令和4年8月31日、「最近の小売りでの消費動向と消費者のニーズについて~みやぎ生協の事例」と題した、オンラインセミナーが開催されました。
みやぎ生協は961,849名もの組合員から成る組織で、宮城県と福島県を中心に事業を行っています。世帯加入率は宮城県で74.9%、福島県で29.5%と、全国の生協で最も高い水準です。 小売業界では中堅クラスで、他にコンビニ事業、宅配事業、エネルギー事業、福祉事業なども展開しています。
コロナ禍による傾向の変化 宅配ニーズの高まりによって、2021年度における宮城生協の宅配事業は、2020年度比で103.8%、2019年度比で118.5%もの伸び率となりました。一方で、店舗売上は、客数こそ減少したものの、客単価は前年を上回ったことから、買い物の回数を減らして、1回あたりの買い物を増やすという傾向が見られています。
地域政策への転換 小売業は社会的なインフラとして価値ある商品を提供し続ける義務があります。 しかしながら、コロナ禍により世界中で生産・商流・物流網がストップし、私達バイヤーも海外に赴くことができませんでした。その結果、海外商品の欠品・品薄・相場高騰が続き、日常生活に必要な食料品や必需品が消費者の元に届かず、脆弱な環境下にあることを実感していたところです。 このことから、地域に根差したお店として産地やメーカーとのパートナーシップを重要視し、国内・地元の商品を中心とした地域政策への転換を重要視するようになりました。
ウクライナ情勢による影響 ウクライナ情勢の長期化により、特に水産物の商品不足や値上げに影響がでておりますが、ロシア産原料は代替の利かない商品が多いものの、一部消費者からの反対もあってチラシへの掲載を控えざるを得なくなったことで他国産原料への切り替えを余儀なくされ、大きな影響を受けています。
主力魚種の漁獲量減少による影響 また、主力魚種であるマグロ、カツオ、イカなどの漁獲量は1984年をピークに年々減り続けており、秋商戦の主役であるサンマは昨年の3分の1程度まで減少し、加熱用のみの販売となるなど、非常に苦戦を強いられています。
【主な主力魚種の変化】 マグロ …前年比が115%。100gあたりの売価は、5年前/498円→現在/580円 生カツオ…前年比が120% ウナギ …前年比が中国産/120%、国産/110% タコ …110% イカ …漁獲量が5年前比3~4割減で、水産分野、菓子分野(珍味)に影響 塩紅鮭 …一切れあたりの売価、5年前/約130円、現在/200円以上
主力魚種は今後ますます漁獲が減少し、値上率が高くなるであろうと予測しています。一方でサワラなどは漁獲量も増えつつあり、主力魚種から代替販売できる魚種を見極めて戦略を練る必要があります。
様々な情勢を踏まえて、みやぎ生協では3つの柱を軸に、地域に根差した商品政策への転換を進めています。
プライベートブランド「めぐみ野」 産地直結型で、生産者の顔と暮らしが見える、製造工程がわかる、生産者や産地との交流がある、の3つの条件を満たした商品を「めぐみ野」に認定し、独自のロゴマークをつけて販売しています。店舗事業800億円の事業規模のうち、100億円の売上規模を目標に設定していることから、将来的には店舗売場の至るところでブランド商品が並ぶことが現在の目標です。
・ホヤ 宮城県はホヤの一大産地ですが、東日本大震災後の消費拡大・生産量回復を目的に、商品開発にも重点をおいています。生協で取り組んでいる「環境を守り育てる活動」の一環で、南三陸町の貞任山を「こ~ぷの森」と名付け、植樹活動を行っていますが、この貞任山から流れる栄養豊富な水で育った南三陸産のホヤを販売しています。 また、どうやって外殻を剥いてよいのか分からないというご意見を参考に、「むきほや」を商品開発した結果、殻が剥いてあるだけで沢山食べられると好評でした。 この他にも「朝どりほや」は、仙台卸売市場内の仲卸会社に協力を依頼し、朝どりの高鮮度な状態で販売しています。宮城県でなければ販売できない商品で、全店ではなく、1~2店舗程度のごく一部で販売できれば評価されると考え、こういった事例を今後も増やしていきたいと考えています。
・北限の釜揚げしらす 宮城県がシラス漁の北限であることから、亘理町の荒浜漁港や、名取市の閖上漁港で獲れたシラスを昨年から取り扱いを始めています。静岡県内にあるシラスメーカーの指導の下、組合職員が産地を訪れ、生産者や流通業者との交流や勉強を重ね、ブランド戦略を話し合いながら発売までに至りましたが、こういったプロセスがプライベートブランドの商品開発に重要であると考えています。
プライベートブランド「古今東北」 東北の復興支援、地域活性化、販路拡大支援を目的に、東北で製造された、または獲れた商品を対象に「古今東北」ブランドに認定し販売しています。東北六県を巡るような、四季を感じられる、旬を味わえるような、素材や本来の旨みを堪能できる特別感のある商品開発を目指しています。 全国の生協はもちろんのこと、生協以外でも取り扱っていただくべく、ロゴマークにはコープや生協の名を一切いれていません。東北ではスーパーマーケットのマルト様(福島いわき市)や、ホテルのお土産コーナーでも販売しており、今年の秋からはサービスエリアにある土産店でも販売を開始する他、海外進出も視野に準備を進めています。
・おとうふかまぼこ 現在最も1番人気が商品で「おとうふかまぼこ」は、宮城県産大豆を原料に、宅配の利用登録(商品を登録するだけで注文せずとも毎週定期的に届くシステム)数で2,000個もの実績をあげています。
・高校生とのタイアップ 宮城県内の高校生に、どんなおにぎりを食べたいかといったアンケートをとり、その意見を参考に開発したおにぎりを販売したことがあります。普段は取引先やメーカーと意見交換して商品開発することがありますが、このように地元の高校生と意見交換して商品開発をすることも、地域に密着した活動のひとつと考えています。
地元ならではの、地元だからこそ販売できる商品 “今朝どり商品”や“出来立て商品”といった、大量生産はできずとも、地元ならでは、地元だからこそ販売できるような商品を普及させたいと考えています。宮城県内の各市町村と生協で包括連携協定を結んでおり、行政側から依頼があった商品などを販売していますが、このように行政とも連携もしながら、地域商品の販売拡大を目指しています。
即食商品 水産物の漁獲が減少している他、生魚の販売が伸び悩んでいる一方で、即食分野の伸び率が最も高くなってきています。最近は水産惣菜の売上供給高が右肩上がりに推移し、今後は店舗改装に伴って、設備もあらたに導入しながら、即食商品の取り扱いを広げていきたいと考えています。
また、魚コーナーでは、惣菜コーナーとは別に平台を設け、作業場に魚が美味しく調理できるフライヤーなどを導入しながら、焼く・煮る・揚げるといった魚惣菜の販売にもチャレンジしています。 本日入荷したばかりの生魚を調理して提供するといった、あくまでも魚の素材を生かした提供方法を基本としており、最近ではB級品やアラなどの今まで扱ってこなかったようなジャンルにも挑戦して、商品価値を最大限に高めながら提供しています。現在の売れ筋商品では、「にしん塩焼き」、夏場の「子持ちししゃも焼き」、総体的に売れ行きが伸びている煮魚のなかでも「さばのみそ煮」、このほか大型店では冬場の「ぶり大根」が人気で、この4アイテムの品揃えを強化しています。 ただし、現在は人員不足の観点から、できるだけ作業は簡素化させたいこともあり、惣菜品は焼くだけで商品が提供できる状態や、焼いてある状態で仕入れて陳列するだけの状態が好ましいと考えています。
この他、最近では「レディー・トゥー・クック」と言われる、ミールキッドをはじめとした、焼くだけ・加熱するだけで食べられる商品や、具材とトレーが一体となったままレンジ調理できる「レディー・トゥー・ヒート」のニーズが高まっています。
地域一番のコーナー 生協はスーパーのなかでも、中堅クラスであることから、政策の一環として、どこかの分野で一番を目指そうということで「地域一番のコーナー」を始めました。 例えば、まぐろコーナーでは、本マグロ、メバチ、ビンチョウなど、複数の品種を品揃えするような取り組みも行っています。 現在はマネキンを立てることが難しい状況であるため、商品の良さを伝えるべく、職員やメンバー向けのオンライン学習会を定期的に実施して、生協や商品のファンを増やす独自の活動なども行っています。
生協100店舗での取り組み 「サーモンとあさりの洋風煮魚」などは、チラシにメニュー提案とQRコードを加えて掲載しています。 売場に誘導・連動させると共に、検索者数の可視化が可能となったことで、品目毎のアクセス数が明確となり、チラシセール期間後に具体的な検証を繰り返し行うようになりました。コロナ禍の変化に適用して、これからも様々な商品紹介ツールを活用していきたいと考えています。
今回ご聴講いただいて消費動向と消費者のニーズを参考に、商品開発、商談に活用ください。
※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。