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企業紹介第69回宮城県株式会社高浜

「もう一度、塩釜とこの地域を盛り上げたい」近隣・石巻とも連携した新商品開発

宮城県塩釜市内に、本社第一工場をはじめ、第二工場、第三工場、第四工場をもち、笹かま、揚げかまのほか、ちくわ、つみれなどのおでんだねを製造、販売している株式会社高浜。2008年に株式会社スギヨ(石川県七尾市)の傘下に入りグループ企業として、2011年高浜食品工業株式会社から社名変更、現在に至ります。

高浜の創業は、1935(昭和10)年。現在三代目となる代表取締役社長高浜布之さんの祖父、高浜源吉さんが揚げかまぼこの製造販売を家族で始めました。二代目の和夫さんは、営業畑で培ったキャリアを活かして東京はじめとした首都圏に販路を開拓、現在は、170余名の従業員を有する企業に成長しました。

2011年の東日本大震災では同社も大きな被害を受けました。2017年7月まで開発部門責任者として、多くの商品開発に携わり、現在は製造部部長を務める佐野静男さんに、当時の様子をうかがいました。

製造部部長の佐野静男さん
製造部部長の佐野静男さん

「当日は本社工場にいたのですが、立っていられないほどの揺れを感じて、大きな金庫が動いたり、食堂の天井の鉄筋がテーブルに刺さっていたりした様子を覚えています。従業員は避難場所に指定されていた、工場からすぐ近くの海上保安庁合同庁舎にすぐに避難、そこでひと晩を明かしました。本社工場の津波はくるぶしまで程度だったのですが、第二工場は1m50㎝のところまで水に浸かり、冷蔵庫が水に浮かんでいる状態でしたね。配電盤、電気機器類もすべて使えなくなりました」(佐野さん・以下「」内同)

本社工場は日産で1・5t、第二工場は日産3t分、翌日作業分のすり身合わせて、当時冷蔵庫に入っていた原料はすべて廃棄。レトルトおでんなどは、避難所に配って回ったそうです。本社より低い土地に建っていた第三工場では、津波を避けるため、同社の判断で従業員を避難指定地よりさらに高い高台に避難させ、全員が無事、人的被害はありませんでした。埋立地に建っていたため、地盤の隆起が工場内でもひどく、歩ける状態ではなかったといいます。修繕し再開した今も地盤沈下が進行、2017年8月には、ウレタン樹脂を地中に充填するなどの修繕を続けているそうです。

震災で大きな被害を受けたという第三工場では、取材時、おでんだね製造の最盛期でした

地場の水産・農産物を使ったこれまでにない形状の商品開発

大きな被害を受けた同社ですが、親会社・スギヨのバックアップも得て、震災後3カ月に満たない2011年5月中旬に、本社工場と第二工場を、第三工場は、その4カ月後の9月初旬に再開させました。第四工場は、その跡地に新工場を新設、これまではスギヨで製造していたカニカマの製造ラインを増産し、2017年12月再スタートを切りました。

震災前、高浜の売り先は80%以上をスーパーをはじめとした量販店が占めていました。この地域では早い時期に製造再開を果たした同社でしたが、供給ができなかった2、3カ月の間に他社メーカーにシフトされ、また原発事故の風評被害も重なって、売り上げは再開後数カ月しても、震災前の前年比、前々年比には戻らなかったのです。そこで新しい販路を求め、外食・中食関連産業の問屋、学校給食、さらにお土産市場に営業を試みましたが、なかなか販路獲得には繋がらなかったと言います。

「量販店を想定した商品とは売り場がマッチしないのが主な原因だと分析しました。従来同社では、揚げかまぼこなど平べったい形状の商品は得意としていましたが、今、市場では球状の一口サイズという形状が求められていると判断。そこに地場の農産物・海産物を使用するという当社のコンセプトを合わせて、新商品開発に取り組みました」

新商品開発のために導入した球天形成機

そして同社では上記の新商品開発のため、支援事業を活用し、「球天形成機」等を導入。「地場の農産物を使ったこれまでにない形状の商品」というコンセプトで開発されたのが、宮城県の大豆・ミヤギシロメを絞った豆乳を使用した「ふんわりお豆腐揚 和風だいこんおろしあんかけセット」です。2017年4月から発売を開始、当初計画通りの50~60万円/月という売上実績で、今後も増産をめざしています。さらに、2016年秋から手がけ、地元塩釜で揚がったサバを骨ごとすりみにする「落とし身」を使用した「さば入りつみれ」も好評を得ています。

「2018年4月には、業務用の『鮪団子』を発売予定です。居酒屋などの外食産業からの引き合いが強いですね」

宮城県産の大豆・ミヤギシロメを使用した「ふんわりおとうふ揚 和風だいこんおろしあんかけセット」
居酒屋などの外食産業から好評を得て2018年4月発売予定の「鮪団子」

どこにもないオリジナル製法の「笹かま」でお土産市場を開拓

同社では、製品の販売は「スギヨ」に委託する形をとっていますが、地元を中心とした宮城県内への土産店に販売するルートは、独自の営業・開発部門をもっています。

「宮城県のお土産と言えば笹かまですが、仙台駅の売り場ひとつを例にしても、すでに4社以上の会社が入っています。ただ当社の笹かまを置いてくださいと新規参入を試みても、だめなんですね。既存商品にはない新商品を作って、販路を開拓する必要がありました」

震災前から「食育」に力をいれてきた同社。子どもたちの顎の発達によく噛んで食べられる商品をというコンセプトをヒントに開発したのが、笹かまを乾燥させた「かむかむ笹かま」です。

「当初は、子ども向けに開発された商品でしたが、お酒のおつまみにも人気です。常温で20日間日持ちすることもお土産としてのニーズに合いましたね」

同商品は、仙台駅はじめ新幹線の停車する宮城県内の駅売店、サービスエリア、仙台空港に置かれ、販売ルートとして、続く新商品の足がかりとなったのです。その販路を活かし、さらなるオリジナル笹かま商品を、とせんべい焼き機一式を導入し開発したのが、笹かまをうすくプレスした笹かませんべい「笹ひらり」です。新しい宮城県の名物として、2017年8月から売り出しています。

笹かまをプレスしてせんべい状にする、せんぺい焼き機
笹かまをプレスしてせんべい状にする、せんぺい焼き機
宮城県の新名物として売り出している「かむかむ笹かま」と「笹ひらり」

労働力不足を補うための省人化―カートン封函ライン一式を導入

新工場も稼働をはじめ、売上、生産量共に震災前の80%まで回復してきている同社ですが、震災後の3年前ほどから顕著になっているのが、労働力不足です。必要人員が集められず、一部商品の注文に応じられないという状況もあり、省人化と作業効率アップへの取り組みが急務でした。

商品が箱詰めされた段ボール上下を自動で封函するカートンシーラー機
商品が箱詰めされた段ボール上下を自動で封函するカートンシーラー機

そこで着手したのが段ボールの封函ラインの機械化です。段ボールのテープ貼り作業、箱詰めした段ボールを積み替える作業もコンベアを導入し自動化することで、3名で行っていた梱包作業を2名に省人化、作業効率も大幅にアップしました。人手不足が続き、工場の管理部門の人員も生産ラインに入る状況が続いていましたが、これにより生産計画などの管理に注力できるようになりました。

「今後はさらなる省人化を図るために、商品をトレイにのせパッケージする作業も機械化したいと思っています。ただ、1つのラインで同じ商品を一日作り続けるわけではないため、そのたびに機械を入れ替えるのか、などコスト面と導入方法が課題ですね」

宮城の農水産物の可能性を探り塩釜をもっと盛り上げたい

「震災を機にさまざまなことが大きく変わりました。震災の教訓をいかした企業経営もそのひとつです」と話す佐野さん。

これまで親会社・スギヨのある石川県七尾市で製造していたカニカマを、高浜が持つ塩釜の工場と生産拠点をわけたのも、首都圏をはじめとした供給基地として物流面の地の利が大きいことに加え、大きな天災があったときに、供給をストップさせないリスク分散のためでもあるとのこと。佐野さんは古くから魚肉ねり製品を地場産業にしてきた塩釜市、また宮城県の企業の一員として、強い思いがあると言います。

「新商品開発で、塩釜ももちろんですが、近隣の石巻の復興のために、連携できることはないかと思ったんです」

石巻は、津波の被害も甚大で震災後水産加工業者の廃業が相次ぐなど、塩釜に比べ復興にも遅れがあると言います。同社では、前述の新商品、「さば入りつみれ」のすり身を石巻のすり身加工業者に発注。地場でとれるサバを原料に使って、お互いの仕事を増やせたらと思ったそうです。

「石巻の取引先にも、とても前向きに取り組んでいただき、品質にこだわった希望通りのすり身ができて、よい商品開発につながったと思います」

宮城県のキャッチフレーズは「食材王国みやぎ」。

「宮城県は大豆の作付面積も広く、生産量も日本で2位なんです。大豆の甘さや香りが濃厚な宮城県産のミヤギシロメもあまり知られていません。地場の食材を掘り下げていくと、まだまだ奥が深い。もっと皆さんに食べてほしいと思っています。宮城県はかつて、かまぼこの生産量が日本一でしたが、震災後、新潟にその座を奪われました。もう一度、地元塩釜と宮城を盛り上げたい。そんな思いで商品開発や営業に取り組んでいます」

地場食材の可能性を探りながら、今後も、高浜の挑戦は続きます。

株式会社 高浜

〒985-0011 宮城県塩釜市貞山通3丁目1-10
自社製品:魚肉ねり製品 笹かま、揚げかま、ちくわ、おでんセット、レトルトおでん など

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。