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連載復興水産販路回復アドバイザーに聞く

第6回「まわりを巻き込んでいけば、自分たちにできることが増えていく」

被災企業に対して、商品開発や販路開拓につながるさまざまなアドバイスをする復興水産販路回復アドバイザー。それぞれ専門分野を持つ皆さんへのインタビューを通じて、被災企業が一日もはやく復興を遂げるために必要な情報をお届けします。今回は、管理栄養士や調理師としても活躍されている京都の老舗料亭「菊乃井」常務の堀知佐子さんにお話を聞きました。

堀 知佐子 氏

堀 知佐子(ほり・ちさこ)

京都の老舗料亭「菊乃井」常務。東京・千駄ヶ谷のフレンチレストラン「ル・リール」オーナー兼シェフ。管理栄養士、調理師、抗加齢医学会正会員、食生活アドバイザーなどの資格を持ち、多様な視点から食品会社や飲食店、地方自治体などにメニューアドバイスや食生活全般の指導を行っている。「菊乃井」ではデパート向けの惣菜開発も。食材や調理に関する著書多数。2016年より復興水産販路回復アドバイザーに就任。

冷凍の概念が変わる中で、消費者の意識も変わっている

堀さんは、調理師学校の講師を経て、食に関するさまざまな分野でご活躍されています。外食産業からご覧になって、昨今の水産加工品にどのようなイメージをお持ちですか?
堀さん:年々クオリティーが上がっていて、外食産業でも使えるレベルに達しています。とりわけ冷凍技術の進歩が目覚ましいですね。10年前とは冷凍の概念も変わっていて、冷凍の目的が長期保存から鮮度保持、衛生管理にシフトしています。以前は冷凍加工品というと、「そこそこの味」というイメージを持たれていましたが、今は商品クオリティーが保たれていて、より安全でよりおいしく食べられる方向に進んでいます。
アニサキスによる食中毒の予防でも、冷凍が注目されました(マイナス20度以下で24時間以上で死滅)。目的に「衛生管理」が加わったのは大きな変化ですね。
堀さん:私は東京都港区の食品衛生推進員も務めていますが、アニサキスが問題になった時に、「魚ばなれもある中でどうやって食べてもらうか」ということを話し合うことがありました。そこでも冷凍技術の進歩が話題になりました。冷凍品のほうが安全性が高く、フードロスが少ないといったメリットもあるので、これからは売る側が消費者に訴えていく必要もあると思います。
水産加工業界の最近の流れとして、地域食材を扱う企業も増えてきています。堀さんは食材にもこだわられていて、全国各地に足を運ばれていますが、地域食材を扱う際のポイントを教えていただけますか?
堀さん:商品づくりで気をつけたいのは、食材を現地のものだけでそろえようとしないことです。現地の食材に限定してしまうと、作れるものが限られてしまい、商品としてのバランスも悪くなりがちです。たとえば、トマトを入れたほうがおいしくなりそうなのに、「うちの地域でトマトを作っていないから入れられない」と考えるよりも、エリアを広げて使えるものを増やしていったほうがいいでしょう。
マーケティングの観点で気をつけておくことはありますか?
堀さん:地域食材となると作れる量も限られるので、いきなり大きなマーケットで勝負するのではなく、最初は小さなマーケットから始めたほうがいいでしょう。そうしないと、2千個しか作れないのに、「2万個ください」と言われた時に対応ができず、信頼も損ねてしまいます。2千個しか作れないなら、まずは2千個売れるだけの販路を見つけるべきです。いいものができても売るところがなくては意味がないので、小さなマーケットでトップシェアを取ってから拡大を考えたほうがいいでしょう。
女性向け商品の開発においては、どんなことが大切ですか?
堀さん:女性向け商品がトレンドだったのは少し前の話で、今はもう、男女の区別がなくなってきています。「インスタ映え」という言葉も流行語になりましたが、インスタグラムをやっている人は一部の人たちだけです。インスタ映えよりも重要なのは商品力で、そこに特化した商品は売れています。たとえばサバ缶やツナ缶にオリーブオイルを使う。そこに抗酸化作用のあるハーブを入れるとか。そういったちょっとしたことでも、インフルエンサーにピックアップされるとすぐに話題になります。
「ちょっとしたこと」で商品力が大きくアップするんですね。
堀さん:安心、安全、そして安価であることはもう当たり前になっています。それらは必要不可欠なことではあるものの、アドバンテージにはならないので、ちょっとした何かをプラスする必要があります。先ほどのオリーブオイルやハーブなどもそうですが、情報表示だけでも人は動きます。たとえばサバ缶に、DHAやEPAが何グラム含まれているかといった情報を載せておくと、それに目をとめる人は多いと思います。料理好きの人はマニアックな人が多いので、自分が持っている情報を深追いできる情報があると、購買につながりやすいでしょう。

大きな設備投資ができなくてもしっかりと製造記録を取ることが大切

堀さんが復興水産販路回復アドバイザーになられた経緯を教えてください。
堀さん:ほかの復興水産販路回復アドバイザーの方から推薦していただきました。調理師として自分で料理が作れて、工場の管理もできて、商品がどこでどうやって売れるのか一連の流れを知っているので、やってみてはどうかということで。私は関西方面の百貨店とつながりがあるので、最初はそこのバイヤーさんたちと一緒に東北の被災企業を見て回りました。
これまで被災企業には、どのようなアドバイスをされましたか?
堀さん:たとえばある会社からは「サバのハンバーグを高額ギフトとして出していきたい」という相談がありました。魚なので肉とは粘性が異なり、なかなかハンバーグのような食感になりませんでしたが、最終的には噛みごたえがあっておいしいものができました。本格的な洋風ソース、和風ソースを作って、パッケージにもこだわりました。婚礼ギフトに入るほどの反響がありました。
調理師として、調理の現場からサポートされていたんですね。
堀さん:ほかのアドバイザーさんたちと協力して、サメ肉を使ったコラーゲンつみれ入り酸辣湯を作った時も、私は調理師として商品づくりをサポートさせてもらいました。また調理師としてだけでなく、企業経営の立場から在庫管理のアドバイスをさせてもらったこともあります。その会社は、商品の種類がとても多く、それが売りでもあったのですが、そのために在庫管理が複雑になっていました。従業員の数も減っていたので、商品の棚卸しが必要だと思ったのです。そのうえで、学校給食向けの加工品も提案しました。
いろいろな被災企業を回られて、どんな課題があると感じられましたか?
堀さん:資金力がある会社はHACCP対応など衛生管理の面でも進んでいますが、規模の小さなところでは、まだ進んでいない会社も多いと感じました。手を洗うところまではしっかりできていても魚が床に落ちたままだったり、継ぎ足しでラインを拡張していったために温度管理ができていない部分があったり。HACCPの義務化が迫っているので、こうした企業は早急に取り組んだほうがいいでしょう。HACCPは「お金をかけて設備投資をしなさい」ということではなく、「しっかりと記録をしていきましょう」ということなので、小さいところでもすぐに対応できます。自分たちが作ったいいものを、よりいい形で出していくための情報共有だと思って取り組んでもらいたいですね。
最後に、被災地の水産加工業者の皆さんに向けてメッセージをお願いします。
堀さん:もう元には戻れないことも多い中で、新たにできることもたくさんあると思います。でもそれを自分たちだけでやろうとすると、できることは限られます。マッチング事業やアドバイザー制度を活用して、自分たちのボトルネックを充足してくれる業者やアドバイザーを見つけてほしいですね。そうすると、よりいい商品が、より広い市場に出ていくと思います。アドバイザー制度も、「ちょっとうちには合わなかったから」といってそこでやめてしまうのではなく、自分たちの意向と合うアドバイザーが見つかるまで取り組んでみてください。自分たちが気づかないことに気づける人がいたら、今の状況を早く改善できます。日本だけでなく、海外の方々もこの地域に対して「震災前以上になってほしい」と期待していますので、被災者としてというより、一職業人として、「こういうことできるから一緒に取り組んでみませんか?」と、まわりをどんどん巻き込みながら新しいことにチャレンジしていただきたいですね。

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。