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企業紹介第133回千葉県株式会社兆星

江戸時代から続く銚子の6代目、
機材導入で目指す持続可能な経営

2011年から連続して水揚げ量日本一を誇る、千葉県の銚子港。利根川河口の南岸に3つの卸売市場を擁する大きな漁港の岸壁沿いには、釣りを楽しむ人たちの姿も。淡水と海水が入り混じるこの水域には多様な魚が生息しており、絶好の釣りスポットにもなっているのです。

周辺ではイシモチやカレイ、スズキなどが釣れるという

そんな豊かな釣り場でもある銚子港の近くに加工場を構える株式会社兆星の創業は、なんと江戸時代。社長の網谷征己さんは自身の祖先についてこう語ります。

江戸時代の創業から数えて6代目の網谷征己さん

「明治末期生まれの祖父が魚屋を営んでいて、サンマの蒲焼き、サンマの卯の花漬けなどをつくっていました。さらに先祖を遡ると、現在の和歌山県から漁をしながら銚子にたどり着いて、江戸時代の頃にはかつお節などをつくっていたと聞いています」(株式会社兆星 代表取締役 網谷征己さん、以下「」内同)

網谷さんの父・昭宏さん(現相談役)の代に、兆星は製造業を本格化させます。銚子ではサンマやサバが大量に揚がり、従業員を増やして加工の数量を伸ばしていったのです。

究極の干物「灰干し」のヒットで会社は急成長

地元の高校を卒業後、他県の水産加工会社などで働いていた網谷さんは、兆星が法人化した1988(昭和63)年頃に銚子に戻ってきます。

「当時はサバ、サンマ、ホッケの塩干品などをつくっていました。その後もニーズが変化するたびに、醤油漬け、味噌漬けなど、いろいろな製法を試してきました。その中で売れていくもの、消えていくものがありました」

ヒットしたのは、父・昭宏さんが手掛けた灰干し。ブームのあった90年代にサンプルを作ってみたところ、取引先から「うちの分もつくってくれないか」と注文が増え、会社全体の売り上げが倍増。一時は灰干しの生産に集中することもあったそうです。今も続けているこの灰干しを、網谷さんは「究極の干物」と呼んでいます。

「灰干しとは、灰と灰の間に魚を挟んで、余分な水分を取ってうまみだけを残す昔ながらの製法です。魚が灰で汚れないように紙のセロハンで包んだり、良質な火山灰を取り寄せたり、乾かすのに時間がかかったりと手間暇のかかる製法で、他の製法の半分くらいの量しか作れません。ただその分、臭みが少なく、塩分も半分の干物ができあがります」

長い歴史の中であらゆる製法にチャレンジしてきたという兆星は、佃煮、焼き加工、レトルト製品など、刺し身以外のあらゆる加工に対応できるようになりますが、2011年の東日本大震災後、工場稼働率が急減してしまいます。

「津波被害はありませんでしたが、地震の揺れで工場にヒビが入り、修繕が必要になりました。物理的被害以外で大変だったのは、配送先が停電のために納品できなかったことです。作ったものを持っていっても、『停電で冷凍庫が使えないから引き取れない』と言われて引き返し、そのまま廃棄せざるを得なかったこともあります」

これまで原料として使っていた魚種の水揚げも減り、売上は年々少しずつ落ちていくような状況。どうしたらいいかと悩みながら新たな魚種、製法を試しましたが、その間にも変化する需要に対応することが難しくなってきました。

「何をやってもマイナス方向に進んでいるんじゃないかと思うこともありました。需要の変化に対応するには人手も機械も足りない。そんな中で、既存の取引先からは供給量の増大や新製品の提案を求められていました」

包装ラインの一新で新たな受注を獲得

事態を打開するために、網谷さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用して、自動包装ライン、ヘッドカッター連動フィレマシン、フィレ重量選別機などを導入しました。

「ヘッドカッター連動フィレマシンは、イワシなどの小型の魚の頭を取って、あとは粉を付けるだけの形に加工してくれます。そのまま冷凍して出荷することもありますし、当社で粉付けまで行うこともあります。フィレ重量選別機とつなげて使うことにより、数グラム単位で製品を選別することも可能です。新しい販路を獲得するためにも細かい選別ができるかどうかはとても重要です」

ヘッドカッター連動フィレマシンの導入で作業効率が向上

自動包装ラインは、煮付け製品の包装に使われています。これまで手作業で10人かかっていた包装ラインが5人で回せるようになり、作業時間も6分の1に短縮されました。月間3万パックの出荷が可能になり、取引先からの増産要望にも応えることができました。

「この機械があったから注文を取れたと言っても過言ではありません。銚子漁港で水揚げされる魚を用いた製品の加工も新たに決まりました」

自動包装ラインの一角に備えられた深絞り包装機
新しい包装ラインで製造された赤魚の煮付け

一喜一憂せずに、持続可能な経営改革を目指す

コロナ禍において家で過ごす人が増えたことで、兆星では家庭向け製品の注文が増加。短期間でニーズが変わっていく中、網谷さんは新商品の開発をさらに進めていきたいといいます。

「今は簡単に食べられる製品が求められているので、レトルト装置を使って、常温保存の製品もつくっていきたいと思います」

そしてその製品づくりの先に、ある目標を持っています。

「灰干しのヒットでいい時期があったので、他社の人からは『忙しくていいね』なんて言われたこともあります。たしかに子供の頃から、うちは忙しいのが当たり前だと思っていましたが、いい状況というのは一時的なことでしかありません。これからは、もっと長い目で見て、ここで働く従業員のみんながハッピーになるような経営を目指したい。まずは売上を伸ばして、利益を確保する。そして経営が改善されたら、休みを増やしたいと思っています。笑われるかもしれませんが、週休3日が目標です」

江戸時代から一貫して同じことをしてきたのではなく、時代の変化に合わせて試行錯誤してきた網谷家、そして兆星。網谷さん自身が進めてきた機械化を今後も推進し、伝統を守りながらサスティナブルな経営を目指します。

株式会社兆星

〒288-0002 千葉県銚子市明神町2-292
自社製品:灰干し、漬け魚、佃煮、焼き魚など

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。