく、新しい商売の形を作ってかなければいけないということに気づき、2016年に販売部門として株式会社フィッシャーマン・ジャパン・マーケティングを分社化しました。国内・海外での東北の鮮魚・水産加工品等の売買、自社直営の飲食店、東北の農林水産物の輸出支援の他、コンサル事業として、各種リサーチ、技術指導、販路支援、イベント企画なども展開しています。
三陸の水産会社が外部環境の変化に対応し、さらにイノベーションを起こすには、多様な能力を持った方々をもっと三陸に呼び込む必要があると考えています。 そのためには、震災を機に最新技術を用いた商品を提供する会社が増えたことなどを全国に発信していくことが重要と考え、そのきっかけ作りとして「三陸水産イノベーションサミット」と題したオンラインイベントを開催しています。 「水産業×SDGs」、「水産業×DX」、「水産業×地方創生」といったテーマの下、三陸で活動する先進的な水産事業者に登壇して三陸で起きているイノベーションについて発信して頂いています。
弊社は岩手県洋野町に拠点に、水産原料卸・加工を展開する株式会社ひろの屋(2010年創業)、ひろの屋の子会社である株式会社北三陸ファクトリー(2018年創業)の2社体制で事業を進めています。 岩手県洋野町は古くから「ウニの増殖溝」と呼ばれるウニの畜養場があります。最近では「ウニ牧場」というネーミングが浸透しつつありますが、本州一の生産量を誇るウニの大産地です。ウニ養殖は4年サイクルで、最初に稚魚を陸上で孵化させから、沖に放流して3年が経つと6㎝程度まで成長します。それをウニ牧場に移して1年間で出荷サイズまで育てています。私はこの洋野町で育ったウニを世界に発信すべく、「地域と水産業の未来を創る」といった存在意義・ミッションに掲げて創業しました。 北三陸エリアでは国際規格を取得している工場が少ないなか、弊社ではFSSC、ISO、JFS-Cを同時取得した工場を有し、地域を代表する「洋野うに牧場の四年うに」(塩水ウニ)などを製造しています。この他にも、キタムラサキウニと小岩井農場発酵バターで製造した「UNI&岩手産バターSPREAD」(無添加ウニバター)は、農林水産大臣賞を受賞した商品です。
担い手不足、資源管理、産地偽装、魚価低迷、魚食離れ、温暖化、DXなど様々な課題があるなか、沿岸漁業に最も直結する礒焼けが、大きな課題となっています。 ウニはsea urchin(海の悪ガキ、海のギャング、海のいたずらっ子)などと呼ばれ、プラスチック、タイヤ、死んだ魚など何でも食い尽くしてしまいますが、三陸の多くの海でも海藻を食い荒らしており、写真のように海藻がほぼない場所もあります。 ウニは4年が最も美味しい時期で、それ以降はどんどん味が落ち続け、どんな餌を与えても太れなくなるということが確証されています。
洋野町に限らず、日本全国でウニの生産量は減少しており、これからの時代、ウニの再生養殖は必要不可欠なものとなっています。我々はこうした課題を把握したうえで、15年にわたってウニ再生養殖の研究を進めている北海道大学様と共に、独自の飼料と生け簀の開発をスタートしました。 飼料は“ウニを育み海の未来を作る”という思いをのせた「はぐくむたね」といった名称を付け、北海道大学様、愛媛大学様、飼料メーカーと共同開発しています。主な成分は海藻由来で、昆布を食べるよりも美味しくなる餌として、特許を申請中です。一方で生け簀はしっかりとした環境の下でウニを大きく育てられるよう、漁具メーカーと共同開発し、すでに特許を取得しています。 こうした研究を基に、現在は日本各地で実証実験を実施しています。
陸上施設を活用し、歩留り3%だったウニが、2ヶ月で15%程度まで歩留まりをあげることができました。
ウニを廃棄する場合は、産業廃棄物扱いとなり、今まで1個5円もの廃棄料を支払って捨てておりましたが、たった2ヶ月の給餌で100倍もの価値がつき、道南漁協の収入は15%近くもアップすることに成功しました。これを国内のみならず世界にも展開していこうということで、現在普及活動を進めております。
ウニの殻は1キロあたり40~50円もの廃棄料を支払って捨てていましたが、北海道大学様との連携により、ウニ殻と天然ゴムを混ぜ合わせ、海藻を生やすためのリン、鉄分、マグネシウムが豊富な堆肥ブロックを開発しました。これによって昆布が繁茂するなどの影響が見られています。 昆布が育てば海中の二酸化炭素を吸収するため、今後CO2クレジット取引にも繋がっていくと思われます。近い将来CO2クレジットの法が整備され、大企業が我々からCO2クレジットを購入し、得られた収益を漁師達に還元するといった未来がまもなくやって参ります。
現在、世界の水産マーケットは伸長傾向にあります。一方で、ウニの生産量は年々減少しています。日本以上のウニ生産量を誇るオーストラリア、それからニュージーランドでさえも、ウニの生産が危機的状況にあるといったことから、再生養殖についてご相談をいただいている状況です。 これからはロードマップをしっかり見据えて、地域と水産業の未来を作り、そして売り上げだけではなく理想を持って市場を作っていく、このような思いで水産業に取り組んでいかなければ、漁師と加工業者の未来はなくなり、捕る人も作る人もいない未来が間違いなく訪れると予想しています。 このような背景を踏まえ、私達はウニの再生養殖と藻場再生にしっかりと取り組み、持続可能な仕組みで生産された海産物を展開する企業として推進したいと考えています。 私たち北三陸ファクトリーは、「リジェネラティブシーフードで地域と水産業の未来を作る」という目標を掲げて、現在動き出しております。
我々ライトハウスは、福岡に本社があり、2017年に設立いたしました。私は水産・海洋と全く異なるテクノロジー業界の出身です。事業内容は、漁業者を対象にデジタル化を支援しており、普段は漁業現場に訪問しながらお悩み事を伺い、その情報を元に漁業者向けの様々なITサービスの開発を行っています。漁業者からダイレクトにお話しを伺うため、様々な課題を見出すことができ、水産業に貢献できるサービスの開発に活かしています。今後のビジョンとしては、テクノロジーやIT技術を活用しながら、水産や漁業をより良くするサービスの展開を目指しています。
課題解決に向けて我々が提供しているサービスは現在2ブランドあり、さらに新しいサービスの展開も予定しています。
ひとつ目は「ISANA」というIT サービスで、デバイスを船に取り付けることで様々なデータを集計でき、タブレットで簡単に可視化できる仕組みです。漁業の種類の中には船団漁業者と呼ばれ、魚を探す・魚を獲る・魚を運ぶというように役割分担がなされているケースや、複数の船が協力しあって漁を行うケースがあります。そういった方々に向けて、仲間内の船がどこで漁をしているか、どこで魚が獲れそうか、次はだれがどこを探すかなど、情報をリアルタイムに共有・供給することで、コミュニケーションをサポートし、操業の協働化・効率化に寄与するサービスを提供しています。このサービスは、巻き網、船曳網、底引き網、棒受網など、あらゆる漁法で利用可能です。
さらに魚群探知機やソナーなどの海中観測機器と連携することで、操業データの記録・共有化が可能なので、反応があったポイントや反応が薄いポイントなど、魚を探す判断をサポートするような仕組みでもあります。
加えて、どこで、どういった魚が、どれだけ獲れたかという漁獲の記録をとることができ、まだ事業化検討段階ですが、例えば漁獲情報を流通会社や加工会社に共有することで、漁師と加工会社の連携を強化する仕組みも試験的に提供しています。
このサービスによって、水揚げ自体が増えた、売上が上がったといった反応が見られた他、燃料が節約できてコスト削減に繋がったなどの事例もありました。さらに、後継者育成の期間短縮や、技術を継承して世代交代するきっかけとなったとの事例もあります。
操業効率化以前に、そもそも人手不足や後継者不足で危機的状況に置かれている漁業者も多くいらっしゃいます。そういった課題解決に対して提供しているものが「WaaF」というサービスです。
これは漁業者の人材サポートを行う仕組みで、人手不足・後継者不足に悩む漁業者や、休漁期で船員を雇う余裕がない漁業者の悩みを解決するものです。そういった方々に現在転職を検討している・休漁期に仕事がないからどこかで働きたい・これから漁業をしたいが応募方法がわからないといった方々をマッチングします。実際に漁師になりたいという方は年間で1,000名超の応募があり、143名の就職実績がありました。ただし紹介するだけではなく、紹介した人材をどのように大切に育てるかといったことまで、フィッシャーマン・ジャパン様と連携しながら取り組みを広げています。
これまで水産業に向けたサービスを供給してきましたが、魚価低迷で儲からず人を雇い入れする余裕がない、自社で商品開発を進めたいが何から手を付けて良いかわからない、販路開拓はしたいが人手不足で営業活動ができないなどのお悩みを聞いているうちに、このままでは港が衰退するという危機感を感じ、この課題解決に向けたサービスの開発に着手しました。
現在までに取り組んだ事例では、牡蠣漁師やシラス漁師に瓶詰の商品開発デザイン~ブランド化~コンセプト設計~販売促進までの一連の流れでサポートを行うなど、それなりに評価をいただくことができましたが、その先どのように販売すべきか、今後どのようなビジネスを展開すべるかと悩まれる方も多くいらっしゃいました。
一方で買い手側(バイヤー)にお話を伺ったところ、独自性ある商品を仕入れたいがなかなか見つからない、仕入先開拓はしたいが日々の業務に追われて開拓まで着手できない、PBや独自商品の開発を進めたいが手間がかかるので優先順位が低い、取引先の衛生基準やオペレーションが心配で簡単に取引が進まない、そもそもPRをしていない水産加工会社も多く、新規の水産加工会社を探すのにひと苦労するといった意見があり、仕入れ側は仕入れ側なりのお困りごとがあることもわかりました。
売り手側は販路を開拓したい一方、買い手側は仕入れに課題があるということで、それを解決できる仕組みとして、売り手と買い手を繋ぐ仕組みである「シーフードマッチ」を開発検討しています。受発注や在庫管理などのオペレーションを効率化する仕組みも備えていきます。単純なマッチングサービスというよりも、取引成立までサポートできる仕組みを提供していきたいと考えています。
我々は、漁業のデジタル化やIT化を開発する会社ですが、現場の課題やお悩みを伺うなかで、流通や人材に関する課題を解決しながら、漁業自体を次世代へとつなげていく仕組みを作っていきたいと考えています。最近ではサステナビリティという言葉が盛んに聞くようになりましたが、地球環境に限らず、漁師という職自体のサステナビリティといったところのほか、水産加工会社様との関係強化に努め、まず我々は、可能性に貢献していきたいと思って、取り組んでいきます。