古くから漁業基地として、また水産加工業で栄えた宮城県塩釜市に本社工場を構える株式会社ヤママサ。「真ダラ」を中心に、鮮度が高く高品質な製品だけを一貫して製造、販売してきました。
代表取締役の三嶋政人さんは、「安全でおいしいものを供給することで社会貢献をする。それが私たちの使命、とずっと努力を積み重ねてきました」と語ります。
同社は太平洋戦争終戦からまもない1950年に三嶋さんの父、三嶋政之さんによって創業。創業当時は、マグロはじめ、さまざまな魚種の加工、干物や笹かまぼこほか練り製品の加工販売を行っていたそうです。 1990年代から「真ダラ」の加工販売に特化した取り組みを開始します。これまで日本で主に流通してきたタラは、塩分が非常に強い「塩タラ」。手間がかかるうえに、鍋物以外には向かない、というイメージが根づいていました。塩を使わない「生タラ」は、鮮度と味がおちたものもあり、日本ではタラの本来のおいしさが、充分に理解されていない現状があったと言います。
そこで、同社は古くから続く「タラ」の食文化を守り発展させる、と目標を掲げ徹底した品質管理に取り組みます。
同社の指定船がベーリング海で漁場で行っているのは、魚を一尾一尾釣り上げるはえ縄漁。網の目で身質を痛めず、漁を始めてから早い時間で釣り上げるため、鮮度を保ちやすい漁法です。船上活じめで、数時間内に急速冷凍します。このスピードが品質の決めてになるそう。
塩釜に運ばれてからは、風による冷凍焼けのないマイナス30℃以下のコイル式冷凍庫で保存。冷凍保存されたタラはすべて加工当日の朝に解凍します。解凍時は循環させる水を蒸気で煮沸殺菌しながら、低温での高速解凍を行うため、ドリップが出にくく身質のパサパサ感が防げるのです。 さらに、塩タラの加工に使われるのは、塩だけ。保水剤や酸化防止剤などの添加物は使用しません。タラがいちばんおいしい約1%という塩加減を追求しました。厳重な鮮度管理を行っているからこそできる控えめの塩加減です。そのため、そのまま料理に使え、鍋物以外、ソテーやフライ、蒸し料理にも合うフィーレなのです。
「経営の厳しいときも、あらゆる努力を払って、この基本は変えないことにこだわってきました」と三嶋さんは言います。
こだわりぬいた商品が認められ航空会社のビジネス/ファーストクラスでの機内食やレストランなど品質にこだわる顧客のニーズに応えてきた同社ですが、新たな販路開拓や新しい商品を開発するきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災でした。
津波による浸水はまぬがれたものの、地震による被害は大きく本社工場は半壊。壁や床には亀裂が入り、機械類も損傷し、製造はストップします。
「まず、丹精込めた商品を生かさなければと思いました。出荷を待って発泡スチロールに梱包されていたタラをトラックに積んで避難所を回ったのですが、震災直後は、火を使わずにすぐ食べられるものを、と断られたりもしました。3、4日後、避難所に物資が届き始めてからは鍋に入れられると喜んでいただいたのですが、その時の経験は現在の商品開発につながっていますね」 震災当時の混乱、操業がストップしたなかでも、自社製品への品質へのこだわりを追求しました。 「こんなときでないとテストもできないと思ったので、氷の入った発泡スチロール箱の中に保管していたタラの一部で、品質の変化をテストしました。1週間、10日間たってもおいしく食べられる。20日ほどしたものをおそるおそる食べてみたのですが、まだふんわり感があって、匂いもせずおいししく食べることができました。自社製品の鮮度、品質にあらためて自信を持ちました」
震災後、従業員全員で工場の清掃からはじめ、約1カ月後、操業を開始します。しかし、1ヶ月供給がストップした取引先の売り場は、他メーカーの代替商品に変わり、取引の再開は容易ではなかった、と三嶋さんは話します。 1995年、三嶋さんが代表取締役に就任後、海水ろ過プラントを導入、深層海水塩を使った特許製法「天然うしお造り」は同社の看板でもありましたが、震災によるプラントが使用不能に。復旧を目指すも、多大な犠牲があった塩釜沿岸の海。その海から海水をくみ上げて使うということに抵抗もあり、同社の「天然うしお造り」はストップしてしまいます。そのため、同製法をうたった商品パッケージの交換を強いられるなど、大きな損失となりました。 「多くの顧客を失うなかで、当時の売り上げ構成としてはわずかだった調理済みの煮魚や惣菜などをおさめていた取引先は、また売りたい、継続してほしいと言ってくださったところが多くありました」 震災以前から、少量個包装、すぐに食べられる簡便な個食対応商品のニーズはつかんで商品開発・販売を始めていた同社。2005年には個食対応の商品を扱う個人客向けネットショップ「ナチュラル・キッチン・たらや」をスタートさせていました。 震災当時、避難所ですぐに食べられる商品が求められたことに加え、今後、ますます個食対応商品のニーズが高まっていくと確信したことから、同社は、従来の主力商品である業務用の真ダラフィーレに加えて、個食対応商品の開発に注力します。 「なにかアクシデントがあったときにも、ゆらがない経営。震災以前は、業務用商品が主力でしたが、エンドユーザーまでわかる商品をがっちりとつくっていかないといけない、と思いました」
他メーカーとの差別化を図り、価格競争に埋もれないための付加価値をつけるため、商品コンセプトは、これまでの「真ダラ」を軸にした品質へのこだわりを踏襲します。 鮮度にこだわり、それぞれの魚の味の特徴がわかるような味つけ。保存料はいっさい使わない。 こうして、新商品のコンセプトを固めたのは、震災から約2年後2013年頃のこと。煮魚などの調理済みの商品は、原料の凍結、加工、味付けなどの工程の一部分だけを担ったり、味付けは外注したりするため、4回、5回と凍結するところも多いのですが、同社は漁から凍結まで、さらに加工、味付けからパッケージ、発送までを行います。パック詰めした商品は、細胞を破壊せず凍結する「CAS」システムを用いて凍結しています。 「原料凍結から全行程をひとつの工場で行うのは、コストも労力もかかるのですが、ここまで手間をかけているのだから、徹底的に手間をかけよう!」と。調味料ひとつにいたるまで吟味し、天然醸造のものだけを使って、家庭と同じように鍋でひと品ひと品を炊き上げています。 2017年からは、地元宮城県産の食材にこだわった「金華さば仙台みそ煮」をはじめ、新商品のラインナップを展開します。これらの商品は、百貨店はじめ、ネット通販でも全国の消費者から大変好評を得て、「金華さば仙台みそ煮」は、第28回全国水産加工品総合品質審査会において、「東京都知事賞」と大学生が選ぶ特別賞「若者大賞」をダブル受賞しました。
続いて、同社は、増え続ける一人暮らしの高齢者にマッチし、食べ残しがでない食べきりサイズ商品として、2切れパックの商品を1切れパックにするなど、個食用のさまざまなニーズに応える商品開発に取り組みます。そのためには、品質を維持しながらの生産性向上が急務でした。 そこで導入したのが、鮮度を保ち、パッケージを高速に行う、「ガス置換トレーシーラー」です。 この機器の導入により同工程に携わる辞任を従来の4人から3人に。生産性は1・5倍向上しました。さらに、金型が変えやすいことも特徴です。従来使用していた機器では、金型の交換は大がかりで2人で行う必要があり、1日の作業で、金型を交換する生産計画はたてられなかったと言います。 「この機器はワンタッチで金型交換ができるので、顧客の注文に応じてきめ細かな生産ができます。また、お年寄りのお客様から手がすべってシールが開けづらい、という声をいくつかいただいていたので、ここも改善したい。シール強度を安定させ、握力の弱ったお年寄りでもあけやすいパッケージ、という点も重要視して選びました」 細部にわたるまで、ていねいな商品づくりを行っている同社。今後は、輸出も視野に入れ2019年をめどにHACCP取得に向けて取り組む予定です。
工場に入ると、工場で働く従業員の方が「いらっしゃいませー」とすがすがしい声で迎えてくれました。 「手間暇かけて一品一品手づくりで作っていますので、大切なのは人材を育てることです。私達は店舗を持っていませんので、お客様に接する機会は多くもてません。工場に来て下さるお客様は一期一会。取引をしていただいている常日頃の感謝の気持ちを伝えよう、当社の心意気を伝えましょう、と繰り返し話しています。従業員にもよく理解しもらっています」 工場近くの塩釜仲卸市場での商品販売に現場の従業員も試食販売に出向き、直接消費者の声を聞く機会も設けているのだとか。 「地元の方に認められることが、全国に当社の商品を広めていく、いちばんの近道だと思っています。現場の従業員もおいしいという声を聞くことで自分の仕事にも誇りをもてた、と言ってくれています。震災後、落ち着いたころ、避難所で食べたタラが本当においしかったと、わざわざ御礼にきてくださる方もいて、私も今でも励みになっています」
三嶋さんは、被災地の企業として、塩釜の歴史、そこで育まれたものを進化、発展させ賑わいを取り戻したいと話します。 「日本には刺身だけではなく、煮魚や漬け魚はじめ魚のおいしい食べ方がたくさんあります。おいしくて安全な商品を提供し、塩釜をそうした日本の食文化を発信する地として発展させていきたいですね。そのためには被災地という状況に甘えることなく、商品をグレードアップし、付加価値を高めていかないといけません」 愚直に、真摯に仕事に取り組む、という言葉がそのままあてはまる。ヤマササは、塩釜の、そして日本の食文化を支える企業として、その歩みをつづけていくことでしょう。
株式会社ヤママサ
〒985-0001 宮城県塩釜市新浜町3丁目7番15号 自社製品:塩タラフィーレ、切身、魚漬、煮魚
※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。