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企業紹介第188回宮城県仙台漬魚株式会社

地元の逸品を守るため、震災を機に会社を立ち上げた

仙台漬魚株式会社の創業は、今から13年前の2012年12月。創業のきっかけは、武田さんが勤務されていた会社が、東日本大震災の被害により、事業を大幅に縮小せざるを得なくなったことでした。この縮小に伴い、当時その会社で誕生して間もなかった漬魚のブランド「仙台漬魚」の事業からも撤退することとなったのです。しかし開発当初から、輸入冷凍魚を卸す形で事業に携わっていた武田さんが、「このブランドを守りたい」という思いに駆られ、新たな会社を立ち上げ事業を継承することとなりました。

「元々勤務していた会社は仙台港のすぐ近くだったので津波の被害が深刻で、倉庫や事務所などが全滅してしまいました。会社の立て直しを図る中で漬魚はもうやめようということになりました。でも末端の消費者さん向けに、“高級路線の漬魚を作ろう”と百貨店の方の意見も取り入れて、すごく良い商品が完成していたし、扱ってくれていた百貨店や量販店からも、“ぜひ続けて欲しい”というご要望がとても多かったんです。続ければちゃんと売れていく商品だろうという確信もありました。なので元の会社から商標やロゴなどをお譲りいただいて、『仙台漬魚』を私が引き継がせてもらいました」(仙台漬魚株式会社 代表取締役 武田 胞雄さん、以下「」内同)

仙台漬魚株式会社 代表取締役 武田 胞雄さん

震災以前からこだわりの逸品として、好評を博していた仙台漬魚。その第一のこだわりポイントは調味料にあります。ブランド名ともなっている「漬魚」の大きな柱は「仙台味噌粕漬」と「仙台甘粕漬」。そのうち仙台味噌粕漬の味噌は、仙台味噌醤油株式会社のものだけを使用しています。もう1つの仙台甘粕漬で使用するのも地元の銘酒「一ノ蔵」の一番搾り粕のみに限定。販売当初、仙台味噌、一ノ蔵のラベルを貼って販売していたこともありました。

「仙台味噌は、伊達政宗公も愛した伝統のある味噌です。米麹と大豆、塩を原料とした米味噌で1年寝かせるので塩味もあるけど香ばしいのが特徴です。政宗公は朝鮮出兵の際にもこの仙台味噌を持参したとされ、仙台城築城後は城下に味噌蔵を作らせたという話も残っています。現在でも仙台味噌工業会に入会をし、正式な作り方をしているものだけが仙台味噌と呼ばれています」

第二のこだわりポイントは、原料と製法です。もともと東北の地では、獲れすぎて余った魚を味噌漬けや醤油漬けにし、保存食として利用していました。しかし仙台漬魚の仙台味噌粕漬けは、京都の西京味噌漬けに倣って開発されもの。お刺身にできるような鮮度の良い原料を使い、塩を振り丁寧に余分な水分を取ってから、美味しい調味料に漬け込みます。その後、さらに2日間ほど冷蔵で寝かせて完成します。

「開発当初から、家でおかずとして食べるというよりも、料亭や割烹でお酒の肴として食べられるような高級路線を目指していました。そのため、当初から百貨店さんなどのギフト需要が多かった商品です」

人気の「仙台味噌粕漬」ギフトセット

震災で引き継いだブランドを、
大手通販サイトのNo1に成長させる

2011年の震災時、武田さんご自身は、塩釜市の山側に住んでいたため、大きな被災はなかったのだそう。それでも、ただでさえ先行きが不安な時期に、それまで勤めあげた会社を辞め、新たに会社を立ち上げ、社長となることに不安はなかったのでしょうか?

「もともと定年を間近に控え、定年後は何か自分で新しい商売をしたいと思っていたんです。そんな時、仙台漬魚のブランドが無くなるかもしれないと聞いて。自分でもすごく良い商品だと思っていたし、百貨店や仲卸など取引先の方々からは、無くなっては困るという声が本当に多かったんですよ。皆さんが“一緒に盛りたてて行くから”と背中を押してくださったのもあって、“よし、やってみよう”と決断しました」

ブランドを守るという決意を込め、「仙台漬魚」の名を冠した社名で立ち上げた新会社。最初の5年間は、前職でお付き合いのあった会社で委託生産を行い、販売に専念しました。震災の影響で、他の三陸地方の粕漬けや味噌漬けの生産が立ち行かなくなっていたこともあって、取引先にも非常に喜ばれたのだそう。そして設立5年目に自社工場を立ち上げ、漬魚はすべて自社生産に切り替えました。工場も「薄利多売」ではなく、高品質なものを少量作ることを念頭に置いて設計。加えて、煮魚、干物など様々な新商品も、委託販売を活用しつつ開発していきました。

販路も震災直後はお中元、お歳暮などが主体でしたが、季節商品頼りでは、なかなか売上が安定しません。そのため、量販店などにも、積極的に営業を開始しました。ところが、量販店での販売は、なかなか軌道に乗らなかったのだそう。

「もともと高級路線だったこともあって、高価格帯を扱っている量販店さんとの取引を試みたのですが、うまく行かなくて。そこで、ちょうど自社工場が出来るタイミングだったこともあり、何とか新しい販路を開拓しなければと思って、通販にチャレンジしてみようと思ったんです」

自社工場を新設した2017年頃は、ECが急激に伸びた時期でもありました。その機を逃さず、まずはAmazonに出品したところ大好評。当時、漬魚の取り扱いが少なかったこともあり、5年間連続でベストセラーを獲得しました。その後、他のECサイトにも出店を請われ、主要な通販サイトに次々と進出していきます。その結果、通販事業での売上げ主力製品だったギフト商品の売上を大きく超えるまでに成長しました。

「最初は4名で始めた会社ですが、従業員も倍以上に増やすことができました。事業を引き継いだ時に比べ、一時期は売上高も3倍くらいになりましたね。ただ2020年、コロナの流行を経て、他社さんが多数、通販に進出してきました。今は漬魚を出す会社がコロナ前の3~4倍はあると思います。それに伴い、主力だった通販の売上が大きく落ち込んでしまいました」

展示会でつかんだ「西」との縁で、ECの落ち込みがV字回復

コロナを機に競合他社が参入した結果、順調だった通販事業は4割もダウンしてしまいました。ギフト需要は堅調ではあるものの、季節性が強いため安定的な売上の確保が急務となりました。

「以前は地元に近いところで売れれば良いと思って、東北と関東、せいぜい北海道くらいまでが、ウチの商圏でした。それより遠方となると運送費がかさんで利益が出ない、と二の足を踏んでいたんです。でも通販の落ち込みをカバーするために、何かしないといけない。そこで、高級路線の量販店の開拓をもう一度頑張ろうと思ったんです」

展示会の写真

仙台漬魚では、震災後、順調に販路が開拓できていたこともあり、それまで展示会には、ほとんど出ていなかったのだそう。しかし売上が落ち始め、販路開拓のための転機となればと復興水産加工業販路回復促進センター(以下、復興販路回復センター)が実施する「復興水産加工業等販路回復促進指導事業」を活用し、展示会への出展を決めます。そしてこれが、新たな顧客をつかむ大きな転機となりました。

「復興販路回復センターはアドバイザーさんがいらっしゃいますよね。その方々が展示会に来てサポートしてくれるのは本当にありがたかったです。コロナ禍だったけれど“信頼を勝ち取るために、挨拶の時はマスクをちょっと外してお顔を見せましょう”とか“名刺は下から上にあげるように”とか、お客様との接し方を細やかに教えていただいて。あとは“とにかく試食”と言われましたね。それまでは、“普通に商品を並べておけばどんなものか分かるでしょう”“ご興味があったらサンプルで”という感じだったんですが、アドバイス通りに試食を積極的にやったら、非常に反応が良かったんです」

特に需要が多かったのは、西京味噌漬け。もともと事業を継承する前からあった商品ですが、それまではあまり積極的に販売していなかったのだそう。しかしアドバイザーから「西に出すなら、絶対に西京味噌」と言われて持っていったところ大好評。試食の影響もあって品質の良さがきちんと伝わり、価値が認められたのです。

「名古屋や大阪の方は、何か良いものを探そうという意識が高いのか、帳合先の荷受けさんと一緒に来られることが多いんですよね。おかげで、商談も非常に早くまとまりました。毎回20件以上、多い時は100件くらい商談をして、そこから成約につながったものも多いです。まず試験販売をして、そこで成果が出たら全店に展開して、という感じなので1年前の商談が、ちょうど今、実を結びつつある感じです。あと、個社で出展するのと違って、三陸・常磐地域の水産加工会社がまとまってブースを出しているので、お客様から見つけてもらいやすいんじゃないかと思います」

今後は海外にも積極的に漬魚を広めていく

展示会を契機に、名古屋・大阪などでの販売実績は順調に拡大しました。現地での問屋さんとの関係性が出来たこともあり、今は岡山県、山口県など、さらに全国に販路が広がっているのだそう。結果的に、コロナ禍で落ち込んだ分の収益がカバーできるほどの規模になりました。

「今では量販事業の売上の4割が西京味噌漬けになりました。試食でも西の方には、仙台味噌はちょっと辛いみたいなんですが、西京味噌漬けは、“これ、美味しい、これ欲しい”って、即決していただけて。皆さん、試食の時に香りも確かめながら、真剣に召し上がっていました」

ちなみに仙台漬魚で扱っているのは「西京漬け」ではなく「西京味噌漬け」。西京漬けは味噌のブレンドなども自由に出来ますが、「西京味噌漬け」と名乗るには西京味噌株式会社の味噌を使わないといけません。西京味噌でも仙台味噌と同じように、調味料にこだわっているのです。

急成長した西京味噌漬け

関西に販路を広げたことで、「価値が伝わるのであれば、運送費をかけてでも商圏を広げる意味がある」と考えた武田さん。今後は海外展開を視野に入れ、台湾やシンガポールなどでの販売会を始めたり、中国やアメリカの大手ECサイトにも営業をしているのだそう。またご両親から引き継いだ田んぼでとれたお米でお酒を造り、お米やお酒と漬魚をセットにしたギフト商品も新たに開発しました。

「品質第一で、原料も一級品を使い、製造も手を抜かず丹念に作っていたら、一つ上の味を求めている人達とちゃんと出会えました。ギフトでも、毎年お電話をくれるリピーターさんがいらっしゃって、それが本当に嬉しいんです。あの時、仙台漬魚を引き継いで、本当に良かったと思っています」

震災で消滅の危機に合った仙台漬魚を、「良い商品だから続ければきっとうまく行く」と信じブランドを守り続けた武田さん。その目利き力と開発当初の製法を丁寧に守り抜く真摯さがある限り、仙台漬魚は今後も更なる発展を続けていくことでしょう。

仙台漬魚株式会社

〒985-0001 宮城県塩釜市新浜町3丁目29-7
自社製品:銀鱈、紅鮭等の味噌漬け、赤魚の粕漬け、干物、煮魚など

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。