「販路回復のためのポイント・成功事例・放射能への取組等、販路回復に繋がるヒントを持ち帰っていただきたい」という大日本水産会会長 白須敏朗氏の挨拶より始まりました。震災から4年、現在までの経緯を振り返り、販路回復に向けて何が必要なのかを探ります。
司会: 東京大学准教授 八木 信行 氏(以下、八木氏) パネラー: 気仙沼市長 菅原 茂 氏(以下、菅原氏) 石巻魚市場株式会社代表取締役社長 須能 邦雄 氏(以下、須能氏) 全国水産加工業協同組合連合会 会長 中山 嘉昭 氏(以下、中山氏) 福島県漁業協同組合連合会 会長 野崎 哲 氏(以下、野崎氏)
八木氏からパネラーへの質問は2つ ①災後どんな苦労をして現状はどうか。 ②未来に向けて何が考えられるか。
菅原氏: 水産加工の回復は地盤沈下の影響で困難を極めている。「復興は地域課題を解決するものでなくてはいけない」という信念を持ちながら様々な応援を受け頑張っている。水産と観光融合し具現化し、魚好きを増やす街づくりをしていきたい。
須能氏: 全員が主体性を持って協議し、民間主体で全て解決出来たということがその後様々な面で助かった。販売でも、お互いに助け合って活路を見出したい。復興を目指して各地が横の連携を取り進めていくことが大事。8月末に世界一の市場が完成するので、安全安心の高度衛生化を放射能の面からも食品の面からもアピールしていきたい。
中山氏: 被災から3,4年の間にほとんどのメーカーの取引先が消えた。復興のために工場を建て直して地域経済を支えるのが一番。どのように消費者に食べてもらうか戦略を立てないと魚の消費は減っていく。和食文化が好感を持たれているので海外に目を向けてほしい。
野崎氏: 放射能災害に対して、東北漁業者全体、それとそれに伴う加工業者の協力を受けて復興に向けて進めていきたい。原発の安定的な配慮こそ全ての産業の再生に繋がる根本理念である。安定的な配慮の過程を維持しながら福島の水産環境を表現していくことが東北の水産業を世界に発信する原発事故のバロメーターになりうる。
八木氏:含蓄のある話が聞けた。学術の面から協力したい。東京の人が口だけで介入しても限界があるので現地の方でしっかりと担っていただきたい。
2020年に1兆円規模に拡大するべくオールジャパンの力を結集し、近年右肩上がりの成長を続けている農林水産物・食品の輸出。これを継続的なビジネスにつなげていただくためのきっかけやヒントになるよう消費動向やアプローチ法などを伺いました。
ファシリテーター: 日本貿易振興機構地域統括センター長(東北)兼仙台貿易情報センター 所長 寺田 佳宏 氏(以下、寺田氏) パネリスト: International Marine Products,Inc.(米国)マーケティングマネージャー 百瀬 慶広 氏(以下、百瀬氏)Imei(Exim)Pte Ltd(シンガポール)代表取締役社長 新野 剛 氏(以下、新野氏)第一名店股?有限公司(台湾)代表取締役社長 王 義郎 氏(以下、王氏)Classic Co.,Ltd.(タイ)マーケティング担当 Jom Pichitmarn 氏(以下、Jom氏)
各国の消費動向、輸出促進のアプローチ方法は?
百瀬氏(米国): 90年代より日本食ブームが続き、今までなかった魚を生で食べる文化が定着。和食以外にも生食商材が使用されている。和食は世界に広がっているが、米国に来て発展したものが多い。また、大事なのはコストではなく品質、そして絶対に売るという気持ち。現地の販売員に任せきりにせず、年に1度でも現地に足を運び消費者と向き合うことが大切。
新野氏(シンガポール): シンガポールは共働きが多く、ほぼ外食。健康的なイメージがある和食レストランの店舗数は増加中。また、国として人口を伸ばす計画もあり、国民の所得レベルも高くなっている。ジョブホッピングが多くそれはシェフも例外ではない。これでは店の味が一定化しないため、温めるだけなど誰でも同じ様に作れるものが外食産業で人気。
王氏(台湾): 親日国であり、味覚もよく似ている。現在、ぶりやさつま揚げなどが台湾で受け入れられている。飛行機で3時間30分という近さも魅力だと考える。日本の食品フェアは開催されているので、東北のフェアも行えればと思う。
Jom氏(タイ): ほとんどが外食の為、スーパーで食品を買う人はあまりいない。関税の高さなど日本からの主出においてハードルもあるが、それも徐々に緩和されてきている。商品を売り込む際には特性・魅力をきちんとPRすることが大事。
基本的なことではありますが、自ら現地に向かいマーケットを把握することが海外で成功するカギのようです。
コーディネーター: 上田 勝彦 氏(株式会社ウエカツ水産代表・東京海洋大学客員教授・復興水産販路回復アドバイザー) パネリスト: 生産側:平塚 隆一郎 氏(株式会社山徳平塚水産 代表取締役社長)八木 健一郎 氏(有限会社三陸とれたて市場 代表取締役社長) 流通・小売側:森 泰範 氏(株式会社藤崎 食品部商品担当課長)高橋 大就 氏(一般社団法人東の食の会 事務局代表、株式会社オイシックス 執行役員) 復興水産販路回復アドバイザー:伊藤 順 氏(株式会社キースタッフ取締役企画開発部長)細川 良範 氏(有限会社フード・サポート 社長)
上田氏から投げかけられた質問:販路回復できない原因とその対策は?
平塚氏: お客さん相手に被災地の応援という理由では売れない。商品力が必要。ストーリー性を売りにする。産地内での役割分担が必要。無駄を出さないように隅々まで魚を使う。
八木氏:資源をどう活用していくかが重要。資源価値を最大化できるようなえり好みするようなものではない、コンパクトな産業形態にかわっていくべき。それぞれが地域に話題を作りながら攻めていく。
森氏:魚とお客様を繋げる、食べ方などの原点からお客様に近づく。ちょっとしたやり方で食べ物はおいしさへ変わる。消費者は「驚き」に弱い。「驚き」をキーワードにした商品を作るべき。
高橋氏:顧客視点が足りない。被災地も非被災地も同等に見られるため全国区で戦わなければならない。高く売るための伝え方が必要。商品を作ってから売るのはリスキー。お客様を先に決めてニーズに合った商品を作る。
伊藤氏:様々な食に対応できる汎用性のある小ロットの加工場へと需要が変化している。生産者側の価値は自己満足に陥る可能性があるのでお客様提供価値を考える。地域の軸になる人が必要。人同士の交流・結びつきが大事。地域6次産業化を目指す。
細川氏:お客様への背景情報の提供がない。売るための情報を出すべき。川上から川下の情報交換がされていない。川上から川下まで集まって話す機会が必要。生産者の横のつながりも必要。
上田氏:日本人の魚のための胃袋は縮小している。お客様を育てていかないとこの先商売はなくなる。地域内の役割分担も必要である。
石巻魚市場株式会社 代表取締役社長 須能邦雄 氏によるプレゼンテーション。石巻魚市場は、競り前の選抜放射検査および入札前の検査結果公表の実施により安全に水産物を流通する取組を行っています。
講師:小川マーケティング事務所 代表 小川 徳一郎 氏
水産加工業の大多数を占める中小企業向けに、今後活かせるマーケティングをベースとした商品開発のノウハウとPR法を紹介。
ポイント 1.製品レベルでの価値の差別化の発見価値とはターゲットとするお客様が満足する要素を見極める 2.その価値をより高めるための商品化の進め方理性だけでなく感性に訴えることも必要 3.その価値をより多くのお客様に伝える方法いくら価値のある商品でもお客様が知らなければ買われることはない費用対効果の高いホームページ、SNS等を活用した情報発信、話題作り
3つのポイントを実行する前の前提として、まずは、ターゲットとする層に寄り添った商品をつくることが必要。また、「おいしい」は主観だが、「おいしそう」は情報で伝えることができます。ネット通販では、基本的なことではありますが、きれいな写真を使ったり、また、対面で話を出来ない分、購入商品にお礼状をつけたり、旬の商品の情報提供などを入れることが顧客化(リピーター)につながるとのこと。工夫次第で今すぐ始められることが多く、これからの商品開発に大いにつながるセミナーとなりました。
魚離れが進む中、思わず感動せずにはいられない魚の本当のおいしさをもっとたくさんの人に知ってもらうため、地元漁師が自信を持って勧める魚「プライドフィッシュ」のPR試食会が行われました。
今回紹介されたのは青森県の陸奥湾ホタテ・深浦マグロ、岩手県のわかめ・陸前高田エゾイシカゲガイ、宮城県のサーモン・ホヤ、茨城県の鹿島灘ハマグリ・ヒラメの8点。生産過程や、おいしい食べ方などの説明の後、試食が振る舞われました。
福島の試験操業は、現状として、他県産の水産物と同等の取引が行われているが、風評被害の払拭やこれからの水揚げ増による価格の低下、検査数の増加に伴う労力不足などを課題として挙げられました。
上田 勝彦 氏(株式会社ウエカツ水産代表・東京海洋大学客員教授・復興水産販路回復アドバイザー)の講演も行われ、プライドフィッシュを「改めて漁師が自ら覚悟を決めて日本人の食卓にもう一度魚を問いかける」ものとして、この動きを注目し、しっかり食べて支えてほしいとのこと。
講師:非営利一般社団法人 ハラル・ジャパン協会 調査担当コンサルタント 中川 圭吾 氏
世界人口の約1/4を占めるといわれるムスリム。ハラルについて、また、東京オリンピックを前に盛り上がりを見せるインバウンド市場を販売契機ととらえた販路拡大のノウハウについて説明をいただきました。
ムスリム・ハラルとは?ムスリムとは「唯一の神(アッラー)へ帰依した人」。イスラム教の教えに基づき「合法的なもの」「許されたもの」という意味の「ハラル」を生活全般に取り入れている。ハラルは食品や身に着けるもの行動の指針となるもの。
ハラル認証という言葉が先走り、まず認証を取得することを考えてしまいがちですが、成分表示など情報を開示することで、ムスリムの方に判断、選択してもらうことが十分可能。イスラムとハラルについて学び、ムスリムの留学生などに協力してもらい意見を聴くなど、まずはよく情報を集めることが大事とのことです。
出展企業が今おすすめの商品についてプレゼン。この時は、株式会社ヤマヨが刺身用のスルメイカを使った「いか刺し松前漬」の紹介を行っていました。松前漬の売れる12月以外にも、いか漁が最盛期を迎える旬の夏にも販売を伸ばす商品とのこと。
個別商談会において51社のバイヤーと96業者とのマッチングを図ると共に、事前にバイヤーからの希望・提案を集めコンペ方式により事業者を募ることが一番大きな特徴です。これにより、生産者も、バイヤーがどういったものを求めているのかが見え、また実際に良い商品が出来れば、商売に繋がりやすく、売る方にも買う方にもメリットがあるというものです。展示会当日は、多くの人がブースを出入りし、「お仕事提案型」のビジネスマッチング型の商談会が行われました。
被災地の水産加工業について販路回復や新商品の開発を促進するためには、積極的に商品開発等に向けたアドバイスを行っていくことが必要です。このため、復興水産加工業販路回復促進センターでは、東北の水産物に詳しく、商品開発や販路回復のノウハウに長けた方々を「復興水産販路回復アドバイザー」に任命し、これにより、積極的にポテンシャルの高い水産加工業者の掘起しと、実際の商品開発・販売までつなげることを目指しています。 展示会では復興水産販路回復アドバイザーコーナーが設けられ、多くの水産加工業者の相談を数名のアドバイザーで対応していました。こちらのコーナーを利用した方の感想を聞くと、「アドバイザーの方の意見が大変参考になっている」、「自分たちでは解決できないことも相談することによって新しい考え方が見つかってよかった」など好評な意見が多数聞かれました。
「アジア・アメリカ市場の状況と輸出ビジネス成功のヒント」パネルディスカッションでもパネリストとして参加した4名による商談の場が設けられました。その中でアメリカとシンガポールのバイヤー2名に、コメントをいただきました。
International Marine Products,Inc.(米国) マーケティングマネージャー百瀬 慶広 氏 アメリカ人も日本の美味しい物がわかっている、その理由にアメリカでも漁獲されているホタテ貝が日本から大量に輸入されている、これはアメリカ産に比べて日本産ホタテ貝に甘みがあり食感が柔らかく美味しいことが認識されているからである。日本産水産物にはまだまだ可能性があり、HACCPの制約はあるものの少量からでもアメリカ輸出にチャレンジして行きましょう。
Imei(Exim)Pte Ltd(シンガポール) 代表取締役社長新野 剛 氏 Imei社では日本の水産加工品を冷凍コンテナ(20ft)で月に2~3コンテナ輸入をおこなっています。シンガポールでは昨年日本食レストランが1000店舗に達したとされ、水産加工品の販売実績も伸びており、新たな商品の提案に期待しています。
2日間にわたって行われた「東北復興水産加工品展示商談会2015」は大好評のうちに幕を閉じました。 復興販路回復センター主催の本年度の展示会は終了となりますが、セミナー等は今後も各地で行う予定です。 詳細は当該センターHP上で行いますので、そちらも是非チェックしてください。
※レポートの内容および登場者の所属・役職等は記事公開当時のものです。