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企業紹介第117回宮城県株式会社カネダイ

「素材から惣菜へ」煮魚から始まる新たなストーリー

正月に向けて急ピッチで作業の進む加工場内。宮城県気仙沼市のカネダイではこの日、おせちに欠かせないカニやエビなどの加工が行われていました。

HACCP認証を受けるなど衛生管理基準の高いカネダイ工場内

水産加工業以外にも、漁船経営、プロパンガスの販売なども手がけるカネダイの創業は1942年(昭和17年)。近海トロール船を購入したことから始まります。

新製品の開発等にも携わるカネダイ常務取締役の小野寺正喜さん
新製品の開発等にも携わる
カネダイ常務取締役の小野寺正喜さん

「漁船経営から始まった当社の事業は、その後エネルギー事業など多方面に広がっていきました。その中でも水産食品部門の売り上げは、現在、全体の6割ほどを占めています。主な製品はカニ・エビの加工品で、震災後に建設した工場では前浜で取れたサンマなどを使った加熱商品なども取り扱っています」(カネダイ常務取締役の小野寺正喜さん、以下「」内同)」

世界を股にかけて事業展開をしている点も、同社の特徴的な点といえます。気仙沼の加工場では主に国内販売向けの水産加工品を生産していますが、カニ・エビの主力工場である中国の煙台市に所有する自社加工場で生産した商品は北米などへも輸出しています。また、気仙沼近海で定置網漁業を手掛けるほか、インド洋ではマグロ漁業、ナミビア共和国(アフリカ)ではカニ漁業を自社で展開しています。

「最盛期には4隻の漁船が操業していましたが、現在はインド洋で漁をするマグロ漁船1隻と、アフリカで漁をするカニ漁船1隻が操業しています。漁業経営による原料調達以外にも、アメリカ、カナダ、デンマークなどからの買い付けもしています」

津波で13施設が全壊、施設は順次復旧も売り上げ戻らず

震災前、カネダイは水産加工場やガス充填所など、合わせて15の施設を所有していました。しかし、震災の津波により13の施設を失うという壊滅的な被害を受けました。

「山にあった機械倉庫と漁具倉庫以外はすべて全壊しました。工場などにいた従業員の避難は、この辺りでも早かったほうだと思いますが、ガソリンスタンドで働いていた従業員1名が津波で亡くなりました」

大きな被害のあったカネダイですが、それでも震災のあった3月のうちに、一部の業務を再開させなければならない事情がありました。

「当社の供給がストップすると困るという取引先もあったことから、すぐに都内の商社の事務所に場所を借りて営業を再開したほか、病院や学校などのお客様に魚介類を届けるため仮設の仕分け場所を設けました。しかし、工場があった場所は通称「網掛け地区」に指定されたため、容易に工場を新設できず、一旦解雇せざるを得ない従業員もたくさんいました。水産加工を再開できたのは震災翌年の7月のことですが、その規模は震災で無事だった漁具倉庫を改造した小さなものだったため本格的な加工場施設を待ち望んでいました」

震災前、200人ほどいた従業員は、この時80人ほどに。規模は縮小しましたが、その後は震災前にあった施設の復旧を段階的に進めていき、現在は6箇所の施設を稼働させるまでに回復。2017年には新社屋(工場)も完成しました。こう聞くと順調にも思えますが、新しい建物ができただけで売り上げが元に戻るわけではありませんでした。

2台目の飽和蒸気調理器導入で煮魚の生産能力が2倍に

新社屋完成後も、設備不足、人手不足、原料高など多くの課題があり、カネダイの販路回復は思うように進みませんでした。そこで同社は販路回復取組支援事業の助成金を活用し、競争力強化につながる2つの新しい機材を導入しました。

「導入機材の一つは飽和蒸気調理機です。当社では新社屋移転後に、サバ、サンマ、イワシといった魚の煮魚加工を始めており、その際にも同じものを導入していました。つまり今回のものが2台目になります。当社が使っている飽和蒸気調理機は、他の煮魚用の機材に比べて決して生産性が高いわけではありませんが、おいしい煮魚を作れるので重宝しています。2台に増えたことで、交互に使いながら40分の調理時間をただの待ち時間にせず、効率的に作業できるようになりました。これまで日産300~400キログラムだったところ、600~800キログラムの生産が可能になりました」

2台並ぶ飽和蒸気調理器(右側が新しいもの)。生産能力が倍増した
2台並ぶ飽和蒸気調理器(右側が新しいもの)。生産能力が倍増した

助成金の活用で導入したもう一つの機材は、横入式給袋連続真空包装機。これまで12人の作業員が手作業で充填と梱包の作業を行っていましたが、この機材を導入したことにより、従来の倍の量を7~8人体制で処理できるようになったといいます。

省人効果が高く、商品開発の幅も広げそうな横入式給袋連続真空包装機
省人効果が高く、商品開発の幅も広げそうな横入式給袋連続真空包装機

「横入式給袋連続真空包装機の導入で作業効率の向上とコストダウンを実現できただけでなく、そこから新商品につなげることもできました。骨までやわらかく食べられる『三陸の青魚と野菜のトマト煮』などは新しい機材を応用しての新商品です。当社の主要製品は業務用が多いのですが、このような家庭向け商品を作ったことで『カネダイもこういう商品を始めたんですね』と営業の切り口になっています」

主婦層に向けたパッケージデザインの「三陸の青魚と野菜のトマト煮」
主婦層に向けたパッケージデザインの「三陸の青魚と野菜のトマト煮」
震災復興の事業から人気ブランドに成長した「かに物語」シリーズ
震災復興の事業から人気ブランドに成長した「かに物語」シリーズ

「食べてもらえればわかる」おいしさへの揺るぎない自信

カネダイが一般消費者向けに煮魚加工を始めたのには、とある事情からです。

「近年は水揚げが低調で、凍結工場で量をこなす仕事をするだけでは経営が難しくなってきました。魚は明日入ってくるかどうかもわかりません。また、消費者が生魚よりも調理済みの加工品を求めるという時代の流れもあり、『素材から惣菜へ』が私たちの新しいコンセプトになりました。『家庭でおいしく魚の加工品を食べるなら煮魚かな』と思い、飽和蒸気調理機に行き着いたのです」

イワシの味噌煮の盛り付け例。家庭でも「おいしく簡単に」を目指す
イワシの味噌煮の盛り付け例。家庭でも「おいしく簡単に」を目指す

すでに多くの水産加工会社が煮魚を作る中、後発企業となったカネダイは変わったことをするのではなく「味勝負」をしているといいます。しかし小野寺さんは、何がどのようにおいしいのか、多くは語りません。「食べてもらえればわかる」という自信からです。

「モニタリングと改良を重ねて2年がかりで味を仕上げました。味覚は人それぞれ違うので、皆さんどのような感想を言うのかはわかりませんが、お客さまからは『おいしい』という声を多くいただいています。サバの味噌煮、醤油煮、イワシの生姜煮などの味付けは、地元の調味料にこだわらず、全国の調味料をいくつも試しました。地元のものを使ったほうが商品ストーリーは作りやすいのですが、それはもう他社がやっていることなので、後発のうちは売りづらい。そこでおいしさを優先したのです」

とはいえ、いくらおいしくても、「知る人ぞ知る商品」になってしまっては、事業としての存続が難しくなります。「今後はブランディングの再構築もテーマになる」と小野寺さんは言います。

「今は魚の消費量が減っています。肉よりも割高になっている。その中で売れる商品を作っていくには、トマト煮のように、野菜と魚の組み合わせなども考えていく必要があると思います。当社は『かに物語』という高級惣菜ブランドも手掛けていますが、今後は煮魚のように低価格帯の商品も増やしながら、素材から惣菜へ、シフトチェンジしていきたいと思います」

味を追い求めた次のステップは、ブランド力の向上。家庭向け商品へのチャレンジという、カネダイの新たなストーリーは始まったばかりです。

株式会社カネダイ

〒988-0033 宮城県気仙沼市川口町1-100 自社製品:エビ加工品、カニ加工品、各種煮魚 ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。