平成28年2月18日にシーフードショー大阪にて「水産加工品の販路回復・開拓並びに新商品開発等に係る取組事例紹介」というテーマで販路拡大セミナーが開催されました。 被災地の水産加工業者やアドバイザーから販路回復・開拓に向けて行ってきた取組や、現在の被災地の取組についての紹介をしていただきました。
ハード面はグループ化補助金などを利用して整っており、生産能力は震災前に比べて100%以上。企業数は減っているものの一つ一つの企業が大きくなり、最新鋭の機械も導入し効率も上がっている。 問題は販路の回復、新規開拓であり、風評被害、人材不足、原料不足がネックとなっている。魚市場の設備は完成したものの、水揚げ量が70~80%になっており、原料となる水産物の金額も底上げされているために、魚市場の売上は回復しているが、陸上の加工を行う業者は苦しんでいるのが現状である。
震災によって全工場と生産設備が壊滅。できるだけ販路を失わないために同年の秋には、石巻専修大学の先生と協力して、東北地方の比較的被害が少ない他社工場にてOEM生産を行った。自社工場が完成するまでOEM生産で繋いだ。
被災企業が20社程で構成している石巻元気復興センター。震災後、取扱いアイテムが少ない状態の中、1社単独売場をつくることは難しいが、水産加工、食品関係の製造会社10数社で集まり、各社2~3品を持ち込むと40品程度になるので売場ができ、石巻フェア・東北フェアなど行う事ができた。また、震災の翌年の2012年にはシーフードショー大阪にも出展を行った。
東北復興支援プロジェクト「希望の環」。生産者同士、小売店、消費者、その他支援者との4つの環を拡げ、未来への「希望」を共有し、復興を目指すプロジェクト。生産者直売の取引を得意とする会社が石巻の食品製造業者数社を取りまとめて販売を行っている。
「石巻から日本全国、そして世界中に安心・安全な“うまいもの”を届ける」をコンセプトに商品開発主体で集まってやっていこうとキリン絆プロジェクト補助金で立ち上げた。最終商品を持っている会社が集まって商品の開発や販売を行っている。
2013年8月に工場を再開した。今までは商品を製造するためのラインは自社工場ですべて持っていたが、地域の食品製造業者それぞれの得意分野を生かしてできるだけ工場の設備投資をダブらせないようにしようと提唱。チームとして商品開発を行っていく。おでん缶詰、カレー、サバだしラーメン等を開発した。
石巻市の水産加工業者は業務用の1次加工品を製造し販売することが多かった。震災後、最終製品を作ることが増えてきた。これまで取組の無かった新しい分野に挑戦を始めている企業が増えている。
震災前には考えたことが無かった新しいマーケットに挑戦してみようと海外向け輸出商品にも取り組んでいる。石巻魚市場買受人協同組合は、販路拡大に向けて、2015年4月にベトナム・ホーチミンを訪問し、現地の情報収集を行った。また、組合でロゴマークを作成するなどして海外輸出に向けた取組を行っている。
石巻元気復興センターではハラルに対応したサバだし ラーメンや牡蠣カレー、たらこ等を製造している。ハ ラル認証を受けているわけでないが、石巻のノンアニ マルノンアルコールフードとしてロゴマークを作成し、 売り出している。国内で定期的に試食会を行ったり、 ハラルチームメンバーがジャカルタ等イスラム圏へ行 き、情報収集など取り組んでいる。 特に、国内に在住、観光として来日したイスラム圏 の人をターゲットにしたインバウンド事業としての ハラル商品の販売に力を入れている。ハラル対応のサバだしラーメンが人気。スープはタレ屋さんと山徳平塚水産㈱で開発している。通常、麺は、アルコール入れて日持ちさせているため、ハラル対応にすると日持ちさせることが難しい。そこで山徳平塚水産の工場に持ち込んで凍結し、冷凍麺、スープ、トッピング用のサバの塩焼きを一つのセットにして販売している。
既存の売り先以外に、今後ターゲットとする市場としてイスラム圏にチャンスがあるのではないか。また、訪日観光客数も増加しているため、インバウンド需要も拡大する傾向にある。ムスリムは日本人とは味の趣向が異なるため、商品開発を行う際は、モスク(礼拝堂)に人が集まる時間を狙って試食を持っていき率直な感想を聞いて味の改良につなげていくのは取り組みやすい方法として良い。ターゲットを絞り込んだら、在留期間の短い留学生に集まってもらうのが効果的。また、ハラルに対応した調理手前の業務用商品を製造する企業は多くないため狙い目である。イスラム圏は気温の高い国が多いため、日本の観光地としては、雪の降る寒い地域が人気。そういった観光地等に売り込むのも有効である。
インバウンドに取り組み始めている人はいるが、輸出はまだまだこれから。国内で、地域でチームを組んでブランド化しているところは少ない。一方、海外に目を向けると韓国や台湾は補助金をだして輸出を強力に支援している。先に市場に乗り出したほうがチャンスは多いため、早急に取り組むべき。石巻の事例のように地域の水産物でまとめてシリーズにするのはインパクトがある。これから日本の輸出をしていくにあたって政府も取組んでいるブランド化は効果的である。イスラム圏にないものがウケるため、「日本のラーメン」に目をつけたのは良い取組である。
宮古市の共和水産㈱、㈱佐幸商店、㈲かくりき商店、㈲佐々京商店の4つの会社で震災後に形成された若手のチーム。
月に2・3回開催。仕事が終わった後、1つの事務所に集まり、20時から開始し、遅いときは0時まで新商品開発等の話し合いを行う。
家内工業に近く、時間に限りがあり、営業活動や展示会などに出て歩ける時間がとれないため、4人の中で時間を作れる人が担当して営業へ行く「営業の分業」を取り入れている。
効率化を図った各社の工場を使いながら人員を補充しあいながら加工していく。4社ともに人員不足は問題となっているため、お互いに助け合いながら製造し、販売に繋げていく。
平成23年3月の東日本大震災によって4社合計で約6億円もの被害を受けた。同年7月に㈲かくりき商店、8月に㈱佐幸商店、㈲佐々京商店の工場が再稼動し、翌年の平成24年以降㈱共和水産を軸に、原料の共同仕入れ、加工下請け等の取組を開始し、漁火を通しての活動が本格化。5月にチーム漁火を結成した。
その後、海外マーケットに目を向け、フード台北2014に4人で参加。現地での商談に成功し、「生うに」を台湾へ空輸でフレッシュのまま販売した。また、ベトナムのホーチミンに「うにいか」を、シンガポールへ「岩手県産醤油いくら」の出荷にも成功している。国内でも「宮古市新加工品コンクール」で最優秀賞受賞、「復興シーフードショー岩手」で岩手県知事特別賞受賞、「被災地の元気企業40」で復興大臣より顕彰状受賞など、国内外で活躍。震災後の売上を約10億円から約30億円まで伸ばしている。
今後は平成28年3月にかくりき商店第三工場竣工予定。また、新たな販路として、いかそうめんをボストンへ売り込んでいく予定。チーム漁火ブランドの構築や世界への販路開拓も目標としている。
右図はチーム漁火のメインポスター。ポスター内の4人が目線を上にして写っているのは「増収増益を目指して新しいものを追求しながらやっていこうという意思のあらわれ」であるとのこと。
今、ふるさと納税がとても人気になっている。人気の地域を見ると肉や魚などの生鮮品が多い。それに比べて加工品はなかなか売れない。生鮮でおいしいものを贈ると一回目は喜ばれる。しかし、2回目からは、家庭で皮むいて内臓とってという工程ができない、もしくは面倒という理由で喜ばれなくなる。ふるさと納税をやっていても究極は加工品に行く。生鮮品ばかりだと消費者にプレッシャーを与えてしまう。今のライフスタイルを見ると加工品のほうが合っているといえる。
水産加工品を作るうえで鳥巣氏が重要視するのは以下の3点
水産だけではなく地域の一次産業の人たちとどう連携していくかが大切である。地元の一次産業者が元気になって生活できるような仕組みをつくることが一番の目的で、決して自分だけが儲かればいい、大企業の下請で儲かっているからいいなどと考えるのではなく地域の人を元気に出来るかが大切になる。
野田村は岩手県九戸郡に属している太平洋に面した村で、ホタテの養殖を多く行っていた。しかし、東日本大震災による被害で全体の3分の1にあたる500世帯が流されてしまった。ホタテの販路も1年で無くなり、余ってしまったホタテを何とかして欲しいと鳥巣氏に相談があった。鳥巣氏はドレッシング作りを提案。
なぜドレッシングかというと健康志向や野菜摂取需要を背景に、日本の加工食品の調味料関係では唯一伸びている市場であるためである。また、常温で流通・販売できることも大きい。鳥巣氏は一切食品添加物を使わないで6ヶ月もつドレッシングの技術を教えている。食品添加物を使ってないので生協でも人気。
このドレッシングには薪窯直煮製法という方法で作られる、3日かけて炒った野田塩が使われている。またドレッシングの1/4はホタテで出来ている。現在では人気が高く、規格外のホタテが無くなって、通常規格のホタテを使って作っているほど。野田村の加工施設は震災によって流されてしまったので、現在村の会議室で作っている。
あまちゃんの大ブームにより久慈地域に注目が 集っていたこともあり、ドレッシングはたちまち 人気商品になった。また、オレンジページでこの ドレッシングを使ったアレンジメニュー 「ホタテチャーハン」が紹介されると、さらに 人気に火がつき、作ったらすぐ売り切れるという状態である。野田村のドレッシングは地元で650円で売り出されていている。これでも少し高いようにも感じるが、なんと東京のコンビニでは800円で販売しても人気で売れてしまうという。
今回のセミナーでは、販路回復・開拓の事例紹介ということで、今注目されている取組や今後、活かせるであろうキーワードについて学ぶことが出来ました。 チームで新たな取り組みを始めたり、既存市場とは別の販路を見いだされ、成長を続けていらっしゃるのが印象的でした。この内容を参考に販路回復・開拓に繋げていただけたらと思います。
※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。