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企業紹介第82回茨城県株式会社樫寅

高温スチームが可能にした高品質な商品をもっともっと広めたい

樫寅の創業は明治20年代。創業当時は、那珂湊港でとれた魚の加工や、廻船問屋の仕事などを生業としていました。その後、那珂湊港の水揚げが伸び悩んだ時期に、輸入原料を加工する仕事に方針転換。現在は、蒸しタコを主力製品として製造しています。

株式会社樫寅 代表取締役 樫村 喜之氏
株式会社樫寅 代表取締役 樫村 喜之氏

「創業時は、前浜のさんま、いわしなどを扱っていたと聞きます。廻船問屋の仕事の後、輸入したシシャモの加工や、びんちょうまぐろの輸出などをしていた時期もあり、蒸しタコに行きついたのは自分が小学生くらいの頃でした。今は蒸しタコが中心で、他に蒸しエビやイカ、カニなども扱っています」
(株式会社樫寅 代表取締役 樫村 喜之氏。以下「樫村社長」という。)

樫寅の蒸しタコには、製造過程に強いこだわりがあります。そのこだわりの1つが、タコの加工で酸化防止のために用いられることが多い亜硫酸塩やミョウバンなどの添加物を極力抑えること。添加物を抑えると、色の劣化などはどうしても進みやすくなりますが、それでも味へのこだわりを優先させているのです。

「添加物を使うとキレイな色は出にくくなりますが、やはり添加物は使わない方がタコ本来の味がダイレクトに出て、絶対に美味しい。ミョウバンはタコの加工には必須という認識だったので、開発する前は絶対に無理だと思っていたのですが、2年かけて抜けるようになりました。その方法は一緒に開発をしてくれた会社が特許をとりました」(樫村社長)

もう1つのこだわりが、高温の蒸し器の導入。通常の蒸し器では、水を沸騰させた蒸気で蒸しますが、樫寅のスチーマーは蒸気を集積してボイラーの電気で再加熱したもので蒸し上げます。通常の蒸気よりも温度の高い完全な気体にすることで、蒸し器内部の圧力が高まり、ほぼ無酸素の状態で蒸すことが可能になるのだそうです。

常務取締役 樫村 穣氏
常務取締役 樫村 穣氏

樫村 喜之氏のご子息で、常務取締役の樫村 穣氏(以下「樫村常務」という。)は次のように説明します。
「普通の水蒸気は白っぽい湯気のような見た目ですが、ウチのスチーマーでは、もっと高温になるので完全にクリアな気体になります。無酸素に近い状態なので、表面に一気に火を入れ、その後、中をじっくり蒸せるのでジューシーになりますし、色の定着も普通の蒸し器より優れています。酸化を防げるこの蒸し器があるからこそ、酸化防止剤を抜くことも出来るのです」
(樫村常務)

北海道産の北海タコは特に甘味が強く、ジューシー
北海道産の北海タコは特に甘味が強く、ジューシー

実際に、出来たばかりの製品を試食させていただいたら、後味までえぐみがなく、強い甘味や旨味を感じることができました。本来、タコは旨味がそれほど強くないので、ジューシーさや旨味がここまで残るのは高温の蒸し器ならでは、なのだそう。また塩もみなどの下処理をしっかりしているため、噛み切れないことが多い北海道産の水タコも非常に柔らかく、楽に噛み切れ、美味しくいただけました。

風評被害で失った販路を
輸出の強化で補う準備を積極的に進めている

ひたちなか市でも高台にある樫寅の工場は、壁にヒビが入るなどの損壊はあったものの、津波の影響は受けず、震災の数日後には営業の再開ができていたのだそう。ただし、原発事故による風評被害の影響を大きく受けました。

「電気は3日間くらい止まりましたが、電気が復旧した3日後くらいからは、すぐに仕事を始めました。市の水道はまだ復旧できていなかったけれど、自分達で給水設備を持っていたので、水も何とか大丈夫でした。ただ、その後の風評被害はきつかったです。原料は輸入ものだから大丈夫だけれど、茨城の加工ということで、どんな水を使っているのか心配されるお客様が多かったんです」(樫村社長)

顧客には、放射能検査の結果が毎日更新されていたひたちなか市の水道局のHPを案内し、信憑性のあるデータを提供したものの「拒否反応が強い人も多かった」のだそう。風評被害の影響で、震災後の売り上げは3割ほど減少。その後も失ってしまった販路を回復するのは難しかったそうです。国内だけでなく、当時、輸出をしていたタイとの取引も原発事故の影響でストップせざるを得ませんでした。

「輸出の売上規模自体は、当時それほど大きくなかったのですが、今後は、輸出の方が売り上げを戻すのは大変かもしれません。国内では、風評被害の影響はほとんどなくなりましたが、海外ではまだ輸入制限区域に入っている国も残っていますから」(樫村常務)

それでも、今後、輸出は積極的に強化しようとしているところだそう。昨年、ベトナムのフードエキスポに出展した際も、樫寅のタコはかなりの好感触。現地からの引き合いも多く、輸出に関する申請が通り次第、新たな事業を開始する予定です。

「ベトナムは高度経済成長の真っただ中で、非常な好景気です。もともと美味しいものを食べるのが好きで、良いものであれば高いものでも買ってくれる手ごたえもあります。アメリカも、米国FDA基準のHACCPを持っているので申請が通りやすく、今後拡大を検討しています」(樫村常務)

ちなみに樫寅がHACCPを取得したのは、今から17年前の2001年。最初にHACCP手法支援法が施行されたのが1998年ですから、かなり早い時期での取得になります。(樫村常務)

HACCPの影響で従業員の意識も大きく変わった
HACCPの影響で従業員の意識も大きく変わった

「HACCPは輸出のためではなく、工場を改築した時に導入しました。この地区での最初の勉強会に参加したので、この地域でもかなり早い方だったと思います。自分達でマニュアルを作るより、きちんとした基準があるならその方が衛生管理には良いだろうと思ったのです」(樫村社長)

高品質の要である高温スチーマーの増強で
増産と新商品開発を叶える

製品や安全性への高いこだわりを持つ樫寅が、今後の販路拡大、生産性向上のために、今回、販路回復取組支援事業で導入を決めたのが「メガスチーマー」。現在も活躍している「高温蒸し器」と同じ製品です。現在はタコが中心ですが、原料の高騰もあり、今後はタコだけでなく、エビ、イカなど製品ラインナップを拡充していなければ震災前の水準に戻らないと考えての決断でした。

「今、タコは世界中で大人気で、原料が高騰しています。もちろんタコが主力製品ではありますが、他のものも増やしていかないといけない。今まではすべて同じ機械で作っていたので、生産性が悪かったのです」(樫村社長)

機械が1つだけでは、主力のタコを製造している間、他の原料を加工するわけにはいきません。そのため、今まではエビやイカは早朝や深夜などに加工せざるを得ないこともありました。今回、新たに販路回復取組支援事業で機械を導入したことで生産性の大幅な向上が見込めるはずです。

通常のスチーマーより短い間隔で、高温の蒸気を吹き続ける
通常のスチーマーより短い間隔で、高温の蒸気を吹き続ける
>蒸気を高温加熱し無色透明になるため、窓から生産中の商品が目視できるのだそう
蒸気を高温加熱し無色透明になるため、
窓から生産中の商品が目視できるのだそう

また新たな機械を導入した背景にはコンタミに対処するという目的もあります。どれだけきちんと清掃をしても、アレルゲンであるエビやカニと他の原料を一緒に扱うより、機械や設置場所をきちんと分けた方がより安全性は高まります。この機械を利用して、エビやカニなどをどんどん製品化していきたいのだと、お二人は語ります。

「殻がついている甲殻類は、高温で蒸すと本当にギューッと旨味が中に閉じこもるんです。また釜で茹でると温度が低いので身離れが悪くなりますが、高温で蒸すと非常に身離れも良くて、足を笹切りにする時、すっぽ抜けてしまうくらいです」(樫村常務)

エビに関してもタコ同様、「亜硫酸塩、不使用」を貫きます。代わりにエビの体内に多く含まれるトレハロースを保湿剤として利用することで、えぐみを残さず、エビ本来の味や香りがしっかり味わえる製品に仕上げることに成功しました。水分がなくバサバサになってしまうのは論外ですが、保水剤を利用したプリプリ感が強すぎる感触にも違和感を持ち、何とかエビ本来の味が残せないかと試行錯誤した結果、トレハロースに行きついたのだそうです。

亜硫酸塩を使わないと黒変が出やすく選別は大変だが、その分、味に反映される
亜硫酸塩を使わないと黒変が出やすく選別は大変だが、その分、味に反映される

食べる機会を増やすことで 国内での販売拡大も目指す

自社の品質の良さをアピールし、積極的に販路を拡大するために、今、様々な工夫をし始めている樫村さん親子。まずは輸出用の袋に「亜硫酸塩、ミョウバン不使用」「高温スチーム」等の特徴と、自社のロゴや名前を目立つようにプリントし、ブランド化を図ることを検討しています。

国内向けにも、製品をただ製造するだけでなく、自ら販促物を作って、量販店に提供するなどの取り組みを熱心に行っています。実は買い物に行く時、メニューや買うものを決めている消費者は3割ほどしかいないのだとか。そのため、メニュー提案などのリーフレットを置いたことで製品に関心を持ってもらい、平日の売り上げが2割も上昇した取引先もあるのだそうです。

>半夏生の時も、メニュー提案を行った

半夏生の時も、メニュー提案を行った

「食べる機会を増やしてもらうことは、とても重要だと思っています。今の季節だったら、BBQなどで簡単にパエリアが作れることを訴求したり、クリスマスだけでなく、ボジョレーの時期にもエビを食べてもらえるような提案をしたりしています。その他に、色々な原料で同じデザインのシールを貼ってブランド化し、リピートのお客様が増えるような仕組みも行っています」(樫村常務)

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今、新たに提案しようとしているメニューは樫村常務が原料視察のためアフリカに行った時、中継地点のスペインで知った「タコのガリシア風」。アフリカ視察は、かなりハードな行程だったようですが、そんな中でも貪欲に知識を仕入れています。

時代に合わせ柔軟に事業を切り換え、現在もHACCPの早期取得、低添加物化への素早い取り組みなど、良いと思ったことはいち早く取り入れて行くDNAを持っている樫寅。その姿勢がある限り、今後日本国内のみならず、海外でも樫寅の製品はどんどん受け入れられ、愛されていくことでしょう。

株式会社樫寅

〒311-1211
茨城県ひたちなか市メキ1110-27
自社製品:蒸しタコ、蒸しエビ、蒸しカニ、蒸しイカ等

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。