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企業紹介第93回宮城県株式会社 超冷

製品開発を止めるな!「食べ物は飽きられるから新しく作る」

宮城県気仙沼市の水産加工会社、超冷の歴史は、社長の泉雄治さんが以前勤めていた会社から工場や冷蔵庫などを買い取ったことから始まります。

勤めていた会社から工場などを買い取った超冷社長の泉雄治さん
勤めていた会社から工場などを買い取った
超冷社長の泉雄治さん

「マグロ漁業と水産加工を兼業していた前身の会社が清算される時に、冷蔵部門の責任者だった私が、銀行からの借入などにより冷蔵庫と食品工場を買い取って、平成6年(1994年)に新しい会社としてスタートしました。前身の会社ではサンマ、サバ、イワシなど前浜の魚の冷凍出荷もしていましたが、超冷では原料や製品加工の幅を広げていきました」(泉雄治さん)

泉さんは前身の会社から引き継いだ4つの冷蔵工場と1つの食品加工場で水産加工業を続けましたが、それらの建物は2011年の東日本大震災ですべて失ってしまいました。保有していた在庫の被害も甚大でした。

「しばらくの間、私や従業員たちは避難所生活をしていました。金庫や書類も津波で流されてしまいましたが、なるべく早く再開することをまわりに伝えました。時間が経つほどお客さまが離れて、従業員も不安になりますので」(泉さん)

泉さんは仮事務所を借りて、事業再開に向けて準備を始めました。そして震災の年の9月に、山あいにある他社の工場を借りて、一部の加工品から生産を再開させたのです。

生食用のマグロは超冷が得意とする製品
生食用のマグロは超冷が得意とする製品

「生食用のマグロなどを、以前から付き合いのある会社から手配してもらいました。機械を津波で失い、インフラなどもまだ十分に整っていませんでしたが、少量ずつでも生産をしていました。取り引きが一旦途切れてしまうと、それを元に戻すのは大変だからです」(泉さん)

震災の翌年には、2つの冷蔵庫の修理が完了し、食品加工場も再開。しかし残り2つの冷蔵庫は閉鎖することになりました。また、震災後に再開した施設は三陸沿岸道路の建設工事のため立ち退きとなり、現在は2016年に気仙沼市赤岩地区に建てた新しい食品加工場と冷蔵庫を主要拠点としています。

飛び込み営業で外食チェーンの販路を開拓

超冷では震災前から外食産業への販路開拓を進めていました。泉さんと一緒に飛び込み営業で各地を回っていたのは、加工部本部長の小松憲治さんです。

泉社長とともに販路開拓を進めてきた小松憲治さん
泉社長とともに販路開拓を進めてきた小松憲治さん

「津波で機械がなくなったので今はやっていませんが、焼き魚の冷凍、冷蔵製品を作って販路を開拓していました。当時はまだ他社がやっておらず、うちが先駆け的な存在として外食チェーンのお客さまなどに使ってもらっていました。漬け魚や寿司ネタなどの製品も徐々に増やしていき、現在も外食チェーンのお客さまなどに使ってもらっています」(小松憲治さん)

震災後、他社にシェアを奪われてしまった既存商品もあります。機械が揃っていないため、以前と同じものを作れるわけではありません。そこで機械がなくても作れる新製品として、サンマなどの竜田揚げ製品を試作販売したところ、販売量が順調に増加。今度は一転、人員不足により注文に応じられない状況が発生したため、超冷は販路回復取組支援事業の助成金を活用して新たな機械を導入することにしました。

売上アップと省人化の効果をもたらした「小型腹骨取り開き機」

超冷では震災前から外食産業への販路開拓を進めていました。泉さんと一緒に飛び込み営業で各地を回っていたのは、加工部本部長の小松憲治さんです。

ほぼ毎日稼働しているという小型腹骨取り開き機
ほぼ毎日稼働しているという小型腹骨取り開き機

「これまでは6人体制で手作業で開き加工をしていましたが、この機械を導入して3人で作業ができるようになりました。また一日あたりの生産量も、従来の200パックから400パックに倍増しています」(小松さん)

この機械によって原料の骨を除去した後は、竜田揚げ用の大きさにカットし、下味を付けてからパン粉を付けて、凍結しています。
さらに、注文に応じて超冷の工場内で揚げ加工まで行っています。現在、竜田揚げ製品の原料はサンマを中心に、タラ、カレイ、サバ、アカウオなど7種類から8種類を扱っています。

竜田揚げ用のパン粉付け加工
竜田揚げ用のパン粉付け加工
注文に応じて行う揚げ加工
注文に応じて行う揚げ加工

「食べ物は飽きられるもの。新しいものを作り続けていく!」

超冷の経営理念は、「世界のシーフードを創造する」。その言葉通り、原料の調達先、そして販売先として、世界に視野を広げています。

「前浜の魚だけでは調達が間に合わないので、三陸だけでなく北海道などからも原料を調達しています。また、魚種によっては海外のものも使っています。展開はどんどんグローバルになっていますし、今後は製品の輸出も考えています。すでに輸出向け製品も出来上がっており、これから営業に入っていくところです」(小松さん)

外食チェーンへの焼き魚の展開など、これまで他社に先駆けて未知の領域を開拓してきた超冷。社長の泉さんは、どこからそのヒントを得ているのでしょうか。

「市場に行っても、消費者のニーズやトレンドは分かりません。しかし外食産業などの消費者と接点のある取引先の方と話していると、それが分かる。そこからヒントを得て、『これからはこれだ』と確信したところに投資しているんです」(泉さん)

会社の資源をそこに集中するため、従来の成功体験からの“卒業”も厭(いと)いません。

「昔は1次加工を手がけていましたが、2次加工、3次加工へと取り組んでいきました。また他社に先駆けて始めた焼き魚の冷凍・冷蔵品も、震災で機械を失ったことを機に生産をやめました。今のところ再開の予定もありません。それらは一旦卒業。食べ物というものは、すぐに飽きられてしまいます。ずっと継続して売れるものはなかなかないので、製品開発は今後もずっと続けていきます」(泉さん)

現在、超冷の売上は震災前の9割ほど。震災前に比べて冷蔵庫が2つ減ったことを考えれば、もっと厳しい数字になっていてもおかしくないところですが、製品の付加価値を上げてきたことがここまでの回復につながっているのかもしれません。超冷の「世界のシーフードを創造する」取り組みはこの先も続きます。

株式会社 超 冷

〒988-0103 宮城県気仙沼市赤岩港128-3
自社製品:サンマ竜田揚げ、生食用マグロ、各種フィーレほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。