1969年(昭和44年)に83事業者(個人72,法人11)が集まり設立された気仙沼水産加工業協同組合(宮城県気仙沼市)。当初の目的は、すり身加工だったといいます。同組合総務部長の小野寺尚光さんが解説します。
「組合の設立当時は、遠洋漁業がまだ盛んだった時代で、気仙沼にも北洋の助宗タラを取ってくる船がたくさん入ってきたそうです。その船主や水産加工業者が集まって、取ってきた助宗タラを陸上の工場ですり身に加工して販売することを目的に当組合が設立されました。しかし1970年代後半の200海里規制により助宗タラの水揚げ量が激減しました。現在私どもでは、助宗タラのすり身加工事業は行っておりません」(小野寺尚光さん、以下同)
現在の主要な事業は2つあるといいます。一つは購買事業、もう一つは冷凍保管事業です。購買事業とは、組合員への資材や石油類の販売のほか、気仙沼に水揚げされる魚を市場で買い付けて、組合の工場でサイズ選別、箱詰め、凍結を行い、冷凍保管後、出荷するものです。魚の買い付けは小野寺さんが担当しています。冷凍保管事業とは、組合員等から委託され、原料や製品などを組合の冷蔵工場で保管する事業です。
「購買事業では、サンマ、サバ、カツオ、ビンチョウマグロ、イワシなど、気仙沼で取れる魚介類全般を扱っています。以前は組合員が買付したものを委託されて選別機で選別し、冷凍保管することが多かったのですが、現在は組合が主体となって買付し、冷凍保管することが多くなっています。選別にはローラー選別機とコンピューター選別機を組み合わせて使っています。選別後は冷凍保存して、組合員及び員外の水産加工業者に原料として販売しています」
東日本大震災当日、気仙沼水産加工業協同組合の工場にいた10人ほどの職員は、すぐに裏山や市内陸部に避難し、全員無事でした。
「私は市内の別の場所にいましたが、ものすごい揺れだったので、これは津波が来るだろうな、と思いました。工場の様子を見に行ったのは、地震から2日後のことでした。川沿いで津波の被害が大きかった地区ですが、工場に近づくと、周辺でうちの工場だけ建物が残っているのが見えました。でも奇跡的だと思ったのもつかの間。私が最初に見たのは建物の側面で、その奥の部分はごっそりと消失していたんです」
さらに、川を隔てた場所にあったもう一つの冷蔵工場は、震災から3カ月後の6月に、片付け作業中にバーナーの火花が防熱剤に引火して全焼。現在は更地となっています。本社工場は震災後に建て替えましたが、もう一つの冷蔵工場については今のところ、建て直す目途は立っていないといいます。
「組合のオフィス機能は、当時の役員の知り合いの会社のスペースを借りて3月に開設していました。そこでしばらく事務作業のみ行い、翌年5月に、仮設の水産団地に5トンの凍結庫と100トンの保管庫を建てて、小規模ながらに組合事業を再開しました。現在の本社工場が建ったのは2013年8月のことです」
震災前、4,800トンあった冷凍保管能力は、冷蔵工場がなくなったことにより現在の本社工場の2,600トンまで落ちましたが、現状からすると大きさとしては十分なのだそうです。むしろ課題としてあったのは、一度に大量の凍結ができるようにすること。しかし、そのためには資材が足りないため、販路回復取組支援事業の助成金を活用して冷凍ボックスや冷凍パンを新たに購入しました。
「凍結する量が増えてきて、だんだんと凍結にも時間がかかるようになってきました。これまでは朝仕入れたものを、選別してから凍結させても翌朝には凍結が完了していました。量が増えたことで朝になっても凍結が完了せず、午前10時とか11時頃に完了となってしまう。しかし、それだとその日の入荷もあるので作業がどんどん遅れてしまうんですね。大手から注文を取るには量をこなせないといけません。量をこなすために必要な資材である冷凍ボックス、冷凍パンを2日分購入したところ、量をこなせるようになり、作業効率もよくなりました」
さらに、配送用のトラックも必要となっていました。ある程度のロットを運べないと、量を必要とする業者からそもそも注文が来ないという実情があったのです。
「4トン車のウイングトラックについても、助成金を活用して導入しました。中は防熱仕様になっています。だいたい1時間以内の場所に運んでいくので、保冷機能としては十分です。これまで使っていた3トン車は車幅が狭く、パレットが2つしか載せられませんでしたが、新しいトラックは車幅があるので8つ載せられるようになりました。実質的な輸送能力としては4倍になりました」
2019年、気仙沼水産加工業協同組合は設立50周年を迎えます。
「これまで50年、山あり谷ありでしたが、これからも組合員となっている企業の皆さんの仕事の下支えができるようにしたい。設立当初、83事業者を数えた組合員も、現在は約半分の40事業者。私たちとしては、規模を大きくするのではなく、この規模を維持しながら、利用してもらう頻度を上げてもらえるように努力していきたいと思います」
昨年は新しい冷凍用の資材を用意したところに、ちょうどタイミングよく、魚が多く入ってきたのだそうです。これまでの冷凍能力だったら、魚を多く買えなかったかもしれません。商機を逃さないために、冷凍作業の効率向上、配送能力の向上は必須だったのでしょう。
大口注文にも応えられる体制を整えたことで、「得意先に対するアピール、積極的な営業を展開していきたい」と、気づけば同組合職員の中で最長キャリア(2004年入組)となっていた小野寺さんは意気込みます。
気仙沼水産加工業協同組合
〒988-0103 宮城県気仙沼市赤岩港29-5 自社製品:サンマ、サバ、カツオなどの冷凍原料
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。