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企業紹介第62回茨城県株式会社才賀商店

若き社長のもと結束して築く「お互いを認め合える小さくても強い会社」

茨城県神栖市で、大正年間に創業した才賀商店。当時は、魚粉と呼ばれる飼料を製造していたそうです。その後、サバ、イワシのみりん干しや塩サバ加工なども行っていましたが、70年代より徐々に始めていた冷凍冷蔵製品が90年代には主力となり、現在ではその取扱いが100%に。日産450トンの凍結能力、そして収容能力2万トン冷蔵庫を有し、銚子港などで水揚げされたイワシ、サバ、アジ、サンマなどの冷凍・冷蔵し、鮮魚、加工用原料、養殖の飼料用として国内外向けに製造・販売しています。

才賀商店の3代目である才賀博史さんは水産会社の社長の中でもひと際若い43歳。 博史さんが代表取締役社長に就任したのは36歳のころで、闘病生活を続ける先代の賢一さんから事業を引き継ぎました。2011年、新しい体制でスタートを切った矢先、あの東日本大震災が起きたのです。それは就任後、わずか2週間のときでした。

震災で激しく揺れた工場の壁には大きな亀裂が走り、屋根が落ちたりなどの建物の被害がありました。水道も2週間ほど止まりましたが、事業用水は地下水を利用していたため、稼働は続けられたそうです。しかし原発事故の影響は大きく、当時、輸出先の主要国であったロシア、中国、韓国が日本の水産物の輸入停止処置をとったことで既存顧客を失い、巻網船の操業日数の低下などを受け、生産量も落ち込みました。

代表取締役社長の才賀博史さん
代表取締役社長の才賀博史さん

「先代が闘病中から事業を少しずつ引き継いではいたものの、当時はまだまだ全体の把握も、見通しもできていませんでした。そんな中の震災。周りから見たら、どん底だったと思いますし、私もすべてが分かっていればこれは大変なことになった、と思ったでしょう。今思えば目の前のことに必死だった時期だからこそ、がむしゃらにやるしかなかった。それがよかったかな、と思います。従業員や周りの先輩方も必死に支えてくれました」(才賀博史さん、以下「」内同)

同業の多いこの地域で、他会社の社長は親世代の年齢の人ばかり。そんな周囲の先輩も、博史さんを子ども扱いしたりせず、いわば競合相手であるにもかかわらず情報を共有したり、相談に乗ってくれたりしたそうです。

「持ちつ持たれつのヨコのつながりに、感謝しています」と博史さん。

「委託凍結」という新たな事業のため、大型魚向けの凍結資材を導入

売上が減少する中で、同社は、これまでニーズは感じていたものの、資材やキャパシティの問題で手を出せずにいた「委託凍結」という事業に取り組むことを検討します。

「既存の顧客は原発事故後失いましたが、こればかりは社会的な問題なので、仕方ありません。新しい市場を探さなくてはと思いました。近年、千葉・勝浦港でビンチョウマグロの水揚げが増えていたんですね。大型魚を凍結する設備を持っていない会社からの『委託凍結』事業なら、工場の安定的な稼働につながるのではと思いました」

既存の冷凍棚は、サバやサンマなどの中型魚用で幅が狭くこれより大きな魚の凍結には向きませんでした。同社は、ビンチョウマグロやカツオなど大型魚の委託凍結を請け負うため、まず、自社で大型魚用の冷凍棚を少量購入、引き合いが多いこと、作業効率の上昇を見込めた段階で、補助事業を利用して冷凍棚、メッシュパレットを導入します。魚が傷つくのを防ぎ、品質を保つため、これまでは凍結棚の下に木製の板を敷いていましたが、震災後、輸出相手国の衛生基準も格段に厳しくなったことを受け、PE製のシートも合わせて導入しました。

時期を同じくして、例年に比べ水揚げが増えたイナダの委託凍結も取扱うことができるようになりました。

大型魚用の冷凍棚。サバなど中型魚を凍結する棚よりも、幅が広くなっている
大型魚用の冷凍棚。サバなど中型魚を凍結する棚よりも、幅が広くなっている
メッシュパレットに入れ冷凍保管されたイナダ
メッシュパレットに入れ冷凍保管されたイナダ

労働力不足を補うための省人化
本当に必要な設備投資は何かを見極める

もう一つの課題が、労働力不足による稼働率低下、注文への未対応などを改善することでした。特に脱パン作業は、人手が最低2~3人必要。これまでは水をかけて、パンから凍結した魚を取り出していました。本来は取り出した魚だけがベルトコンベアで次の工程に運ばれるのですが、水温が低いと凍結した魚がパンから外れにくいため、この工程に人が立ち、取り出せないパンを叩いて魚を取り出し、コンベアに乗せるという作業が必要でした。そこで、ボイラー器一式を導入。お湯をかけることで、パンから魚が外れやすくなり、作業がスムーズに。さらに空になったパンを自動で積み重ねる機械の導入で、このラインの人員をゼロに近い人数に削減することができたのです。

ボイラーで沸かしたお湯をかけることで、脱パン作業を省人化、商品の破損も防ぐ
ボイラーで沸かしたお湯をかけることで、
脱パン作業を省人化、商品の破損も防ぐ
空いたパンを積み重ねていく工程を機械化した。ここでも貴重な労働力を省人化できた
空いたパンを積み重ねていく工程を機械化した。
ここでも貴重な労働力を省人化できた

また、凍結した魚を段ボールに箱詰めする際、詰めた魚が乾燥しないようにビニールをかけてから封をしますが、このビニールを自動でかける「段ボール箱用貼付装置」を導入しました。

このラインのなかで、ビニールをかけるという工程を自動化したのはどんな理由だったのでしょうか?

「まず、水産加工の機器は大量生産できず、すべてがオーダーメイドに近いので一つひとつがとても高額です。ですから、全部一気に揃えるというわけにはいきません。工場には閑散期と繁忙期がありますので、段ボールの組み立ては閑散期に人力でもできないことはないですし、業者に発注する選択肢もとれます。ですが、このビニールをかける作業というのは、ラインを動かしているときにしかできないこと、また1ラインにどうしても1人、5ラインなら5人必要になってしまうのです。逆にここを自動化できれば5人の省人化ができます。また、魚ですので品質を保つためにもスピードが大切。ここを自動化することが最も必要だと思ったんです」

そして、博史さんは今後についてこのように語っています。

「人手不足は今後も続くでしょう。人に頼らない生産ラインづくりは不可欠ですが、そこは自然相手です。どこに投資していくかの見極めが大切。想定していた魚が揚がってくるとも限りません。実際に、10年前はサバの漁獲高は低かったのですが、現在はサバが主体です。うちが扱う輸出向けのサバ、イワシ等の出荷量も、ここ10年で10倍ほどに伸びました。世界情勢の変化、とくに新興国の経済発展なども影響しているでしょう。そういった要素も慎重に判断していかなくてはいけません。あれもこれも先行投資するのではなく、本当に必要なものは何かを、その都度判断しながらラインを整えていきたいと思っています。販路回復補助事業で、今回の機器も導入させていただいたので、大切に使わせていただいて、業界全体がよくなるような利用をしていかなければと思っています。」

箱詰めした魚の乾燥を防ぐためにビニールかける工程を機械化
箱詰めした魚の乾燥を防ぐためにビニールかける工程を機械化

従業員との信頼関係を力に、風通しのいい会社にしたい

才賀商店で加工された商品は、国内外向けに販売されます。海外向けの販売は震災後、一旦落ち込んだ時期もありましたが、近年では以前にはなかったアフリカ諸国等の新たな向け先への輸出も増えてきているそうです。そうした中、2016年からは輸出用の箱に「SAIGA」と屋号を記すようになりました。

「ブランド名を記す以上、確かな商品を作らなくてはいけない。そうした意識づけにもなりますね」

海外の客先からは「SAIGAの商品を頼む」という指名買いも増えているそうです。

「SAIGA」ブランドのロゴが印字された輸出用の箱
「SAIGA」ブランドのロゴが印字された輸出用の箱

若くして先代から会社を引き継いだ博史さんですが、同社に入社する前は東京・築地で5年間働いていました。

「築地の水産加工の現場で働いて、体力的にはきついですが、働いてお金を稼いでいるという実感がすごくありました。2つ目に働いた商社は、まったく環境は異なっていましたが、組織のあり方というものを学べましたね」

博史さんは、目指している会社の姿についてこう話してくれました。

「小さくても、強い会社に」

迷いのない言葉のなかに込められた思いを尋ねました。

「当社は従業員30人足らずの小さな会社です。規模は小さくてもいいんです。やればやっただけ、お互いを認め合って信頼関係を築いていけるような環境づくりをしていくことが役目だと思っています。経営者と従業員で立場は違いますし、価値観をすべて共有することは難しいかもしれませんが、その環境づくりのためにできるだけのことはする。私がそうして努力を続けることで、ひとり一人が言われた仕事をこなすだけではなく、1年前より1%でも会社全体のことを考えて仕事をするようになってくれる。それが会社の強さにつながると思っています」

激動の6年を駆け抜けてきた才賀商店、若き社長の言葉に、今後さらに結束し「強い会社」に成長していくであろう会社の未来を感じました。

株式会社才賀商店

〒314-0408 茨城県神栖市波崎9474
自社製品:イワシ・サバ等の冷凍冷蔵商品、養殖用の飼料

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。