令和6年9月3日、「東北復興水産加工品展示商談会2024」において、「繁盛店バイヤーが欲しいと思う商品の条件とは」と題したセミナーが開催されました。 飲食店でどのような業態・商品開発を行っているか、飲食店バイヤーがどのような商品を求めるか等についてお話しいただきました。
当社は1997年に千葉県市川市に1号店となる「くいどころバー一家 本八幡店」をオープンして以来、1都3県に飲食店事業、ブライダル事業、レジャー事業を展開しています。コロナ禍の影響もありましたが、今年度末には94店舗にまで拡大予定で、過去最高の売上高を見込んでいます。 主力となる飲食事業では、“第二の我が家” として温かい手作り料理とおもてなしサービスを提供する「こだわりもん一家」のほか、「屋台屋博多劇場」、「大衆ジンギスカン酒場ラムちゃん」、「韓国屋台ハンサム」、「にのや」など様々な業態があります。 ブライダル事業では、東京タワーが一望できるチャペルと4つのバンケット(宴会場)とレストランを備えた婚礼施設「The Place of Tokyo」を2012年から展開しています。
飲食店で提供されるメニューは大きく分けて4つあります。初めて来店されるお客様向けの「グランドメニュー」、季節のおすすめを提供する「旬彩メニュー」、料理長がその日の仕入れを見て考える「本日のおすすめ」、不定期で提供する「フェアーメニュー」です。 食には「はしり」「旬」「なごり」があり、特に季節の変わり目の「はしり」を提供することで、季節の移ろいをお客様に感じていただきたいと考えています。そのため、「旬彩メニュー」は、ではその名の通り「旬を彩る」ような新しいメニューを、前期と後期に分けて年8回、45日サイクルで提供しています。 メニューを開発するにあたり、「家では食べられない“プロ”の味」や、「季節感が感じられる」ような商品の提供を心がけています。お店の看板メニューやグランドメニューといった既存商品においても、原価調整、生産性向上、お客様の満足度向上といった視点で、少しずつ改善を行っています。 商品開発において大事にしていることは「5つの同じ」です。居酒屋ではアルバイトスタッフも多く、混雑する時間帯がある等の理由から、味がぶれやすくなります。このため、見た①目、②量、③温度、④提供時間、⑤価格を一定にする必要があります。 さらに、「五感・五覚・五触」も大切にしており、“味”はもちろんのこと、“見た目”や“音”といった「シズル感」、混ぜたり千切ったりとお客様自身がその料理を仕上げていただく“臨場感”や“本場感”を提供できるメニュー開発を目指しています。
業態・商品開発を行う際は、独自の「コンセプトシート」(下図参照)を作成し、大きく分けて8つの視点から、店舗のコンセプトに合致しているかを判断しています。
例えば「博多劇場」では、「博多中州の屋台村」をコンセプトとしており、「ターゲット」は男性サラリーマン、「立地」は駅前1.5等地、「客単価」はビール2〜3杯+メニュー2〜3品を想定、「利用動機」は仕事帰りの一杯、「販促」は自社アプリで会員特典を用意、「サービス」は明るく元気で笑顔を大切に、「雰囲気」はスタッフのユニフォームやBGMで彩る等、それぞれの視点からコンセプトを明確にすることで、やること・やらないことを明確に決めることができます。 この他に「顧客セグメント」も重要です。お客様の属性をグループ分けし、それぞれのニーズに合わせて商品・業態を開発しています。「男性サラリーマン」はおつまみのようなスタンダードメニュー、「友人グループ」は皆で取り分けられる大皿メニュー、「男女ペア」はシェアメニュー、「ファミリー」は卵焼き・唐揚げ等のスピードメニュー、「女性グループ」は見栄え・色合いが良いメニューといったように、それぞれの属性を想定することが重要です。当社では独自の「メニュー開発シート」を用いながら、ターゲットとするお客様の属性に刺さるメニューを具体的に考えていきます。
業態によってメニューや仕入れる商品の特徴が異なります。例えば「博多劇場」では、スタッフも若く、料理人の熟練度も高い訳ではないので、メニューの再現性・安定性を確保するべく、仕入れる商品は完成品やPB商品等が主となります。 一方で「にのや」では、経験を積んだ熟練度の高い料理人が在籍しているため、「本日のおすすめ」メニューのような料理長の個性を活かせる商品を提供しており、どちらかといえば1次〜2次加工された食材が求められます。 このように、メーカーが飲食店に水産品・水産加工品をご提案される場合は、業態の特性を十分に押さえつつ、特性に適したメニューをご提案いただくことで、スムーズな商品採用につながっていきます。
これまでお話ししたとおり、飲食店では時代の変化や生活様式の特徴等を意識した業態・商品開発がますます重要になっていくと考えます。 人口減少による「個食化・少人数化」、お店の特性が瞬時に分かる「専門性・専門店」、飲食だけでなく雰囲気で楽しさを演出できる「モノ消費からコト消費」、高齢化による「健康志向」、満遍なくではなく一部消費者の嗜好に刺さるような「ニッチ志向」、店舗での人材不足やDX化を活用した「省人化、セルフ化」等のキーワードは、これから重要となるはずなので、ぜひ飲食店に商品提案される際の参考とされてください。 我々飲食店側はお客様の最終消費に立ち会う立場なので、産地や生産者の“想い”を伝えることこそ重要な意義であると考えます。時代が変わろうと生産者の熱意がこもった素晴らしい食材・商品を、お客様に食べ続けてもらえるような商品・業態開発を目指して参ります。
令和6年9月3日、「東北復興水産加工品展示商談会2024」において、「消費者の時短・簡便ニーズに対応する商品開発を考える」と題したセミナーが開催されました。 組合員へのアンケート調査等を参考とした消費者の現状とニーズ、これからの商品開発につながるヒント等についてお話しいただきました。
簡単な自己紹介ですが、私は日本生活協同組合連合会(以下、日本生協連)で2012~13年に東北支所の支所長、2014~15年に水産部長を務め、現在は「ブランド戦略本部サステナビリティ戦略室」に在籍し、商品開発に関わる支援等を行っております。 今回は、日本生協連としてCO・OP商品にどのような商品を求めているかについて、エシカル消費等の話題も交えながらお話したいと思います。
日本生協連は、各地にある都道府県別・事業種別の生協が加入する全国組織で、主にCO・OP商品の開発と会員生協への供給(卸売)を行っています。CO・OP商品の多くは、日本生協連と各地の事業連合や地域生協が共同開発するもので、年間10万件ほど寄せられる全国の組合員(消費者)の意見を分析しながら、開発・改善を行っています。
組合員は圧倒的に女性の割合が多く、平均年齢は59歳で加入歴では「10年以上」が72%で最多です。特に冷凍食品の利用が多く、商品開発にも力を入れています。
物価高の影響による食費の“節約志向”を意識されている方が全体の88%と大きな割合を占めており、直近1年間は「同じようなメニュー」や「安い食材でかさ増し」して節約を意識した食生活が増えているとの傾向があるほか、“SDGs”や“エシカル消費”といったキーワードへの関心度・認知度が年々上がっています。また、組合員の平均年齢が高いことから、“健康”、“栄養”へも強い関心があります。
このような様々なニーズに対応できるようにCO・OP商品のなかでも “ふだんのくらし”を応援する「CO・OP」、持続可能に配慮した主原料を使用する「CO・OPサスティナブル」、独自基準(素材・原料・産地等)をクリアした「CO・OPクオリティ」等、ブランド(ロゴマーク)が分かれております。
令和5年度水産白書によると、2011年を境に肉と魚の消費が逆転し、それ以降は魚の消費低迷が続いています。これについて、日本生協連の組合員調査では、「魚を購入する理由」として「新鮮な材料が手に入ったから」「肉料理が続いたから」「旬の食材を味わいたいから」等の理由が挙がっており、特に「旬のもの」は魚の訴求において大きなポイントと考えています。加えて、「丸もの」の購入が減少した一方で、「骨取り加工」「フライパン調理」「レンジ調理」といった魚介類の購入も増えている傾向が見られました。
CO・OP商品全体における水産物の割合は、宅配で約20%、生協店舗で数%〜約20%となります。組合員が「おすすめする水産商品」では、「さば」「味噌煮」「骨取り」が挙がっており、実際の売上ベースでも、「骨取りさばの味噌煮」「骨取りさばのみぞれ煮」は、水産商品ナンバー1&2を占めています。
組合員のニーズを汲み取りながら商品開発を行っているCO・OP商品ですが、水産部門では約8割が宅配向けの商品となっています。
生協宅配の特徴は、組合員が紙面カタログかウェブサイトから注文して、週に1回配達される仕組みで、気に入った商品はリピート注文できるように、商品企画(カタログ掲載)は定期的なサイクルで行っています。価格帯は300〜400円台が大半で、そのまま食べられる・レンジ調理・骨取り・骨抜き・殻むき商品が多く、一般的なマーケットと比べて国産原料の割合が高く、SDGsに繋がる水産エコラベル商品や、サバ等の青魚とタラ等の白身魚が多くラインナップされています。また最近では、カットされた食材と調味料がセットになっている「ミールキット」が、家庭にある野菜を加えて簡単にかさ増しやアレンジができることから利用が増えています。
生協宅配で求められる水産商品のポイントは大きく分けて3つです。
一つ目は、「美味しさ」です。「美味しさ」とは商品の味の他、カタログ上でそのおいしさや特徴をうまく表現できていること。カタログの説明書きと実際の商品が乖離している場合は当然のごとくリピートされません。組合員から「カタログで見た感じより実際の商品は小さい」等の厳しい意見をいただくこともあります。実際の商品を手に取って確かめることができないカタログ販売は、特に伝え方を工夫する必要があります。
二つ目は、「生協のコンセプト」にあっていること。味はもちろん、「生協の組合員・消費者」のくらしや声に寄り添い、利用シーンまでイメージされたような使いやすい商品が必要です。最近の事例では、昨年秋に開発した「骨取りぶりのみぞれ煮」がよく売れました。味のよさだけでなく、国産原料や骨取りであることが人気の理由と考えています。また、1990年に発売した「ふっくらしらす干し」は、「塩分が気になる」といった組合員の声を受けて、2010年代後半に食塩不使用と減塩タイプを開発しました。従来商品も組合員の需要に合わせてバリエーションを増やすことで、健康を気にする方や、子育て世代の方まで需要が広がります。 また、SDGsへの取り組みに対応した商品であることも「生協のコンセプト」のひとつです。特にエシカル消費(=買い物をする特に自分視点だけでなく、環境や社会等、他社への視点をプラスすること)に対応するため、持続可能な水産エコラベル商品(MSC、ASC、MEL、BAP、RFM)や、震災復興等を含む地域貢献といった視点に基づいた商品の開発・販売について、全国の生協と共に取り組んでおります。現在、水産エコラベル付き商品は、水産物を主原料としたCO・OP商品の供給額の17%(小売価格110億円相当)を占めており、2030年までに50%を目標に掲げて取り組みを強めていく予定です。
三つ目は、消費者にとって“ふだんのくらし”において利用しやすいリーズナブルな価格、おいしさと比例して納得できる価格であることも重要視しています。
CO・OP商品は何といっても「組合員さんのふだんのくらしに役立つ商品の開発」が一番のモットーです。それに加え、「安全と安心を大切に」「想いをつなぐ(生産者の顔が利用者にまで見える商品を作る)」「地域や社会、環境に貢献する」などの価値も大事にしながら、これからも組合員やメーカーの皆様とも協力し、より良い商品を提供し続けていきたいと思っております。
令和6年9月4日、「東北復興水産加工品展示商談会2024」において、「外食から期待されるメニュー開発パートナーのQCD+F 〜セラー・バイヤーの関係を越えて〜」と題したセミナーが開催されました。
株式会社グルメ杵屋グループでは、「杵屋」「そじ坊」といったうどん・そば店をはじめ、約50ブランド400店舗を展開する「レストラン事業」を軸に、ハラル対応が強みの「機内食製造事業」、数十億円の売上を誇る日本有数の「おせち料理製造事業」、大阪の繁華街・なんばから徒歩圏にある「大阪木津市場」の他、海外へのフランチャイズ展開や、日本語学校の運営と幅広い事業を行っています。
今回は、飲食店、機内食事業、冷凍弁当・おせち料理事業、水産地方卸売市場の開設者 兼 荷受と幅広く展開する立場から、外食バイヤーが水産関連事業者の皆様に期待することについてお話させていただきたいと思います。
「ウォンツ」とは、 顧客が自らのニーズを満たすため、特定の商品やサービスを具体的に求める状態で、直訳すると「欲求」ですが、顧客が抱える具体的な課題を商品やサービスレベルで解決する「手段」と理解すると良いと思います。また、ウォンツは下記3つに分類されます。
ニーズを満たす「具体的な」商品やサービスなどを求めている状態。 例)靴が欲しい
基本ウォンツに、「〇〇な」などの条件が追加され、絞り込まれた状態。 例)雨でも水を通さない靴が欲しい
顧客にとって、基本ウォンツ満たす商品等なら「当たり前」に備えている前提。 例)靴であればサイズが揃っており自分に合うものを選べるだろう
「ニーズ」とは、 顧客が何らかの課題や悩み事を抱えて、モヤモヤするなど満たされていない状態です。直訳すると「必要」ですが、「目的」や「〇〇したいこと」と理解すると分かりやすくなります。 また、ニーズは下記2つに分類されます。
顧客自身が具体的に自覚をしている「〇〇したいこと」です。「〇〇することで」問題解決する「目的」がはっきりしています。 例)梅雨の季節の外出を快適にしたい
顧客自身も明確な自覚がない「〇〇したいこと」です。何が「したいことか」自分で認識できていない状態のため、まずは顕在化させることが肝要です。
取引を成功させるには、バイヤーの「ウォンツ」と「ニーズ」のどちらも理解しておく必要がありますが、バイヤー自身から抱えている課題や悩みごと(=ニーズ)を説明してくれるとは限りませんし、本人も気付いていない「潜在ニーズ」が隠されているケースもあります。よって商談時は、バイヤーがどのような課題や悩みごとを抱えているかを推測しつつ、「潜在ニーズ」を顕在化させることができれば、「この人に相談したら自分たちの課題を解決してくれる」とバイヤーからの信頼につながります。
次に外食チェーンにおける「ウォンツ」と「ニーズ」の例を見てみましょう。
一例ですが、バイヤーが「新しいメニュー」を求めているケースにおいて、顧客のリピート率を上げるためにメニューのマンネリ化を解消したいという「顕在ニーズ」があるかもしれません。一方で、人手不足のため店内調理を削減できるメニューを増やしたいという「潜在ニーズ」を抱えている場合もありえます。対話を重ねることで、顕在ニーズだけでなく潜在ニーズを感知し、解決策につながる商品提案をすることも大切です。
外食業界では現在、人手不足が課題です。そのため、いかに店内調理の手間を削減しつつ、かつ適切な値段で、安定した味、安全な商品を提供できるのかがカギとなっています。この解決策を提供できる事業者こそ、活躍の場が増えるものと思われます。
メニュー開発までは、以下のとおり、大きく分けて6つのステップで進行します。
多くの外食店では、「グランドメニュー」と「季節メニュー」があります。 「季節メニュー」では春・夏・秋・冬の四季以外に店舗ブランドやコンセプトによって初夏・盛夏・年末年始等の細分化したメニューを展開するケースがあり、おおよそのスケジュールは、4〜5カ月前までに「コンセプト立案」、3〜4カ月前に「メニュー開発」と「原価計算」、2〜3カ月前には「レシピ作成」、1〜3カ月前に「調達先決定」を踏まえて、ようやく新メニューの発売となります。
最も重要となるのは、意思決定者の存在です。例えば「コンセプト立案」に携わるのはマーケティング部門なのか、営業企画部門なのか、商品企画部門なのか、「調達先の決定」はバイヤーとなるのかといったように、意思決定者を理解しておく必要があります。 相手が商品企画部門なのかバイヤーなのかによって、1年後の話をしているのか、2〜3カ月先の急ぎの話をしているのか、スピード感は大きく異なります。現在商談している相手にどんな権限があり、どんな課題を抱えているか、どんな時間軸で物事を決めようとしているのか、どの部門に所属している人なのかを商談時によく確認しておきましょう。
商品開発やプロジェクト進行等で重視されるのは「QCD+F」です。
はじめにQ(=クオリティ)は商談で最も優先されるポイントとなります。商談資料に品質・商品性・安全性を記載する他、梱包単位・内容量・パッケージ等まで詳細に記載されていれば、現場(店舗)でも使いやすく、なお望ましいです。
次がC(=コスト)やD(=デリバリー)です。商談時にはすぐに金額・配送条件を提示できない場合もありますが、バイヤー側目線では条件を提示された方が判断しやすく、時間をかけずに成約に至り、次の商談に繋がりやすくなります。
そして最後にF(=フレキシビリティ)です。例えば既存商品であっても、相手に合わせて味付けや入数等をカスタマイズできるといった柔軟性や対応力を強調できれば、他社との差別化を図ることができます。
このように商談窓口であるバイヤーの「ウォンツ」と、その背景にある他部門を含めた「ニーズ」を意識し、サンプル提供と一緒に柔軟性・対応力がわかる資料提案を繰り返し行うことが商談成立への近道です。
これまでの説明を踏まえて、ぜひ今後の商談に活かしていただきたいと考えておりますが、外食チェーンと取引するにあたり、いきなり「グランドメニュー」から取り組むのは、お互いにとって大きな負担です。そのため、まずはお互いを理解する期間として「季節メニュー」から始めることをお勧めします。自身(メーカー側)は何ができるのか、相手(バイヤー)は何を求めているのか、どういったところに融通を利かせればいいのか、そういった細かいところを探る期間を設け、互いに理解し合うという点で、まずは「スモールスタート」を目指しましょう。