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企業紹介第68回宮城県株式会社マルハツ

父から受け継いだ「高品質」を、誠実に守り続ける

終始、笑顔で穏やかにお話いただいた福島さん
終始、笑顔で穏やかにお話いただいた福島さん

戦後間もない昭和20年、現社長である福島さんのお父様が、地元で獲れる水産品の販売を始めたのが株式会社マルハツの前身。かつては地元で、うなぎ、どじょう、あさりなど、様々な魚種が獲れたため、幅広く水産品を扱っていたそうです。

「本社の目の前を走る仙石線は、昔は有人駅で貨物の取り扱いをしてくれていたんです。当時は、東京のお客様に汐留駅留めで荷物を送り、納品していたと聞いています。」(株式会社マルハツ、代表取締役 福島正則さん、以下「 」内同)

福島さんご自身は、一時は東京で水産関係の仕事をしていたものの、昭和52年にお父様に呼びもどされる形でマルハツに入社。以来、お父様と兄弟3人で、ずっとマルハツを盛り立ててきました。百貨店等の取引も多く、昭和60年には事業拡大を見越して株式会社に組織変更するなど、順調に推移。福島さんご自身は、日常業務の傍ら、機械工場に自ら設計した機械を発注して燻製を作るなど、経営より新製品開発の方に興味を持ち、様々な製品を開発していたのだそうです。

むきたて
むきたて

アイディアを出すのが得意な福島さん。パッケージの「むきたて」という表記や、背景のグラデーションは福島さんのこだわり

ところが順風満帆だったマルハツに不運が待っていました。震災の少し前に、後継者であったお兄様が病気で亡くなってしまったのです。そして、その直後に被災。大変な時期、予定していなかったことの連続で、戸惑いもあったそうですが「順番的にも、次男の自分がやるしかない」と、震災後、社長を引き受けられることを決意されました。

「自分が社長ではありますが、自分の目が届かないところも、兄弟やそれぞれのお嫁さんが積極的に手伝ってくれます。パートさんもしっかりしているので、助かっています」

そう穏やかに、優しく語る福島さん。このお人柄だからこそ、ご家族や従業員の方の積極的なサポートが得られるのでしょう。現在は、ご家族と古くからの従業員が、強い絆で会社を支えています。

高品質を守り続け、顧客から求められる存在に

創業時から、マルハツの主力製品はかき。主な取引先は石巻や盛岡、山形などの市場です。中でも強みを持っているのが、かきのむき身。マルハツでは、他社に比べ細かい選別を行っており、その使い勝手の良さが高い評価を受けているのです。

「ウチでは、かきを大粒、中粒、小粒とかなり細かく選り分けて、チューブ状の袋に詰めるロケット包装にしています。お客さんは大粒だったら“何個入って何人分”というイメージがあるので、極力きっちりと揃えます。自然相手なので工業製品みたいに数や大きさを合わせるのは大変だけど、揃っていればいるほどお客さんにとっては使いやすいですから」

主力製品であるロケット包装のかきのむき身
主力製品であるロケット包装のかきのむき身

この徹底した品質管理は先代からの伝統。かつて先代が百貨店と取引を始める際に、「百貨店で売るためには、頭ひとつ美味しいものをつくること。それがお客様の満足感につながる」と言われ、その要求に応えるべく試行錯誤を繰り返したのだそう。そうやって確立した水準をずっと守り続けているため、マルハツの製品の品質は非常に高いのです。

もう1つ、品質の高さを物語るエピソードがあります。マルハツでは、現在も個人顧客向けのギフト商品を扱っていますが、実はこれ、企業側が開発したものではなく顧客側の要望で生まれたもの。

「最初は個人向けのギフトはやっていなかったんですよ。たまたま市場関係者や知り合いに頼まれてかきのむき身を贈答用に仕立てて送ったんです。そうしたら、ある日突然お客様から電話がかかってきて。何でもギフトでもらった製品が美味しかったから、また買いたいので宅配便で送ってくれと言われて。個人向けに商売をしたことが全くなかったので、支払はどうしましょう?とお客様に聞かれて、じゃあ郵便振替でお願いします、というような感じで始まりました」

この個人向けギフト商品の販売が口コミだけで広がり、ピークの時には1日30件、月に80件ほどの注文を受けるまでになっていました。購入していた個人の顧客にとっても、他では代えがきかない商品だったのでしょう。震災後に、個人顧客から激励の電話が来たのだそうです。

「震災後、いつから再開しますか?とお電話をいただいたんです。原料がないので2年後くらいになると思います、と伝えたら、待っているから頑張って下さいねと言われました」

福島さんは「父の代からやっていたことを、ただ続けているだけだから」と謙遜されていましたが、これほど支持される品質を保ち続ける努力には頭が下がります。

想定外の津波の影響で、事業再開は11月

2011年3月11日は、原料であるかきを仕入れに行っている途中に、東松島で突然激しい揺れを感じました。道路が波打ち、電線が大きく揺れたので、あわてて車を止めラジオをつけたところ、津波警報が盛んに流れていたのだそうです。

「かつてない長い揺れだったので、事務所に電話したら、みんな動揺して仕事にならないという話だったので、とりあえず全員帰宅してもらおうと決めました。自分が会社に帰った時には、もう誰もいなくて。防災無線が避難勧告を繰り返していたので自分も避難所に行ったら、本当に大きな津波が来たと聞きました。あの時は、みんなに帰ってもらって本当に良かったと思いました」

松島は地形が入り組んでおり過去に津波の経験がなかったため、実は津波に関しては、当初それほど心配はしていなかったそう。ですが、マルハツの本社も2m40cmの津波に襲われました。震災の翌朝は駅のホーム脇の防波堤が50mほど倒れ、線路が大きく湾曲。工場の周辺は池のように水浸しになり、線路の砂利が大量に流されてきていました。工場の中も泥だらけ。なんと小さい船まで、流されて工場内に入り込んでいたそうです。

震災時は、工場の目の前の線路の防波堤が崩れ、土砂が流された
震災時は、工場の目の前の線路の防波堤が崩れ、土砂が流された

原料や製品もすべて流され、電気が復旧したのが2011年6月。水道は途中の水道管が漏水していたため、復旧したのは8月だったと言います。やっと事業を再開できたのは2011年11月のことでした。

「松島のかきは何とか残ったので、とにかく体制を整えて、お得意様との縁を切らないようにと必死でした。2011年は、かきのスタートが通常の1ヶ月遅れの11月だったので、とにかくそれまでに間に合わせようと、大工さんに建築資材をかき集めてもらって復旧しました」

お得意様は、先代から50年以上のつきあいがあるところも多く、自社の商売はもちろんですが、顧客の信頼を失ってはいけないという気持ちもあったのだろうと思います。努力が実って、現在も昔からの取引先とは、強い信頼があるのだそうです。

とは言え、順調に復興できたわけではありません。風評被害や、震災でかきの生産量が下落したことによる価格の高騰の影響を受け、売り上げはまだ震災前の60%程度にとどまっています。またむき身を中心に扱うマルハツにとっては、殻付きかきの流通量が増え、相対的にむき身の流通が減っていることも悩みの種です。

「生産者の人数も減ったので、今は加工の工程が少なく、人手がかからない殻付きに力を入れる人が多くなっています。生産者の方は、殻付きのままならそれほど人手をかけずに出荷できるけど、むき身にするとなると人を雇わなければいけなくなりますから。でも殻付きかきは、生産量が安定しない部分があるので、簡単に切り替えるわけにもいかないんです」

支援事業を活用し、復興と新事業開拓を目指す

震災からの完全復興をめざし、マルハツではこのたび支援事業を活用することを決意しました。まず導入したのが自動計量機と、自動結束機のライン。これにより、人手を大幅に省力化し、マルハツの強みである選別作業に人手が割けるようになりました。

「かきの選別は熟練した人でないと難しいので、単に人を雇えばいいという問題でもなくて。選別の機械もあるのですが、広島産のかきに合うように作られていて、宮城のかきと形が合わないのでエラーばかりで結局、事前に人の手での選別が必要となっていました。今回、この機械を入れたことで、パック詰めに関する工程をほぼ無人で行うことができるようになり、一番大事な選別に人手を振り分けることができるようになりました」

同じ生産者から仕入れても、海面のいかだに近い方で育つかきと、海中で育つかきでは身の大きさが全く異なり、1つ1つきちんと選別する必要があるとのこと。本来、そこまできちんと仕分けをするのは難しいそうですが、「昔から、他社と違うことが出来ていた」マルハツには、以前と同じ水準が望まれるので、やめるわけにはいかないのです。

「この機械のおかげで、とても心強いんです。本当に助かっています」と何度もおっしゃっていた福島さん。インタビューは社長が唯一時間を作れる定休日に行ったため、この日、稼働はしていませんでしたが、普段はフルに活躍しているそうです。

支援事業で導入した計量機、結束機のライン
支援事業で導入した計量機、結束機のライン

もう1つ、マルハツが新たに取組んだのが個人向けのギフト商品の開発です。殻付きかきの出荷が増加する傾向に対応するため、殻付きのかきをレンジで蒸せる包材を開発したのです。現在は取引先にサンプルを見てもらい、今後の方向性を探っています。

「1枚の紙を折って箱にしているので水漏れもしないし、普通にレンジアップするより遥かに美味しく蒸し上がります。1つの箱に8~10個入りで、500Wで8~10分で出来あがりです」

今後、価格や賞味期限など検討しなければいけない課題もあるそうですが、これからが楽しみな商品です。

蒸し牡蠣
蒸し牡蠣

レンジ調理できるギフト用新商品

また商談や試食販売などにも積極的に参加。マルハツのかきは、量販店などで試食販売を行うと、13時ごろには商品がなくなってしまうほど好評。「次はいつ来るの?」とお客さんから聞かれることも多いのだそうです。

「実際に販売されている場所に行くとお客さまの要望を直接聞けるし、量販店さんにも喜んでもらえるのでありがたいんです。呼んでいただけるなら、これからもぜひ行きたいと思っています」

最近では、JRや自治体、観光事業者等が共同で実施するデスティネーションキャンペーンがきっかけで、松島の観光協会から依頼を受け、冷凍のかきも扱い始めました。今まで冷凍かきは扱っていませんでしたが、「地域のためになるなら」と特殊冷凍の機械を借りて取り組んだところ、非常に好評で現在も取引が順調に継続しているのだとか。

常に相手の要望に真摯に応える福島さん。そのお人柄と先代から受け継いだ技術がある限り、今後もマルハツは皆に愛される会社であり続けることでしょう。

株式会社マルハツ

〒981-0211 宮城県宮城郡松島町手樽字広浦61
自社製品:生かき、殻付きかき、むきほや、殻付きほや

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。