令和4年8月24日、第24回「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」において、「イスラム市場水産ハラルセミナー」と題したセミナーが開催されました。 本セミナーでは、現状の水産事情を交えたハラル認証の基礎知識と、今後拡大するイスラム市場に対するハラルフードの可能性について講演されました。
そもそも土の中、水の中で育った野菜・果物・穀物・水産物は、そのものがハラルです。今までハラル認証は必要ありませんでした。しかし東南アジアでイスラム教徒の所得が上がり、安心できる商品を購入したいとの要望が増え、ハラル認証商品が求められるようになりました。 ハラル認証は、統一基準がないため、どの国に輸出するかで事業者側が選ぶ必要があります。国によって認証の概念も異なります。 ハラル認証取得までのステップは、最初に製造はどこで行うか、ハラル対応原材料かを状況把握をしたうえで、つぎにハラル認証取得の可能性を探り、補助金があるかを確認し、認証団体を選択し、取得を目指す流れとなります。 日本政府は、2030年までに農林水産品の輸出額を5兆円と目標設定しており、補助金の活用も手厚くなっています。輸出相手によっては、そもそもハラル認証が必要ない可能性や選択肢もあります。
日本でも、すでにハラル認証を取得した水産会社が沢山存在します。主な事例をご紹介させていただきます。
味付けのりはみりんやお酒が含まれるのでハラル認証の対象になりにくい食材ですが、焼きのりや青さのりはハラル認証が取得しやすい食材です。
だしなどは、百円程度の単価で販売されていますが、こういった商品でさえハラル対応が進んでいますので、ハラル認証がいかに可能性あるものかということが分かります。
輸出用に賞味期限を長くするなどの工夫をしながらハラル認証を取得しました。単に認証を取得するだけでなく、イスラム教徒は辛い・甘い味付けが好まれやすい趣向を踏まえて、こういった商品開発を行っています。
ハラル認証はイスラム教徒にしか販売できないものではありません。 日本人も、イスラム教徒も、ベジタリアンにさえも販売可能です。日本は少子高齢化社会で人口が減少しますが、イスラム教徒はこれから人口が増加する可能性あるマーケットです。需要が増加する市場(国内)にも、需要が拡大する市場(海外)にも対応した商品を開発すれば、売上を伸ばすことができます。 ただし、国内展開と海外展開で考え方は分ける必要があります。日本国内ではハラル商品=イスラム教徒のイメージが強いため、ユニバーサルフードと打ち出すことで、国内・海外の両方を取り込むことができます。一方海外では、イスラム教徒がいる国を開拓する場合は、すでに沢山の水産物が流通していますので、ハラル認証を打ち出すことが必要です。
私が在籍する海外事業MDサポート本部では、日本に居住しながら、海外各国への商品供給、海外専売のプライベートブランド商品開発、開発商品・仕入れ商品の現地への貿易、海外店舗の販促活動などを行っています。 PPIHでは、2006年度から海外展開をスタートしました。海外ではアメリカ65店舗、アジア31店舗、合計96店舗を展開しています。 「ドン・キホーテ」といった日本の屋号は使用せず、アジアでは「Don Don Donki」(日本商品専門店)、「鮮選寿司」(飲食物販業)、「富田精米」「安田精米」(精米・おにぎり店)の業態を、アメリカ本土では「Don Quijote USA」(ディスカウントストア)、「MARUKAI Market」(日本商品専門店)、「TOKYO CENTRAL」(日本商品専門店・惣菜強化店)の業態を、ハワイ州では「TIMES」「SHIMA’S」(地域密着型スーパー)、「FUJIOKA'S Wine Times」(ワイン専門店)、「Gelson's」(ローカル商品・オーガニック商品中心のハイエンド層向けスーパー)といった業態で、様々な屋号・立地で、幅広い消費者を獲得すべく、事業を展開しています。
日本では、「コンビニエンス(便利)+ディスカウント(安くて)+アミューズメント(楽しい)」とのコンセプトですが、海外では「美味・健康・環境」をコンセプトに、日本産商品の良さを伝えるジャパンブランド・スペシャリティストアとして展開しています。さらに「Happiness for all from Japan」(=日本から世界の皆様に幸せをお届けする)とのストアコンセプトを立て、海外に向けて発信しています。
日本での食品売上構成は、生鮮品の取り扱いがない店舗が30%、生鮮品の取り扱いがある店舗が50%となりますが、海外では生鮮食品40%強+加工食品40%強=食品全体85%となります。 販促方法ですが、鮮魚は日本の市場で仕入れた商品をその日のうちに空輸して、店舗では市場のような臨場感ある売場演出を心掛けています。 また、定期的に日本の伝統催事を開催し、日本の食文化を紹介しつつ、潜在ニーズを引き出して、新たな需要を獲得するよう心掛けています。 一例では台湾で土用丑の日を紹介したところ、鰻の販売数が前月比2倍増といった実績がありました。その他水産物フェアとしては、各地方自治体などと連携し、これまでに東京産水産物フェア(シンガポール・香港で開催)、鹿児島カンパチフェア(アメリカで開催)といった様々な地域フェアなどを開催しました。
コロナ禍では、飲食店が規制されたことで、消費者は物販店舗で食材を購入するなど、需要の変化が見られました。PPIHではより良い日本産品を扱っていくことを心掛けた結果、購入単価・一品単価の上昇が見られました。
PPIHでは、日本の素材を即食化して食べていただき、味・良さを知っていただくことを目的に、グローサラント業態の確立を進めています。香港3店舗に出店する「鮮選寿司」(飲食物販業)では、サーモンが圧倒的な人気を誇っていますが、その他にホタテ、3貫盛り、炙りなどのキーワードが、顧客ニーズの高い商品となっています。また台湾に出店している「やすだ精米」(精米・おにぎり店)では、店舗で精米したお米を販売する他に、味・良さを知っていただくためにおにぎりとしても販売しており、日本で生まれたレシピが加わったメニューが人気商品となっています。
PPIHでは「情熱価格」といったPB商品開発を展開していますが、「顧客最優先主義の体現」といったコンセプトを設け、日本では当たり前でも、海外では当たり前ではない日本産品の魅力や、中身・使用用途を、パッケージを用いながら、分かりやすく、楽しく伝えられるような商品展開を目指しています。
開発目標としては、国毎で輸入レギュレーションが異なるため、方向性が異なります。シンガポール・香港・マカオでは、輸入規制が少ないことから、他国と異なる商品展開が中心です。タイ・台湾・アメリカでは、輸入レギュレーションをクリアしながら、味と品質を担保できる商品展開が中心です。そしてマレーシアでは、ハラル認証をクリアできる商品展開を目指していますが、これが揃うことで、すべての出店地域でPB商品が展開できるようになります。
現在のボトルネックは、①輸入規制が各国で異なること、②鮮度を維持するための物流を整備すること、③顧客の嗜好性に合致した商品を展開すること、以上の3点が主な課題と考えています。
アメリカでは、US HACCPに基づく衛生管理や、食品安全強化法の義務付けされており、需要が高い「帆立珍味貝ひも」などは、自社・委託先などでノウハウを積み重ねながら、製造にあたる必要があります。
産地直送を推進し、生産地に近い港や空港から輸出を行うことで、最速で海外にお届けする物流ルートの構築を目指しています。さらに豊洲仲卸業者と、自社の現地バイヤーでリモート商談しながら商品を選定しながら即現地輸送するなど、日本の鮮度さながらの商品を現地で展開できる仕組みも設けています。このような産地直送を強化することで、沖縄の「スギ」や「もずく」などは売上が好調となるなど、今まで脇役商品だったものが、主役商品になる可能性を秘めています。
海外顧客の嗜好性は、鮮魚:大トロやサーモン、牛肉:和牛霜降り肉など、いずれも脂ののりが良くて口の中でとろけるような食感が人気といった傾向があります。特にサーモンは、日本と海外を比較すると1店舗あたりで1ヶ月の売り上げが約14倍もの差がでています。
PPIHが運用する会員組織「Pan Pacific International Club」では、現在340社が加盟しています。主には各地域と連携協定を締結し、地域フェアの展開や、産地の素晴らしさを伝える活動しています。その他のアライアンスメニューでは、会員専用サイトで海外店舗の動画や写真を閲覧できるようにしたり、トピックス・メルマガを週次で配信したり、創業者(現会長)をはじめとするPPIH経営陣の輸出に対する考え・施策などが掲載された会報誌を発刊したりしています。
日本産品はそのものに価値があります。その日本産品の価値を海外のお客様に伝えていくことこそ、PPIHがサプライチェーンからバリューチェーンに昇華するために必要な役割であると考えています。今後も生産者、メーカー、物流業者と連携して、日本産品を海外のお客様へお届けしていきたいと考えています。
民族属性はマレー系68.8%、華人23.2%、インド系7%です。宗教はイスラム教61%で、仏教、キリスト教、ヒンドゥー教と続き、マレー系のほとんどはイスラム教徒です。言語はマレー語が基本で、英語も十分に通用する他、一部華僑では中国語が主体となります。通貨はリンギットで、2022年7月31日時点で、1リンギット=29.88円です。人口は働き盛りの若者層が多い国です。
マレーシアでは、クアラルンプール市街中心地に1号店「JONETZ by DON DON DONKI Lot10」(2021年3月開業)、2号店「JONETZ by DON DON DONKI Tropicana Gardens Mall」(2021年12月開業)を展開しています。屋号は「JONETZ by DON DON DONKI」で、ピープルブランドである「情熱価格」を前面に押し出したネーミングです。 コロナ禍では、昨年1年間ロックダウンで都市が封鎖され、市をまたぐ移動ができなくなり、営業時間・入店者数の制限などが求められましたが、2021年10月に規制が緩和され、さらに2022年4月から入国後隔離の撤廃で、海外と出入りできるようになりました。同年5月からは入国規制が解除され、現在はほぼコロナ前の状態まで戻りつつあります。
鮮魚部門の売上は、ほとんどの国でサーモンが1位を占めるなか、マレーシアでは、1位:刺身用ウニ、2位:サーモン、3位:本マグロとなっています。また寿司部門の売上では、1位:握りセット、2位:サーモン炙りセット、3位:明太マヨサーモン8貫となっています。生鮮品だけで店舗売上構成費の約30%を占めています。2号店では約500アイテムものハラル取得商品を陳列したハラル特設コーナーを設置して、消費者に伝わりやすいようにPOPで説明しています。
開業から1年を迎えて見えてきた課題としては、ハラル認証のアイテム数です。ハラル認証がなくても一定数の売上は確保できるのですが、人口の6割強がムスリムといった国民性で、ローカルはほとんどがハラル認証を取得した商品である一方、PPIHの主力である日本産品は、ほとんどが取得されていない商品です。実際に店舗来客数の95%が中華系で、マレー系の獲得ができていない状況です。ムスリムの方々に安心して購入いただくためにはハラル認証マークの商品が必要不可欠であり、こういったアイテム数がまだ少ないため、アイテムの拡充を目指しています。
あとは、これからの取り組みとして、以下の3点がポイントと考えています。
マレーシアでは、手軽に食べられる即食商品の人気が高まっていますので、このような商品の拡充が必要と考えています。
ハラル認証商品を扱っているかといって、売れる訳ではありません。商品の付加価値を店舗で情熱もって伝えていくことが重要であり、これからも売り方を工夫していく必要があると考えています。
日本国内ではチラシが主流ですが、海外ではチラシがないため、販促ツールとしてはSNS、動画、インフルエンサーなどを活用して、お客様に商品の良さを伝える必要があります。
・2022年7月にマレーシアの行事があり、店頭でホタテを串に刺して、ハラル認証の照り焼きソースに和えて販売しましたが、4日間だけで1,500本もの販売実績がありました。また、ハラル認証マークがついたウナギの蒲焼きも、数多く売れていている商品のひとつです。
・ハラル認証商品全体での売れ筋商品(2022年1月~7月期)は、上位にお菓子などが目立ちますが、10位には水産部門のフィッシュソーセージがランクインしています。店舗来客数の95%が中華系であるなか、このようにハラル認証の水産物が一定数の売上があったことを考えると、さらにハラル認証商品の取り扱い数を増やすことで可能性が拡がるものと考えています。
2022年3月より取り扱いをはじめた「和牛串」は、購入された7割がムスリムの方々で、毎日売れている商品です。ムスリム向けにハラル認証商品を取り扱うことが、どれだけ結果につながるかを再認識できた事例です。さらにSNSを活用した販促により、1日で1,000本、週末は1,500本も販売するなど、メガヒット商品となっています。
「JONETZ by DON DON DONKI」では、加工品を中心に500アイテムのハラル認証商品を提供していますが、今後もハラル市場の成長が見込まれることから、これをさらに年内までに1,000アイテムまで拡げる意向ですが、とくに水産物はまだまだ少ない状況です。 マレーシアでは約2,000万人、さらに世界では約19億人ものムスリム市場が広がっています。アジア。中東はイスラム市場にリーチするための第一歩となる地域です。PPIHでは皆様と共に、日本産のハラル商品を届けたいと考えております。
当社は水産業が盛んな静岡県焼津市に拠点を構え、3箇所の自社工場を有し、漬魚や切身などの魚の加工製造を行っています。今年3月には、漬魚切身専門の新工場が完成したばかりですが、ハラル認証を取得し、さらに今年度中にはHACCPの取得を予定しています。主な販売先は、ドン・キホーテ様やユニー様をはじめとする全国の量販店、生協様やヨシケイ様をはじめとする食材宅配などが中心となります。
当社の特徴といたしては、焼津港、清水港で獲れた魚を原料で切身加工を行っていること、-60度で魚を運搬していることから非常に鮮度が良いこと、大量に魚を購入しているので安定供給ができること、さらに加工までの時間をできるだけ短縮した体制といった点で、これらの活かした商品作りを展開しています。
ミラノ万博開催当時は、当社も人口減少、少子高齢化、資源問題といった外的要因から、将来的な不安要素を抱えていました。ちょうど工場も建て替える必要があったので、新たなマーケットを開拓するには、どういった工場とすべきか、非常に悩んでいる時期でもありました。当時は輸出がひとつの目標でしたが、まだ中小企業には無理だろうと考えており、ミラノ万博に足を運ぶことで、今後の可能性を探ろうと考えました。
2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことから、ミラノ万博開催当時は、健康志向が高まるヨーロッパで日本食ブームが起きており、日本館は4~5時間の行列ができるなど、非常に人気がありました。主に寿司人気が突出していたと記憶しています。視察を経て感じたことは、中小企業が輸出するには、物流の課題、輸出の手続き、規格表示の内容、そして何より工場のレベルなど、そういったものをどうやってクリアすれば良いのかと考えるきっかけとなりました。
ドバイ万博視察時は、ハラル認証を取得したばかりで、ハラル認証の水産物がどの程度通用するのか、中東でどういったニーズがあるのか、それからスシロー様が中東で初めて回転寿司を出店するということで、その人気ぶりを自身の目で直接確かめたいと考え、訪問いたしました。
残念ながら日本館は予約が埋まっていて、当日もかなりの行列で結局入ることができませんでしたので、隣接されているスシロー様の飲食店を訪れましたが、何より驚いたのは価格です。日本国内の回転寿司ではランチだと千円程度の価格帯ですが、現地では10皿で1万円程度の価格帯でしたが、それでも行列できるほどの人気があることを実感しました。寿司以外にB級グルメ、ラーメン、チキンの唐揚げなどのメニューがあり、豊富なメニューも人気の秘訣なのかもしれませんが、ハラル対応商品の可能性を感じることができました。
ドバイ万博翌日より「Gulfood」に出展して参りました。当社のメイン商材である漬魚切身が、現地ではどの程度のニーズがあるか、現地で売れる可能性はあるか、どのような魚が好みなのかなどのニーズ調査をかねて、以前から夢であった輸出にチャレンジするための第一歩とするために出展いたしました。
試食配布しながら、中東で好まれやすい魚種、サイズ、味つけ、包装形態、価格帯などの可能性を探ってきました。スシロー様の店舗でもラーメンにもフライを乗せていたことを見ていたので、パン粉をつけたフライ商品やカレーの味付けなどが好まれやすい傾向であると予測していますが、正直何が好まれるのかはまだ正確に掴めていない状況です。
今回の現地訪問を経て、商品の提案力にまだまだ課題があると感じています。例えば銀ダラは、現地で主流となるサイズが日本には流通されておらず、主にアメリカから流通されています。よってこのようなサイズを求められても対応が難しいといった状況です。このような要望に対しては、ひとつサイズを落とした切身を2切で並べるなど、包装やパッケージを工夫した提案であれば、チャンスは広がるであろうと感じました。さらにお好み・オリジナルの味を再現したOEM生産などで、お客様の要望に細かく対応できるとの提案方法であれば、入り込む余地は十分にあると考えています。 それから、中東では切身の血合いが苦手で、ブリやメカジキなどはどうしても赤い点(血合い)が入ってしまうのですが、ちょっとした血合いでも嫌がられるそうです。それと骨付きも食べにくいことから好まれないそうです。この点では、当社のメカジキなどは、-60℃で運搬するなど鮮度の良さが売りですので、加熱用の切身商品に限らず、刺身、しゃぶしゃぶ、すき焼き、フライ、天ぷらといった提案ができたり、ステーキカットのサイズ指定も対応可能ですし、切り落とし部分はサイコロステーキとしても提案できたり、このように幅広い商品を提案することも重要となります。 また、東アジアではマグロやカツオが捕れるため赤身が好まれやすく、中東では銀ダラやカラスガレイやサーモンなどの脂がのった魚が好まれやすい傾向にあることから、国によって求められる魚・味つけ・価格帯が異なるため、パッケージデザインなども含めて工夫する必要があります。 そして、最も課題となるのは貿易商社です。私達は輸送手続きや物流方法などに強くありませんので、そういった業務をサポートしてくれる貿易商社と組むことこそ最も重要なポイントとなります。
当社ではハラル認証を取得しましたが、これが夢への切符となり、今後大きな可能性を秘めているということを実感しています。会社の未来を創るためには、漬魚のハラル認証商品を世界に売り込み、どこまでもチャレンジしていきたいと考えています。
市文字屋與三郎は京都で創業140年の小さな八百屋ですが、私個人は野菜の食べ方提案を行うコンサルティングとしても活動し、現在はJGA、ASIAGAP、HACCP、ISO、JFSの指導や、海外輸出に関するコンサルティングを主体とし、8年ほど前から水産物を含む食品をドバイに輸出しています。
ドバイはしばらく景気が良く、コロナ前の売上は前年比1.5~2倍のペースで伸び続けていました。コロナ禍に入ってからは、1ヶ月程度のロックダウンがありましたが、入国規制もすぐに解除され、影響はそれほどありませんでした。それにコロナ禍に突入した時期はちょうど真夏のオフシーズンで、本来富裕層が海外旅行に行くなど閑散期となるはずが、渡航規制でドバイ国内に留まらざるを得なくなり、結果的には国内消費が進むなどのコロナバブルが起きました。
日本では桃やマンゴーなど、夏場に沢山の果物が収穫されるため、八百屋としては真夏の時期に売りたい果物が多いのですが、これまではオフシーズンで扱ってくれるところなどありませんでしたが、当社の主な販売先である高級ホテルでは、コロナバブルで高級果物をたくさん購入していただいたうえに、イベントの開催などで輸送頻度も増えたほどで、コロナバブルの恩恵を受けた形となりました。
11月にドバイに伺った際も、空港は例年よりも人が多く、タクシーは1~2時間待っても捕まらないほどでした。高級レストランでは高額な土地へ新たに2~3軒の出店を考えるようなお話も聞きましたし、一部ホテルではオーシャンビューが見える特別室のチャージ料が、以前は80万程度だったものが、180万に値上げしても3ヶ月先まで予約で埋まっているので、さらに280万まで値上げしても1ヶ月先まで予約が埋まっているといった状況でした。
コロナバブルはすでに終了していますが、今年のオフシーズンも例年より売り上げが良く、様々な要望をいただき、国内を必死で探し回っている状況が続いています。これもオフシーズンを開拓できたことが大きな要因と考えています。
八百屋ながら、最も売れ行きが良いのは和牛の精肉で、続いて冷凍貝柱です。輸出を開始した当初は100~300kgでしたが、現在では年間で2tを超え、年間契約を結んでいる状況です。 最近では注文内容にも少しずつ変化が生じていて、高級ホテルからは、白ミル貝、小持ちニシンサザエ、海藻などの注文をいただくようになりました。日本人が普段食べている食材を、現地シェフがフランス料理などにアレンジして提供しているようです。そして問い合わせが最も多いのはウニです。小さなレストランでさえ、週に80枚の注文をいただくほど、非常に人気が高まっています。 マグロは、大トロの部位への要望が多いのですが、前提として持続可能な証明書が求められるなど、魚種によっては証明書が求められます。とくに餌についての説明も求められ、漁港の方に餌の中身まで詳しく記載された判付きの証明書を準備していただき、水産庁まで通して証明書を仕上げています。ドバイはヨーロッパ色が強く、輸入規制やEU HACCPなど、ヨーロッパの基準を採用するホテルやショップのオーナーも多く、輸出はできてもオーナーの許可がないと購入まで至りません。 現在要望として多いのは、漁港とかで見かけるトロ箱のように、いろんな魚が雑多に入っているものを取り寄せできないかと聞かれます。代表的な日本産水産物は、ハマチ、マグロ、カンパチ、サーモンなどが挙げられますが、どこも同じような魚を提案されるので、異なる魚種を求められるようになりました。しかし、魚は探す時間と届ける時間のタイムリー差が少ないため、生産者の努力なくして実現できるものではありません。水産物は畜産物以上に要望があるのですが、そのうち65%もお届けできていないのが現状で、当社が水産部門で最も苦労している部分です。
2020年11月にドバイ万博を訪れました。万博自体はさすが広かったので全てを見ることはできませんでしたが、日本館とスシロー様の店舗を視察してきました。日本パビリオンは他国と比べると非常に小さいのですが、現地でも非常に好評でした。待合室では日本語・英語・現地語の翻訳機を渡され、「春、夏、秋、冬」の部屋から好きな部屋に入ることができます。部屋によって日本の歴史や、漫画文化などと分かれていますが、すべて翻訳機で紹介してくれます。最後に2025年大阪万博に繋がる部屋ということで、関西圏の特産品などが地域毎にパネルで紹介され、約1時間程度の体験となっていました。 つぎにスシロー様の店舗を訪れました。日本人には信じがたい価格設定でしたが、ドバイで提携している会社のスタッフに聞くと、ドバイでは通常の1/5程度の価格だそうで、こんな安く寿司が食べられるなら毎日でも行きたいと言っていたほどです。その位ドバイのお寿司は価格が高いそうです。 もっとも素晴らしかったのは、スタッフが全員日本人で、英語も非常に堪能で、日本独自の接客方法でした。時間も細かく案内されていたので、日本らしいサービスに感動しました。メニューも味も日本とさほど変わらず、システムも全く一緒でした。現地の方からは、値段が安くて、日本人のきめ細かいサービスに感動していたので、日本人として誇らしいと感じました。
スシロー様の海外事業展開がこの先どうなるかは分かりません。過去にブルガリアホテル様が出資された、ドバイ唯一の寿司専門店を立ち上げる際に、シェフから色々とお話しを伺ったのですが、良い魚を仕入れたくても、生魚の提供には様々な許可をとる必要があり、魚が良いだけでは通用しないと仰っていましたので、これからまだまだご苦労はあるかと思います。
令和4年8月25日に、第24回 「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」にて、「古くて新しい実力食材『ほや』マイナー食材活用で固定客が増えた店」と題したオンラインセミナーが開催されました。 本セミナーは、宮城県における“ほや”の現状と販路開拓に向けた取り組み、飲食店での提供事例等について講演されました。
ほやほや学会では、東北の振興をミッションに掲げ、“ほや”の認知度向上、および販路拡大の取り組みをしています。主な活動内容は、“ほや”に関する情報発信、飲食店等で扱っていただくためのメニュー提案、“ほや”を広めていただく 「ほや伝動師」 の育成の他、各種様々なイベントを行っています。
昨年、宮城県内の加工会社と生産者、合計24社が「宮城ほや協議会」を立ち上げました。加工会社と生産者が一体となり、さらには宮城県庁様、宮城県漁協様、その他小売店や飲食店などにも協力をいただきながら、“ほや”を広めていくといった活動もスタートしました。
“ほや”生産量が最も多い場所は宮城県で、岩手県、青森県、北海道でも生産されています。“ほや”自体は全国各地に生息していますが、養殖などをおこない安定供給できる地域は東北と北海道に限られます。世界でも“ほや”の食文化があり、主に韓国、チリが多く、他にもフランスの沿岸部や、イタリア、ギリシャ、スペインなどでも食べられています。
日本では“まぼや”が多く、続いて天然の“アカほや”が水揚げされています。韓国にはこの2種類に加えて、エボヤやシロボヤ、カラスボヤなどというものも食されています。“ほや”は貝ではなく脊索動物であり、2,300種以上もあると言われています。
“ほや”はさまざまな養殖方法があります。天然で採苗する方法の一つとしてロープに牡蠣の殻を吊るして、種苗が浮遊する場所に沈めるという方法があります。養殖できることで、安定して出荷・供給ができる海産物です。
震災直前の2010年までは、宮城県が全国の“ほや”生産量の8割以上を占めており、岩手県、青森県、北海道と続きます。これまで、“ほや”の7割以上は韓国に輸出されていました。韓国ではメジャーに食べられている食材で、人口1人あたりの消費量に換算すると、日本と比べて約11倍もの消費量がある食材です。しかし2013年からは、韓国が東北・関東8県からの水産物に対して輸入禁止措置をとっていることから、生産量7割の消費先が一気になくなってしまい、新たな消費先を探すことが急務となっています。
現在では、全国の“ほや”生産量は総量こそ震災前と変わりませんが、2021年実績では宮城県での生産量が約50%減となった一方で、北海道での生産量は100倍にも拡大しています。北海道では2010年からすでに試験養殖を始めており、震災を経て韓国の需要が宮城県から北海道に流れたという背景があります。もし韓国側で東北・関東8県の輸入規制が解除されても、今まで通りの流通は難しい状況と考えており、新たな需要を獲得することが必要です。
しかし、困っているから食べてくださいではなく、“ほや”の実力をしっかりアピールすることが重要です。よく臭みがあると言われますが、それはあくまでも鮮度落ちしたほやであって、水揚げしたてのものはとにかく味が良く、値段が手頃で、栄養価も高く、そしてアレンジしやすい水産物でもあります。
2020年の取り組み事例では、宮城県、関東、近畿、九州エリアから、和風居酒屋、洋風居酒屋、フレンチ、イタリアンといった幅広い飲食店150店舗で、”ほやフェア”を開催しました。“ほや”の可能性を拡げるためにも、できる限り多様な食べ方を提案するよう普段から心掛けていますが、味の特徴としては、生ほやはウニに近く、加熱ほやはカニに近く、乾燥ほやはカラスミに近く、さらに殻も出汁がとれます。料理人には細かいレシピを伝えるよりも、このようなエッセンスを伝えることで、アレンジしてみようとのきっかけに繋がりやすくなります。
“ほやフェア”を開催した150店舗から3種類以上のアレンジメニューを提供した21店舗を対象にヒアリングをしました。その結果、アレンジメニューに取り扱った理由は、1位:生産者や人との出会い、2位:美味しいことがわかったのでアレンジ次第で苦手意識のある方に食べてもらいたい、3位:食材としての魅力があるなどでした。また、店舗ではどれくらいの客数が注文しているかとのヒアリングでは、1位:2~3割、2位:1割以下、3位:5割以上でした。さらにメニューに対する客評価は、回答者21店舗中、20店舗が美味しいと評価をいただきました。
“ほや”のアレンジメニューを提供している店舗事例をいくつかご紹介させていただきます。
「ほやのカルパッチョ」をはじめ、70種類以上のほやメニューを開発し、“ほや”のフルコースなども提供しています。産地見学などを通じて、できるだけ生産者の顔を見ながら質のよいほやを購入されています。
「カルパッチョ」や「フリット」を定番メニューで、「リゾット」や「ピザ」などをスポットメニューで提供されています。様々なメニュー展開ができることから、“ほや”の可能性を感じ、さらに使い勝手が良くて、圧倒的にロスが少ないとのことでした。
「ほやの一升漬け」、「ほやの天ぷら」、「炊き込みご飯」などのメニューを展開されています。“ほや”の味にほれ込み、鮮度の良い“ほや”を扱うことで、お店のイメージアップにも繋がっているそうです。
「ほやと青のりのオムレツ」を定番メニューで、「ほやのバリュエーション8種類の調味料で」をスポットメニューで提供しています。“ほや”は組み合わせ次第で異なる料理に変身するとのことで、可能性は無限大だそうです。
「ほや潮冷麺」などのメニューを提供されています。“ほや”は出汁が出やすく、そこまで試行錯誤する必要がない食材で、最近では女性のほやファンが増えているそうです。安価でこれだけ良い食材はないとおっしゃっていました。
“ほやメニュー”の展開で新規顧客やリピーターが増えた飲食店の特徴は、地域性、地産地消、生産者の顔が見える、ストーリー性があるものを重視する方が多く、それ以外にも環境問題、社会問題、食育などへの関心が高い方も多かった印象です。 ターゲット層は30代以上の食にこだわりのある客層でした。
これから販路を獲得・拡大するには、提供者側が美味しいほやを提供していかねばなりません。それには鮮度や品質を向上させる必要があり、特に初めて食べる方には鮮度が良くて臭みのないほやを食べていただきたいことから、流通面を構築する取り組みをしています。 昨年発足した「宮城ほや協議会」では、鮮度が良く、美味しいほやをブランド化しました。①温度、②水、③時間の3つ項目で一定の基準を設け、基準をクリアした“ほや”を「ほやの極み」に認定しています。“ほや”は温度が高くなりすぎると死んでしまいます。さらに真水も鮮度悪化の大きな要因です。「ほやの極み」認定品では、真水を吸わないように管理を徹底しています。
殻付きほやは、水揚げ後できるだけ早い時間に殻をむき、内臓と糞を取ることで味が担保されます。殻付きよりも、むき身で塩水につけたもの、または冷凍したものが、鮮度保持され管理しやすくなります。水揚げ2日以内での消費が可能な場所では、殻付きの消費を推奨します。それ以外の地域では、むき身の冷蔵・冷凍品を推奨していきたいと考えています。
“ほや”は栄養価も高い食材です。鉄分、亜鉛、アルツハイマー予防に役立つプラズマローゲンなどの成分が多く含まれています。このような部分も含めて、差別化できる提案もこれから説明していく必要があると考えています。
おいしいほやを皆様に提供し、飲食店の皆様にもおいしいメニューを提案することで、“ほや”を目当てにたくさんのお客様が訪れるような、Win-Winの関係構築も、これからも目指していきたいと考えています。
令和4年8月26日に、第24回 「ジャパン・インターナショナル・シーフードショー」にて、「復興水産加工業等販路回復促進事業の取組状況と事例紹介について」と題したセミナーが開催されました。 本セミナーは、復興水産加工業等販路回復促進指導事業及び水産加工業等販路回復取組支援事業の事例と、アドバイザーの支援事例、さらには放射線に関する基礎知識について講演されました。
竹葉氏より令和3年度復興水産加工業等販路回復促進指導事業及び水産加工業等販路回復取組支援事業の取組状況について説明がありました。 概要についてはこちらを参照ください。
長所伸展の考え方は、SWOT分析(※)に基づいて現在の強みや機会を把握し、3年先、5年先を見据えて、現在の強みが弱みにならないか、現在の弱みが強みに変わるのではないかを探る必要があります。時代の流れは早く、先を読むことは困難ですが、強みと機会に、時間軸もプラスして見据えることも重要な時代となりました。 ※SWOT分析…マーケティング手法のひとつで、強み、弱み、機会、脅威を掛け合わせて、自身が置かれた現状値を把握すること
自分の強みを理解して、活かせる機会を見いだせたら、次はブランディングです。 ブランディングとは、お客様に対してこう映ってほしいと感じていただくための活動で、いわゆる目印です。ブランディングイメージを認識させるまで、適切に活動する必要があります。 そのためには、商品開発を始める際にストーリー作りにも取り組まなければなりません。ストーリーを作る目的はお客様に説明するためです。ただし、毎度1~10まで説明する訳にはいかないので、お客様に認知される目印となるブランドロゴをパッケージなどに落とし込み、お客様に買い続けていただけるようにしていくことがブランディングの第1歩となります。
バブル崩壊まではモノ作りと消費はイコールで、ベネフィット(※)が、安い、早い、うまい、簡単、便利などの機能的部分に偏っていました。ところが機能が高まれば高まるほど競合他社もその機能を追いかけていくので、同等のスペックであれば当然安い方を購入します。このように機能を追求すると、最終的には価格勝負に行き着きます。 ※ベネフィット…お客様が物やサービスを使うこと、消費することで得られる満足度
2000年代には情緒的ベネフィットに移り、モノ作りからコト作り、いわゆる体験に付加価値を求める時代となりました。2010年代には意味作りと意味消費となり、モノ・コトが溢れ、隙き間時間がないほど様々な情報で溢れ、消費者は自身の暮らし、在り方を求めていくようになりました。そこで発展を遂げたのがソーシャルネットワークサービスです。ユーザー自身が発信者であると同時に受信者にもなり、自己実現が形となりました。 人々の消費行動は、マズローの欲求五段階説(※)に基づいた傾向となり、現代では「自己実現」が求められ、自分たちのライフスタイルを自ら発信し、追い求めていくといった時代になりました。 ※マズローの欲求五段階説…人間の欲求は「生理的欲求」「安全欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」の階層に分かれ、左から順に階層の欲求が満たされると、次の段階の欲求を求めるようになります。
現代では機能的便益にとどまっている限り、不毛な価格競争や高付加価値競争から脱することはできません。役に立つのではなく、意味があるというフェーズに我々は移行していかなければいけません。いわゆるコモディティ商品は機能的便益に紐づきます。 例えば、コンビニエンスストアの売場には、約4,000品目が陳列されていますが、ホチキスやハサミなどは1つのメーカーの1商品しか並んでいません。1商品に選ばれるには、価格競争を乗り越えて、高機能を乗り越えて、勝者は1社しか残らないのです。ここから脱するためには、意味のある商品としなければならないのです。意味がある商品とは、情緒的便益にかかっていながら、自己実現便益にしっかりと刺さっているものとなります。 また、タバコは今や嗜好品ですが、愛好家にとっては健康を害すると理解しながらも、意味があるから吸い続けています。高級車は雪深いところを走れず、雨の日には乗らない方もいますが、そもそも車は移動するためのものだと考えるのは機能的便益の考え方で、愛好家にとっては意味がある(=自己実現便益)考え方となります。
ブランドはこれまで目印の役割でしたが、現代では目印をさらにブランドパーパス(=ブランドの存在意義)に繋げていく必要があります。日頃から身近にある商品、長年使われ続けている商品は、馴染んだり、習慣化したりしています。メーカー側も顧客意識や帰属意識を掻き立てる手法でプロモーションを図ります。このようにお客様にとっての目的に繋がるよう、共感し続けられるような組み立て方をするのがブランドパーパスです。
水産業界では、2050年に向けて、生産者と消費者が生物の多様性を守っていかねばならない時代です。ただモノを製造するだけではなく、そのビジネスで地球環境を守っていきますというブランドパーパスを、当然ながら含めていかねばなりません。消費者の共感こそが、モノを購入し、広めていく原動力となりますので、ぜひ自らの商品やサービスに置き換えて試してみてください。
顧客価値とは、顧客との繋がりの強さを追求するものです。機能的価値は価格競争に繋がり、体験価値は顧客がより良い体験を求めるため生存競争に繋がります。つまりは、お客様と綿密にコミュニケーションを取っていきましょうということです。企業からの提案行動にのみお客様はついていきます。顧客視点やマーケットインには、その先にメーカー側がメッセージを伝え、お客様との繋がりを創出していくことが含まれます。 経営理念の見直しも必要です。老舗企業であれば創業時に掲げた経営理念は、ミッションこそ変えずとも、ビジョンやバリューは、時代に合わせて変えていいものです。経営理念自体が現代にそぐわないのであれば、当然テコ入れをしていき、将来を見据えて新しく制定することも重要です。特に環境意識が高まる中、お客様が現在何を求めているかは、環境負荷が低い、持続可能というワードに紐づく消費行動が高まっていますので、そこに視点を傾けてみてください。
最近よく地産地消というフレーズがでますが、このフレーズは「地産」「外消」「地引」「地商」という流れがワンセットです。地域で見出したものはその地域で消費するだけではなく、一旦外消してみて、地元に人、モノ、情報などを還元することが必要です。地域にお客様が集まる場や機会を、地域の方々が協働して作り上げることが必要です。例えば、今までは工場から市場を経由してお客様に届いていたものが、工場の直売所などで、そこに来たお客様しか味わえない体験を創造することで、付加価値が非常に高まるなどの取り組みもあります。
商品にストーリーをもたせることは、販売戦略に効果的です。ストーリーとは、①原料の素晴らしさや希少性、②(農業分野)栽培や農法などのこだわり、③加工製造技術のこだわり、④地域の伝統や郷土料理の視点、⑤地域力(歴史、風土、生活文化等)の視点、⑥健康機能の視点、⑦メーカーを含む生産者自身の歴史の7つが挙げられます。モノを売りたいのであれば、モノを作っている人を語れという格言がありますが、単にモノを売ろうとするのではなく、モノを作るその人自身を語っていくことがストーリーになってきますので、ぜひ意識してみてください。
岩手県野田村はホタテやサケの稚魚の養殖地で、東日本大震災で全て流されましたが、インフラ面での復興が早い地域でした。復興のシンボルとなるようなコンテンツ作りが必要ということで、「野田村のホタテ和風ドレッシング」の開発に携わりました。野田村のホタテと野田村の塩を掛け合わせ、原料の24%がホタテでできています。従来はエキスを少量垂らす程度のものを、あえて一夜干しした野田村産ホタテを使い、芳醇かつ濃厚な味に仕上げました。
これを復興水産販路回復アドバイザーの同期メンバーにナチュラルローソン様の商品部長がいたので、相談を持ち掛けたところ、採用が決定して販売まで至りました。100店舗規模ということもあり、供給量が原料の価値を棄損せずにお客様に届けられる限界値でもありましたので、背伸びせず、着実に販路が構築できる適正なアビリティでもありました。 さらに、ナチュラローソン様は女性をターゲットとしており、「毎日だから大切に。女性を中心に美しく健康で快適なライフスタイルを身近でサポートするお店です。」がテーマでしたので、特産性の高い地域資源で、こだわった原料で、無添加かつ化学調味料を一切使用していない、ホタテならではの風味と芳醇な味ということで、当時は大ヒット商品となりました。
千葉県大網白里町で真イワシの丸干しを製造する水産会社様があり、実直に製造に取り組まれているのですが、震災以降はお客様が離れてしまって、反路回復が難しいとのご相談をいただきました。商品の品質は十分でしたが、商品のストーリーに乏しく、このままでは難しい状況でした。 それで着目したのは九十九里がサーファーの聖地という立地を活かし、専務の趣味でもあったサーファー×バーベキューというフィールドに付加価値を見出したらどうかとご提案をさせていただきました。サーファーがバーベキューする際に、真イワシの丸干しを串刺しにして食べる光景を、九十九里で展開してみてはということで、これに向けて現在準備を進めているところです。これこそ自分の強みを生かせる機会を見出すことに繋がりました。やがては地域全体としてブランディングを施していくことで、一般ユーザーの認知に繋がる可能性を見出すことができました。
マーケティングのプロセスとして、先ずは自分の現状値を知り、自分の強みを把握して、自分の得意とするステージを見つけなければなりません。その上でお客様を見つけていきましょう。 お客様と言っても1億人を相手する訳にはいきませんし、皆に好かれる必要はありませんので、自身にとって帰属意識の高いロイヤルカスタマーを10人、100人と見つけ、そのために必要な戦術として、価格、売る場所、どのようにお届けするかなどを考えていきながら、実行して、さらにレビューを見て改善していくといった諸活動全てがマーケティングとなります。
「ベクレル」と「シーベルト」は、食品からの被ばく量を計算する際によく用いられますが、「ベクレル」は放射能の単位で、数値が大きいほど多くの放射線が出ていることを意味しています。一方で「シーベルト」は人が受ける被ばく線量の単位で、数値が大きいほど体に受ける影響が大きいことを意味しています。 キャッチボールに例えると、「ベクレル」がボールを受けた回数、「シーベルト」がボールを受けた体の影響に値します。「シーベルト=体の影響」は、ボールのスピードや硬さで異なるため、値(被ばく線量)を割り出す際は係数が必要で、体内に取り込んだ「ベクレル」に「実効線量係数」をかけることで、「シーベルト」が算出されます。
ヨーロッパ各国の自然放射線量の年間被ばく量を比較すると、日本(約2.1ミリシーベルト)に比べて、ヨーロッパ各国の年間被ばく量が高いことが分かります。 日本政府は2012年に、食品からの年間被ばく量を年間1ミリシーベルト以下に抑える目標を立てました。これは、放射線に関する専門家の集まりであるICRP(国際放射線防護委員会)が、世界各国の自然からの被ばく量の差を踏まえ、だれでも受入可能な追加被ばく量の目安として設定されたものです。 食品からの年間被ばく量を1ミリシーベルト以下に抑えるために、100ベクレル/kgが基準値として設定されました。これを超過した食品は、回収および状況に応じた出荷制限を行い、基準値が安定的に下回るまで出荷を再開できません。
厚生労働省、コープふくしま、福島県で、食事に含まれる放射性セシウムの調査が行われ、年間被ばく量は、いずれも目標の1パーセントである0.01ミリシーベルト未満であることが確認されています。
地元産および近隣県産の食材を簡単調理したものを測定した結果、1年間食べ続けた場合の最大年間被ばく量0.0009ミリシーベルト。
福島県内の一般家庭で料理したものを測定した結果、すべて検出限界値が1ベクレル/kg未満で、1年間2 kgを毎日食べ続けた場合の年間被ばく量は0.0095ミリシーベルト。
福島県内の対象者を選定し、1日間の飲食物と同じものを測定した結果、サンプルと同じものを1年間食べ続けた場合の最大年間被ばく量は0.003ミリシーベルト。 さらに「放射線セシウム」および「ストロンチウム90」の1日あたりの摂取量調査結果は、1960年代以降減少傾向で、「放射線セシウム」は福島第一原発事故が発生した2011年以降に年々低下、「ストロンチウム90」は事故発生前と変化はありませんでした。
福島県産魚介類に含まれる放射性セシウムの検査は、「福島県による公的検査」と「漁協による自主検査」が行われています。 福島県による公的検査では、出荷制限魚種を含めた定期的な検査を実施し、万が一国の基準値100ベクレル/kgを超過した場合は、国から出荷制限が指示され、基準値を安定的に下回るまで出荷制限が継続されます。 漁協による自主検査では、出荷予定の全魚種を対象に水揚げ日毎に検査を実施し、国の基準値よりもさらに厳しい50ベクレル/kgを超過した場合は、出荷自粛をして基準値を安定的に下回るまで出荷自粛が継続されます。このように行政と漁協が協力しあい、基準値を超過した魚介類を流通させない体制がとられています。
福島県産魚介類の放射線セシウム濃度に関する検査は、最大では2016年度で9,000件近く、直近の2021年でも4,000件近くの検査を実施しております。 基準値を超過した件数は、2011年度は全体の3分の2程度でしたが、2015年度以降は4件で、放射性セシウム濃度と共に減少しています。これにより検出限界未満の全体割合は、事故直後の2011年で全体の2割程度だったのに対し、2017年以降は全体の99パーセントで基準値の1割以下となりました。 なお2018年に行われた、全国漁業協同組合連合会で詳細検査では、全体の約8割が5ベクレル/kg以下の数値となっています。漁協の自主検査でも2021年度は年間2万件近くの検査がされていますが、ほとんどが50ベクレル/kg以下です。 これまでの説明を踏まえ、福島県の魚介類を食べても問題がないことをご理解いただけたかと思います。福島県産の魚介類は美味しいものがたくさんありますので、機会があればご賞味ください。