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企業紹介第106回宮城県株式会社斉吉商店

「お菓子屋さん」に学び、直接販売に生かす次世代経営者

家業を継ぐ前に、外の会社で修業を積む“次世代経営者”は珍しくありません。水産加工業者であれば、同業、もしくは近い業界で働くケースが多いのですが、斉吉商店(宮城県気仙沼市)の5代目となる斉藤吉太郎さんが選んだ修業場所は少し変わっています。斉藤さんは大学を卒業後、1年間ほど、県外の老舗製菓メーカーで働いていました。

	老舗製菓メーカーでの就業経験もある斉吉商店の斉藤吉太郎さん
老舗製菓メーカーでの就業経験もある
斉吉商店の斉藤吉太郎さん

「なぜお菓子屋さんで働こうかと思ったのかというと、お菓子屋さんは製造から販売までのすべてを自分たちで手がけているからです。うちも東京の日本橋三越に直営店を置かせてもらったり、インターネット販売を取り扱ったりしているので、製菓業界からいろいろなことを学びたいと思いました。同じ水産加工業者でも製造から販売まで手がけている会社はありますが、消費者への直接販売においては、製菓業界のほうが進んでいる面も多いので」(株式会社斉吉商店 斉藤吉太郎さん、以下「 」内同)

それから、斉藤さんが気仙沼に戻ってきたのは2015年のこと。

「製菓メーカーの工場では、従業員の方たちが床に膝をつきながら、徹底的に掃除をしています。掃除に妥協しないその姿勢を学ばせて頂きました」

斉吉商店の創業は大正10年。正確にはもっと前からやっていたそうですが、商工会議所の資料で遡れるのがその年。食料品や炭など、当時の生活に必要なものを売る商店を営んでいたようです。その後昭和35年に会社を設立しますが、その時は廻船問屋として、船員の手配や船に積む食料の確保などをしていました。

同社が水産加工の仕事を始めたのは、平成に入ってから。斉藤さんの父・斉藤純夫さん(斉吉商店4代目・現社長)が始め、しばらく廻船問屋と水産加工を両立しながら経営していましたが、震災後しばらくして、事業ごとに分社しました。

津波から唯一守った「金のさんま」のタレ

「東日本大震災があった時、私は北海道にいました。被災地入りしたのは3月下旬のことです。東京や仙台の親戚と一緒に、着るものや、従業員の方たちに給料として渡す現金を持っていきました。当時、従業員の皆さんに給料を払おうにも、気仙沼の銀行も被災していたので、気仙沼では現金を引き出せなかったんです」

斉藤さんが気仙沼入りした時はまだ、被災地ではご飯を食べるのもやっとという状況。自宅が流された斉藤さんの両親も、避難所生活を送っていました。

「震災の津波で当社は2つの工場、2つの店舗を失いましたが、従業員の方たちが守ってくれたものが一つだけあります。当社の看板商品でもある『金のさんま』のタレです。継ぎ足しで30年以上、サンマの油と旨味が蓄積されているこのタレを、津波が来る前に持ち出していたんです」

「金のさんま」のタレはいざという時のために、冷凍パックにしてリュックごと冷凍保管していたといいます。震災前、「金のさんま」はたくさんある商品の中の一つという位置付けでしたが、このタレから震災復興が始まったこともあって、現在では同社の売り上げ全体の4割弱を占める人気商品となっています。

根しょうがと一緒に煮込んでつくる「金のさんま」
根しょうがと一緒に煮込んでつくる「金のさんま」

根しょうがと一緒に煮込んでつくる「金のさんま」

「サンマは例年、9~10月の脂の乗った気仙沼のサンマを使っています。当面の間は『金のさんま』が主力商品と考えていますが、不漁の年もあるので一つの魚種をあてにし続けるわけにもいきません。サバ、カキ、アナゴなどの煮付け商品や、ヒラメやマグロの漬け丼なども伸ばしていきたいと考えています」

工場管理を一変させた電解殺菌水生成機

2012年4月以降、一時的な拠点としていた仮設工場から、2017年6月に港近くの水産加工団地に戻ってきた斉吉商店。新工場の規模は震災前に比べ縮小し、震災前後で同社の業態も変わりました。以前は業務用の加工品も手がけていましたが、現在は小売用の加工品に特化し、大量生産から付加価値を高める製品づくりへのシフトを進めたのです。ただ、震災後の販路回復はまだ十分ではなく、注文に対応するためには作業の効率化も課題となっていました。そこで斉吉商店では、販路回復取組支援事業の助成金を活用して新しい機材を導入しました。

「漬け魚や海鮮丼のタレを袋に充填するためのハンドガンを導入させてもらいました。ハンドガンは液体にも粘体にも対応しているので、つみれやカニクリームコロッケなどの充填などにも使えます。ハンドガンを活用した新商品も出していきたいですね」

	器具や材料の殺菌、洗浄に欠かせなくなった電解殺
器具や材料の殺菌、洗浄に欠かせなくなった電解殺

作業の効率化に対応するための機材としては、電解殺菌水生成機と一括表示印字機を導入しました。電解殺菌水生成機は工場内の洗浄作業を一変させました。

「今までは次亜塩素酸などを使って機器の殺菌をしていましたが、工場に匂いが残るのが気になっていました。機器や配管が傷むのも早い。でも電解殺菌水であれば、そういった心配も少ないです。材料にも直接かけて殺菌できますし、工場内で生の材料を切る場所でも簡単に使えます。同業他社の工場でも使われ始めている。以前から気になっていた機材ですが、実際に導入してみて本当にその良さを実感しています」

一括表示印字機も、作業の効率化に直接結びついています。従来の印字機は賞味期限を手で打たなければならず、ミスを防ぐための確認作業にも時間がかかっていましたが、自動化によりその手間が省けたようです。

	製造情報をシールに印字する一括表示印字機
製造情報をシールに印字する一括表示印字機

「新しい一括表示印字機は、印字のスピードも速く、確認作業にかかる手間を減らせました。これまで5人出荷作業をしていたところ、3人で済むようになったので、空いたスタッフは工場内の別の作業に回ってもらっています」

少数精鋭体制で若手の定着を図りアイデアを形に

斉藤さんの名刺には、部署名も役職名も書かれていません。斉吉商店では、そもそも部署も役職もないのだそうです。

「少人数ということもあり、従業員は出荷、製造、販売とさまざまな業務をまたいで仕事をしています。私も経理や開発の仕事に関わりながら、月に一週間ほどは各地の催事に足を運び、店頭に立って販売の仕事もしています」

全員が幅広い業務に対応しながら、新商品開発や販路開拓も進めるという、まさに少数精鋭の体制。東北の水産加工業者を悩ませる「若手の確保」も、順調に進んでいるといいます。

「うちは20代の若い従業員が比較的多くいます。労働市場が人手不足になる前から、地元の高校生のインターンを受け入れていたからだと思います。採用するかどうかに関係なく続けていたことですが、そのおかげで地元の高校とつながりができ、それが今も続いています。就職を考えている高校生にとっても、卒業生が定着して働いていることは安心材料の一つかもしれません」

採用も担当している斉藤さん。採用前には労働条件や労働環境を応募者に丁寧に説明して、採用後に『思っていたのと違う』ということにならないように気をつけているそうです。

「話の行き違いで辞めてしまうのは、その人にとってももったいないことなので。幸い、うちに入ってくれた若手は定着してくれているので、若い人たちがこれからもっと『これをやったら面白いんじゃないか』と提案しやすい会社にしたいですね。今は製造と販売が中心ですが、また主軸が変わることもあるかもしれないので、柔軟に考えていこうと思います」

斉藤さん自身、30歳と業界ではまだまだ若手。今後は気仙沼の素材を生かして、「斉吉さんの商品があって助かってます」と言われる商品づくりに励みたいと意気込みます。

株式会社斉吉商店

〒988-0031 宮城県気仙沼市潮見町2丁目100-1
代表商品:金のさんま、海鮮丼、炭火焼オリーブオイル漬け、ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。