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企業紹介第139回福島県青木食品工業有限会社

自社ブランド開発がもたらした従業員の意識改革

かまぼこの製造において、「坐(すわ)り」と呼ばれる工程があります。これは魚肉をすりつぶして成形した後に、一定時間放置することで弾力を生じさせるというもの。一般的には10℃から40℃の間で行われ、高温帯の坐りを高温坐り、低温帯での坐りを低温坐りといいます。高温坐りの時間は短く、早ければ1時間ほど。低温坐りでは一晩以上寝かせることもあります。

福島県いわき市の青木食品工業有限会社は、1962(昭和37)年の創業以来、低温坐りでかまぼこを製造しています。時間のかかる低温坐りを選ぶのはなぜでしょうか。

「坐りの温度と時間によって、かまぼこの食感が変わります。うちはソフトな食感に仕上げたいので、低温坐りにこだわり続けています」(青木食品工業社長の青木秀典さん、以下「」内同)

大学卒業後、東京・築地市場で営業の仕事もしていた青木さん

青木食品工業の礎を築いたのは、青木さんの祖父と父で、もともと銚子や塩竈でかつお節加工の仕事をしていました。その後、たまたま地元でかまぼこ屋の募集があり、そこで職人として働くようになり、のちに独立。二人で独自のかまぼこづくりをスタートさせたのです。

「現在、製品の構成は、蒸しかまぼこが2割ほど、さつま揚げが8割ほどを占めています。さつま揚げが主力となっていますが、かまぼこを低温坐りでつくっているところはそれほど多くないので、うちの強みになっていると思います」

震災後、自社製品開発に活路を見出す

2011年の東日本大震災の大津波は、青木食品工業の周辺にも押し寄せましたが、工場の土地が高くなっていたため、壊滅的な被害は避けられました。しかし浄化槽や配管に被害があったほか、地震で工場に傾きが生じたために排水の流れる方向も変わってしまいました。

「震災以降、工場内で水平を取りづらくなったため、工場再開後も機械の不調に悩まされました。修理や調整をしたくても、当時は業者が福島県まで来てくれなかったので、自分たちで直すしかありませんでした」

機械が万全でないまま工場を再開したのには理由がありました。工場を止めてしまったら、これまでの顧客が離れてしまうと思ったからです。そうならないように仕事を続けましたが、震災の年は結局売上が昨対比で3割も落ちてしまいます。

「それまでは委託加工が中心でしたが、このままでは数字が戻らないと思い、震災の翌年からは自社ブランドを立ち上げました。2年くらい試行錯誤してようやく成功したのが、1枚200グラムある、大きな一枚ものの『揚げかま天』です」

その後、定番商品となった揚げかま天をアレンジした新商品「ソフト揚げスティック」を開発。12本を袋詰めにして販売しましたが、当初は思うように売れませんでした。

震災後自社ブランドで初めて成功した「揚げかま天」
「揚げかま天」をカット加工した「ソフト揚げスティック」

「そんな時に、取引先から『うちで販売したい』という話があり、『ソフト揚げスティック』の製造量が増えました。しかし当時は日産1,500パック程度が限界。6,000パックの注文が来ているものの対応できず、販売機会の損失が続いていました」

青木食品工業には、生産量を伸ばしたくても伸ばせない事情がありました。同社が長年続けてきた低温坐りでは、どうしても時間がかかってしまうのです。高温坐りであれば生産量を増やせるはずだと思い、そちらも試してみましたが、高温坐りのノウハウが少なかったこともあり、品質が安定しませんでした。

型枠を増やして生産体制を大幅に強化

そこで青木さんは販路回復取組支援事業の助成金を活用し、生産性を向上させる機材を導入しました。

「『ソフト揚げスティック』をつくるための型枠を800個増やし、それを運ぶ台車も増やしました。一度にたくさん坐らせることになるので、温度管理をする『坐り庫』を広くする必要もありました」

新しい坐り庫の内部。従来の8.5坪から13.5坪に広げた

この結果、「ソフト揚げスティック」は日産1万2000パックまでは可能になりました。さらに、トンネルフリーザー用の冷凍機を導入し、冷却能力の向上も図りました。型枠と冷蔵機の導入により、工場全体としては、時間あたりの生産数量が以前の2倍になったそうです。

使用済みの型枠は分別整理をして洗浄。
大量にあるため効率的に管理している
今回導入したトンネルフリーザー用の冷蔵機

増産の準備が整ったことから、大手スーパーへの納品も決定。しかしその後、足踏み状態が続いています。2020年の新型コロナウイルス騒動により営業活動を自粛したため、注文が伸び悩んだのです。

将来的には製品の半分を自社ブランドで

一つ壁を越えるごとに、また新たな壁が立ちはだかりますが、なおも青木さんは新商品の開発を続けます。新商品「ホタテ入り揚げかまぼこ」などを今後展開していくといいます。

「従業員からも新商品のアイデアが次々に出てきていて、今はその商品開発を進めています。自社ブランドを始めてからは、従業員も自発的になったと思います。商品企画だけでなく、衛生的な職場環境づくりの提案なども出てきています」

現在の自社製品の割合は、全体の2割ほど。青木さんは将来的に、この数字を5割ほどまで上げたいと話します。

「自社製品を始めたのは、震災後の売上回復を目指したからですが、そのきっかけは魚市場で働く大学の先輩からの一言でした。たまたま遊びに行った時に、『自社ブランドで何かつくらないの?』と言われていなければ、チャレンジしていなかったと思います」

背中を押された青木さんが工場に持ち込んだ創造的な空気とチャレンジ精神。従業員と一体となって、安心安全とともに製品を食卓に届けます。

青木食品工業有限会社

〒970-0221 福島県いわき市下高久字下原85
自社製品:ソフト揚げスティック、揚げかま天、さつま揚げほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。