販路回復 ・ 助成事業 ・ アドバイザーについて、
まずはお気軽にご相談ください
ご相談のお申し込みはこちら
企業紹介第184回岩手県株式会社宏八屋

北三陸の美味しいものを、「まだ見ぬ人」に届けたい

北三陸の沿岸にある洋野町種市。三陸海岸の中でも遠浅で、水深1mくらいの岩場が沖合まで続く珍しい地形で、ウニやアワビの名産地としても知られています。そんな種市で、昭和25年に創業したのが株式会社宏八屋です。創業者は現在社長を務める横手由美子さんの義理のお父様にあたる横手 喜代勝(きよかつ)さん。個人商店として地場で揚がる海産物の販売を始めました。

「当時は戦争が終わって5年くらいの時期ですから、まだまだ小さい漁村だったと聞いています。種市は岩手県の最北端なので、一番近くて大きな商業都市が青森県の八戸でした。そこで、久慈から八戸を結ぶ蒸気機関車の貨物列車にウニ、アワビ、ホヤ、サバなどの塩漬け、干物などを載せて八戸の市場に卸していたのが創業の経緯です」(株式会社宏八屋 営業部・部長 太田 俊一さん、以下「」内同)

株式会社宏八屋 営業部・部長 太田 俊一さん

その後、昭和45年には塩ウニなどを加工する冷蔵冷凍庫を新設。好景気の時代だったこともあり、会社はどんどん拡大。昭和47年には「株式会社宏八屋商店」として法人化を果たします。

その後も、冷蔵施設の増設、缶詰工場の新設など会社は順調に発展を続け、震災前の時点でHACCP対応の工場や、当時は画期的だったスラリーアイス(微小な氷粒子と塩水等の液体が混ざり合ったシャーベット状の氷で、魚体を傷つけずムラなく冷やせる)を製造する機器なども整備が終わっていたそうです。

「創業者は、商売を始めた頃から、ゆくゆくは直営店を持ちたいと言っていました。資源を買って製造するだけではなく、自分で販売するところまでやりたいと思っていたようです。今の直販の仕組みと似ており、先見の明があったと思います。震災の前に、実際に店舗も作っていたんですよ」

震災前、宏八屋の快進撃の助けとなっていた商品が「いちご煮」です。いちご煮は、青森県の県南と岩手県の県北で作られる郷土料理で、ウニとアワビのお吸い物のこと。これを缶詰にしたものが大ヒットしたのです。

「関西の方だとなじみがないので、いちご煮が分からず『果物のイチゴジャム?』なんて聞かれます。ウニとアワビなので豪勢なイメージかもしれませんが、もともとは地元の漁師が磯場にご飯と空の鍋だけ持っていって、たくさんとれるウニ、アワビを海水で煮て作る漁師めしなんですよ」

看板商品のいちご煮

震災後は、積極的に独自性のある新商品を開発した

洋野町は海岸から1㎞くらいの場所に町を包むよう防波堤が設置されています。そのおかげで東日本大震災の時も、町は津波の被害を免れました。ただし防波堤の外側に会った種市の市場や、市場に隣接していた水産関係の施設は、全て流されてしまいました。

「当時、本社も工場も倉庫も海岸沿いにあったのですが、津波で全てがなくなりました。工場は完成してまだ1年半でした。かろうじて残ったのが高台にあった店舗だけ。そこに本社機能を移して、再始動しました」

実は宏八屋では、震災の後、一度商売をたたむことを考えたのだそう。ただし地元の有力企業であったため、町からの要請もあって再出発をすることとなったのです。その時に、太田さんも新たに宏八屋のメンバーとして加わることとなりました。

「私自身は、もともと百貨店やスーパーなどで小売りの仕事に長く携わっており、宏八屋から商品を仕入れて販売していました。その後は、地元のホテルの支配人をする傍ら、バイヤー時代に顔なじみになった人達と一緒に、地域の食産業ネットワークの企画委員長もしていました。そこでも宏八屋とも縁があり、震災後、“復興を一緒に手伝って欲しい”と声をかけられたんです」

太田さんは入社後、東北以外にも販路を広げ、販売を強化することを決意します。そのため全国で通じる商品を震災後5年の間に続々と開発していきました。そのうちの1つが「すき昆布の佃煮」。これはホテルの支配人をしていた頃、ホテルでお客様に評判が良かった惣菜をアレンジしたもの。またアカモクを使った海鮮茶づけ、塩ウニを作る過程で出来る「かぜ水」を使った炊き込みご飯の素なども手がけました。

「宏八屋は震災まで東北中心に商売をしていましたが、海の資源が一気になくなったり、放射能の問題が起きたり色々ある中で、“待ち”の姿勢ではダメだと思ったんです。何よりせっかく色々な方に助けていただいたのに、今までと同じことをしていたら将来性がない。そのためにも、他の場所にはない商品を作りたいと思いました。ホテルの支配人時代にも、いちご煮など他の地域にない商品の評判は高かったので、宏八屋の商品の可能性は信じていました」

豊かな漁場である三陸沖ではサバ、アジなども豊富に獲れますが、ブランドとして定着しているのは九州の関サバ。普通のサバでは競争が激しくなってしまいます。それよりは全国でここにしかない「いちご煮」や、まだブームになっていなかった「アカモク」など、オリジナリティの高い商品に注力することを決めたのです。

「炊き込みご飯の素は“かぜ水の飯”という名前です。なぜかと言うと、地元ではウニのことを“かぜ”と呼ぶんですね。一度TV局から、かぜ水への問い合わせが来て、全国では珍しいものならいけるかもと急いで商品開発をして、当時は非常に反響をいただきました。アカモクを使った海鮮茶漬けも、まだアカモクがブームになっていなかったこともあり、2012年の東京ビジネスサミットで準グランプリを受賞しました」

塩ウニを作る過程でできる「かぜ水」。地元の飲食店等では昔から炊き込みご飯に使用されていた
「海鮮お茶漬け」は第26回東京ビジネスサミットの「隠れた逸品コンテスト2012」で準グランプリを受賞
「かぜ水」に三陸産蒸しウニを入れて作った「かぜ水の飯」

北三陸の美味しさを、「まだ知らない人」に届けていく

震災後、5年間ほどは新しい商品開発を積極的に行っていた太田さん。ですが、最近はアカモクが獲れなくなるなど、原料の供給が難しいものも増えてきました。そこで今度は、今ある商品を「まだ知られていない地域に広めていく」方向に舵を切りました。

「宏八屋の商品は、もともと品質が良くリピーターも多いんです。同じウニ缶でも、宏八屋の商品は原料が良いので、一番芯の部分まで黄金色で黒ずんだ部分がない。新しいお客さんと巡り合えれば、必ず新しい販路が開けると思っています」

そこで新たなターゲットとしたのが東北との違いが大きい九州です。その第一歩として復興水産加工業販路回復促進センターが実施する「復興水産加工業等販路回復促進指導事業」を利用して、FOOD STYLE Kyushu 2022に参加。他の商談会だと、「50枚名刺交換をして、商談2割、成約3社」が太田さんの目安だそうですが、今回は40件商談があり、成約に至ったのも4社あったのだそう。中には単価3,000円を超える商品を500個以上という大口注文もありました。

「土地柄もあるのか、皆さん積極的で。いつもはこちらかサンキューレターを出すのに、FOOD STYLE Kyushu 2022では、ありがたいことにバイヤーの方々からたくさんサンキューレターをいただいたんです。”今回は難しかったけれど、次の商品もぜひ紹介してください”というお申し出も、かなりいただきました」

その中でも特に反響が大きかったのは、ウニの缶詰。九州では、からすみなどは定着していますが、ウニの缶詰は「珍しいもの」として興味を惹いたのです。実はこの商品、「おいしい東北パッケージデザイン展2017」で、全国のデザイナーからパッケージ案を募集したもの。この新パッケージを武器に、積極的に販売を拡大しようと考えていた商品です。

80件以上の応募の中から選ばれたウニの缶詰の新パッケージ

「今まで水産関係の展示会には数多く出ていましたが、鮮魚が中心で缶詰などの加工品は、ちょっと場違いな感じがしていました。今回出展した展示会は農畜産品やスイーツ、飲料など様々なジャンルの商材があり、その中で水産加工品が集まってブースを出していたので、関心のあるお客様に目を留めていただきやすかったように思います。全部が水産だと埋もれてしまうけれど、他の商品もあるのでかえって目立つし、真剣味のあるお客様が多く来てくれるので、実績が出やすいと思います。隣のブースが酒類を扱っていたため、酒屋さんが、お酒のあてに召し上がって“これ、つまみに良い”なんていう話もあり、良い相乗効果も生まれたように思います」

展示会のブースでは宏八屋自慢の商品が並んだ

展示会の前に開催させるセミナーも「現地での販売経験が聞け、非常に役にたった」のだとか。結果的に、九州地方で高級な珍味を扱っている会社とは、今後も良い関係性が築けそうな気配を感じています。

高品質を求める顧客と、持続的な関係を作りたい

今後の目標は、FOOD STYLE Kyushu 2022でも評判の高かったウニの缶詰を中心に、積極的に販路を拡大していくこと。また「美味しい物であればそれに見合った価格を受け入れてくれる」お客様と、末永く良い関係を築くことが、宏八屋自慢の品質を生かす上でも重要と考えています。

「ウニ缶の白パッケージ、実は社内では“え?これ?”って感じだったんですが、百貨店や高級スーパーのバイヤーさんには“絶対、これ”とすごく評価されました。中身ももちろん自信があり、展示会でも試食を出したら反応がすごくて。それともう1つ、普通のいちご煮は少しずつ扱うメーカーが増えてきたので、宏八屋では国産の厳選された材料だけで作った高級ないちご煮を、“うにとあわびのお吸い物”という名前で出しているんですよ。こちらも本物志向の方や、美味しいものを少量食べたいご年配の方などにマッチすると思います」

国産の厳選素材だけを使ったうにとあわびのお吸い物

「生鮮に近い形でもウニ、ホヤなどを販売していますが、生鮮は旬の時期にしか販売できません。水揚げが安定しているウニやアワビなら良い原料で良い製品を作れるし、加工品がヒットすれば年間を通じて、安定的に販売できるようになります。値段合戦では将来ダメになると思うので、高くても美味しいものを食べたい方々に、宏八屋のことをもっと知って欲しいです」

また今後はオンラインの商談会にも、力を入れていく予定です。品質に定評のある宏八屋では、「サンプルを事前に送れば、9割は興味を持ってもらえる」のだそう。そこで、オンライン上で一から商談を始めるのではなく、事前にサンプルを送り、試食してもらった上でオンライン商談会をすることで、効率の良い仕事につながっているのだとか。

「オンライン商談で、はじめましてと社長さんに商品を紹介する感じだとなかなか前に進まないのですが、事前に食べてもらうと商談のテンポが全然変わります。特に、常にお客さんと接してお客さんの好みを把握していらっしゃる現場の店長さんや、女性従業員の方々に食べてもらえると本当に話が早い。今年も東北復興水産加工品展示商談会のオンライン商談会に参加させてもらいましたが、今後もそういう形でオンラインは活用していきたいです」

バイヤー時代に培った豊富なアイディアをもとに、次々と新しい製品を開発し、最適な人に届けていく太田さん。その「先見の明」は、創業者から続く宏八屋の伝統でもあるのかもしれません。

株式会社宏八屋

〒028-7314 岩手県九戸郡洋野町種市22-131-3
自社製品:うに缶、いちご煮、ほたて缶、うに・ほたて等の炊き込みご飯の素 等

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。