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企業紹介第128回宮城県マルトヨ食品株式会社

天皇杯受賞の味を守りつつ、
手売りで最新のニーズをつかむ

宮城県気仙沼市のマルトヨ食品株式会社は、1952(昭和27)年の創業以来、サンマ加工を中心に事業を展開してきました。

昔は天日干しを行っており、人手も多くかかっていた

サンマのみりん干しは創業者から受け継がれた製品で、冷めてもやわらかいソフトな食感が人気を博しています。

同社の看板商品はもう一つあります。農林水産祭の天皇杯を水産加工品として初めて受賞した「さんまくん(サンマの燻製)」です。

頭から尻尾までサンマをまるごと一本食べられる「さんまくん」は、栄養価の高い青魚をおいしく食べられると評判で、みりん干しに並ぶ人気商品です。

桜の木のチップで燻製にした「さんまくん」

マルトヨ食品3 代目社長の清水浩司さん

「創業者である祖父がみりん干しを始めて、父が『さんまくん』を開発しました。私が子供の頃から工場は忙しく、よく箱詰め作業の手伝いをしていました」(マルトヨ食品社長の清水浩司さん、以下「」内同)

そう話す清水さんは、仙台の食品会社で10年勤めた後、地元の気仙沼に戻ってきました。営業員として培った経験を活かしてマルトヨ食品の販路を広げてきましたが、その販路は2011年の東日本大震災で途切れてしまいます。

震災後、建物屋上で天日干しから再開

震災当時の様子を、清水さんはこう語ります。

「感じたことがないほど大きな揺れがあったので、工場を止めて、従業員の皆さんには帰ってもらいました。でもまさかあんなに大きな津波が来るとは思わず、私は工場の建物に残っていました。工場部分の1階は天井を高く作っているのですが、津波は3階のすぐ近くまで来ていました」

清水さんのいた建物は流失を免れましたが、まわりでは火事が発生し、翌日に残っていた建物はほとんどなかったそうです。

マルトヨ食品の工場は残ったが、津波と火事でまわりは瓦礫だらけに

当時働いていた従業員は全員無事でしたが、工場にあった機械は津波ですべて流されてしまったため、仕事をすぐに再開できる状況ではありませんでした。

「しばらくの間、家族と一緒に工場内の泥をかき出すなどして復旧作業を進めていました。従業員を呼び戻したのは震災の年の12月頃からです。最初は7~8人で、みりん干しから製造を再開しました。乾燥機も使えなかったので、建物の屋上で創業当時のように天日干しでやっていました」

「家で魚焼くんだ…」の一言でマーケットインに切り替え

規模は縮小しながらも、なんとか再開にこぎつけた清水さんですが、半年以上のブランクは想像以上に大きかったようです。

「お得意先に『再開できました』と連絡しても、『他で作ってくれるところを見つけたからごめんね』と言われてしまうような状況でした。それでも最初のうちは被災地を応援しようということで、催事などで買ってくれる人も多かったのですが、それもだんだんなくなっていきました」

震災翌年は補助金などを活用して、新しい機械の導入も少しずつ進んでいましたが、作っても売れなければ意味がありません。そんな清水さんに大きなヒントを与えたのは、東京の展示会で言われた一言でした。

「うちの製品を食べてもらった方から『おいしい』と言ってもらえたのですが、『あぁ、自分の家で魚焼かないといけないんだね』とがっかりされてしまったのです。都会には魚を焼くグリルのない家もある。自分で手売りをして、初めてそういったことに気づかされました」

火を使わない商品でないと、都会の人は買ってくれない。このことに気づいた清水さんは、製造側の都合で優先するプロダクトアウトから、買う側の立場に立って商品づくりを進めるマーケットインに考えを切り替えたのです。

大型骨抜き機などの機器導入により生産拡大に目処

マーケットインの商品づくりに舵を切った清水さんは、営業員時代の経験を活かして、自社製品を売り歩きながら「どんなものが求められているか」をさらに追求します。常温品に対応する機械を中心に導入を進めてきましたが、得意先からの要望やマーケットの変化に対応できないこともあったことから、販路回復取組支援事業の助成金を活用して新しい機械を導入しました。

「人手不足対応のために導入した大型骨抜き機は、サンマやイワシなどの骨抜き作業に使っています。2020年はサンマが7、イワシは3くらいの割合ですかね。作業の効率化が進んだので、生産量拡大の目処がつきました」

魚の骨抜きと開き加工を同時にしてくれる大型骨抜き機

他にも同様の目的で、自動計量オートチェッカー、印字機、プリンター、小型充填機を導入しました。小型充填機は今後増える見込みのレトルト製品用に使われています。

パックへの賞味期限の直接印字が可能に

気仙沼に来てもらえるチャンスがやってきた

清水さんは今後も、常に変化するニーズをどう知るかが重要だと言います。

「やはり商品を自分で手売りして歩くのが、ニーズを知るには一番の方法だと思います。今は『魚は食べたいけれど調理が面倒だ』という声が多いので、そのニーズに合った商品を提供していくつもりです」

「どう調理すればいいのか」と聞かれることも多いことから、「さんまくん」の裏にレシピを載せたり、Facebookで食べ方を発信したりと、新しい試みも始めているようです。しかしそんな中でコロナ禍に突入。その影響は小さくないと言います。

「関西方面の企業さんからの依頼で、お土産用の商品をOEMでつくっていましたが、新型コロナウイルスの影響でお土産が売れなくなってしまいました。当社としても新たな販売チャネルとして開拓中の分野でしたが、それが途切れてしまう形になっています。学校給食の受注もなくなりました」

さらに2020年はサンマ不足にも悩まされました。マルトヨ食品にとっては、人気商品の原料であるだけに、大きな痛手です。

「イワシの加工を始めて、さらにホッケのサンプルも取り寄せています。でもサンマの売上分をカバーできるほどではありませんけどね。まずは作ってみて、お客様に食べてもらって、意見を聞いていこうと思います」

震災、コロナ禍、サンマ不足と、環境面での厳しさが続きますが、明るい話題もあります。

「気仙沼から仙台までの三陸道がほぼつながって、交通のアクセスがとてもよくなりました。2021年は気仙沼がNHKの朝ドラの舞台にもなる。いい意味で注目されるタイミングなので、多くの人に足を運んでもらって、私個人としても食を通じて気仙沼の魅力を伝えていきたいですね」

気仙沼の外に出て、売り歩いてきたこの10年。そのスタンスは今後も続きますが、「気仙沼に人を呼ぶ」ためにも一役買います。

マルトヨ食品株式会社

〒988-0004 宮城県気仙沼市浜町一丁目15-6
自社製品:「さんまくん(サンマの燻製)」ほか サンマ加工品(みりん干し、生姜煮、うま辛漬け)など

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。