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企業紹介第54回青森県株式会社ヤマヨ

正しいものづくりの姿勢を持つ「四本の矢」

イカの不漁、サバの小型化に悩まされる三陸地方の水産加工会社が多い中、青森県八戸市のヤマヨは、部門間の支え合いでこの難局を乗り越えようとしています。鮭鱒ユニット長の成田剛志さんは次のように語ります。

	鮭鱒ユニット長の成田剛志さん
鮭鱒ユニット長の成田剛志さん

「当社にはイカ加工、サバ加工、鮭鱒加工、魚肉練り加工の4つの製造部門があり、工場もそれぞれに分かれています。どの部門も当社の重要な柱で、どれか一つの部門の調子が悪くても他部門の売り上げでカバーしてきました。繁忙期には、別部門の人員をヘルプで呼ぶこともあります」(成田さん、以下「」内同)

一本の矢は簡単に折れるが三本の矢は折れにくいという「三本の矢」の話は有名ですが、ヤマヨは「四本の矢」で結束しています。ところが震災後は、不利な状況がいくつも重なりました。風評被害、原料不足、そして慢性的な人手不足。イカ、サバ製品は売り上げが下がり、練り製品の工場も毎日稼働させることが難しくなりました。4部門のうち3部門が苦境に立たされてしまったのです。

「そんな中でも鮭鱒類は原料の供給が比較的安定しており、震災直後もお客さまからすぐに注文が入りました。ガソリン不足などの問題はありましたが、トラックをチャーターするなどして対応しました」

社員教育にも役立ったHACCPの取得

ヤマヨは4工場のうちイカ、サバ、練り製品の3工場で国際的な衛生管理基準のHACCP(ハサップ)を取得しています。鮭鱒製品の工場はまだHACCPを取得していませんが、同等の管理基準を敷いています。

「当社は『ものづくりの正しい姿勢を持つ』『価値を提供するために我々は存在していることを忘れない』という経営理念を掲げています。『ものづくりの正しい姿勢』を示す一例としてHACCPを取得しているというわけです」

成田さんによると、HACCPの取得は社員教育にも役立ったといいます。これまで熟練者でなければできなかったことも、HACCPの管理手法を全員で共有することにより、誰でも同じ品質を保てるようになった。成田さんの言う「価値の提供」には、安全・安心も含まれています。

ヤマヨの鮭鱒ラインには、それ以外にも製品の価値を高めるための工夫があります。鮮度の劣化を避けるために、一度に解凍処理する量を抑えていること。商品によって塩分濃度のムラを出さないように、原料のサイズによって漬け込みの塩分を調整していること。まな板の上でカットしやすくするために、半身にしたサケの身の側が平になるように急速凍結していることなどです。

原料のサイズに合わせた濃度の塩水に24時間漬け込む
原料のサイズに合わせた濃度の塩水に24時間漬け込む
大型トンネルフリーザーによる急速冷凍で鮮度を保つ
大型トンネルフリーザーによる急速冷凍で鮮度を保つ

作業効率化の機材導入で販売量が24%アップ

ところが増え続ける注文に、従来の生産能力では対応しきれないという問題が発生しました。安定的な売り上げの見込める鮭鱒加工品部門の生産力強化が急務となったのです。

「作業効率を高めるために、水産加工業販路回復取組支援事業を活用して、真空包装機、重量選別機などの新しい機材を導入しました。これらの機械のおかげで、現在はお客さまの注文に100パーセント応えられるようになりました」

	生産力向上に寄与した真空包装ライン
生産力向上に寄与した真空包装ライン
重量選別機で9段階に分けた後、箱詰めしていく
重量選別機で9段階に分けた後、箱詰めしていく

同社は運用開始初年度の鮭鱒製品の販売量を前年比5%増と見込んでいましたが、結果的には24%増と予想を大きく上回りました。しかしこれで満足するわけにはいきません。ここからさらに販売量を伸ばすため、販路を広げていきたいと成田さんは言います。ただ、懸念となるのが今後の原料価格です。

「世界的な需要の高まりから、今後は鮭鱒類でも原料の確保が難しくなる可能性があります。すでに原料の確保に困っている他部門では、『いか刺し松前漬け』や『しめさばかぶら漬け』、『しめさんま』など、加工の工夫や魚種の変更で対応しています。鮭鱒類もいろいろな種類があるので、臨機応変に販路を広げていくつもりです」

販売好調な定塩紅鮭(甘口、辛口、激辛の3種類がある)
販売好調な定塩紅鮭(甘口、辛口、激辛の3種類がある)

いつかまた船を持ちたい理由

東日本大震災の津波により、ヤマヨの一部工場でも1階部分が浸水するなどしましたが、工場は2階より上にあったため原料と機材は無事でした。しかし所有していた中型イカ釣り漁船を失うという大きな痛手も負いました。

「当社は1933年(昭和8年)に、現社長町田健司の祖父にあたる町田米次郎が立ち上げた会社です。かつては漁業や問屋業をしていて、私が入社した2003年当時でも、大型マグロ船2隻と大型イカ釣り船、中型イカ釣り船の計4隻の船を所有していました。加工業に専念するため中型イカ釣り船1隻だけを残して売船しましたが、その最後の1隻が津波で陸に打ち上げられてしまいました」

最後の船を失ったヤマヨですが、成田さんによると「社長はまた船を持ちたいと言っている」のだそうです。船を持つことにより、海からタイムリーな情報が入ってくる、加工船として鮮度の高い製品を作ることができるなどメリットがあるからです。

	被災した中型イカ釣り船のスクリュープロペラの一部
被災した中型イカ釣り船のスクリュープロペラの一部

ようやく震災前の売り上げに追いついてきたというヤマヨの社是は、「温故知新」。震災という経験を前に進むための原動力とするかのように、被災した第三十五喜久丸のスクリュープロペラの一部が同社の玄関にありました。

株式会社ヤマヨ

株式会社ヤマヨ

〒031-8577 青森県八戸市江陽4-10-24
自社製品:イカ加工品、サバ加工品、鮭鱒加工品、魚肉練り製品ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。