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企業紹介第152回千葉県有限会社大福商店

「房州の美味魚」を、仲間とともに盛り立てたい

房総半島の南端、東京湾に面する千葉県鋸南町。有限会社大福商店は、この地で昭和28年に誕生しました。当初はイワシを餌料として販売していましたが、昭和37年に町内の製氷工場を買い取り、製氷業にも乗り出します。その後、冷凍設備を導入し、冷凍倉庫を拡充。以降、餌料・加工原料となる冷凍イワシ・サバ等の販売、寿司ネタ用のコノシロなど食用の加工品製造、製氷業の3つを事業の柱として成長してきました。

有限会社大福商店 代表取締役 鈴木仁さん

「創業したのは、私の父親とその兄弟たちです。兄弟の父親が福松さんという名前だったので『魚福』という屋号で始め、“うおふく”という言葉がなまって、“おおふく”になり、社名も『大福商店』になったと聞いています。父の弟はバイタリティがある人で、一時期は地元だけでなく、愛知や大阪などからもコノシロを買い付けて1日70~80トンほどを扱っていたこともありました」(株式会社 大福商店 代表取締役 鈴木仁さん。以下「」内同)

現在の社長である鈴木さんは、地元の安房水産高校を卒業後、長崎大学の水産学部に進学。卒業後は、すぐに大福商店に入社しました。製造ラインを中心に、様々な仕事を手掛けましたが、中でも印象に残っているのは永谷園が販売し大ヒットした「大人シリーズ」のフリーズドライ原料で使われた東京湾生海苔の凍結事業。

もともと冷凍技術に定評のあった大福商店が地元の漁協に推薦され、最終的にはその凍結技術と品質の良さから、それまで全国数か所で生産されていたものが大福商店に一本化されたのだそうです。

ヘアピンコイル式の保管庫。
乾燥しにくく長期保管に適している

「うちは急速冷凍の設備ももちろんですが、保管庫にヘアピンコイル式という商品に直接冷気を当てない冷却方法を導入しています。通常の凍結では、製品に冷気が直接あたるので乾燥しやすいのですが、ヘアピンコイル式は冷風が直接商品に当たらないので、品物に優しく、商品が締まって長期保存もできます。生海苔は気温が上昇するとすぐに劣化してしまうのですが、製氷事業もやっているので、製造工程の中で氷をふんだんに使える強みもあり、品質を落とさず凍結ができました」

大福商店の冷凍技術は他の取引先からの評判も高く、「製品も、氷も、芯まで凍って溶けにくい」と言われることも多いのだそう。実際、大福商店の冷凍の撒き餌を仕入れたお客様から「マグロ用のバンドソーで切ったら刃がとんでしまった、鉄でも混入しているのではないか」と問い合わせが入ったこともあるのだとか。もちろん異物混入などではなく、最終的には“製品の芯まで硬く凍った凍結と保管技術”とお客様にも感心されたのだそうです。

理不尽ともいえる風評被害で、売上が大きく落ち込んだ

「震災のことは、よく覚えていますよ。ちょうど九十九里港で買い付けた真イワシが到着して、その選別をしていたら、急にスパッと電気が切れてね。停電かと思ったら、直後に大きな揺れがぐらぐらっと来て、社員に“大きいから皆、外に出ろ”って声をかけました。このあたりは震度5だったと思います」

揺れは大きかったものの、最初はすぐに電気が復旧するのではないかと待機していたのだそう。しかし、2時間以上待っても停電が続いたため、その日の作業は中断しました。翌日には停電は解消し、設備にも被害はなかったため通常の仕事に戻ろうとしたところで、原発事故による風評被害に直面したのだそうです。

「今まで餌としてカタクチイワシを西日本に売っていたんです。あれ、いつも来る電話が来ないなと思って取引先に電話したら“千葉県産のものは使えない”と言われて。『え?なんで?うちは千葉県内房の東京湾の魚ですよ、海域が違うんで問題ないですよ』、と何度も説明したけど、“千葉県産はとれないんです”の一点張りでした。震災前にストックしてあったものもダメと言われて、そんなのおかしいという話をしたのを覚えています」

数々の風評被害の中で、最も大きな痛手となったのが禁輸措置でした。大福商店ではコノシロの冷凍品を中国、韓国向けに輸出していたのです。この時も「扱っている魚は東京湾の魚であり、禁輸になっていない神奈川県産のものと同じ海域である」と主張したものの、日本国内以上に理解を得るのは難しく、現在でも禁輸対象となったままです。

ベトナムで人気の大福商店のパッケージ

その後、国内向けの事業は、品質への信頼が高かったことも幸いし、ほぼ震災前の状態に回復しました。ただし、永谷園の生海苔凍結事業はその後、縮小中止、また中国・韓国への輸出が多かったため、売上はなかなか震災前の水準には戻りません。もちろん、ただ手をこまねいていたわけではなく、エリアを拡げ他県産の魚を扱ったり、他にも、地元産の加工魚種を増やしたり、ベトナムへの輸出を強化しています。

「中国とベトナムでは人口が違うので、禁輸前の売上にはまだまだ届きませんが、今、一番伸びているのはベトナムへの冷凍サバ輸出です。魚自体の鮮度と質もいいし、ウチの冷凍技術と丁寧な作りも評価されています。あとベトナムは中華圏なので、“大福商店”という社名も縁起が良いと指名買いされるようになってきました」

冷凍ウイング車とライニング槽の導入で
輸送効率が大幅に上昇

震災後、大福商店では新たな事業を開拓することで、売上の回復を試みてきました。しかし新規事業を増やすことにも限界があります。そこで視点を変え、業務の効率化による売上拡大を目指す方向に舵を切りました。

効率化にあたり、令和2年度の販路回復取組支援事業でまず導入したのが冷凍ウイング車です。今まで運送業者に依頼して、氷は保冷トラック、魚は平ボディ車で輸送をしていましたが、温度設定が可能な冷凍ウイング車であれば、一台で原料の魚、凍結後の製品、水産氷のすべてが運べます。それにより、輸送効率・輸送コストが大幅に改善したのだそうです。

「今までのトラックと違い、ウイング車は側面がフルオープンになるので水槽が簡単に詰めるようになったんです。それに、原料がたくさん揚がると冷凍保管庫がすぐにいっぱいになってしまうんですが、冷凍ウイング車があると製品をパレットごと営業倉庫に持って行って、そこで保管することもできるようになりました。そのおかげで、魚がたくさん揚がる安い時期に、多くの原料を仕入れることができるようになりました」

新たに導入した冷凍ウイング車

あわせてライニング槽も12台購入しました。このライニング槽があることで、角氷だけでなく砕氷した状態での氷の販売が可能になりました。

「最近の工場は回転リフト対応なので、ライニング槽に砕氷で持っていくとすぐに作業ができて、お客さん側の効率も上がりました。水産業は氷が大事なので、安定供給できる体制が必要なんです。氷を出荷した帰りに原料の魚を仕入れて戻るなど、臨機応変な対応もできるようになりました。今は、冷凍ウイング車とライニング槽の組み合わせで、輸送効率が大幅に上がっています」

ライニング槽は原魚や氷の運送に役立っている

事業の効率化は「自社だけでなく地元の水産業のためにも大事」と何度も語るなど、地元への思いが強い鈴木さん。実は地元の水産業を盛り立てるため、自前で房州をアピールするステッカーを作成し、母校のOBに無償で配布。仲間を募って、みんなで房州をアピールする活動も始めています。

「ステッカーには、“房州の潮が香る美味魚”と入れました。“潮が香る”は私が卒業した安房水産高校の校歌の冒頭から拝借しました。最後の美味魚は“うまさかな”と読みます。うまい魚と、おいしいなあという感嘆の意味を掛け合わせました。五七五の口調で語呂が良く覚えてもらい易いと思って、このフレーズを考えました。皆で千葉の魚を盛り立てていければいいなと思ってね」

冷凍ウイング車の背面にも書かれている「房州の潮が香る美味魚」のロゴ。
ステッカーも作成し、母校のOBを中心に配布している

地元のため、将来のためを常に考えて動く

大福商店では、今後より付加価値の高い商品を作るため、冷凍技術のさらなる改善を目指しています。そこで着目したのが「解凍してもドリップが出ず、刺身で提供できる」瞬間凍結。そして鈴木さん、なんと市販の瞬間凍結の機械を用いずに、その状態に近い凍結を可能にするシステムを考案し、試作にも成功しているのだそう。

「これまでうちで扱ってきたのはイワシ、サバ、コノシロなど安価な魚が中心ですが、今後は新しい技術を使って、東京湾の名物である黄金アジや、キンメダイなど高額な魚を扱っていきたいと思っています。高い冷凍技術があれば、旬のおいしい時期に仕入れて、獲れたての鮮度が保たれた状態で冷凍保管し、年間を通して安定的に出荷できます。そうすればウチの利益にもなるし、地元の漁業者の助けにもなれるかもしれないと思っています」

実際、コロナ禍で外食産業がストップし、地元の養殖業は、価格が大幅に下落するなど大打撃を受けたのだそう。その時に、「値崩れさせず、買い支えて地元の産業を守りたい」と感じ、その思いが新しい技術の開発のモチベーションになったのだそうです。それ以外にも、年々漁獲の少なくなっている東京湾を「豊かな海」に戻すため、排水基準の緩和を県に掛け合うなど、鈴木さんの頭には常に地元や水産業全体のことがあるようです。

「加工に手間がかかるので量産はできないのですが、鋸南町の学校給食にスズキの切身も提供しています。おいしい魚を提供することで、魚の美味しい房州に生まれて良かったと思って欲しいんです。それに、おこがましいかもしれないけれど、魚好きの子どもを増やすことで将来の魚離れを食い止める助けになれたらいいな、なんて思っています」

自社や顧客だけでなく、地域のこと、将来のことを考えて動く。その姿勢が、今後も「房州の美味魚」の発展を支えていくことでしょう。

有限会社大福商店

〒299-2117 千葉県安房郡鋸南町勝山126
自社製品:水産物冷凍加工品(養殖魚向け餌料イワシ、冷凍サバ等)、水産加工品(寿司種用コハダ等)、水産氷

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。