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企業紹介第95回福島県株式会社 丸仁水産

孫の送迎と会長職を両立させながらこだわる仕入れ値と利益率

ネット通販で自社製品を販売する水産加工会社が増える中、「うちはそういうことはやらない」ときっぱり言う丸仁水産(福島県相馬市)会長の高力秀明さん。時代に逆行しているようにも聞こえますが、それには明確な理由がありました。

丸仁水産会長の高力秀明さん。社名は長男で社長の仁秀さんが由来
丸仁水産会長の高力秀明さん。
社名は長男で社長の仁秀さんが由来

「契約を結んでいるお客さんに確実に製品を出荷できるようにしたいから、ネット通販には手を出さないようにしているんです。『在庫がないので出せません』という状況にはしたくないので」(高力秀明さん、以下同)

丸仁水産では前浜で取れる魚を仕入れて、鮮魚として、あるいは加工品して出荷しています。加工の得意分野は干物と天ぷら商材。もともと鮮魚中心の業態でしたが、市場に加工品を出荷しているうちに業者から『大量に作ってくれないか』と声が掛かり、加工品の割合も増えていったのだそうです。

市場の仕入れは長男に任せているが時折顔を出す(相馬原釜地方卸売市場で)
市場の仕入れは長男に任せているが時折顔を出す
(相馬原釜地方卸売市場で)

「注文を受けるたびに、加工の技術や知識を吸収していきました。注文が安定してきたのは、単価のこともあると思います。うちは魚価が高い時は買わない。『今日はこれを買う』と決めずに市場に行き、原料が安ければ買うということを徹底して、他社があまり扱わないものを買っているので、製品単価を抑えることができているのです」

親子で方向性を探るため「市場巡礼」と「2時間ミーティング」

高力さんは水産業界で40年ほどのキャリアがありますが、丸仁水産の創業は2007年。会社としての歴史はそれほど長いわけではありません。

「私の実家はもともと鮮魚を扱う会社を営んでいましたが、会社を畳むことになりました。一家が路頭に迷う中、今後のことを息子と二人で話し合いました。私はまだ魚屋を続けたかったし、息子も『一緒に働きたい』と言ってくれた。そこで20代だった息子を社長に立てて、会社を立ち上げました」

その時はまだ、具体的に何をやるかも決めていなかったという高力さん親子。名古屋、横浜、東京の市場を見て回る中で、買った魚を箱詰めして市場に出荷する仕事なら後発でもやっていけそうだと考え、奥さんも一緒になって三人で仕事を始めました。

「魚を買いすぎてしまい、親子で夜通し箱詰め作業をすることもありました。でも当時は、やればやるだけ結果が出たので面白かった。今は容器や運賃、人件費などが高くなったので、利益率を確保するために加工の割合を増やしてきていますが、まだまだ鮮魚の仕事も続けていきたい。私は基本的に、社長である息子がやることには口を出さないようにしていますが、毎晩、結果報告だけはさせるようにしています。そして相談にも乗っている。みっちり2時間ミーティング。夜12時を回ることも珍しくないですよ」

深夜の親子ミーティングは、「俺の楽しみでもある」と高力さん。現在は経営だけでなく、地元の水産関係の会合の出席なども仁秀さんに任せているのだそうです。

創業時の苦労をともにした高力さん一家ですが、従業員が50人ほどにまで増えたところで、今度は東日本大震災の津波被害に見舞われました。

丸仁水産の工場のすぐ目の前に松川浦が広がっている
丸仁水産の工場のすぐ目の前に松川浦が広がっている

「工場には3メートルから4メートルほどの津波が来ていました。従業員は全員高台に避難させていたので無事でしたが、工場は建物の大部分が津波で崩壊し、柱だけ残りました」

高力さんは家族とともに半年から1年ほど内陸の福島市に避難し、2014から15年頃にかけて、工場を復旧しました。工場は海の目の前にあるため地盤がゆるく、床から水が湧いてきたため、土間も打ち直したそうです。

タコの生産能力を5倍に高めたタコ洗い機と煮釜

工場の復旧後は新しい機械を購入し、販路開拓や人手不足対策にも力を入れている丸仁水産。しかし、震災前の売上を回復するためには、さらなる付加価値付が必要なことから、販路回復取組支援事業の助成金を活用して省人化等の機器を導入した。タコ洗い機やボイラー、ステンレス製の煮釜などは、タコやツブ貝のボイル加工で活躍する機械です。煮ダコは従来に比べて、同じ人手でも5倍ほど作れるようになったといいます。

「カレイなどの干物を加工するための乾燥機も新たに導入しました。これまでは天日干しだけで作っていましたが、これからは天候に左右されずに干物加工ができます」

干物はまだ試作段階ですが、乾燥機による干物加工でもうまみ成分が十分に引き出されていることが確認できたため、これから本格的な製品開発に着手するのだそうです。

ボイル前にタコのぬめりを取るためのタコ洗い機
ボイル前にタコのぬめりを取るためのタコ洗い機
ボイル加工用のステンレス製煮釜
ボイル加工用のステンレス製煮釜
干物用乾燥機
干物用乾燥機

機械に振り回されない、利益率にこだわる

市場に顔を出せば、四方八方から声をかけられる高力さんですが、昼間は別の場所でもう一つの大事な仕事があります。それは、孫の送り迎え。

相馬原釜魚市場併設の作業場。鮮魚は買ってすぐに箱詰めされる
相馬原釜魚市場併設の作業場。
鮮魚は買ってすぐに箱詰めされる

「幼稚園から高校生まで、6人の孫のお迎えの仕事があります。買い物に行って夕食も作りますよ。今どきのイクメンです(笑)。海や公園に連れて行くのも面白い。そのついでに、市場にあるうちの作業場の様子を見に行ったりね。息子夫婦も私の妻も帰りは深夜になるので、孫が寝るまで私が面倒を見ています」

実は高力さんも、若かった頃は夜中まで仕事をして、自分の子供の世話を親に任せていたそうです。今になって、「親に子供を育ててもらったんだな」と実感する毎日だとか。

機械化で実現した丸仁水産の真空パック製品
機械化で実現した丸仁水産の真空パック製品

「まだ震災からの回復途上ですが、機械が増えてきたおかげで、売り上げも年々上がっています。ただし息子にも言っているのは、利益率を下げないようにするということ。機械があるからといって何でもかんでも買って加工するのではなく、原料単価が安い時に仕入れて、仕入れる魚がない時に加工作業をするというのが基本。機械には頼るが、機械に振り回されないということです」

あくまでも、「安いものが手に入り、世の中に安く提供できる」ということが原料を仕入れる際の大前提だという高力さん。今夜も社長との親子ミーティングで、そのことを再確認しているかもしれません。

株式会社丸仁水産

〒976-0022 福島県相馬市尾浜字港町2-57
自社製品:タコ、ツブ貝、干物製品ほか

※インタビューの内容および取材対象者の所属・役職等は記事公開当時のものです。