株式会社まるたか水産は、昭和52年に現社長である高橋雄治さんのお父様により、宮城県の石巻市で創業されました。そこから40年以上、地元南三陸のカキ、ワカメ、ウニ、アサリなどの海産物を「高鮮度」「高品質」な状態で消費者に届け続けています。
「宮城の美味しいものを、獲れたての味をそのままに召し上がっていただきたいというのが私の目標です。もともと宮城の海産物は抜群だと思っていますが、それをできるだけ良い状態で届けることで、他とは違う飛び抜けた存在としてアピールしたいんです」(株式会社まるたか水産 代表取締役 高橋雄治さん、以下「」内同)
獲れたてのおいしさにこだわる理由は、高橋さん自身が「生産者」であるから。カキの種付けから水揚げまでを自社で行うため、鮮度の見極めには絶対の自信を持っています。入札で仕入れた場合も、自分の目で見て納得できる品質のものだけを厳選しています。加工の際も、剥き場から工場まで直結した生産ラインを持っているため、高い鮮度を維持することが可能です。
また、カキを衛生的に扱うため「オゾンナノバブル洗浄」も取り入れています。これは、3つの酸素原子からなるオゾンを極小微細気泡に閉じ込めて洗浄するというもの。オゾンは優れた除菌能力を持ち、有害なウイルスやバクテリアを遺伝子レベルで破壊します。そのため表面しか除菌できなかった従来の薬剤洗浄とは異なり、カキの内部にまで浸透し、丸ごと除菌することで、鮮度を保つことができるのです。オゾンナノバブルの原料は酸素ですので、食品の風味を損なわないことも魅力の一つです。
もう1つのこだわりが高湿度冷凍機による3D冷凍。一般的な急速冷凍機は冷気が一方向から流れるため、風が当たる面と当らない面で凍結速度に差が生じます。しかし3D凍結では冷気が食品全体を包み込むように当たるため、ムラなく均等に凍結することができるのです。また湿度の高い特殊な冷気で冷やすため、食品の乾燥を防ぐうえ、一般的な急速冷凍機よりも短い時間で凍結できます。そのため、凍結時に食品の傷みが少なく、解凍しても変色や型崩れしにくいのです。
「3D冷凍は、解凍した時の品質が明確に違います。こんなに違うんだと自分で実感できたので、すぐに取り入れました。お客様に自信をもって出せる商品を作りたいですからね。うちのお客様は市場、量販店に加え、生協の共同購入も多いので、おいしさを維持するための冷凍技術にはこだわりたかったんです」
まるたか水産は海にほど近い石巻市沢田地区にあります。震災時は、大規模な津波の被害により冷蔵庫、第二工場が浸水し、機器や設備に加え、保管されていた原料や製品500トンほどがすべてダメになってしまいました。しかし幸いなことに、高台にあった本社工場は津波の被害を免れたのです。
「当時使っていた二つの工場のうち、海の近くにあった第二工場は津波の被害が大きく、全く使える状況ではありませんでした。しかし、少し離れた本社工場は何とか使えたんです。従業員も家を流されるなど大変な状況でしたが、来れる人には来てもらって、急いで片づけをしました。瓦礫やダメになった原料や製品などを始末しようにも処分場が順番待ちのような状態でしたが、とにかく早く復旧をしようとみんなで協力し、夏には仕事を再開することができました」
震災から半年も経たずしての事業再開。そこまでして復旧を急いだのは、生産者とのつながりがあったからでした。実は2011年の夏、生産者仲間が漁場の復旧作業のために海に潜ったところ、全滅したと思っていたウニが僅かですが残っていたのだそうです。しかし、流通させられるほどの数は無く、何より市場自体もまだ復興していない状況だったので、せっかくのウニを活かすには仲買人の存在が必要でした。
「奇跡的に残ったウニがあっても、買う人がいないと生産者は商売になりません。自分も生産者であるからこそ、生産者の気持ちがわかるんです。だから何とかうちで買い付けて、少しでも生産者の助けになりたいと思いました。いつまでも、しょげていても仕方がない。自分も周囲の色々な人に励ましてもらったので、今度は自分が恩返しする番だと思いました」
そうして、カキの漁期が始まる10月には工場の整備も整い、カキの取り扱いも再開。カキの仲買人として2011年から仕事を始めることができたのは、全体の半分ほどだったと言います。
「震災の影響で生産者も4割ほどが仕事を辞めてしまいました。もともと高齢で震災を機に辞めた方もいるし、もう水産の仕事には関わりたくないと言う方もいます。残念ながら亡くなった方も、たくさんいます。自分たちは2階の工場が無事だったおかげで夏には仕事が再開できました。それが叶わなかった人達の分も頑張っていきたいと思いました」
震災後、通常の営業に加え、宮城県産海産物の試食販売等を首都圏などでも積極的に行ったことで、業績は震災前の8割ほどに回復してきました。しかし、震災で海の状態は大きく変化。例えば以前は多く取り扱っていたアサリも、震災後数年は全く獲れなくなりました。ウニやカキも生産者の減少などもあり、水揚げが大きく減少しています。さらに、震災前の売上の大部分を占めていた生食用の出荷は、消費者の趣向の変化により徐々に落ちていきました。そのため、既存の商品だけではこれ以上、売上を回復することは困難な状況となりました。
そこで、まるたか水産では販路回復支援事業を利用して、新たに付加価値の高い加工品を作るため、スラリーアイス製氷機、氷温冷蔵庫、スチームコンベクションオーブン、ブラストチラーなどの機器を導入しました。
まずは氷温冷蔵庫とスラリーアイス製氷機によって、氷温熟成のカキやウニの製品化にこぎつけました。氷温とは、0℃以下でも凍らない温度域である氷温域を利用して、貯蔵や加工を行うことです。凍りそうで凍らない温度域を精緻にコントロールすることにより、高鮮度保持化や高品質化が可能になります。
「氷温熟成によって、鮮度を落とさず熟成させることが可能となり、普通でも美味しい宮城の海産物を、さらにおいしく食べてもらえるようになりました。また、ただ“おいしい”とだけ言っても根拠がありませんが、この技術によって、栄養素、旨味、甘味などが、どのくらい上がったかを分析し、きちんと数字で示すようにしました。客観的なデータが加わったことで、お客様への説得力も増したと思います」
もう1つの新たな試みは、コンベクションオーブン、ブラストチラーを活用した加熱加工品の増産。今はカキチーズグラタン、カキとムール貝のオリーブ仕立て、つぶ貝のアヒージョなどを試作しているそうです。
「最近は、電子レンジで温めるだけで食べることができる簡便な商品へのニーズが高まっています。これらの製品を作ることで、より市場にあった製品を提供できるようになりました」
新たに導入した機器を使って、今後はホタテなど、ほかの魚種でも商品化してみたいと語る高橋さん。氷温熟成で旨味や甘みを増したホタテを、「高品質」「高鮮度」な3D冷凍することによって、間違いなく今までより美味しい製品ができると確信しています。
「震災で生産者も減りましたし、海洋環境の変化などもあって、以前は4,000トンくらいあったカキの水揚げは、今は1,600トンくらいに減少しています。でも悲観していても仕方がない。少ない原材料を、いかに価値ある製品にして売るかを考えるしかありません。生産者が一生懸命作ったものですから、可能な限りその良さを活かしながら商品にすることで、お客様に“宮城のカキ、ウニはやっぱりおいしい”と言って欲しいんです」
自分が思った通りの美味しいものを実際に商品化するのは、並大抵の努力ではできません。だからこそ、自分が作ったものがお客様に支持されたと知った瞬間は何ものにも代えがたい喜びを味わえるのだそうです。
「目指すのは宮城一おいしいカキ、ウニを作ることです。味に関してはどこにも負けたくない。ここのカキ、ウニは違うよねと言われたいとずっと思っています。三陸の生産者は海に生かされています。海と共に生きることを忘れずに、ずっと仕事をしていきたいです」
津波という海の被害に遭いながらも、「海とともに生きる」ことを選択し続ける高橋さん。それは生産者として、加工業者として、「三陸の海の恵み」を誰よりも知っているからこそなのでしょう。
株式会社まるたか水産
〒986-2102 宮城県石巻市沢田字流留境畑16-6 代表商品:かき、うに、つぶ貝、わかめ、なまこの加工製造販売
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。