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企業紹介第153回千葉県千葉県漁業協同組合連合会

銚子の素材で銚子の味を新しい発想で
地域の味を届けたい

千葉県漁業協同組合連合会(以下、JF千葉漁連)は昭和27年に設立し、現在は、23の沿海地区漁協と6つの業種別漁協などで構成され、直売店も運営。県内各地域の漁協が協力して生産力増進を図るため、さまざまな事業に取り組んでいます。東日本大震災当時は、被災地の漁港の漁船を受け入れたり、被災した海苔養殖施設の復旧を支援したりするなど漁業関係者同士の連携も深めてきました。

JF千葉漁連の事業所のひとつである銚子水産加工センターは、同会員漁協と連携し、付加価値の高い水産加工品の開発、販売を担っています。主力加工品は、冷凍貝類、サンマ開き、イワシ丸干しなど。コープデリ、パルシステム、生活クラブなどを主な販売先としています。

「現在の新工場へは2021(令和3)年2月に移転しました。同じ銚子市内にあった旧工場である銚子冷凍冷蔵工場の耐震性に問題があったことがきっかけで、時代のニーズに対応した素材・メニュー開発を推進し、消費拡大と魚食普及を図るというのも新工場建設の目的のひとつでした」(千葉県漁業協同組合連合会 販売事業部・銚子水産加工センター長 吉清一弥さん、以下、吉清さん)

新工場は、一次加工室、二次加工室、三次加工室などとラインが分かれており、とくにノンフロンの自然冷媒技術を取り入れた冷凍施設など、環境面にも配慮したつくりとなっています。

当日お話を伺った千葉県漁業協同組合連合会 販売事業部・銚子水産加工センター長の吉清一弥さん(左)と
総務部・総合管理部・調査役の土江秀治さん(右)

自主検査の強化で安全面を担保するも
風評被害で受注は激減

2011年、東日本大震災が起きた際、旧工場のあった場所も大きな揺れと津波に襲われました。工場は半壊し、約1mまで浸水、冷蔵庫にも水が入るなど大きな被害を受けましたが、その後自力で施設の復旧をし、震災前の工場稼働状況まで回復させます。

施設は復旧させたものの、震災後の東京電力福島第一原発事故により、消費者の魚介類に対する購買意欲の低下、いわゆる風評被害の影響は大きく、受注量が大きく減り、震災後は、震災前の20%減にもなりました。そのため、魚種ごとの放射能検査、安全性確認試験を実施、売り先への情報提供を徹底、また、ISO22000認証を取得し、品質保証体制の構築を図るなどの努力を行ってきました。

しかし、断続的に福島第一原発からの汚染水海洋流出などの問題が報道されるなどの影響で、販路に回復の兆しがみられるまでに5年を要し、現在も震災前の売上までには回復できない状況が続いています。

「とくに千葉県産アサリの受注減の打撃が著しかったですね。貝類には放射能がたまりやすい、といった報道などの影響も大きいと思います」(千葉県漁業協同組合連合会 総務部・総合管理部 調査役の土江秀治さん)

原発事故の影響からの安全性、信頼回復を図っている間に、海の環境や消費者のニーズも大きく変わったといいます。

「漁期の遅れや漁獲量の減少など、今までとは海の状況も変化しています。また、製品もより簡便に食べられる商品や骨抜き加工が求められるようになりました。魚は骨があるのがあたりまえ。自宅でさばいて調理するのが普通だった私のような世代の考えから脱却しなければと感じています。売上回復を達成するには、現在求められている複合的な要因に対応していかなくてはいけません」(吉清さん)

自宅にいながら銚子に旅行にきたような味を追求

売上の回復には、消費者のニーズに合わせた新商品開発が急務でした。そのようなころ、2018年に行われた全国漁業協同組合連合会(以下全漁連)主催の「第6回Fish-1グランプリ」で銚子市漁協外川支所の職員や漁師の奥さんたちでレシピを考案した「銚子つりきんめ煮炙り丼」がグランプリを受賞。“銚子つりきんめ”とは、一本釣り漁法で1尾ずつ釣り上げられ、銚子漁港に水揚げされた「キンメダイ」のこと。銚子ブランドとして市場でも高い評価を得ています。銚子の素材と味が全国で確たる評価を得たのでした。

この味を再現できないかと試行錯誤し、自宅でも湯せんするだけで食べられる「銚子つりきんめ煮炙り丼」のセットを開発。ギフトの市場開拓の足掛かりとしました。

「“銚子つりきんめ煮炙り丼”は原料のキンメダイの鮮度はもちろんのこと、炙った時の香ばしさがおいしさの決め手なんです。焼き目の付け方次第で、見た目はもちろん、味や食感が変わります。特に、どのように焼き目を付ければ旨味を最も多く閉じ込められるかについて、何度も何度も試作を繰り返しました」(吉清さん)

「第6回Fish-1グランプリ」でグランプリを受賞した
「銚子つりきんめ煮炙り丼」
「銚子つりきんめ煮炙り丼」の味を自宅でも再現できるギフトセットも販売中

同様に「銚子の素材で銚子の味を追求する」というコンセプトで、商品開発に取り組んだのが、全漁連のECサイトで出品するために開発した「金目の姿煮」でした。

「銚子市漁協女性部の協力により、地元漁師の家庭の味をベースにしつつ、銚子の料理屋で食べられているような味が出せないかと、試行錯誤を重ねました。銚子の煮つけは砂糖と醤油でどろっとしているのですが、一度食べて飽きられるような味ではなく何度も食べたくなるような味。自宅にいても銚子に旅行に来たような味を出せたらいいなと思って作りました。その点は再現できたと思っています」(吉清さん)

銚子の老舗醤油メーカー「ヒゲタ醤油」の醤油を使い、砂糖、酒、ショウガだけで煮付けたこの「ちばの釣り金目姿煮・銚子仕立て」は、好評を博し販路回復へ向けた商品開発コンセプトの土台となったのです。

銚子の料理屋で出されているような味にこだわって開発した「ちばの釣り金目姿煮」。
その後、規格を変えての商品展開を行った

煮付け商品の増産、新商品開発のため
製造ラインの整備に注力する

銚子水産加工センターでは、新工場移転を機に、この銚子の味にこだわった商品の増産体制を整え、さらに新たな商品の開発を取り組むことに。そこで導入したのがスチームコンベクションオーブンです。

加熱温度と時間を細かく設定でき、大幅な増産が可能なスチームコンベクションオーブン2台を設置、1台ずつ規格の異なる煮付け商品を1日で製造できる体制を整えました。これにより、販売先のニーズに合わせて魚のサイズを変え、さまざまな価格帯の煮付け商品の製造が可能になりました。生産能力は、導入前の約8倍になります。

写真中央のスチームコンベクションオーブンと両脇に置かれたブラストチラー。
調理後、急速に冷やすことで、菌の増えやすい温度帯に留まる時間を短くする。
隣同士に置くことで、動線が限りなく短くなり、作業負担も軽減された。

「金目の姿煮」もギフト用商品にブラッシュアップ、生協関連ほか、ふるさと納税の返礼品として使われるなど新たな販路の開拓につなげることができました。

ギフト商品として新販路開拓を実現した「金目姿煮」

銚子水産加工センターでは、加熱加工品ライン以外にも、売上回復に向けて課題解決のための体制づくりを行います。

その一つ、一次加工・魚体処理体制の強化のために導入したのが、半転機、コンベア、魚体処理作業コンベアです。これにより、作業の効率化が図られ、サバの切身300kg強/時間の製造が可能になり、従来の約1.1~1.2倍の生産能力アップが実現できました。

一次加工処理ライン。生産量は従来のおよそ1.2倍にアップした

さらに、行ったのが冷凍ハマグリなどの貝類製造ラインの機械化です。これまで、入荷後、かごに入れ一昼夜砂抜き後、翌日に洗浄したのち、選別し凍結、次の日にくっついている貝同士をばらしてIQF状にしたあと段ボールに入れる、という一連の作業をすべて手作業で行っており、体力的にも重労働だったと言います。

この工程にトンネルフリーザー搬送ライン、製函機と封函機を導入したことで、これまで8~10t製造するのに、8人で3日かかっていたものが自動化され、同人数にて2日で製造できるようになりました。

トンネルフリーザー搬送ライン(左)。製函機と封函機(右)も併せて導入したことで、ハマグリなどの貝類冷凍製品の大幅な効率化を実現

また、石などの異物混入を防ぐ作業は機械には適さず人の目が必要です。機械化によって省人化が図られ人の目が必要な選別工程に人材を投入することができるようになったのも、質の担保に大きく貢献しているそうです。

「パート従業員の高齢化も進んでいたので、体力的にもとても楽になったという声が上がっています。そこで生まれた余剰人力を、新製品開発のためにあてたいと思っています」(吉清さん)

魚本来の姿を伝えるのも役目
新しい銚子の味を食卓に届けたい

この10年の間に変化した消費者のニーズに応えていかなければならないと新商品開発に注力する一方で、「魚本来の姿を伝えるのも私たちの役目」という葛藤もある、と話す吉清さん。

「今、魚の骨抜き加工がスタンダードになりつつあります。親御さんが子どもたちに魚を食べさせたいけれど、骨があると食べてくれない、という事情もよく分かっています。ただ、魚には骨がないというのをあたりまえにはしたくないと思ってもいます。レトルト加工技術を活用して、魚本来の姿を感じながら、骨までおいしく食べられる新商品づくりができないかと構想を練っています」(吉清さん)

さらに、夢は広がります。
銚子であがるイワシ、サバを使ったつみれは、すでに商品が多数存在します。そのマーケットに参入、競合していくためには既存のマーケットにはない商品力を打ち出していく必要があります。

「箸を入れると身がほろっとくずれる、家でつくったような食感のつみれができないかと。そのつみれと、銚子産のキャベツを使って洋風のスープ仕立てにしてみたらどうか。どういう製造工程にしたら実現できるのかを考えています」(吉清さん)

吉清さんが、おいしく魚を食べる子どもたちとその家族の姿を思い描きながら、これからの新ステージに向けて語る表情は、とてもワクワクしているように見えました。

「やらないと今のままなので。おいしい魚を少しでも食べてもらえるように、まったく新しい発想で地域の味を提供していきたいですね。それが銚子の味になってくれたらいいなと思っています」(吉清さん)

魚食文化の普及という旗印をかかえるJF千葉漁連。東日本大震災、原発事故の影響を大きく受けた後、10年間の努力の積み重ねを経て、新工場での新しいステージが始まっています。

千葉県漁業協同組合連合会(銚子水産加工センター)

〒288-0831 千葉県銚子市本城町1-2-15
自社製品:貝類冷凍品(ハマグリなど)、魚類加工、冷凍品(サバ、イワシ、キンメダイ、ホウボウなど)

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。