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企業紹介第160回青森県株式会社ともや

「会社でいちばん偉いのは誰?」
ほたて加工の創業者が出した意外な答え

ほたての名産地として知られる青森県の陸奥湾。白神山地と八甲田山から流れ込む雪解け水の栄養で育ったほたては、甘みたっぷりと評判です。

「ともや」は、1968年(昭和43年)の創業。1975年に陸奥湾のそばにほたての加工場を建設してからは、陸奥湾のほたてを使用した水産加工品の製造、販売を専業としています。

ともや社長の松山知幸さんがこれまでの経緯を語ります。

「鹿児島県出身の会長(父・建夫さん)は、水産物に限らず、なめたけやだしの素など、個人商店のように幅広い商品を仕入れて売る仕事をしていました。当時はスーパーマーケットがなかったので、同じような仕事をしている人が多くいました。その後、そういう人たちがさまざまな仕事に分かれていく中で、会長は川上寄りの仕事をしたいと考え、生産加工から携われるものを模索していたみたいです」

ともやの2代目社長、松山知幸さん
ともやの2代目社長、松山知幸さん

製品を作って安定的に供給するためには、原料も安定的に仕入れられるものでなくてはいけません。そこで建夫さんは水産物以外にも数ある商材の中からほたてを選びます。その頃ちょうど、陸奥湾でほたて貝の養殖が本格化し始めたからでした。

ほたての仕入販売からスタートし、青森に工場を建設してからは、自社商品の製造販売を開始します。今では当たり前に食べられているほたてですが、加工を始めた頃は、日本人にとってあまり馴染みのない食材でした。ほたてを食べたことのない一般消費者も多く、『これって生で食べられるの?』と聞かれることもしばしば。しかし、建夫さんの先見性ある決断は見事に当たり、養殖技術の発展とともに、ほたての認知度も上がったことで、加工事業も順調に推移していきます。

「そこから当社はほぼほたて一本で成長し、1990年頃、売上高はピークを迎えました。ただその頃はまだ、仕入れたほたてをそのまま売る仕事も多かったので、利益率は高くありませんでした。そこで利益率を高めるに、自社製品の開発と製造を進める方向にシフトしていきました」(松山さん)

地酒を用いた「酒むし黄金ほたて貝」を筆頭に、スモーク、照り焼き、水煮など、現在の主要アイテム数は20以上にのぼります。ともやの製品は中央卸売市場などを通じて、ホテルや旅館、レストラン、結婚式場、量販店、給食などで扱われています。

商品開発で最も重視しているのは、美味しさだといいます。ほたての風味や旨味を活かすように工夫された製法の数々により、ともやの製品は高い顧客評価を受けています。

解凍してそのまま食べられる「酒むし黄金ほたて貝」。
地元青森の地酒を使ってうまみを閉じ込めながら蒸されたほたては身の縮みやドリップも少なく、様々な料理にアレンジしやすい。

直接的被害なくても間接的被害が長く続く

ともやでは、東日本大震災の直接的な被害はほとんど受けていません。青森工場の建物にヒビが入るなどはしましたが、工場はそのまま使用できました。震災当日、東北地方を営業で回っていた営業課長の岩口哲也さんは、当時をこう振り返ります。

「震災当日、仙台駅から東京へ戻る新幹線に乗る直前、地震が発生しました。現地では情報が全く入ってきませんでしたが、日頃から出張先で災害が起きたとき、どう行動したらいいかを自分なりに考えていたこともあって、地震発生の翌々日には山形空港より帰京することができました」

1997年入社、営業課長の岩口哲也さん
1997年入社、営業課長の岩口哲也さん

地震発生から一週間以上、東京に戻れない人もいた中で、岩口さんは事前にさまざまな経路を確認していたことで、2日で帰京し、月曜の朝礼から出勤することができました。

しかし、東京に戻った岩口さんが被害状況を確認したところ、自社の被害は少なかったものの取引先企業の被害が深刻なことが分かりました。津波被害に遭い、建物ごと失ってしまった取引先。原発事故の風評被害に苦しむ取引先も少なくありませんでした。

「これまでの販路が失われたうえ、当社も風評被害には悩まされました。特に関西方面からの注文が減りました。一部、注文が増えたところもありますが、全体で見ればやはり減った額のほうがはるかに大きかったです」(岩口さん)

ともやの売上は、他の被災企業と同様、2011年を境に下降線をたどっていきます。東北に工場があるということだけでも長期的な風評被害があったのです。

「現在も売上高の回復度でいうと71%。そしてその中身を見ると、販売先のバランスは大きく変わっています。取引先の旅館やホテルの中には倒産したところもあります」(岩口さん)

風評被害や取引先の倒産等により一度失った販路を元に戻すことは難しく、売上は思うように伸びていません。ただコロナ禍においては、これまでとは違う傾向も見られたようです。

「新型コロナウイルス感染拡大の影響で外出が控えられるようになってから、お歳暮商品の売上は伸びました。当社はもともと業務用ほたての加工が中心でしたが、家庭向けの製品、とりわけレトルト加工品の割合を高めていこうと考えました」(岩口さん)

新機材導入で震災前比131%の売上増を達成

しかし従来の機械の処理能力では、レトルト製品を増産することは困難でした。そこでともやは、販路回復取組支援事業の助成金を活用し、熱水噴流式調理殺菌装置(レトルト殺菌装置)を新たに導入します。

従来の機械よりも作業者の負担は軽くなり、加工にかかる時間も3分の2に。生産性は飛躍的に向上しました。熱水が製品にかかる精度も従来機より向上しています。

増産に向けて導入した新しい熱水噴流式調理殺菌装置
増産に向けて導入した新しい熱水噴流式調理殺菌装置

機材導入後は、従来品の増産と並行して、新商品の開発も進めました。その結果、レトルト製品に限っては、震災前比131%の売上増を達成。業務向けにおいても、外食関連からの注文は減っているものの、学校給食向けの販売が好調です。さらに、冷凍惣菜の食品工場をはじめとした新規顧客獲得にも成功しました。

また、被災地水産物流通利用促進事業を利用して参加した2020年開催のWEB商談会では、輸出商社との商談が成立し、香港のおにぎり屋さん向けに「酒蒸し黄金ほたて」を具材として輸出が開始されました。2021年11月に行われた加工食品EXPOでは大手回転すしチェーンのバイヤーとも商談を行うことできたそうです。

「今後は、これまで業務用だったものも常温流通に乗せていけたらと思います。そのためにも、展示会などに積極的に参加していきたい。今、そういったイベントに来られる方は減っていますが、その分、真剣に商品を探している方だけが来られています。実りある話ができているので、通販向け、海外向け、量販向け、それぞれ販売を伸ばしていきたいですね」(岩口さん)

ほたて貝柱水煮。貝柱をほぐしており、給食などで配膳しやすい。常温保存が可能で、異物のチェックがしやすい透明なパッケージも好評。
ほたて貝柱水煮。貝柱をほぐしており、給食などで配膳しやすい。常温保存が可能で、異物のチェックがしやすい透明なパッケージも好評。
ほたてごはんの素。アンテナショップや道の駅等で販売される人気商品。
ほたてごはんの素。
アンテナショップや道の駅等で販売される人気商品。

ともやの本社ビル1階では、お歳暮商品の販売会が定期的に開かれています。SNSで販売会を知った人など新しいお客さんも来るようになり、今夏の販売会も大盛況だったようです。

"ほたてドリーム"を実現した最大の功労者は?

ともや社長の松山さんは、もともと建設関係の会社に勤めていました。父親の会社を継ぐ考えはなかったそうです。ところが社会人になって7年ほどが経った1998年11月のこと――。

「会長が近所を散歩中に交通事故に遭ったんです。私はその日、翌年から駐在することになっていたベトナムのハノイにいました。連絡を受けて、すぐに帰りました。その後、会長は回復しましたが、当時は大騒ぎ。結局ハノイ駐在は辞退し、引き継ぎをしてから会社を辞めました」

2000年4月に、ともやに入社することになった松山さん。本社で商品づくりや販売などの経験を重ねたのち、2014年に社長に就任します。

「原料高など厳しい面もありますが、通販や輸出など新しい方面を伸ばしていきたいですね。ただ、それはあくまで既存のお客さまあってのこと。これまでのお客さまを大事にするというベースの上でやっていこうと思います」

そう述べる松山さんの脳裏には、会長の建夫さんの言葉が深く刻まれています。

「私の息子が幼稚園の頃に、『おじいちゃん、会社で一番偉いんでしょ?』と聞いたことがありました。何て答えるんだろうと思って私も聞いていましたが、会長の答えは『いちばん偉いのは、ほたてなんです』。おもしろいことを言うな、と思いました。やっぱり大切なのはお客さんであり、従業員であり、ほたてであると。本質を見失ってはいけないと思いました。会長はもともと『物を仕入れて、売る』ということをしていたので、販売が重要なことはわかっています。そして、仕入れはもっと重要だということもとわかっています。品質のよいほたてを仕入れて、しっかり加工して、それをお客さまにお届けすることが大事。我々が確かめないといけないのは、商品そのものだということです」

ほたてでビルが建つという“ほたてドリーム”を実現したともや。自分たちの足もとを見ようとする姿勢は、ほたての味とともに受け継がれているようです。

株式会社ともや

(本社)〒183-0016 東京都府中市八幡町3-17-15
(青森工場)〒038-0057青森県青森市大字西田沢字 沖津257-10
自社製品:「酒むし黄金ほたて貝」「ほたて貝柱水煮」などほたて加工品

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。