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企業紹介第104回青森県三富産業株式会社

刺し身の盛り付けは人より速い、
-イカソーメン製造ロボットで人手不足を乗り切る

	4月下旬、桜が満開の八戸市新井田公園
4月下旬、桜が満開の八戸市新井田公園

全国有数のイカの水揚げを誇る青森県八戸市。
4月下旬の新井田公園では、ちょうどソメイヨシノが満開の時期を迎えていました。

その公園の隣にある三富産業株式会社は、イカの加工やしめ鯖などを手がける水産加工会社。現在はこの工場だけで生産を行っていますが、東日本大震災の前には2つの工場で生産を行っていたそうです。

	代表取締役の安井良二さん
代表取締役の安井良二さん

代表取締役の安井良二さんは、震災当時の状況を次のように話します。

「岩手県洋野町にある岩手工場は、津波で跡形もなく流されてしまったため早々に再建を諦めました。ここでは、八戸港近くにある冷蔵庫は浸水したものの工場の被害は少なかったので、八戸に生産を集約することにしました。修理や整備を早急に進めた結果、震災翌月の2011年4月から生産が可能となりました」(代表取締役の安井良二さん、以下「」内同)

ところが、八戸漁港や大型漁船の被災により休漁が続き、本格的な再稼働には時間を要したため、大きく生産量低下を余儀なくされました。その後、整備が進み漁が再開されるも、また新たな問題が降りかかってきます。

スルメイカの歴史的大不漁
イカソーメンにヤリイカを使って商品開発

ここ数年、加工原料のスルメイカの水揚げが大幅に減少し、漁獲量は震災前の1/3程度にとどまるようになりました。イカ製品の売上が7割を占める三富産業にとって、スルメイカの原料不足とそれに伴う価格高騰は大きな問題です。

そんな中、売上回復を図るためにとヤリイカを使ったイカソーメンの加工を始めました。イカソーメンといえば、スルメイカが一般的ですが、ヤリイカを原料にしたのはどのような理由からだったのでしょうか。

「スルメイカのイカソーメンは北海道など他地域でもつくられています。そことわたしたちが販売競争するのは、得策ではありません。スルメイカより比較的安価な1匹30g~40g前後の小型のヤリイカを使った刺身は、市場に出まわっていなかったんです。スーパーのバックヤードでは小型で手がかかるヤリイカの刺し身はあまり作りません。スルメイカとヤリイカは形状やさばき方も違います。ヤリイカを加工する機械を導入しイカの刺し身を作れば、付加価値がつくと思いました」

また、もともと冷凍魚の販売もしていた同社は、冷凍技術にも自信を持っていました。イカの原料調達には苦心している業者が多いなか、同社はそこを商機と捉えたのです。

「ヤリイカが本当においしい時期は短いんです。いい時期に大量に仕入れて冷凍し保管します。
1.5年分ぐらいのヤリイカは買い付けてありますね」

	「八戸前浜ヤリイカ刺身」
「八戸前浜ヤリイカ刺身」

省人化を図るため、イカの刺身の盛り付けロボットの開発

ヤリイカの刺身のニーズはあると見込んでいたものの、人手不足で省人化は必須の課題でした。

2017年、ヤリイカの身を開く機械を導入したころから、盛り付けラインも含む完全自動化を図るための構想を練ります。そこで、時間も人手もかかるカットされたイカソーメンをトレーにのせる工程をロボット化することを考えました。各機械メーカーに相談しましたが、どこも『水産加工用の防水型のロボットはつくらない』という回答でした。

「あきらめずに加工機械メーカーを探しました。あるメーカーがホタテのうろ(黒い部分)をとる防水型の機械があることが分かり、そのメーカーにかけあったのが今回のロボット開発が前進する大きな契機になりました」

水産加工業のためのまったく既存にはないロボット。さらに原料は塩分を含むため、鉄ではなくオールステンレスに。工場に効率よく設置するため、防護柵も含めできるだけ小型にする必要性もあり、全てゼロからの開発でした。そして、開発の目処がたったとのことで、2018年度の販路回復取組支援事業の助成金を活用して、ロボットを含む盛り付けラインを導入しました。2019年1月にやっと完成したと喜んでいたのも束の間、そこからは機械の調整に苦労させられることとなります。

「導入当初、1日8時間で5,000パック前後の生産力を見込んでいました。ところがなかなか生産量があがらない。1日8時間で2,300パック前後。これでは、利益は出ません。なんとかしなければと、ロボットの動き、ラインの工程をじっくり観察しました」

くまなく検証していった結果、画像を使って盛り付けのためのトレーを置く位置を判断する工程が、無駄と分かったそうです。

	盛り付けラインのカッター部分と、トレー供給装置、盛り付け用のロボットアーム部分
盛り付けラインのカッター部分と、トレー供給装置、
盛り付け用のロボットアーム部分

「ロボットが1作業にかかる時間は2秒。プログラムが増えるごとに時間が増えていきます。盛り付けのためのアームが、トレーが置かれるのを待っている状態がある。そこを省くために遅延の要因となっているプログラムをカット、人間の手に変えました。人間の手なら、その作業に慣れれば、ロボットの作業時間=2秒よりも速くできます。トレーを供給、盛り付けるまで4秒。その4秒にこだわりました」

この工程作業の見直しにより、2019年3月には、1日8時間で約4,800パックのイカソーメンの製造が可能に。目標値を実現できました。ロボット含む完全自動化のライン導入前は、4,800パックを生産するには10人がラインに入ったとしても、2日かかります。導入後の同ラインの要員はおよそ4人。大幅な生産力アップと省人化を図ることができました。

実際に工場内を案内していただくと、十数名ほどのベテランの従業員がヤリイカの内臓、耳、皮をとる作業を手作業でおこない、それらの前処理されたイカを細く裁断しパックに盛り付ける後工程は自動化されており、3~4名の従業員でおこなっていました。素早い手捌きで処理されたヤリイカが、カッターでカットされ、新しく導入したロボットによってトレーに美しく盛られていきます。

「メーカーの担当者は、ロボットのアーム部分しか作っていないので、実際にこの工場での使われ方を目にしたときは、びっくりしていましたね」

イカソーメン用に、手際良くヤリイカの内臓や皮等素早く取り除いている
イカソーメン用に、手際良くヤリイカの内臓や皮等素早く取り除いている
今回導入した自動盛り付けライン
今回導入した自動盛り付けライン

改善点を洗い出し、次の新製品開発に活かす

現在、イカソーメンの生産が追いつかないほど注文も増え、顧客の評価が高まっています。イカソーメン製造ラインのめどが立った現在、安井さんは次の一手を考えています。

「今後、少子高齢化が進み労働人口はますます減っていきます。スーパーのバックヤードで刺身をつくるのも人手や人件費の問題から困難な状況になってきています。これまで当社ではしめ鯖の半身は作っていましたが、今後はスライスしめ鯖も作っていきたい。ほかにヒラメやイナダなどの刺身の切り身も。そのための新ロボットを開発、導入したいと思っています。冷凍技術には自信を持っていますが、一次加工だけで販売することはしたくないですね。人手不足解決と同時にうちでしかできない技術を使って、最終加工品にして卸す。そうすることで付加価値をつけ、競争力をつけなければと思っています」

今回導入したロボット、一連の盛り付けラインを事例に、見直したほうがいい点、コストカットができる部分を洗い出し、次の機械開発にいかすつもりだと話す安井さん。避けては通れない労働力不足の問題。水産加工業において、要所で人でしかできない技術を活かしながらのロボット導入は業界全体の光明となるかもしれません。

三富産業株式会社

〒031-0816 青森県八戸市新井田西3-1-11
自社製品:イカソーメン、イカの一夜干し等のイカ製品、冷凍しめ鯖、塩干魚等

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。