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企業紹介第28回青森県ぜんぎょれん八戸食品株式会社

「イカとサバの会社」が不漁でも曲げられない国内産へのこだわり

朝市としては全国最大級の規模を誇る、八戸港の「館鼻岸壁朝市」。3月中旬から12月の毎週日曜日の朝に開かれているこの朝市には、魚に限らず野菜や果物、パン、骨董品などを販売する店や飲食店が立ち並び、毎週数万人の人々で賑わっています。

ぜんぎょれん八戸食品(青森県八戸市)の本社工場があるのは、そこから目と鼻の先。
すぐ近くにはイカ釣り漁船の拠点となっている八戸第三魚市場もある、水産団地の一等地です。

「八戸といえばイカとサバが有名ですが、うちはそればかりを加工していると言っても過言ではない会社です」

ぜんぎょれん八戸食品社長の石川勝巳さん
ぜんぎょれん八戸食品社長の石川勝巳さん

きっぱりそう話すのは、社長の石川勝巳さん。実際にはサンマやタラなどの魚種も扱っていますが、仕入れの目利きや加工品の品質に自信があるからこそ出てくる言葉なのでしょう。

同社では、加工品全体の半分をしめサバが占めています。この日も工場内では、大量のサバが次々に加工されていました。

しめサバ用には300グラムから400グラムのサイズのサバが使われている
しめサバ用には300グラムから400グラムのサイズのサバが使われている

しめサバ用には300グラムから400グラムのサイズのサバが使われている

サバの昆布じめも人気製品。昆布じめといえば関西のイメージが強い調理法ですが、同社製品は関東でもよく売れているのだそうです。

北海道産のおぼろ昆布をのせている
北海道産のおぼろ昆布をのせている

北海道産のおぼろ昆布をのせている

停電でトラブルあったものの訓練通りスムーズに避難

石川さんは震災当時、同じ全国漁業協同組合連合会(JF)グループのぜんぎょれん食品(宮城県塩竈市)にいました。八戸で被災した常務取締役の牛田光治さんに、当時の様子を語ってもらいました。

ぜんぎょれん八戸食品常務取締役の牛田光治さん
ぜんぎょれん八戸食品常務取締役の牛田光治さん

「大きな揺れがあった後、避難放送を流しましたが、停電で従業員には届きませんでした。それでも普段行っている避難訓練の通りに、従業員たちは自主的に駐車場に避難してくれました。車のラジオで情報収集をしていると、6メートルの津波警報が出ていると聞こえてきた。そこで送迎バスや従業員の自家用車に分乗して、当時130人ほどいた従業員みんなで高台に避難しました。途中、渋滞がありましたが無事に避難は完了し、私は工場に戻って人が残っていないか最終確認をしました。津波が到達したのはその15分後のことです。工場には保守の人間が残っていましたが、上の階に避難していて無事でした」(牛田さん)

人的被害は免れたものの、海に最も近いという同社の業務上のメリットは、この時ばかりはデメリットとなりました。海まで遮るものがない本社工場に、勢いのある津波が直撃したのです。

「本社工場では2階に加工場があるので加工機材は被災せずに済みましたが、1階の冷蔵庫と事務所は海から運ばれたヘドロまみれになりました」(牛田さん)

津波が引いた後の1階の事務所内。 物が散乱し、床一面がヘドロで真っ黒に
津波が引いた後の1階の事務所内。
物が散乱し、床一面がヘドロで真っ黒に
本社工場の近くにある食品工場で津波の高さを示す牛田さん
本社工場の近くにある食品工場で
津波の高さを示す牛田さん

3月下旬に電気が通ったことで、同社は4月1日から業務を再開しました。5月には被災した事務所も復旧しましたが、細かい砂は狭い場所にも入り込んでいたため、時間が経ってからも至る所から砂が出てきたのだそうです。

機械でサバの加工効率を上げて人手不足を乗り越える

震災から6年が経った今、ぜんぎょれん八戸食品でも労働力不足の問題が浮き彫りになっています。今のままの人数で売り上げの回復を図るには、機械導入による作業の効率化が欠かせません。そこで震災復興事業の助成金を活用し、サバ加工用の機材を導入しました。

大型のサバの骨を取る中骨取り機 (サバピンボーン抜き機)
大型のサバの骨を取る中骨取り機
(サバピンボーン抜き機)

「大きいサバの需要が増えていることから、中骨取り機 (サバピンボーン抜き機)を導入しました。500グラム以上の大きなサバになると、中骨を何本か抜かないといけないのですが、それには人手が必要です。ここで作業時間を取られてしまうとその分だけ鮮度も落ちるので、どうしても機械化をしたかったのです」(牛田さん)

しめサバを斜めにカットするスライサーも、需要の高まりから必要になった機械です。

「最初から切れた状態のしめサバが欲しいという要望が増えているので、それに応えられるように導入しました。特に首都圏での需要が高まっています」(牛田さん)

サバを斜めにカットするための刃が付いている
サバを斜めにカットするための刃が付いている

サバを斜めにカットするための刃が付いている

フィレマシーン(サバ三枚卸処理機)はサバを切り身に加工するための機械。これまでは人の手で加工していましたが、作業員の高齢化に備えて導入しました。

サバを三枚おろしにするためのフィレマシーン(サバ三枚卸処理機)
サバを三枚おろしにするためのフィレマシーン
(サバ三枚卸処理機)
機械が入った今もサバの大きさによっては人の手でカットしている
機械が入った今もサバの大きさによっては
人の手でカットしている

大不漁でも国内産にこだわり続ける理由

全国の水産加工業者を直撃しているイカの大不漁は、イカとサバが主力のぜんぎょれん八戸食品にとっても大打撃です。前出・社長の石川さんは、実情をこう述べます。

「今はイカの仕入れ価格が3倍に跳ね上がっているので販売価格も上げざるを得ないのですが、そうすると今度は売れなくなってしまいます。それ以前に、そもそもイカが手に入らないという問題があります。これまで八戸でイカを調達できなかったことはないのですが、県内の漁港、さらには全国の漁港に広げてみても仕入れ量はさほど増えません」(石川さん)

イカ不足を解消するため、輸入イカを扱う業者も増えています。しかし同社は今のところ、その考えはないといいます。

「当社はイカ刺しも多く作っているので、これまで通り国内産を扱います。旬な魚をフレッシュな状態で届けることは、当社の社是でもあります」

ぜんぎょれん八戸食品が扱う魚は、基本的には八戸港で水揚げされたもの。時季によって八戸だけでは足りないこともありますが、そういった場合は県内外の港から調達しているそうです。ただし、それでも一貫しているのは、国内産であるということ。魚のプロとして、自分たちの目で見て納得したものを仕入れているといいます。

「私はグループ会社からの転属で4年前に八戸に来たばかりですが、八戸は魚がおいしく野菜もおいしい、まさに食材の宝庫で、古い食文化も残っているすばらしい地域だと感じています。冬の寒さはこたえますけどね(笑)。今後も八戸から、フレッシュな魚を届けたいと思います」

ぜんぎょれん八戸食品株式会社

ぜんぎょれん八戸食品株式会社

〒031-0822 青森県八戸市大字白銀町字三島下91
自社製品:しめ鯖、さば昆布じめ、するめいか一夜干し、
いかそうめん ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。