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セミナーレポート八戸の皆様とご一緒に「日本の水産業の明日を考える」開催報告

近年、西欧を中心に生態系の保全や資源の持続的利用についての理解と行動が求められており、水産業界は、この情勢に対応して水産物の価値を高めていくことが求められています。
そこで平成30年12月17日、マリン・エコラベル・ジャパン協議会会長の垣添直也氏を講師に、八戸シーガルビューホテルにおいて、日本の水産業の展望や動向、水産エコラベル認証取得などに関するセミナーが開催されました。その概要をご紹介いたします。

一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会
会長
垣添 直也
日本水産株式会社 前社長。
日本冷凍食品協会会長、日本冷蔵倉庫協会会長
などを歴任。

「イノベーション」で変化を乗り越える

「いま、さまざまなことが大きく変わる前夜なのではないか。」と、私は強くそう思っています。世界が変わる中で、日本はどうなるのでしょうか。本日は、皆様とご一緒に「日本の水産業の明日を考える」をテーマにお話しさせていただきたいと思います。
まず、日本の水産業の歴史を少しだけ繙いてみたいと思います。

1863年、幕府勘定方と新潟の廻船問屋の平野簾蔵が、共同で小笠原諸島においてアメリカ式捕鯨に着業しました。これが日本の水産業における洋式事業の始まりであろうと私は思います。1900年、岡十郎さんが第一長周丸で朝鮮海峡において操業を開始、1934年には南氷洋捕鯨に出漁しました。
また、1908年にはトーマス・グラバーさんの息子である倉場富三郎さんが、長崎五島沖でトロール漁業を操業開始しました。
さらに北洋は、堤清六さんと平塚常次郎さんがカムチャッカに出漁しました。サケ・マスの母船という考え方は、この人たちによって発明されたものであると思います。そして遠洋漁業を開いたのは、ニッスイの国司浩助さんです。

ここまでの話で、私が申し上げたいのは、「すべてイノベーションである」ということです。イノベーションとは何でしょうか。
私は創造的破壊を起こすこと、今までと同じことはやらないということだと考えます。

マリン・エコラベル・ジャパン協議会の誕生

次に、水産物を持続的に利用する動きについてお話しします。水産物の持続的利用とは、いつ頃、出てきた話でしょうか。さまざまな解釈がありますが、まず、1972年に開かれた第1回国連人間環境会議において「ストックホルム宣言」が採択され、地球環境の保全と開発・成長のバランスを目指すことが確認されました。そして、1995年のFAO(Food and Agriculture Organization、「国際連合食糧農業機関」)の総会で、「責任ある漁業のための行動規範」が採択されましたが、ここから始まっていったのだと思います。20世紀末になって、人類はようやく管理された漁業の入り口に到達しました。

日本の1980年代は、遠洋漁業からの撤退の時代です。同時期のヨーロッパは、CFP(Common Fisheries Policy、「EU共通漁業政策」)をテコに、資源保護と競争力強化の両立を追求するという政策を取り始めます。そうこうしているうちに、MSC(Marine Stewardship Council、「海洋管理協議会」)が1997年に設立されました。2005年までくると、FAO水産委員会は「水産エコラベルのためのガイドライン」をようやくまとめます。その結果、水産エコラベルが世界に広がっていくことになります。

2012年にロンドンオリンピック・パラリンピックが開かれ、MSCの認証水産物が選手村で提供されました。これを契機にイギリス市場で認証水産物が定着したのです。

日本はどうでしょうか。2001年に水産基本法が制定され、FAOで「水産エコラベルのためのガイドライン」が採択されたのを受けて、日本でもその機運が高まり、2007年マリン・エコラベル・ジャパン…現在、私がお預かりしている(一社)マリン・エコラベル・ジャパンの前身の組織が設立されました。
設立から10年近くが経過した2016年5月、東京でのオリンピック・パラリンピックの開催が決まり、それまでのマリン・エコラベルで良いのかを有識者で検討した結果、さらなる内容の充実を図ろうと、その年の12月、改めて一般社団法人マリン・エコラベル・ジャパン協議会(Marine Eco-Label Japan Council、以下、MEL)が設立されたという経緯があります。

世界に認められる水産エコラベルをつくる

(一社)マリン・エコラベル・ジャパン協議会設立から2年が経過しましたが、その中で何を目的に活動しようとしているのか。その内容は以下の通りです。


実は、水産エコラベルは世界に140もあります。そこで、どの認証を取れば良いのかということで、GSSI(Global Sustainable Seafood Initiative、「世界水産物持続可能性イニシアチブ」)が生まれました。この組織は、いわば“行司役”を務めてくれています。この組織によって、現在、グローバルな水産エコラベルとして7つが認証されています。当該MELは9番目くらいに認証されるのではないかと思っています。

今、GSSI認証取得の動きが世界で加速しているといわれている背景には、世界の有力小売業が、商品調達方針の中で、GSSIに承認された認証水産物を商品調達条件としていることがあると推測できます。
例えば、アメリカのウォルマートは、全店で取り扱う水産品は2025年までにMSC認証、BAP認証(Best Aquaculture Practice認証)、GSSIに承認された水産物のいずれかを満たすものでなければ扱わないと決めています。このような状況では、GSSI認証を取らざるを得ません。GSSIが、非常に重要なものになったということです。

限りある資源で豊かな生活を

日本の人口ピラミッドの変化が示唆することとして、高齢化が進み、単身世帯が増え、所得の二極化が起き、人口の減少が起きるといったことが挙げられることから、こうした問題についてしっかり考える必要があります。
データを見ますと、日本の世帯数のピークは2019年で、全都道府県で人口が減少するのは2020年、東京オリンピックの年であろうと言われています。単身世帯が2023年には35%、2024年には65歳以上が30%になるとみられています。そして、単身で無職の割合は17%に達しており増加しています。
このような状況の中、一つは日本を誰が支えるのかという問題があります。さらに食のお客さまが誰なのかを真剣に考えなければならなくなりました。

このような社会の変化に対応するために、私たちは何をすべきでしょうか。社会の中で価値があると言われるものの一つに「持続可能な社会の実現」があります。人口が減少する=買ってくださるお客様がいなくなるのですから、買ってくださるお客様を豊かに保っていく。このことに皆様も一緒に関わっていかなければならないのではないかと、私は思います。

そしてもう一つ、何かあるとすれば「期待をつくる」ということではないでしょうか。我々はイノベーションを通してどのような期待をつくることができるのか。水産物が単なる「モノ」であるなら、今より豊かな産業にはなり得ないと思います。
サプライチェーンのどこからでも創造的破壊の起点になれます。何が必要で、どんなことができるのか。水産業はどうすることが良いのか。
冒頭、漁業の歴史の話をさせていただきましたように、新たな未来の姿は、これからの世界の流れをイメージし、挑戦した人の手で開かれるものであると考えます。

第4次産業革命といわれるITやAI、IoTを我々はどのように取り込んでいくのか。水産業は、生産手段として漁業と養殖を両輪に持つ利点を有することから、両輪とも先端技術の進化を取り込み、高度化することで、さらなる伸び代があるということもできると思います。

経済学者のケイト・ラワース博士は、「限りある資源で不足ない生活を」というメッセージを発信しています。これは持続可能な社会を実現することと繋がるわけですが、「限りある資源で不足ない生活を」とは、SDGs(Sustainable Development Goals、「持続的開発目標」)と軌を一つにするとともに、日本の水産業が問われている課題でもあります。
「不足ない生活を」ではなく、「豊かな生活」に置き換える発想が皆様にあるかどうか。このことが、大変重要なのではないかと思います。

これからの八戸の水産業に関わる皆様の新たな発展を、心からご期待申し上げます。

感想水産物の持続的利用に関する社会の意識が大きく変わろうとする現状と、水産エコラベル認証取得の必要性が良く理解できる内容でした。
また、日本が置かれている少子高齢化をはじめとする課題解決に、どのように向き合い、行動するのか。その指針を定めるのに参考となるお話を伺うことができました。

※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。