セミナーレポート「東日本大震災被災地域の水産加工品を売り込め！販路回復・開拓パネルディスカッション 開催報告」

仙台で本年６月に開催された「東北復興水産加工品展示商談会2015」の一環として、被災地域の水産加工品を首都圏に売り込むにはどうしたらいいのか？というテーマをもとに百貨店・商社・支援団体等、流通販路開拓の専門家をお招きし、パネルディスカッションが11月9日に行われましたので報告いたします。

仕入れる側やお客様にとって三陸産水産物の評価はいかがですか？

• 野口氏：水産全体を見ると、刺身こそ前年と変わらずですが、丸魚（捌いていないそのままの魚）や惣菜は売上が落ちており、供給も減っています。購買層としては60～70歳くらいの昔から魚をよく食べている高齢の方が多いですね。三陸産の商品だけでいうと、特に良い悪いという評価はありません。これは三陸の情報を消費者に十分に与えていないため産地に対するイメージが付いていないためだと考えられます。現に売り場で「こんなメーカーがこういうこだわりを持って作っている」という情報を載せたポップを付けたところ売上が3倍に伸びた実績もあります。

• 南氏　：水産業に対して向かい風が吹いているのは確かです。首都圏は距離的にも近く、比較的理解があると感じていますが、関西ではまだまだ風評被害が根強く残っています。今、三陸の水産加工業者は全体的に苦しい状態にあるかもしれませんが、今やっている工夫や努力は将来必ず報われると思いますので、消費者がどのようなことを考えているのか、どんなところにヒントがあるのかを探し続けて欲しいと思います。
• 藤本氏：多くの企業は震災復興について考えているので、三陸産の水産物を使わないということは先ず無いと思います。三陸の水産物はブランドが強く、欠かせないものとなっています。

商品づくりのヒントを教えてください。

• 野口氏：なかなか商品が売れにくくなった時代にあってもヒットする商品はあるもので、そのキーワードのひとつは「プレミアム」ですね。今までのスタンダードの上をいく商品や希少性のあるものは人気です。2つ目は「歳時記」。これまで魚屋さんがやらなかったハロウィンやクリスマスなどの季節のイベントへの参加が見られるようになっています。そして最後に「たて」という言葉。できたて・つくりたて・揚げたて等“たった今”“only for you”の考え方にお客さんは反応します。加工品であれば、あとは焼くだけ、揚げるだけなど「たて」を補助する製品の開発がよいのではないでしょうか。

• 南氏　：「ストロングポイント」の追及が必要だと思います。商品自体がおいしいのはもちろんですが、それを消費者に“いかに伝えていくか”を考えるべきです。また、水産品が売れていくためには魚離れの解消が不可欠です。そのため、普段魚を食べない方にもまず食べてもらうために、骨抜きや、レンジ調理ですぐ食べられるなど「簡便性」を意識した商品を作ることも大事です。

• 藤本氏：弊社では“缶つま”が好調ですが、先ほど野口氏がおっしゃったように、このシリーズでも、「プレミアム」があります。このほかに「極」「smoke」など原料や味付けや加工方法をこだわり工夫したシリーズが一般の方にも受け入れられ、浸透してきています。消費者が手に取ったときに加工に込めたこだわりがわかる商品作りが大切ですね。また、開発側としては1次加工の段階でこだわりやストーリー性のあるものに魅力を感じます。
• 遠藤氏：地元の食材にこだわった生産者の顔が見えるような商品作りが大事です。産地の表示を国産とするのではなく、○○県○○産というようにコアを小さくすることで商品価格を高く設定できるようになります。個社ではなく、地域でまとまって売り出すとよりブランド力が高まります。また、首都圏では、1～2人の世帯が増えており、個食が多くなっています。フライパンやレンジで調理でき、50～60gの少量サイズの商品が売れるようになっています。生産者は、自分の商品がどのような形態で食べているのかわかっていません。生産者の考える一番おいしい食べ方を伝えましょう。

商談のポイントは？

• 野口氏：市場より先の販路にも興味を持つこと。最終的な販売先のビジネスステージを意識して欲しいですね。商品のどんなところに注力して生産しているのかを明確に発信しているかも大事。あとは、自分の商品が売り場ではどう扱われているのかを確認し、本当はどう売って欲しいのか意見を伝えることが大切です。また、売り先を研究し、よく理解していると商談の成功率が上がります。商品の提案は4～5ヶ月先の売場を意識したものだとバイヤー側からすると非常に助かります。
• 南氏　：一番大事にしてほしいポイントでもあるのですが、商品に対する「情熱」「思い入れ」を伝えていただけると好感を持てます。何よりもまずはここが入口ですね。細かい話はその後。この他に、ネット販売なのかギフトなのかなど、商品をどのように届けようとしているのか、最終消費者をきちんと見据えた商談は話しやすいです。また、実際に売場に足を運んで、お客様の話を聞いて、思いを直に感じて欲しいです。

• 藤本氏：原料として扱う前提の話になりますが、どんなところにリスクがあるのか（小骨がとりきれない等）はじめに言って欲しい。心配事を相談してくれるメーカーはこちらからしても信頼できます。また、商品に関する情報（いつ獲れるか、どのくらい獲れるか、安定供給できるか等）をリスクと合わせてプロの視点からお話いただけるとありがたいですね。

• 遠藤氏：商談での会話自体にハードルを感じるメーカーが多いと感じます。2～3回商談をすると慣れて、工夫ができるようになってきます。バイヤーから「ダメなものはダメ」と伝えるようにしてもらうことで商品がブラッシュアップできるようになります。また、FCP展示会・商談会シートを書くことでターゲットが見えてきて、どのようなバイヤーと商談すれば良いか、こちらもアドバイスがしやすいです。

三陸に期待する水産加工品はどういったものですか？

• 野口氏：本物・おいしいものが見たい、食べたいと思っています。小さい地域で食べられているわが町だけの「とっておき」のものに期待しています。三陸で食べられているそのままの食べ方・味を首都圏の人にも食べさせて欲しいです。
• 南氏　：大丸は2017年で300周年を迎えるので、その特別企画を考えているところです。ものづくりの現場の息吹が感じられるもの、思いが伝わるものを、その情報を開示しながら販売したいと思っています。三陸のも店頭に並べたいのでそのような水産加工品を作っていただきたいです。

• 藤本氏：三陸産の先が見える広がりのある原料に期待しています。
  また、一緒になって商品づくりができるメーカーをお待ちしております。
• 遠藤氏：生産のなかで出てくる端材、規格外のものが無駄になっていることが多く感じられます。それらを活かした商品づくりを行ってほしいです。

商品開発の成功例は？

• 野口氏：完成しきった商品を持って商談を行うと不採用となり失敗することが多々あります。逆に開発途中の商品を持って商談を行う際に、商談先の意見を聞き、キャッチボールしながら開発したいと話すと成功する可能性は上がると思います。
• 南氏　：おいしさの見える化が成功へと繋がる。以前、カツオで商品を作ろうとした際に、カツオの良さとはなにかと考え「鮮度の良さ＝おいしさ」として、鮮度のよさに徹底的にこだわることにしました。朝水揚げされたカツオを飛行機で運び、その日のうちに首都圏で販売してみると、多くの消費者に受け入れられました。また、東北のフェアを行ったときには「○○たて」にこだわり、作りたての金華サバの押し寿司を販売し、好評を得ました。
• 藤本氏：缶つまシリーズのヒットの理由には、売場を変えたというのがあります。それまでの缶詰売場ではなく酒売場に商品を並べたことで売上が伸びました。目先を変えることで商品が売れるようになることもあります。また、消費者の困っているニーズを読み取って、満たすことがヒットのヒントに繋がることがあります。

七五三やお食い初めなど日本古来の歳時には今でも「魚」の文化が残っています。ハレの日では使われるのになぜか普段の食卓にはなかなか上ってこなくなっています。これを打破するためには、皆さんもおっしゃっていたようにおいしさをどう伝えていくかが課題です。日本の消費者は商品の背景にあるストーリーを楽しんで「うまい」と思う傾向がありますので、生産者の汗が伝わる様に発信力が大切です。まずはぜひ、伊達な商談会などを利用してアピールされてみてはいかがでしょうか。

5年後の水産加工品はどのようになっていますか？（質疑応答）

• 野口氏：買いやすい・わかりやすい・親切な商品が増えていくと思います。パッケージを見ただけでどんなおいしさがあるのか、どんな楽しみがあるのかわかる商品が売れていくと思います。
• 南氏　：生鮮品からより加工度の高い商品を並べた売場へと変化していくと思います。その中でも鮮度感が大事になるので、それを意識した商品づくりが良いと思います。
• 藤本氏：消費者は、グロッサリーの定番商品を求めて歩くことが多いです。常温ではない温度帯での商品づくりを試みるのも良いと思います。

パッケージを変えたことで効果が出た事例はありますか？
（質疑応答）

• 野口氏：パッケージの文字・大きさ・色を変えたことで売上が伸びたことは多々あります。変化を求めると反対する方も多いと思いますが、変化を恐れずにデザインを変えてみることも必要です。
• 南氏　：パッケージの話とは少しズレますが、カットフルーツを販売していた際に、それまでは冷蔵ケースの中に並べていましたが、氷を敷いてその上に商品を置いて販売したら売上が伸びました。売場の見せ方でも売上は変わってくると思います。
• 藤本氏：缶つまシリーズは容器の中身が印刷された箱に入れることで売上が伸びました。一番伝えたいことがわかるパッケージを作ることが大事です。

※セミナーの内容および講師の所属・役職等は記事公開当時のものです。